第2話 勢いだけで役立たずの伽藍堂
伽藍堂ってかっこいい響きだよね。
那由多は気づいたらもうダンジョンの内部に入っていた。
それほど無我夢中で駆け出していたのだ。
様々な感情が入り混じり、その表情は歪んでいた。
「はぁはぁ……やってやる。俺が出来ることを見せつけてやるッ」
そう呟き自身を4人増やす。
これで本人を含めて合計5人だ。
身長191センチが5人も並ぶとなると壮観ではある。
「抜刀……」
全員がエネルギーブレードの柄を強く握りしめた。
戦わせてくれなかったのは倉田じゃないか。
俺の可能性、確かにEランクスキルだがランクだけが全てじゃないことをわからせてやる。
そう思いながら、石の床を足で鳴らして歩みを進める。
ダンジョン内は少しひんやりとしていて、湿っぽい。
その後方には2人の影があった。
那由多は、それに気づくこともできない程に切羽詰まっていた。
早速前方からはゴブリンが錆びた剣を持って走り寄ってくる。
雑巾で牛乳を拭いて放置したかの様な悪臭が漂い、那由多は顔をしかめた。
——この程度ッ。
4人の分身が一斉に剣を振り下ろす。
だが剣同士がぶつかる。
「ッ!」
危うくゴブリン1匹の攻撃を喰らいかけるも、本体の那由多がエネルギーブレードを振り抜き、ゴブリンを切り伏せる。
「ほ、ほらな! 俺は違うんだッ! 俺は……」
やれる!
ただ少し分身がぎこちないだけだ。
一方で、その一部始終を少し離れたところから2人の探索者が見ていた。
「あの人、独り言多いわね。大丈夫かしら?」
「あーしらが止めても無視して入ったくらいだしね」
「にしても、分身4人もいるのに……」
腕を組みながら斜めに立ち、呆れた様に呟く。
「まあ……雑だね」
那由多はそんなことも知らず、目をギラつかせながら先へ進んでいく。
少し正気を失いつつあった。
「スライムだって、スケルトンだってよ。全部全部! 焼き切ってやるよォ!!」
だが、拙い。
圧倒的にスキルの技量が不足していた。
分身同士の剣がぶつかり合うことが多く、弾かれた剣が自分自身に刺さりかける。
それでも那由多は、乱雑にエネルギーブレードを振い続けた。
「邪魔だ! お前はあっちを斬り殺せ! おい! お前は浅い!」
分身の剣がスケルトンの方を捉える。
だが浅い。
しかし、本人の那由多は違った。
強く踏み込み身体を捻る。
エネルギーブレードを一気に振り抜く。
スケルトンの骨が焼き切れバラバラと散らばる。
「ほ、ほらな! 違うんだよ! そうだよね……?」
那由多の剣道で培った踏み込みは、魔物相手でも通用した。
少なくとも一対一でならEランクの魔物とは十分にやり合える。
再び、2人の探索者が口を開く。
「ねぇ? なんであの人1匹に対して複数で行くの? 1人で足りる技量はあるけど」
「あーしからみても剣捌きは確か、それにたった1人でパーティ上限の5人に達せるのはかなり強い」
「でもあれだと分身いない方が邪魔じゃないし良くない?」
その言葉通り、那由多はゴブリン数匹を相手に、自分同士で足を引っ張りあっていた。
「おい馬鹿! そっちじゃない!」
なんなんだよっ!
荷物を運ぶ動作は出来たのに剣を振るうのは少し難しいじゃねぇかよ……
その直後、分身を突き飛ばして転倒させる。
痛みが本人にフィードバックされた。
「いでっ! ク、クソっ。お前達は剣をガチャガチャぶつけ合うな、うわっ目の前まで来てるって!」
分身がただの邪魔になっている。
ゴブリンは本能的に本体に迫る。
だが、その首は本体の一太刀で首を刎ね飛ばした。
那由多は額の汗を拭いため息をする。
「はぁ……なんかおっかしいなぁ。俺は悪くない。今までまともに連携させてくれなかったのだから」
違う。
俺はこんなじゃない。
筋力だって申し分ない筈だ。
連携がぎこちないのは倉田達のせいだ。
そう自分に言い訳をしながら進んでいくと、ボス部屋の扉を見つけた。
那由多は、その前で立ち尽くす。
「1人で来るのは初めてだ……やるぞ」
そこに後方にいた2人の探索者が走り寄ってくる。
しかし、那由多はそのまま部屋に入ってしまった。
「あーし的にマズいと思う。ここのボスってスカルナイトだよね?」
「そうよ、そいつの骨粉が必要だからアタシ達が来たんでしょ」
「あの人、勝てるかなぁ……アイテム自体は、多分譲ってくれそうだけどさ」
「取り敢えず、扉の隙間から覗くわよ」
その頃、那由多は3メートル程あるアーマーを身に纏ったスカルナイトを前に手を震わせていた。
それが恐怖なのか武者震いなのかは本人にもわからない。
「い、行くぞ! お前達は後ろに回り込め!」
こいつの首持って自慢してやる。
俺は基礎くらいは出来るんだって、荷物持ちがお荷物じゃないことを。
だってゴブリンもスケルトンも倒せた。
なら多少は強い魔物も問題はない。
俺には4人の分身がいる。
五対一だ。
負けないっ。
そう覚悟を決め、分身による包囲からの一斉攻撃を指示。
「ハァッ!!」
しかし、魔物は剣を一回転するように振るった。
たったその一撃だけで、分身達をまとめて弾き飛ばす。
壁に激突した衝撃が痛覚を通じて伝わり、那由多の身体を痺れさせた。
「あ゛あ゛あ゛っ! く、クソ、なら俺1人でッ」
分身を消し、タイマンに持ち込む那由多。
焦燥感が強く、本来の目的。自分の能力を証明することすら忘れていた。
ただ意地で食らいつく。
「オラっ! 隙だ!」
魔物の剣を弾き胴体を切り付けると鎧が焼き切れて肋の骨も何本か落ちた。
やれる、いけるぞっ!
そう思った瞬間、スカルナイトが剣を突き出した。
「ぶっ、分身ッ!」
那由多は咄嗟に分身を作りだし、本体を突き飛ばす。
攻撃は回避した。
だが痛覚共有による激痛が那由多を襲う。
「う゛ぎゃあぁあ!!!!」
そのまま分身は切り裂かれ、那由多は地べたで苦痛に身を捩らせる。
スカルナイトの赤い目が怪しく光った。
ドスっドスっ……
ゆっくり歩み、那由多に迫る。
静まり返ったボス部屋には鎧と骨が擦れる音だけだった。
「あぁ……ダメかぁ」
薄々気づいていた。
夢だけ見てれば現実を知らなくて済んだのになぁ……
もう目に光はない。
諦め切った那由多は、迫り来るスカルナイトをただ見ていた。
その刹那——
2人の少女の声が、静寂を切り裂く。
「グラビティライズ!」
その瞬間スカルナイトが宙に浮かび上がる。
魔物は手足をバタバタと動かし抵抗するも為す術なし。
「トリニティレーザー!!」
浮遊するスカルナイトを3本の回転するレーザーが捉えた。
直後に魔物の頭部を吹き飛ばした。
それを見届けると同時に、那由多の意識も途切れた。
——————————————————
「……はっ!? アレ、俺生きてる!?」
那由多は驚き、辺りを見渡した。
そこは明らかにダンジョンの外だった。
そして、知らない誰かの家でもある。
那由多の声に気づいたのか1人の少女が部屋に入ってきた。
「あ、起きた。アンタ馬鹿なの? はぁ……身体は大丈夫? にしても無茶をするわね」
金髪の可憐な雰囲気で、どこかのお嬢様のような姿の少女は罵倒しつつも少し心配そうに言った。
そうしていると、紫色の髪をしたギャルが入ってくる。
「あ! 起きた! 大丈夫? でもアンタ、アホなの? 1人で行くなんて自殺行為じゃん」
少し怒りつつも彼女も那由多を心配していた。
「あぁ、少しヤケになってな。2人ともありがとう。俺は神楽那由多だ」
「あーしは武者小路美琴! こっちのパツキンのお嬢様は煌輝レイ!」
「そうか」
那由多の返事に、2人はキョトンとする。
「えっ? あーしら知らない?」
「知らないな、有名人だったのか?」
「まあまあね。それよりもアンタ、分身に実体があって武器も増えるなら戦い方変えなさいよ」
レイは少し呆れ気味に言った。
自分の剣同士がぶつかったり、自分自身を突き飛ばす適当な戦い方をしていたので無理もない。
「そうそう、あーしはファランクスやると良いと思う!」
「ファラン……クス? なんか歴史で習ったような……」
「知らないの? てか、そもそもアンタ探索者歴何年なん?」
那由多はここに至った事情含めて自分のことを話した。
「まあそれなら、ああなるのも気持ちはわかる。でもアタシ達が来なきゃ死んでいたからね」
「まあまあ、それより剣に拘るのやめなよ。……そうだ、今度空手とか教えてあげようか? 連絡先交換しよ!」
「優しいな、ありがとう」
ついでにレイの連絡先も入手した。
「そう言えば君らの年齢は?」
「あーし今年で16! ……まだ15歳だけどね」
「同じ16歳よ、貴方は……大人? 良い身体しているわね」
「今日19歳になったんだ。それで、さっき言った通り追放ってやつよ……ガタイだけ」
そう寂しそうに呟く。
すると、美琴は笑顔で言った。
「えー、なんで、さっきそれ言わないの! 誕生日おめでとう!」
「3歳年上なのね、誕生日おめでとう」
レイも無表情気味だった表情が柔らかい笑顔に変え、祝福する。
その瞬間、溜まりに溜まっていた思いが決壊した。
年下の前で号泣する那由多。
鼻水垂らして涙をぼろぼろと溢す。
「うぅ……あ、ありがとう。その言葉だけが欲しかったんだ……」
2人は顔を見合わせ、それから口を開く。
「アタシ達が追放した奴らの代わりに友人になってあげるから元気出しなさい」
「そうそう! 追い出した奴らを見返してやろ!」
そう言われて、那由多は再び前を向くことができた。
やっと俺は報われた気がした。
その後も少し会話をして、那由多は帰宅することにした。
「……すまない。じゃあ、そろそろ帰宅するよ」
家から出ようとする時に、1つの疑問を思い出す。
「そう言えばこのデカい家誰の?」
「アタシよ、一人暮らししてるわ。 アンタには同情しているから暇な時に戦闘訓練してあげる」
子供がこんなデカい家に!?
それに訓練だなんて至れり尽くせりだな。
こんなに人間できていると探索者ランクも固有スキルランクも高いだろうなぁ。
「ありがとう! じゃあまた!」
そうして那由多は4人のパーティメンバーを失い、2人の少女の友人を手に入れた。
そして——己の真骨頂に気づく。
何をすれば、自分が強者になるかを。




