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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第26話 休みなので夢の国へレッツゴー!

 レールガンの案件から2週間ほど経った、土曜日の朝。


「……んん……」


 那由多はベッドの上で目を覚ました。

 ただし、1人ではない。


「すぅ……すぅ……」


 隣ではヴェルナが那由多に抱きついたまま、気持ちよさそうに眠っている。


「…………」


 那由多は天井を見つめる。

 朝っぱらからこの状況。

 心臓に悪い。

 そして腕にはフニフニの感触。


『ご主人! 今日も朝から元気一杯ですね!』


「やかましいわ!」


 頭の中に響くネアの声にツッコみながら、那由多はヴェルナを起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出した。


 そしてスマホを確認すると、タイミングよくグループチャットにメッセージが届いていた。


『ねぇ、暇なんだけど』


 美琴からだった。


 那由多は少し考えてから返信する。


『んじゃ、遊びに行くか?』


『じゃあ、東京デスティニーランドに行こ! 夢の国行きたい!』


 すると、すぐにレイから返信が来る。


『そうね。たまにはちょっと遠出してもいいんじゃない?』


『じゃあ、律にも連絡しておいて。俺はヴェルナを起こして準備するわ』


『わかった』


 こうして、急遽5人で遊びに行くことになった。

 そして数十分後。

 準備を終えた美琴、レイ、律が那由多の家にやってきた。


「暑い……」


 玄関に入った瞬間、美琴が手持ち扇風機を顔に向けながらへにゃへにゃになる。


「外、暑すぎだろ……」


「車乗りな。今日は俺が運転して行くぞ!」


 那由多が車の鍵を取り出す。


「あれ? 免許持ってんだ。ちょっと意外」


 律が目を丸くする。


「ドライブとか好きだし。隠してたわけじゃないけど、持ってるよ」


「へぇー」


 那由多が運転席へ向かう。

 その瞬間。

 女性陣の間に、妙な緊張が走った。

 誰が助手席に座るのか。

 互いに目を合わせる。


 そして――


「私、ここでいいな」


 ヴェルナが何も考えず、当然のように助手席へ座った。


「……」


「……」


「……」


「お前ら、どうした?」


 那由多には、何故3人が妙な顔をしているのか分からない。

 価値観の違い。

 それによってヴェルナは勝利した。


「まあ、いいか」


 全員が車に乗り込む。

 そして東京デスティニーランドへ向けて出発した。


「そういえばさ」


 運転しながら那由多が尋ねる。


「東京デスティニーランドって、東京って名前についてるのに千葉にあるんだよな?」


「ああ?」


 助手席のヴェルナが首を傾げる。


「東京って名前なのに千葉なのか?」


「そうだよ〜」


 美琴が後部座席から答える。


「多分その方が見栄えいいからじゃない?」


「変な価値観だなぁ……」


「世の中そんなもんだって」


 そんな会話をしていると、ヴェルナが持っていたハンバーガーを頬張る。


「……車の中では落とすなよ」


「問題ない」


 そんなこんなで会話は弾み、やがて目的地へ到着した。

 駐車場に車を止め、全員が外へ出る。


「あ゛づい゛……」


 美琴が溶ける。


「でも、やっと来れたー!!!」


「ここが人間の娯楽施設か……!」


 ヴェルナは巨大な施設を見上げ、目を輝かせている。


「私は子供の頃以来だから、久しぶりだなぁ」


 律も周囲を見回す。

 するとレイが説明する。


「ここ、数年前に改修工事をして、水族館とかゲームセンターとか色々増えたらしいわよ」


「へぇ〜」


「あーしは知ってたもんね! 半年前にも来たし!」


 そう言いながら、美琴がナチュラルに那由多の腕を取る。


「そ、そうか!」


 那由多は戸惑う。

 なんで俺の腕に絡みつくんだ?

 いや、待て。

 行きの車でもヴェルナにベタベタされていたし……。

 みんな距離感がおかしくないか!?


 その瞬間。


 パシッ!


 レイが美琴の腕を外した。


「何浮かれているのよ。さっさと行くわよ」


 そして今度はレイが那由多の手を掴み、そのまま歩き始める。

 その表情は、柔らかな笑みを浮かべていた。


「あー! ズルい!」


 美琴が叫ぶ。


「……?」


 那由多だけが状況を理解していない。

 一方、律は施設を見ながら呟いていた。


「維持費すごそうだなぁ……。多分、うちと同じくらいデカい企業だよなぁ」


「律、仕事のこと忘れろ」


「いや、気になるじゃん」


「今日は休日だぞ」


「分かってるって」


 どうやら律は、仕事を完全に忘れることができないらしい。

 そして一行は園内へ入る。


 すると――


「あれ、ナユタンじゃね?」


「えっ、神楽那由多?」


「本物!?」


「レイさんもいる!」


「武者小路美琴じゃん!」


「ヴェルナもいるぞ!」


 次々と声を掛けられる。


「写真いいですか!?」


「握手してください!」


「いつも配信見てます!」


「……」


 那由多は固まった。


「はぁ……まあ、そうよね」


 レイが苦笑する。


「まずはアトラクションに行こうと思ったのだけど、大変そうね」


「ナユタンの配信に出てるメンバーだもんなぁ。そりゃ目立つか」


 美琴も周囲を見る。


「いやー、有名人って気持ち良いね〜」


 那由多は少し嬉しそうに笑う。


「……なんだこれ。本当に人が殺到するのか。ここまで有名人になると……」


『ご主人だけしか思ってないですよ、このKY!』


 フェムトマシンで作られたスピーカーから叫ばれる。


「ぐはっ!」


 ネアの容赦ない一言が突き刺さる。

 那由多はしょんぼりした。


「……そうですか」


「まあまあ」


 律が笑う。


「ナユタン、こういうところ鈍いもんね」


「律まで……」


 そこでレイが提案する。


「とりあえず移動しましょう。アタシが運ぶわ」


「運ぶって……」


 次の瞬間。

 レイが全員の手を取った。


「ちょっと待て!」


 視界が一瞬で切り替わる。


「着いたわよ」


「速っ!?」


 全員、絶叫系アトラクションの前に立っていた。


「あーし、他人に写真撮られるのマジで嫌だから助かったわ〜」


「便利ねぇ」


 律が感心する。


「並ぼうか」


 全員で列に並ぶ。


 そして順番がやってきた。


「ふぅ、やっと1つ目だ」


「絶叫系とはなんだ?」


 ヴェルナが首を傾げる。


「なんつったらいいかな……叫びたくなるくらい、びっくりしたり怖かったりする乗り物だな」


 それを聞いた瞬間、ヴェルナの顔が少し引きつった。


「わ、私はこんなもの恐れる必要などない!」


「ふふっ」


 レイが笑う。


「ヴェルナも意外と可愛いところあるじゃない」


「可愛くない!」


 そしてアトラクションが動き出した。

 ガコンッ。

 ゆっくりと上昇していく。


「……」


「……」


「……」


 ヴェルナの顔がどんどん強張っていく。


「な、なあ……これ、まだ上がるのか?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 そして、急降下。


「ぎゃああああああ!!??」


 1番叫んだのはヴェルナだった。


「うわあああああ!!!」


 美琴も大絶叫。


「……」


 律は真顔。


「……」


 レイもほとんど動じていない。


「おお〜! 久しぶりだなぁ!」


 那由多だけは普通に楽しんでいた。


 そしてアトラクションを降りる。


「なんか律とレイは、あんまり反応なかったな」


 那由多が言う。


「だって、アタシはもっと高速で動いてるから」


 レイが答える。


「まあ、私は普通に怖かったよ」


「顔に全く出てないやんけ!」


 美琴がツッコむ。


「顔に出にくいのよ」


「ヴェルナは……」


「何も言うな」


 ヴェルナは顔を逸らした。

 その後も様々なアトラクションを回り、一行は増設された水族館エリアへ向かった。


「おお……」


 薄暗い館内。

 巨大な水槽の中を色とりどりの魚が泳いでいる。


「綺麗ね」


 レイが水槽を眺める。

 すると隣からヴェルナが呟いた。


「綺麗だな。食い物なのに」


「水族館をそんな目で見るな……」


 美琴が呆れる。


「まあ、ヴェルナらしいわね」


 レイも苦笑する。

 一方、少し離れたところでは那由多と律がクラゲの水槽を見ていた。


「モルモット君、クラゲっていうのはね……」


「また解説始まった!」


「いや、面白いでしょ?」


「面白いけど、さっきからずっと解説ばっかりじゃん」


「だって知らないことを見ると気になるじゃん」


 律は楽しそうにクラゲを眺めている。


「まあ、律らしいか」


「でしょ?」


 そんな他愛もない会話をしていると、美琴が遠くから叫ぶ。


「ナユターン! 次行くぞー!」


「おう!」


「ほら、呼ばれてるよ」


「じゃあ行こうぜ」


 那由多と律もみんなのところへ向かった。


 次に向かったのはゲームセンターだった。


「お、射撃ゲームか」


 那由多が筐体を見つける。


「モルモット君!」


 律が振り向く。


「対決といこうか!」


「いいね!」


 2人がゲームを始める。


 結果。


「……」


「……」


 スコアには圧倒的な差がついていた。


「なんでだよ!?」


 那由多が叫ぶ。


「固有スキルもあるし、そもそも私のメインウェポンが銃なのを忘れてるでしょ」


「あー……そりゃ勝てんわ」


 那由多が頭を抱える。


「って、遊びにスキル使うなよ!」


「勝負なんだからいいじゃん」


 律は楽しそうに笑った。


 その隣では美琴がダンスゲームに挑戦している。


「おお……」


 那由多は感心する。


「美琴、こういうの得意なんだな」


「ギャル舐めんなよ〜?」


 軽快に踊る美琴。

 さらにその隣では。


「クソっ! なんだこれは!」


 ヴェルナがクレーンゲームと格闘していた。


「金を吸い取るだけじゃないか!」


「バカ! レバー壊れるわよ!」


 レイが慌てて止める。


「加減が難しい……」


「クレーンゲームで怪力を発揮するな!」


 那由多がツッコむ。


 それぞれが好き勝手に遊び、気づけば外は夕方になっていた。


「腹減ったー!」


「じゃあ、フードコート行こうか」


 5人はフードコートへ向かった。


 そして――。


「これと、これと、これと……」


 那由多が次々と注文していく。


「……食い過ぎじゃね?」


 美琴が引いた顔をする。


「モルモット君、この前ジュースにも結構お金かけてたらしいじゃん? 食費すごそうね」


 律も呆れる。


「案件と契約と切り抜きで稼いでるから大丈夫!」


「そうやって調子に乗ると、アンタ将来困るわよ」


 レイが釘を刺す。


「まあ、食える時に食えばいいだろ」


 ヴェルナがフォローする。


「だよな!」


 那由多が調子に乗る。


「その時は、みんな養って……なんちゃって」


「……」


「……」


「……」


「……」


 ヴェルナ以外の4人が、那由多を見る。


「……なんか目が怖いよ、みんな」


「別に?」


 律が笑う。


「何でもないよ」


 レイも笑う。


「そうそう」


 美琴も笑う。


 那由多は知らない。

 その3人が、本気で養うようなことを検討しているような目をしていることを。


「……?」


 本人だけが何も理解していなかった。

 その後も5人は様々なアトラクションを回った。


 笑って。

 騒いで。

 食べて。

 遊んで。

 気づけば、すっかり夜になっていた。


「最後に、これ乗らない?」


 レイが指差したのは観覧車だった。


「いいね!」


 美琴が賛成する。


「私も乗りたい」


 律も頷く。


「私もだ」


 ヴェルナも続く。


 大きな観覧車だったため、5人全員で1つのゴンドラに乗ることができた。

 ゆっくりと上昇していく。

 窓の外には、夜の東京……ではなく、千葉の夜景が広がっていた。


「最近、本当にこういうの全然してなかったなぁ」


 那由多が呟く。


「ダンジョンばかりだったしね」


 レイが答える。


「ウチの案件とか研究もあったしね」


 律も続く。


「たまにはこういう日もアリだよね!」


 美琴が笑う。


「私も、こういう日……幸せで良かったぞ」


 ヴェルナも窓の外を眺める。

 那由多は少しだけ笑った。


「なら、またみんなで来ようか!」


「ああ!」


「うん!」


「もちろん」


「まあ、いいんじゃない?」


 5人の返事が重なる。


『なんか良いムードですね、ご主人!』


「だな。安らぎってやつかな」


『そういう意味で言ったのではないのですが……鈍チンですね』


「……?」


 那由多は首を傾げた。

 その後、5人は駐車場へ戻り、那由多の車に乗り込んだ。

 帰り道。


「あーし、絶対明日筋肉痛だわ……」


「ちゃんとケアしろよ。俺はいつも鍛えてるから大丈夫!」


「明日会社休みでよかった……」


 ヴェルナが首を傾げる。


「そういう仕事なのに土日休みなんだな。人間、特に日本人は休まないと聞くが」


「ウチがホワイト企業なだけだね〜」


 律が笑う。


 すると、車内にネアの声が響いた。

 スピーカーは大体いつも肩から生成されるため那由多にとってやかましかった。


『皆さん、楽しかったですね!』


「お前は俺の視界から見てただけだろ」


『ご主人と一緒にいたから楽しかったです!』


「……そうか」


 那由多は少し嬉しそうに笑った。

 今日1日。

 何も起きなかった。

 誰も戦わなかった。

 仕事もしなかった。

 

 ただ、みんなで遊んだ。


 それだけだった。

 けれど――


「また、明後日くらいから仕事だな」


 那由多は前を向いて笑った。

 明日は、もう少しだけゆっくり休もう。

 そんな休日だった。

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