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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第27話 ただDランクダンジョン配信!

 8月の終わり頃。


 着実にCランクへ進むため、ギルドクエストをこなしていた那由多。

 今日も専用装備への期待に胸を躍らせながら、Dランクダンジョンを配信しつつ攻略する。


「今日も今日とてCランク目指して、ダンジョン攻略をします!」


〈この前までEだったのに成長したなぁ〉

〈残りのクエストもガンバ!〉

〈いやー強くなったよな〉


「アザス!」


 コメントに返事をしながら、ダンジョンへ入ろうとした、その時。


「あ、あの! もしかして神楽那由多さんですか?」


「そうですよ……?」


「やっぱり! 配信見てます!」


 声をかけてきた探索者の後ろから、別の人たちも那由多を指差して口々に叫ぶ。


「レールガンの人だ!」


「ゾンビの人!」


 その言葉を聞いて、那由多は少しだけ頬を緩ませた。

 自分でも分かる。

 嬉しい。

 どうやら俺、思っていた以上に有名になっているらしい。


「あはは……前より有名になっちゃってる?」


『今更ですか?』


 ネアが呆れたように返す。


 仕切り直してダンジョンへ入る。


 今回の内部は森林型。

 木々が生い茂り、頭上から差し込む日差しが葉の隙間から地面を照らしている。


「なんか空気が良い気がするなぁ〜」


 自然を満喫しながら、那由多は5人の分身を作り出した。


「そんじゃあ、いつも通り行くか」


〈定員オーバーなのに1人判定なのウケる〉

〈出たぞ、一人軍隊〉

〈やっぱり反則だよな、みんな言ってるけどさ〉


「痛覚共有って結構大変だからね!?」


 那由多はカメラに向かって指を立てる。


「5人全員死んだら、5回分の死の苦痛が一気に来るから!」


 その瞬間。


 ヒュッ!


「ん?」


 炎の塊が飛んできた。


「うおっ!?」


 那由多が身体を仰け反らせる。

 炎は目の前を通り過ぎ、背後の木へと着弾した。


「あぶなっ!?」


 視線を向ける。

 そこにいたのは、杖を構えたゴブリンの群れだった。


「ゴブリンが魔法かよ……」


 少し驚きながらも、那由多は笑う。


「まあ、他の個体より頭良さそうだけどさ」


 そして、ニヤリ。


「じゃあ、お前たちの土俵に乗ってやる」


 5人の分身をその場に待機させ、那由多はゴブリンへ手を翳す。


 ゴブリンが魔法を詠唱する。


 炎が集まり、放たれた。


「ホムッ!」


 那由多も同じ魔法を放つ。

 2つの炎が正面から衝突した。


 だが――

 那由多の放った炎がゴブリンの魔法を押し潰し、そのまま群れへと襲い掛かる。


 魔法を受けたゴブリンたちが次々と炭化し倒れた。


〈下級魔法の威力じゃねぇよ……〉

〈そういえば忘れていたけどナユタンって魔力バカだったね〉

〈でも魔力操作はざぁこ♡〉


「うるせぇ!」


 コメントに言い返しながら、自分の手を見る。

 赤く腫れ皮膚もただれていた。


 どうやら制御をミスして、手まで火傷してしまったらしい。


『治癒します! ご主人は魔法の鍛錬もした方が良いですよ!』


「……ああ、そうだな。ありがとう」


 ネアの治癒を受けながら、那由多はため息を吐く。


 クソっ。

 いつまで経っても魔法はてんでダメだ。

 威力だけなら十分すぎる。

 問題は、それを上手く扱えないことだ。

 まあ、俺には外付けの武具もある。

 だからって、いつまでも甘えているわけにはいかない。


 そう思いながら、先へ進む。


 しばらく森を進んでいると。


「……ん?」


 前方から戦闘音が聞こえてきた。

 木々の向こうを覗く。

 そこには、別の探索者グループがいた。

 どうやら魔物の群れに囲まれているらしい。


「……!」


 那由多はすぐに駆け出す。


「右は任せてください!」


「え?」


「そっちは自分たちの手でやり遂げてください!」


 那由多は分身を展開する。

 全てを倒してしまえば、彼らの経験にはならない。


 助ける。

 だが、戦うのは彼ら自身だ。


「神楽那由多!?」


「た、助かった!」


「気を抜くな! やるぞ!」


「いやでも、あの神楽那由多がいたらよォ……」


 その間にも、巨大な狼が数頭飛び掛かってくる。


「はいはい、こっちは任せて!」


 魔剣を抜く。

 分身たちも同時に動き出した。

 1人が正面から受け止め、別の1人が横から斬り込む。

 さらに背後へ回った分身が追撃。

 6人の那由多が、互いの動きを理解しているかのように連携していく。

 1人の人間が、6つの身体を同時に操っている神業だ。


 探索者たちも負けじと魔物へ立ち向かう。


 そして――


「やった!」


 彼ら自身の手で、最後の魔物を倒した。


「ありがとうございました!」


「いや〜、気にしないでください!」


 那由多は笑って手を振る。


「そんじゃ、自分はボスに用事があるので。お気をつけて!」


 そのまま立ち去ろうとする。

 だが、コメント欄が一気に加速した。


〈こんなにかっこよかったっけ?〉

〈ナユタン大人になったね〉

〈いや元から別に幼いわけじゃ……いや微妙だな〉

〈やっぱりB下級くらいの能力あるわ〉

〈そりゃあ改造人間だからな〉


 すると、先ほど助けた探索者の1人が呟いた。


「……本当にすごいな」


「そうですか?」


 那由多は振り返る。


「普通に嬉しいですね」


「助けてもらったおかげで、ちゃんと自分たちで戦えました!」


「それなら良かったです」


 那由多は笑う。


「私が全部やらなくても、大丈夫そうだったんで!」


 探索者たちは出口へ向かっていく。

 那由多は、その反対方向へ歩き出した。


「さて……」


 しばらく進んだ先。

 木の根が絡みついた巨大な扉が現れた。


「ここがボス部屋か」


 那由多は扉を見上げる。


「今日はあっさりしてるな」

 

「せいっ!」


 扉を蹴り破った。


 中へ入ると、カメラドローンが即座に解析を開始する。


『対象:岩甲巨獣グラナイト』

『推奨ランク:Dランク以上』

『推奨人数:フルパーティ』


 部屋の中央。

 巨大な岩のような殻を持つ魔物が、ゆっくりとこちらを向いた。

 亀というよりは馬のようだった。


〈ナユタン本当に硬いやつばっかり出会うね〉

〈まあ斬撃無効のアイツよりはマシ〉

〈足が弱点だよ!〉


「足ね! ありがとう!」


 那由多はコメントを確認すると、すぐに走り出す。


「行くぞ!」


 5人の分身も一斉に駆け出す。

 6人が横一列に並び、グラナイトへ迫る。

 左手を刃へと変形させた。


「せーのっ!」


 6人が同時に斬り掛かった。


 ガキィン!


「硬っ!」


 斬撃は甲殻を切り裂くものの、深くは通らない。


「なら……」


 那由多は左手を変形させたまま、右手をグラナイトへ向ける。


「この傷口に魔弾ッ!」


 フェムトマシンが右腕をキャノンへと変形させる。


 増幅された魔弾が、先ほど刻んだ傷口へ叩き込まれた。


 ドォンッ!


 グラナイトの片足が吹き飛び、巨体が大きく傾く。


「今だ!」


 その動きを読んでいた分身たちが、あらかじめ魔剣を下から魔物へ突き立てていた。

 倒れ込んだ巨体が、そのまま刃へと乗り上げる。

 グラナイトは血を吹き出し動きを止めた。


「はい、らくしょー!!!」


〈ドローンとかレールガンもいらんな〉

〈まあ良い魔剣持ってるのもズルいな〉

〈そういえば前に呟いていた専用装備は?〉

〈ジェミニとか今までの装備フルで使ったらヤバそう〉

〈↑それはずっと言われてる〉


「いやー、今日は普通のダンジョンで良かったね」


『他の探索者からしたら、全然普通じゃないと思いますけどね』


 スピーカーからネアの声が響く。


「そうか?」


〈感覚が麻痺している〉

〈これぞナユタン〉


「失礼な!」


 そんなやり取りをしながら、今日の配信を終えた。



 帰宅。

 那由多が荷物を置いた直後だった。

 スマートフォンが鳴る。


「ん?」


 画面を見る。

 マギアアームズからの着信だった。


「もしもし?」


『お世話になっています。先日の専用装備の件ですが』


「はい!」


 那由多の声が少し弾む。


『試作機が完成しました』


「本当ですか……!?」


 那由多の目が輝く。


『明日、弊社の本社へお越しください。それでは失礼します』


「失礼します〜!」


 通話終了。

 数秒の沈黙。


「……」


 そして。


「遂にだぁー!!」


 隣にピッタリくっついていたヴェルナが、顔をしかめる。


「うるさいな。やっと出来たのか?」


「そうなんだよ! 明日が楽しみ〜!!」


 子供のようにはしゃぐ那由多を見て、ヴェルナは思わず笑う。


「ははっ。良かったな」



 そして翌日。


 那由多はマギアアームズ本社の研究室を訪れていた。


「お待ちしていました、神楽さん」


 研究者に案内され、部屋の中央にある机の前へ。

 そして、小さなケースが開かれた。


「えっ?」


 那由多が覗き込む。


「ん?」


 中に入っていたのは、小さなデバイス。


「イヤホン?」


「はい、形はそうです」


 研究者は頷く。


「神楽さん専用の戦闘支援デバイスです」


『これは……かなり面白そうですね』


 ネアの声が響く。

 那由多はイヤホンを手に取った。


「……??」


 何だ、これは。

 サポートならネアで事足りているんだが……。


 思っていたものと違ったのか、那由多は少しだけ肩を落とす。


 すると研究者が微笑んだ。


「神楽さんが好きなヒーローみたいになれますよ」


「!?」


 那由多の目が再び輝く。

 ヒーロー。

 その言葉だけで、さっきまでの疑問が全部吹き飛んだ。

 これが何なのかは分からない。

 だがどうやら、自分の趣味がしっかり反映された装備らしい。


「……着けてみても?」


「もちろんです」


 那由多はイヤホンを耳へ持っていく。

 装着する。


 専用装備の起動が始まる。

 それが何を意味するのか、まだ那由多は知らない。


 ただ1つだけ。

 胸の奥では、子供の頃から憧れていたものへの期待が、これまでにないほど膨らんでいた。

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