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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第35話 新しい腕

 静かな病室で、那由多はリハビリを行っていた。

 まだ片腕での生活には慣れない。

 ペットボトルを開けるだけでも少し苦労するし、服を着るのにも時間がかかる。

 今まで何気なくやっていたことが、左腕がないだけで妙に難しく感じる。


「やっぱし、不便だな……」


『今更ですか?』


 ネアが軽くツッコむ。


 那由多は思わず笑った。


「まあ、無いものは仕方なし!」


 そんなことを話していると、


 コンッ、コンッ。


 病室のドアがノックされた。


「はーい」


 那由多が返事をすると、ドアが開く。


 そこに立っていたのは、那由多の知らない女性だった。


 目には涙が浮かんでいる。

 失礼しますの一言も無く入り、震える唇で口を開いた。


「……この度は、本当にありがとうございました」


 女性は病室へ入ると、深々と頭を下げた。


「……?」


 那由多は首を傾げる。


「私、何かしました?」


「何かしたって……!」


 女性は顔を上げる。


「貴方が、腕を犠牲にしてまで私を助けてくれたじゃないですか!」


「あっ」


 その瞬間、那由多は思い出した。

 あのときは必死だった。

 魔物から逃げる女性を見つけて、夢中で飛び込んだ。

 相手の顔を正確に覚えている余裕などなかった。


「あ、あー! ご無事で何よりです! 怪我は無いですか?」


 那由多は、まるで自分の左腕を失ったことなど大したことではないように尋ねる。


「かすり傷1つありません」


 女性は答えた。


「もし神楽さんが私を庇ってくれていなければ……今頃は、魔物の腹の中でした……」


 そして、申し訳なさそうに視線を落とす。


「それなのに、そのせいで腕を……」


「違いますよ」


 那由多がすぐに口を挟んだ。


「あなたのせいではありません。私が下した決断の結果です」


「で、でも……!」


「私が勝手にやったことですから」


 那由多は笑う。


 女性はしばらく何も言えなかった。

 やがて、もう一度深く頭を下げる。


「……本当にありがとうございました。このご恩は、決して忘れません」


「どういたしまして! そして、お気になさらず!」


 女性は何度も頭を下げてから、病室を後にした。

 ドアが閉まる。

 再び病室が静かになった。

 那由多は、自分の左側へ視線を向ける。


『ご主人。後悔していますか?』


「……してないよ」


 少しだけ間を置いて、那由多は笑った。


「ネアなら、本心が分かるでしょ?」


『ご主人の善性は、気持ちが悪いほどです』


「ひどいなぁ」


 ネアの表情は、どこか心配そうだった。

 それとは対照的に、那由多は明るい。


「ははっ! そんなことないよ」


 そう言ってから、少しだけ真面目な顔になる。


「実際、怖かったし。腕が無くなったときは、熱くて痛かったしさ」


 那由多は自分の左側を見つめる。


「あの人が生きているなら、それでいい」


 そして――


「ただ、次はもっと上手くやりたいな!」


『……私も善処します』


「頼んだ!」


 那由多は笑い、再びリハビリへ戻っていった。

 それから、約5週間が経った。

 リハビリは毎日続いた。

 傷はフェムトマシンの作用もあって順調に塞がり、義手の設計と製作も並行して進められていった。

 その間、両親や友人、いつもの女子たち、そして昇格試験で知り合った探索者たちまで、様々な人間が見舞いに訪れた。


 そして10月10日。

 那由多は、ようやく退院できるまでに回復していた。


 病室には、律と那由多の2人がいる。


「結局、手術をする覚悟までしてたけど……必要なかったな」


「フェムトマシンを5~7%ほど常時使うことになるけど、接続部分を作れることが分かったからね~」


 律はそう言ってから、少しだけ真剣な顔になる。


「これからは、ちゃんと考えて動きなよ」


「まあ、少しは考えるさ」


 那由多は苦笑した。


「……ありがとう」


「……え?」


 律の胸が、ほんの少しだけ跳ねる。

 何気なく向けられた、那由多の真剣な表情。

 目と目が合う。

 その表情に、律は思わずドキッとしてしまった。


「え、えぇ! それより!」


 誤魔化すように声を上げる。


「ピースメイカーと神代(ウチ)から、義手の提供準備が完了したわ。行きましょ」


「そうか! 助かる!」


 那由多は退院すると、そのまま一度家に戻った。

 そして必要な荷物をまとめ、神代工業の本社へ向かう。

 到着した那由多を待っていたのは、2つの大きな箱だった。


「これですか!」


 那由多が目を輝かせる。


「はい。こちらになります」


 ピースメイカーの担当者が答えた。


「神楽様専用に調整した、最新型の義手です」


 箱が開かれる。

 そこに入っていたのは、肌色の人間の腕にしか見えない義手だった。


「……なんか生々しいですね」


「特殊なゴム素材を使用して、人肌に近づけています。そのため、少し生々しく見えるかもしれません」


「へー……」


 那由多は義手を眺める。


「ただ、元の腕と比べると、どうしても動きに遅延が出ると思います」


「へー……でも、すごいっすね」


 那由多は感心したように義手を見つめている。

 すると律が、もう1つの箱を指差した。


「こっちはダンジョン攻略用だよ~」


「おっ!」


 箱がゆっくりと開かれる。

 そこに収められていたのは銀色の、メタリックな義手だった。

 肩の部分には赤色で神代工業のエンブレム。

 それが良いアクセントとなっている。


「おおおおお!!!!」


 那由多のテンションが、一気に跳ね上がった。


「もうこれ、アメコミヒーローじゃん!」


 その反応は、ピースメイカー製の義手を見たときとは明らかに違う。


「ムフー! ナユタンが好きそうなデザインにしたからね!」


「すごい!」


 那由多は義手を眺めながら、しばらく目を輝かせていた。

 やがて少し落ち着くと、担当者と律へ向き直る。

 そして、丁寧に頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


「いえいえ。こちらとしても、喜ばしい限りです」


「なんか丁寧でらしくないじゃん。とりあえず、ピースメイカーさんのほうから装着してみなよ」


「そ、そうだな!」


 那由多は日常用の義手へ手を伸ばした。

 胸の鼓動が、少しだけ速くなる。

 失った腕の代わり。

 これから長い間、自分と共に過ごすもの。

 那由多は義手を見つめた。


「当分世話になる、新しい相棒だな」


『ですね! リンク完了。接続部、生成します!』


 ネアの声が響く。


 フェムトマシンが反応し、義手との接続を開始する。


 那由多は静かに義手を見つめた。

 失った左腕が、そのまま戻ってきたわけではない。

 これは、新しく手に入れる2つの左腕だ。


 そして、これからの那由多と共に戦い、共に生きるための、新しい相棒だった。

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