第28話 憧れの専用装備!
「……着けてみても?」
「もちろんです」
研究者に促され、那由多はイヤホン型のデバイスを耳に装着した。
カチッ。フォン。
小さな起動音。
次の瞬間、耳元から無数の魔石ナノマシンが流れ出した。それと同時に強い魔素が溢れ出る。
「わっ!? うわぁああ!?」
『強力な魔力を検知!』
銀色の粒子が首を伝い、肩へ。
そこから胴体、腕、手。
さらに腰から脚へと一気に広がっていく。
魔石ナノマシンは瞬く間に形を変え、那由多の身体を包み込んでいった。
『デバイスを検知! リンク完了!』
最後に胸部の装甲が形成される。
黒と青を基調とした、未来的な軽装甲。
無駄な重量を感じさせないスマートなシルエットでありながら、どこか戦隊ヒーローや仮面のヒーローを思わせるデザイン。
那由多の「好き」が、そのまま形になったような姿だった。
「……」
那由多は自分の身体を見下ろす。
黒い装甲。
青いラインに青く光る部位。
銀色の肩の装飾に臙脂色のマント。
腕を動かす。
軽い。
脚を動かす。
こちらも軽い。
なのに、全身をしっかり守っている感覚がある。
そして。
ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打っていた。
「鏡ィー!!」
「はい?」
「今の俺を見せてください!!!」
「え、ああ……はい」
研究者が慌てて大きな姿見を運んでくる。
そして鏡の前に立った那由多は――。
「おひょぴょー!!!!!」
叫んだ。
鏡に映っているのは、黒と青の軽装甲を纏った自分。
戦隊ヒーローにも見える。
ライダー系のヒーローにも見える。
アメコミのスーパーヒーローにも見える。
どれか1つというわけではない。
その全部を、那由多の好みに合わせて混ぜたような姿だった。
「す、すごい……!」
那由多は自分の腕を何度も動かす。
「それに軽い!」
「そこはかなりこだわりました」
研究者が説明する。
「装着者の体格や能力に合わせて、魔石製のナノマシンが形状を変化させるスーツです。神楽さんの場合、フェムトマシンとの親和性も考慮して、この形になったのでしょう」
「俺の場合は黒と青?」
「そうみたいですね」
「最高じゃないですか……!」
那由多は鏡を見ながら満足そうに頷く。
そのとき、研究者がふと思い出したように付け加えた。
「それと、1つだけ」
「それと?」
「神楽さんの体内にあるフェムトマシンが100%を超えれば、このスーツは必要なくなるでしょう」
「……え?」
「ですから、これはあくまでそれまでの繋ぎです」
「……」
那由多は少しだけ黙った。
そして、口元を緩める。
「最高ですよ……!」
「え?」
「ネア! 今のフェムトマシン量は!?」
『21%です!』
「21%らしいので……」
那由多は満面の笑みを浮かべた。
「まあ、しばらくはお世話になりそうですね!」
「前向きですね……」
研究者が苦笑する。
それから那由多は、施設内で簡単な身体能力テストを受けることになった。
パンチ力。
脚力。
反応速度。
50m走。
「では、お願いします」
「はい!」
那由多が拳を振り抜く。
測定器の数値が跳ね上がった。
「3トン超え……」
「3トン!?」
研究者たちがざわめく。
「薬物による身体強化もあるとはいえ、ここまで……」
「50m、終わりました」
「え?」
いつの間にか那由多はゴール地点に立っていた。
測定結果を確認する。
「数秒……」
「これ、装備の補助だけでこの数値ですか?」
「いや、本人の身体能力が高すぎるんですよ」
研究者たちは顔を見合わせる。
「作った甲斐があったな……」
「ええ」
那由多は自分の手を握ったり開いたりする。
「すごい……」
そして、何かを思いついたように顔を上げた。
「ちょっと分身してみます!」
「分身?」
次の瞬間。
那由多の身体が5つに増えた。
もちろん全員が、同じ黒と青の装甲を纏っている。
「……」
研究者たちが固まる。
「うおおおおお!!! すげぇえええ!!!」
那由多だけが大喜びだった。
6人の那由多が横一列に並ぶ。
その光景を見た那由多は、さらに何かを思いついた。
全員がポーズを決める。
「……常闇のヒーロー!」
6人の那由多が一斉に名乗った。
「「「「「「ナユタンブラック!!!」」」」」」
研究者たちは微妙な顔をした。
『ご主人、それ名乗る必要あります?』
「ある!!」
即答だった。
研究者の1人が小さくため息をつく。
「……では、実戦データを取りましょう」
「ダンジョンですか?」
「ええ。配信もお願いします」
「分かりました!」
那由多は勢いよく頭を下げる。
「行ってきます! ありがとうございました!」
「あ、神楽さん」
「はい?」
「終わったら一旦こちらに戻ってきてください。デバイスの状態を確認したいので」
「了解です!」
那由多は勢いよく扉を開け、そのまま施設の外へ駆け出していった。
残された研究者たちは、那由多の姿が見えなくなったことを確認する。
「……フェムトマシンとの連携データ、取れそうですね」
「ええ」
「ナノマシンがフェムトマシンの一部を検知できれば、解析の手掛かりになる」
「神代工業の技術は、まだ我々には未知の部分が多すぎますからね」
「今回の装備なら、その可能性がある」
研究者の1人がデバイスのデータを確認する。
「もちろん、本人には普通に実戦データを取ってもらいましょう」
「神楽さんのおかげで神代工業との共同開発ですからね」
そう言って、研究者は笑った。
「神楽さんには、しっかりモルモットになってもらいましょうか」
結局のところ那由多は、マギアアームズにとっても貴重な実験対象だった。
神代工業とマギアアームズ。
2つの企業を繋ぐ存在として期待されている一方で、彼の身体と能力から得られるデータもまた、企業にとって大きな価値を持っている。
そんなことなど知る由もなく。
那由多は、新しい装備に胸を躍らせながらダンジョンへ向かっていた。
そして、ダンジョンに到着した那由多は、さっそく配信を開始した。
今回の配信タイトルは、
『マギアアームズ製の俺専用装備の試運転!』
配信開始直後から、視聴者数が勢いよく伸びていく。
それはもう、珍しい光景ではなくなりつつあった。
以前なら視聴者が増えるだけで飛び上がって喜んでいた那由多も、最近では少し慣れてきている。
それでも嬉しくないわけではない。
「どうも~!」
那由多がカメラに向かって手を振る。
「見ての通り、今回の専用装備はヒーロースーツみたいなやつです!」
コメント欄が一気に流れる。
〈とうとう変身してて草〉
〈待ってたぞ!〉
〈ナユタンブラックww〉
〈それが6人か……〉
〈一人軍隊から一人戦隊になってて草〉
〈ベルトとかないの?〉
「ああ、これですね」
那由多は耳元を指差した。
「このイヤホンが変身アイテムです」
〈イヤホン!?〉
〈マジで!?〉
〈斬新すぎる〉
「一旦、変身解除!」
ナノマシンが装甲を分解し、イヤホンへ戻っていく。
那由多はそれを外してカメラに見せる。
〈本当に普通のイヤホンだな……〉
〈これが変身アイテムとは〉
〈販売されたらいくらするんだろ〉
「さあ? ナノテクだから高いんじゃないですかね?」
那由多は適当に答える。
今は装備そのものに夢中だった。
「じゃ、もう1回!」
イヤホンを耳に装着。
再び黒と青の装甲が形成される。
「よし!」
その直後だった。
森の奥から、熊のような姿をした魔物が数匹走ってくる。
「おっ!」
那由多の目が輝いた。
「さあさあ! 刮目せよ! 我が力を!」
那由多が真正面から突っ込む。
魔物とぶつかった瞬間――
ドォン!
巨体が弾き飛ばされ、地面を転がった。
「おお!」
那由多は自分の拳を見る。
「すげぇ!」
別の魔物が飛びかかってくる。
那由多は一歩踏み込み、拳を振り抜く。
魔物はその一撃で吹き飛び、そのまま動かなくなった。
〈やっば!?〉
〈薬物強化もあるとはいえ強すぎる〉
〈軽装甲なのにこのパワーかよ〉
〈ここにフェムトマシンを上乗せしたらどうなるんだ?〉
「ああ!」
那由多がコメントを見て声を上げる。
「そうだ。フェムトマシンとも合わせよう!」
『了解!』
フェムトマシンが反応する。
片腕の装甲が一気に大型化。
拳を覆う装甲も厚くなった。
「おおお……!」
那由多が拳を握る。
「これ、絶対強いやつじゃん!」
残っていた魔物へ向かって踏み込む。
一撃。
魔物は大きく吹き飛ばされ、そのまま倒れた。
「あらま……」
那由多は目を丸くする。
「ここまで強いとは……」
最後の1体が唸り声を上げる。
大きな前足を振り上げ、那由多へ襲いかかった。
ドンッ!
直撃するも、しかし那由多は、ほとんど動かなかった。
「……」
自分の身体を見る。
装甲には、ほとんど傷がない。
「おお……!」
那由多の顔がみるみる明るくなる。
「すげぇや!」
魔物がもう一度攻撃する。
それを受けても、那由多はびくともしない。
「じゃあ、これで終わり!」
那由多は魔物を蹴り上げた。そして拳を何度も叩き込む。
最後の一撃で魔物が吹き飛び、戦闘が終わった。
那由多は止まる。
息切れはない。
疲労もない。
拳も痛くない。
ただただ……楽しかった。
「ははっ!」
那由多は自分の拳を見つめる。
そして、満面の笑みを浮かべた。
「俺は……」
拳を高く掲げる。
「1人でも強いぞーっ!!!」
その声が、ダンジョンの中に響き渡った。
この瞬間の那由多は、今までの人生で一番と言っていいほどの高揚感を味わっていた。
分身しなくてもいい。
誰かに守ってもらわなくてもいい。
誰かに直接的に力を借りなくてもいい。
自分自身の力と装備だけで、どこまででも戦える。
そんな感覚が、たまらなく嬉しかった。
那由多はそのまま、ダンジョンの奥へと進んでいくのであった。




