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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第29話 慢心ヒーロー

 配信は継続中。


 那由多は専用装備で、ナユタンブラックに変身したまま、ボス部屋へ向かっていた。


「いやー、これ、分身しなくても良いかもしれないわ!」


 那由多は自信満々に言う。


「だってズルいでしょ? なんか正々堂々やってる気がせんのよ」


〈それは流石に危ないのでは?〉

〈そもそもダンジョンって1人攻略非推奨で……〉

〈ネアちゃん、止めて〉


『ご主人、先ほどから妙に自信満々ですね』


「そりゃあそうだろ! 何だって専用装備だぜ?」


『……』


 コメントにも、ネアの忠告にも耳を貸さない。

 完全に浮かれている。

 これはちょっと危ないかも……


 ネアは不安を覚えながらも、ひとまず様子を見ることにした。


 そんなこんなで進んでいると、前に戦った魔物よりも明らかに強そうな、人型の魔物が数体現れた。

 6本の腕を持つ異形。

 魔物たちは那由多を囲むように、じわじわと距離を詰めてくる。


「ではでは! 単独で行きましょう!」


 そう言った次の瞬間。

 那由多の姿が、カメラの視界から消えた。

 あまりの速さにカメラドローンが追いつかない。

 そして、ようやく那由多を捉えたときには、すでに魔物の1体が地面に倒れていた。

 腹部を手刀で貫通させたのだ。


 那由多は魔物から離れ、構えを解く。


〈はやっ!?〉

〈えっ!? もう倒した!?〉

〈しかも強すぎるだろ〉


「こいつに捕まったら確か厄介だからねっ!」


 別の魔物が迫る。

 那由多はその腕を受け流し、反撃の一撃を叩き込む。

 さらに頭突きで怯ませ、魔弾を撃ち込んで吹き飛ばす。


 最後の1体が掴みかかってくる。

 だが、那由多は紙一重でかわし、胴体へ蹴りを叩き込んだ。

 魔物が吹き飛ぶ。

 追撃の魔弾。


 それで決着だった。

 那由多には、傷1つない。


「……これ、本当に分身いらなくないか?」


『慢心です。後悔しますよ』


「……うーん、多分大丈夫でしょう!」


 あまりにも楽観的だった。

 ネアはため息をつく。

 そして那由多は、そのままボス部屋へ到着した。

 

 いつも通り、扉を……


「たのもー!!!」


 蹴破った。


 勢いよくボス部屋へ飛び込む。

 同時に、カメラドローンが対象の解析を開始した。


『対象:巨魔獣メガルテ』

『推奨ランク:Dランク以上』

『推奨人数:フルパーティ』


「……」


 那由多は、ゆっくりと顔を上げた。


「……デッカ!!?」


 身長191センチの那由多が、遥か頭上を見上げる。

 そこにいたのは、2階建ての家ほどもある巨大な人型魔物だった。

 その手には、巨大な金属製の棍棒。


〈あちゃー……これDランクの中でもトップだよ〉

〈知能は低いけど1発1発の威力がヤバい〉

〈ウチの重装騎士はそれでやられたから、頼むから慢心しないで〉


「うがあ゛あ゛あ゛!!!」


 メガルテが咆哮する。

 空気が震えた。

 それでも那由多は一歩も引かない。


「……大丈夫。俺ならな」


 地面を蹴る。

 メガルテが棍棒を振り下ろす。

 那由多は紙一重でかわした。

 そのまま懐へ潜り込み、フェムトマシンを重ねた拳を脛へ叩き込む。


 ドンッ!!


 巨大な身体が揺れ、メガルテが膝をついた。


「よし!」


 那由多はそのまま跳躍。

 巨体を駆け上がりながら、フェムトマシンの刃を展開する。

 そして首元へ一撃を叩き込むと、すぐさま地面へ着地した。


〈強すぎるw〉

〈これ本当にDランク?〉

〈ナユタンブラック最高〉

〈本当に1人でやれるんじゃないか?〉


 コメントを見て、那由多の気分はさらに上がっていく。

 目を見開き、胸を張る。


「ほらな! 俺は1人でも……」


 その瞬間だった。


 ブォンッ!!


「うおっ!?」


 メガルテの棍棒が、横薙ぎに振り抜かれる。

 那由多は間一髪で回避した。


 だが――


「うぼあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」


「うっ……耳が……!」


 メガルテが大声で吠える。

 凄まじい音圧。

 視界が揺らいだ。


「ダメだ……平衡感覚が……!」


 足元がふらつく。

 そこへ、棍棒が迫る。


 ドゴンッ!!


「ぐはっ!!」


 那由多の身体が吹き飛び、壁へ叩きつけられた。

 専用装備が衝撃を受け止める。

 それでも、痛みはしっかりと伝わってきた。


「ぐっ……スーツがなければ即死だった……!」


〈アニメの台詞の真似してる場合か!馬鹿!〉

〈今の死んでもおかしくなかったぞ!!〉

〈神楽那由多敗れるとか洒落にならん〉

〈分身して巻き返せ!!〉


「……っ!」


 壁にもたれながら、那由多は息を整える。

 やっぱり、無駄に意地を張って、1人でもやれる。

 そう思ったのは間違いだった。

 心のどこかで、ずっと思っていた。

 分身はズルい。

 分身した状態で戦っても、それは俺の本当の実力じゃない。


 だけど違う。


「……分身も、俺だ」


 那由多は立ち上がる。


「俺の固有スキルだ。俺の核なんだ」


 だったら、否定する必要なんてない。


『勝手に思い込んで馬鹿なご主人です』


 ネアの声が響く。


『プロなんですよね?』


「……ああ」


『なら、私もサポートします。ちゃんとやり遂げましょう』


「ああ!!」


 那由多は拳を握る。


「そうだ。俺は1人じゃない」


 ――いや。


「俺が、6人になるんだ!」


 次の瞬間。

 那由多の周囲に、5人の分身が現れた。

 全員が同じ専用装備を身にまとっている。

 黒と青の装甲。

 6人のナユタンブラック。

 那由多たちは同時に構えた。


「「「「「「ナユタンブラック!!」」」」」」


 なぜか全員でポーズまで決める。


〈ここに来てやるのかよw〉

〈やっちまえ!〉

〈分身戦隊ナユタンレンジャー的な〉

〈お前なら勝てる!〉

〈www〉


『……ご主人、楽しんでません?』


「そりゃあ楽しむだろ!」


 壁から抜け出し、那由多は笑う。


「仕切り直しだ。やるぞ!」


 6人の那由多が一斉に走り出した。


「那由多1と2は囮だ!」


 2人が前へ出る。


 魔弾を連射し、メガルテの注意を引きつける。


「こっちだ!」


「来い!」


 メガルテが怒りの声を上げ、2人へ向かって棍棒を振り回す。


 その隙を突く。


「今だ!」


 残りの4人が背後へ回り込む。

 フェムトマシンの刃を展開。

 巨大な身体へ次々と攻撃を加えていく。


「暴れるな!」


「解析頼む!」


『関節部に隙があります!』


「そこだ!」


 さらにメガルテが暴れる。

 だが、6人の那由多は互いに位置を入れ替えながら攻撃を続ける。


「足を止める!」


 2人が左右から脚を狙う。

 メガルテの動きが鈍る。

 巨体が大きく傾いた。


「今だ!」


 メガルテが倒れる。

 6人の那由多が一斉に手を前へ突き出した。

 フェムトマシンが変形する。

 腕部が、魔弾を放つための砲身へと変化した。


『最大出力、準備完了』


「消し飛ばすッ!」


『最大出力!』


 6人が同時に放つ。

 12発の魔弾が一斉にメガルテへ殺到した。


 轟音。

 爆風。

 砂埃が舞う。

 

 そして巨大な魔物が、ゆっくりと崩れ落ちた。


 決着。


〈お見事!〉

〈やっぱ分身してこそナユタンだよ!〉

〈貴方が負い目を感じる必要なんてないわ。固有スキル込みで貴方よ〉

〈もうレイが来るのは定番やな〉


「ははは……」


 那由多は苦笑する。


「調子乗っちゃったな、俺」


『今更すぎます!』


 ネアが即答した。


「そこは否定してくれよ!」


『では、この棍棒を持ち帰って換金しましょう!』


「おう!」


 こうして、今回の配信は無事に終了した。

 そして、ダンジョンから戻った那由多は、戦利品を換金した後、再びマギアアームズ本社へ向かった。


「ありがとうございました! 返却します!」


 専用装備を研究者へ渡す。


「ちなみに、これが本格的に俺の専用装備になるのは、いつ頃ですか?」


「そうですね……」


 研究者は少し考える。


「どんなに遅くとも1ヶ月以内です。早ければ数日後にはお渡しできますよ」


「分かりました!」


 那由多は笑顔で頷いた。


「では、私は帰ります。お疲れ様でした!」


「はい。お疲れ様でした」


 お辞儀をすると、那由多はそのまま立ち去っていった。

 研究者たちは、彼の姿が見えなくなるのを確認すると……


「さて」


 1人が端末を操作する。


「フェムトマシンの情報は……」


 ところが。


「ん……?」


 画面に見慣れない文字列が表示されていた。


「これは16進数でメッセージ……?」


 研究者が解読する。

 そして表示された文章を見て、眉をひそめた。


『私からの警告です』


『那由多を本気でモルモット扱いするなら、容赦しませんよ』


「……」


「……」


 研究者たちは顔を見合わせる。


「ダメだ。フェムトマシンのデータは観測できない」


 別の研究者が端末を確認する。


「このAIが全部邪魔している」


「はぁ~……」


 ため息。


「自社の宣伝と、スーツの戦闘データだけか……」


「まあ、元々の目的はそれだから仕方ない」


 研究者は椅子にもたれかかる。


「やはり、神楽さんを通して神代工業との関係を修復していくしかないな」


 こうして、那由多の秘密は守られた。

 少なくとも、今のところは。

 そしてネアは、神代工業の事情などどうでもよかった。

 ただ気に入ったご主人が、誰かに都合のいい存在として扱われる。


 それだけは、見過ごせなかった。

 ――ただ、それだけだ。


 那由多の躍進は、これからも止まらない。

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