第3話 分身ファランクス&ドローン戦法
昨日は父と母にも慰められ、再起のために奮起することに決めた。
早速、美琴と特訓の約束をし、探索者の訓練が許可されている公園で待ち合わせる。
「お! 那由多! おはよ、どう? 元気は出た? てか、何背負ってん?」
日差しが眩しいなかで、彼女も眩しく笑いながら手を振る。
だが周りの反応がおかしい。
美琴に視線が集中している。
「よう! ありがとな。もう大丈夫だぜ! 背中のこれは後のお楽しみに。それよりなんだ? 周りの人達がめちゃくちゃ見てくるじゃん」
そう言って箱を置いた瞬間だった。
空に眩い一筋の閃光が飛来する。
「うおっ!?」
閃光は那由多達の前で急停止すると人の姿へと変わった。
煌輝レイだった。
光に関するスキルなのか?
その姿を見た瞬間、周囲はさらに湧き立つ。
「おお! 閃光のレイだ!」
「重圧の美琴と一緒にいるぞ! 何が始まるんだ!?」
すごい。
本当に彼女達は有名らしい。
そう言えばランクを聞き忘れていたな。
「えらく有名だな? そう言えば、探索者ランクと固有スキルって何だ?」
「固有スキル【光】ランクSS、探索者ランクはAのルーキーよ」
「あーしはスキル【重力】ランクSS、学校行っているからまだ探索者ランクはB!」
それを聞き、俺は雲の上の様な人間と話していたことをようやく理解した。
29歳の倉田でやっとBランクになりたてだったんだぞ……
な、なんつー化け物なんなんだ。
「あー……敬語使った方が良いですかね」
「バカ言わないで、媚びへつらわない友人があと1人くらい欲しかったんだから」
「そうそう! あーしらは有名になり過ぎて一周回って孤独なの。だからアンタを見捨てられなかった」
俺は承認欲求と自己顕示欲の塊だ。
だから実際にトップクラスになった人にとっては、それが幸福じゃないのは目から鱗だった。
俺は何もかも浅く見ていたんだ。
もっと早く気づきたかった。
だが、永遠に気づかないよりは良かった。
「そうか! 改めて、よろしくな! じゃあ、何をする?」
そう言うと美琴が大きな槍と盾を持ってきた。
「これ! これがファランクスをする為の武具! 持って分身して!」
そう言われるがままに装備して分身をすると武器も一緒に増えた。
よく考えたら俺の装備は分身にも反映されるんだな?
だとしたら俺がナノマシンを注入されたらどうなる?
外骨格を装備したらそれも増えるのか?
と自身の能力について考え込んでいると、腰をパシッと叩かれた。
「何ボーッとしているの。早く構えて見せなさい」
この子達、結構上からだよな。
まあいいけど、俺って舐められやすいのかなぁ……
そう思いつつ、4人を横一列に並べる。
本体の俺は、その後ろに隠れた。
「違う違う! 本体も頑張るんだよ! じゃないと陣形が崩れて、尚更危ないよ!」
それを聞き、戦術と言うものを理解し始めた。
俺はがむしゃらに増やした人数で切りつけていただけだった。
だが、正解は違ったようだ。
そう思っていると、今誰よりも憎い顔が現れた。
「……神楽ァ?」
倉田だった。
彼は隣の美少女2人を見て、一瞬硬直する。
「何故、お前がこの2人といるんだ! 昨日追放したばかりだろ?」
狼狽えているのか強く吠える。
今度は何が気に食わないんだ?
「ああ、そのおかげで友人が2人増えた。年下だが割と気が合うんだ」
嫌味ではない。
本気でそう思っている。
「レイちゃんと美琴ちゃん、そんな奴より俺と組まないかい?」
那由多は困惑した。
「……なんで?」
「今お前を追放して4人、あと1人代わりに追放するからさ2人とも、そいつじゃなくて俺のとこ来てくんね?」
そう憎たらしく笑う。
その姿を見て、倉田の仲間の1人が口を開いた。
「……なあ、倉田。流石にないだろ?」
「何がだよ? 効率的だろ?」
そう言い放つ瞬間、倉田の仲間達は彼に侮蔑とも取れる表情をした。
それにすら気づかず、倉田はレイと美琴に迫る。
「お前ら程の実力者が、なんでこんなのとつるむんだ? 有名人のお前らなら、もっとマシな奴と付き合えるだろ? 戦力を上げたいんだよ。2人とも、そいつより俺のところに来てくれって!」
それが逆鱗に触れたのか美琴とレイは怒り気味に反応する。
「……は?」
「今、なんて言った?」
2人の眼光に、2倍近く年上の倉田は思わず怯んでしまう。
レイは吐き捨てるように言った。
「アンタ、ほんっとに気持ち悪いのね」
美琴はギャルらしくなく真剣な表情で言い返す。
「友を切り捨てる者について行くとでも? あーしは昨日できたばかりの友だとしても、その繋がりを重んじる。2ヶ月以上も共にした那由多を切ったアンタとは違う」
それを聞くと舌打ちをして仲間を連れて去っていく。
その途中でも、仲間達と言い合いをしている。
もうあいつらも長くはないだろう。
「ほんっとにお前達、優しいんだな! 気分が少し晴れたぜ!」
こんな優しい子達と友人になれてラッキーだなぁ……
俺も釣り合うように精進していかないとな!
「ははっ。じゃあ、気分も晴れてきたし、次々! 実践といこうか!」
こうして訓練は始まった
しかし
「違う違うって!」
間隔がバラバラで、隊列はスカスカ。
槍同士がぶつかり合い盾までも腕の肉を挟んで痛みに叫ぶ。
全員の歩みの幅も合っていない。
「アンタの分身は敵じゃなく味方なんだから! お互いに邪魔をしないの!」
「分身が味方ってよくわからん!」
ため息をつきながら美琴が言う。
「1人1人が強くなれって訳じゃない。5人で1つの生き物みたいな感覚で動いて!」
「5人で1つ……」
「そう! 5本の指って、バラバラに動かせれるでしょ?」
「……そうか! そうだな!」
そのアドバイスを聞いた途端、那由多の動きが変わった。
隊列の乱れがなくなり、5人が同じ歩幅で前進する。
槍を構える動作も、まるで1人の人間が5倍に増えたかのように揃っていた。
「おおっ!」
「できたじゃん!」
美琴が喜び、レイも小さく頷く。
だが、レイはすぐに現実へ引き戻した。
「でも、ファランクスは機動力の低さと横からの攻撃に弱いの。どう補う?」
それに那由多は、待ってましたと言わんばかりに、こめかみにデバイスを貼り付けた。
そしてゴーグル型のデバイスをつけた。
「それなら、これだね」
そう言うと分身を出し直すと背負っていた箱も共に複製された。
「これなに?」
「まあ見てろって!」
その、ずっと背負っている箱からプシューと音を立ててドローンが1箱に8機、分身含め合計40機のドローンが飛び出した。
瞬く間に空がドローンで埋め尽くされる。
レイと美琴目当ての取り巻きの探索者から一般人も流石に圧巻された。
「これだよ!」
那由多は得意げに笑う。
「昔電子工作した時に作ったんだ、神代工業のドローンを魔石で改造してね!」
2人は素直に感心した。
「これ……装備も完全に増えるって、Eランクスキルじゃないわね……」
「これ結構ヤバない?」
那由多はファランクスの陣形を組みながらドローンで左右と後方へ展開していく。
40機のドローンがまるで無数の銃口と無数の目のように周囲を監視する。
「このゴーグル型のデバイスで映像は見れる、俺の改造だ」
那由多は周囲を見渡す。
「そんで俺は戦い方を間違えていたんだな。2人の言葉を、やっと理解したよ」
そう言いながらドローンを回収する。
そして、分身も解いた。
「分身ってただ増やして殴れば良いと思っていた」
「でも違う」
分身は、痛覚共有する。
だからこそ、1人1人が無茶苦茶に動けば本体まで巻き込まれる。
ならば——
「分身は兵士だ」
俺の分身は、俺と同じ人間だ。
なら、俺1人が5人分の判断をすればいい。
分身は兵士。
ドローンは目と耳、銃口。
そして、本体である俺が指揮官になる。
「……そうか」
那由多は拳を握る。
「俺は1人軍隊を作れるんだ!」
遂に主人公は戦術を身につける。




