第30話 ダンジョン氾濫警報
前回の配信から数日後。
那由多はベッドに寝転がりながら、エゴサをしていた。
その隣には、いつも通りヴェルナがぴったりとくっついている。
「……」
ナユタンブラック、すごい反響だな。
まあ、ヒーローっぽくてカッコいいしな!
そんなことを思いながら、SNSのZに流れてくるポストを眺めていく。
〈ナユタンブラックまた見たいな〉
〈色変えられたら本当に1人戦隊じゃん〉
〈6人で名乗るのは流石にウケた〉
那由多は首を傾げた。
……そんなに面白いか? 真面目だぞ?
いまいちピンと来ない。
そう思ってスマホを置く。
しかし、画面はZを表示したままだった。
〈世田谷区の複数のダンジョンがおかしいらしい〉
〈今年初のスタンピード来た?〉
〈マジ?〉
〈なんか警察も動いてるらしい〉
不穏なポストが次々と流れていく。
その時だった。
テレビとスマホから、ほぼ同時に警報音が鳴り響いた。
「うわっ!?」
「なんだ!?」
2人は反射的にテレビを見る。
『緊急速報です。東京都23区全域でダンジョン氾濫が確認されました。現在、各地域で魔物の出現が確認されています。住民の皆様は速やかに避難し、近くの避難所、または指定されたシェルターへ移動してください』
画面には、大きく赤い文字が表示されていた。
ダンジョン氾濫と。
「なんだ、これは?」
こちらの世界に来てからまだ日が浅いヴェルナは、テレビと那由多を交互に見る。
一方、那由多は額に汗を浮かべていた。
「ダンジョンから魔物が溢れ出るんだ。通称、スタンピード。世界中で起きてる現象だよ」
「ダンジョンから……魔物が?」
「そう。今回は東京23区全域だ」
那由多はベッドから起き上がる。
「俺は出動すると思う」
「義務なのか?」
「ほぼ義務だね」
那由多はスマホで速報を確認する。
「……あ、氾濫ランクが出た。Bランク。出現魔物はC~Fランクだってさ」
「Bランク……強いのか?」
「氾濫としてはかなり危険だ。東京23区全域だから、相当な被害が出るかもしれない」
那由多は立ち上がると、いつもの魔剣を手に取った。
そして玄関へ向かう。
「待て」
ヴェルナも立ち上がった。
「私はどうすればいい?」
「……」
那由多は少しだけ考える。
「人間に酷い目に遭わされたお前に、無理強いはできない」
ヴェルナの過去を思い出す。
それでも――
「でも、手伝ってくれ。無辜の民が死ぬ」
「……」
ヴェルナはテレビを見る。
そこには、逃げ惑う人々や、出動していく警察車両が映っていた。
「何もしないのは寝覚めが悪いな」
ヴェルナは拳を握る。
「いいぞ。手当たり次第、倒してくれる!」
拳をもう片方の手のひらにパチンと打ち付け、得意げに笑った。
「ありがとう!」
その瞬間、那由多のスマホが鳴った。
律からだった。
「もしもし?」
『もしもし、ナユタン? 装備を貸すから早くウチに来て! マギアアームズからも武器の貸し出しがある!』
「手際が良いな。仲が悪いんじゃなかったのか?」
『死人が出るかもしれない状況で、そんなこと言ってられないでしょ。そこまでお互い馬鹿じゃないわ』
「それもそうか」
『じゃあ、よろしくね!』
そこで電話が切れた。
テレビでは、さらに続報が流れている。
『現在、東京都23区全域で魔物の出現を確認。警察、消防に加え、自衛隊も各地域へ派遣されています。また、SATを含む警察部隊も……』
その直後、再びスマホが鳴った。
「はい、もしもし?」
『神楽那由多さんですね。ギルドからの緊急出撃要請です。可能であれば、現場へ向かってください。失礼します』
「えっ、ちょ!」
プツッ。
切れた。
「……忙しいんだろうな」
那由多はスマホをしまう。
そして両親には避難するように言うと玄関から出た。
「じゃあ、まずは神代に行くぞ」
「なら、飛べばいい」
「え?」
ヴェルナが那由多を抱きしめる。
「うおっ!?」
そのまま背中の翼を広げ、一気に飛び上がった。
「わあああああっ!?」
緊急事態だということも忘れ、那由多は空を飛ぶことに感動していた。
「す、すごい!」
「私はこれで同族から逃げ回っていたからな。飛行には自信がある」
ヴェルナは眼下を見下ろす。
「……それにしても、下はだいぶ酷いことになっているな」
遠くには煙が上がり、道路には車が溢れている。
街中を走る緊急車両。
避難する人々。
そして、その向こうから聞こえる魔物の咆哮。
「だから、なるべく急いでくれ!」
「分かった!」
ヴェルナは翼を大きく羽ばたかせた。
やがて2人は神代工業本社へ到着した。
那由多はヴェルナと共に建物へ駆け込み、いつもの部屋へ向かう。
扉を開けた瞬間に、那由多は目を見開いた。
部屋には、様々な装備が並べられていた。
「ほぼ、今まで使った装備がある!?」
「今のナユタンに使えるものは、全部持ってきたよ」
律が胸を張る。
「よく間に合ったね?」
「間に合わせたのよ」
律は装備を指差していく。
「マギアアームズから魔導剣オービタル、レールガン、専用変身装備。神代側からドローン、ジェミニ、魔導強化外骨格もある」
「すごい……」
「急いで装備して。全部ナノマシン経由でリンクできるようにしてあるから、装備の展開もかなり簡略化されてる」
「ありがとう!」
那由多は装備を見渡す。
ここまで集めてきた装備が、全部ここにある。
思わず拳を握った。
「これで人を救える!」
結局、武器がなければ無力だ。
でも、あれば百人力!
……本当は6人だけど。
「よし!」
那由多は専用変身装備を起動する。
ナノマシンが展開され、瞬く間に身体を覆っていく。
黒と青の装甲。
さらに、その上から魔導外骨格が装着される。
二の腕の部分には魔導剣オービタル。
肩にはレールガン。
背にはドローン母艦。
それらも外骨格と接続され、必要な時に即座に展開できる状態へ移行していく。
そして、作り直されたジェミニもまた、外骨格の機動に合わせるように宙へ浮かび上がった。
全ての装備が、那由多を中心に1つへ繋がっていく。
『装備全てのリンク、完了!』
「……」
那由多は自分の姿を見下ろした。
そこには、これまで積み上げてきたものが、今ここに集まっている。
那由多はゆっくりと構えて。
「マジナユタンブラック!!」
『誰に名乗ってるんですか。さっさと行きますよ』
「いいから早く行きなさい」
「私に急かしておいて、これか?」
ヴェルナが呆れたように少し笑う。
那由多は少しだけ肩を落とした。
「……っす……」
当然の如くボコボコにされた那由多は外に出た。
こうして、東京23区を巻き込んだダンジョン氾濫。
その迎撃戦が始まった。




