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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第36話 シルバーハンド

 接続完了。


『フェムトマシンによる補助経路を構築します』


 ネアの声が響く。

 那由多は少し緊張した面持ちで、自分の左手を見つめていた。

 そして、指が動く。


「……う、動いた」


 那由多の眉が上がり、歓喜の表情へと変わる。


「うんうん。ちゃんと動いているね」


 律も頷く。


「良かったです」


 ピースメイカーの担当者も、ほっとしたように息を吐いた。


「じゃあ、テストしようか」


 律が右手を差し出す。


「握手か……うーん。こうか?」


 那由多は慎重に義手を動かし、律の手を優しく握った。


「うん。力の操作はできてるね」


 冷たい義手に握られた律の手。

 その感触に、律はほんの少しだけ胸が痛くなった。

 だが、それを表情には出さない。


「なんか……触った感覚が無くて気持ち悪いな」


「まあ、それは仕方ないよ。じゃあ次!」


 それから那由多は、義手の操作を繰り返した。

 指を開いたり閉じたり。

 服を着たり。

 コップを持ったり。

 ペットボトルの蓋を開けたり。


 何気ない日常動作を1つずつ試していく。


 コップを割らないよう慎重に持ち上げる。

 ペットボトルの蓋も、力を入れすぎないよう注意しながら回す。


 しかし――


「ちょっと遅れるな……」


 義手の動作には、ほんの僅かな遅延があった。


『当然です!』


「それもそうかぁ……」


 ネアの即答に、那由多は苦笑する。


「なぁに? ネアに何か言われたの?」


「まあな」


 那由多は左手を見ながら答える。


「とにかく、義手には何とか慣れるよ」


 そう言って、また左手を動かす。

 最初はぎこちなかった動作も、繰り返しているうちに少しずつ自然になっていった。


『良いですよ、ご主人! 操作精度が上昇しています!』


「そうか!」


 那由多は嬉しそうに笑う。


「俺、ちゃんと成長してるな!」


 しばらく日常用義手の訓練を続けたところで、那由多はもう1つの義手へ視線を向けた。

 銀色に輝く、戦闘用の義手。


「そろそろ、こっちも着けてみていい?」


「もちろん。そのために作ったんだから」


 ピースメイカーの担当者が頷く。


「では、私はこれで失礼します」


「ありがとうございました!」


 担当者を見送った那由多は、さっそく日常用の義手を外した。

 そして、銀色の義手を装着する。

 こちらはフェムトマシンとの接続を前提として設計された、探索者向けの義手だ。

 ネアが接続を開始する。


『接続開始。フェムトマシンとの同期』


 一拍。


『完了。リミッター解除』


 その瞬間、那由多の中に奇妙な感覚が走った。

 擬似的な神経経路が接続され、外付けされたはずの左腕が、まるで自分の身体の一部になったかのように認識される。


「お、おお……!?」


 那由多が左手を握る。

 音もなく、金属製の指が動いた。


「マジかよ……すげぇや」


「力の制御が難しい代わりに、ピースメイカーの義手と違って遅延はほとんど無いわよ」


「力の制御くらいなら、これを常用してもいいんじゃない?」


 その言葉を聞いた律が、呆れたようにため息を吐く。


「はぁ……」


「その腕、握力だけでも何トンになると思ってるの?」


「何トン……?」


「君は生身でも、それくらいの力を出せるでしょう?」


「まあ」


「でも、生身の身体なら力加減を身体感覚で調整できる。機械の腕はそう簡単じゃないのよ。繊細な動きほど難しくなるからね」


「そうかぁ……」


 那由多は義手を見つめる。


「……てか、そうじゃなきゃ2つも作ってもらわないよな」


「そういうこと」


 それから那由多は、戦闘用義手の性能を確かめていった。

 重い物を持ち上げる。

 腕を振る。

 パンチングマシンを殴る。

 さらに出力を変えながら何度も試していく。


「……あ」


 試験機の1つが壊れた。


「……ごめん」


「いや、君の身体能力との相乗効果がここまでとは予測できなかった。こちらの落ち度だからいいよ」


 律が苦笑する。


『相変わらずですね、ご主人』


「返す言葉もない……」


 そんなやり取りをしていると、律が何かを思い出したように手を叩いた。


「あー、そうだ」


 律は那由多を見る。


「忘れてはいないと思うけど、フェムトマシンを常に5~7%使うっていうデメリットがあるからね」


「うん」


「それと、あまりに高ランクの魔物の攻撃には、多分耐えられない」


 律は義手を指差した。


「漫画みたいに、義手を盾代わりに使ったりしないでね」


「そうかぁ……」


 那由多は少し残念そうな顔をする。

 やはり創作物のようには、何もかも上手くいかないらしい。


「そう。だから、いきなり無茶はダメ」


 律はさらに付け加える。


「でも、この義手には魔石が組み込まれているから、魔力操作が幼稚園児レベルのナユタンの補助にはなるよ」


「そうか!」


 那由多は嬉しそうに義手を見る。


「まあ、無理はしない」


「本当に?」


「……たぶん」


「……」


「……」


 微妙な空気が流れた。


「信用ないなぁ、俺」


「当然でしょ」


 律が即答する。

 そんな律が、ポケットから何かを取り出した。


「あ、あとこれ」


「ん?」


「マギアアームズから預かってた、変身用イヤホン」


「おお!!」


 那由多の目が輝いた。

 さっそく耳に装着する。

 ナノマシンが展開し、身体を包み込んでいく。

 黒い装甲。

 青く発光する部位。

 そして、銀色の肩装甲と臙脂色のマント。

 剥き出しの銀色に輝く義手。


 それは、以前のナユタンブラックとは少し違う姿だった。


「変身っ!」


 那由多が両手を広げる。


「ナユタンブラック!」


 そのまま嬉しそうに拳を握る。


「やっぱりこれだァー!!!」


『良かったですね、ご主人』


 ネアの声も、どこか優しかった。


「遂に、探索者の那由多として戻ってきた!」


『えぇ』


 少しだけ間を置いて、ネアが言う。


『お帰りなさい、ご主人』


「ああ」


 那由多は笑った。


「ただいま!」


 失ったものは戻ってこない。

 それでも那由多はもう一度、探索者として立つことができた。


「分身っ!」


 次の瞬間。

 那由多の身体が5つに増える。

 合計6人。


 6人のナユタンブラックが、ずらりと並んだ。


 全員が左腕を掲げる。

 そして、ガッツポーズ。


「俺はまだ、戦える!」


『はい! ですが、無茶はしないでくださいよ!』


 身体から出てきたスピーカーから、ネアの声が響く。


「分かってるよ!」


「本当に分かっているのかしら……」


 律も心配そうに見つめる。

 だが、そんな那由多を見て、律はふと思いついた。


「あ」


「ん?」


「じゃあ早速だけど……」


 律が笑う。


「明日くらいに、その義手の実地試験を兼ねて、案件でダンジョン攻略を配信してくれない?」


「……」


 一瞬の沈黙。

 

 そして――


「やる!」


 那由多は即答した。


「俺はここで止まる男じゃない!」


「決まりね」


 律は満足そうに頷く。


「じゃあ今日は退院祝いに、どこか食べに行きましょ。ヴェルナ、レイ、美琴も誘ってさ」


「いいね~!」


「それに奢りよ!」


「アザス!」


 那由多はふざけて敬礼をする。


 病院で失ったものを知った。

 新しい左腕を手に入れた。

 そして今、再び6人の自分が立っている。

 もう一度、ダンジョンへ行く。

 もう一度、配信する。

 もう一度、誰かを守る。

 その先に待っているのが、どれだけ険しい道だとしても――。


 那由多は前を向いて歩き出した。

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