第1話 誕生日プレゼントは仲間からの追放でした
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今日は那由多の誕生日だ。依頼もない休日だというのに、そんな日に限ってリーダーの倉田から呼び出しを受けた。
ということはそうだろう? そういうことだよなっ?
那由多は頬が緩み、己の分身を出して共に踊るように軽やかな足取りで向かう。
所属パーティ【シロガネの誓い】のアジトである、倉田の一軒家へ向かう。
「多分……祝ってくれるんだよな?」
最近メンバー達がよそよそしかったりして不安だった。だけどサプライズの準備だとしたら辻褄が合う。
倉田の兄貴も今年で30になるし、そう言うのは人生経験の差で慣れているのかもしれない。
それに加入した時から度々飯も奢ってくれたり、冒険のイロハも教えてくれた人だ、そんな優しい人だから誕生日おめでとうくらいは言ってくれるはず。
心踊るままインターホンを押す。
すぐに中へ通された。
だが、おかしい。倉田は眉間に皺を寄せ、冷たい眼差しで那由多を見た。
「入れ」
そのたった一言で、那由多の胸に不安がよぎった。
胸の奥に消そうとしていた、不安が再度芽生えた。
中に入るといつものリビングには他のメンバーの3人もいたが、どう見てもお祝いムードではなくお通夜状態だ。
「話がある、早く座れ」
そう言いながら不快な電子タバコの煙を漂わせ、ソファで尊大な座り方のまま那由多に向けて言う。
まるで「お前は下だ」と言われているようだった。
「う、うん」
手汗が止まらない。嫌な予感が頭を巡り、喉が渇く。
そして永遠にも感じた数秒が経つと倉田が口を開く。
「神楽那由多」
倉田は名前だけを呼んだ。
その時点で更に嫌な予感しかしなかった。
「……お前はクビだ。つまり追放処分だ」
そんな嘘だっ。
今日だけは誕生日だから違うと思っていた。いや思い込んでいた。
だから、追放なんてあるはずがない。
せめて「誕生日おめでとう」の一言くらいはあると思っていた。
加入してから、たった2ヶ月足らずでの解雇に那由多は吐き気と眩暈まで覚える。汗も止まらず、握りしめたズボンに手汗の跡を作ってしまう。
でも、命じられた仕事はこなしてきた。生まれつきガタイにも恵まれていた。だから荷物運びはしっかりと破損もなく成し遂げていた。
「おかしい! 俺は荷物を持っていた! 採取の効率化もできた! 朝から晩まで担いだ荷物は数知れず! 更に今までは文句1ついわず、今横に立ったままの分身だって活躍させていただろ!」
倉田は、それに深いため息をして顔を手で覆いやれやれといった態度で言う。
「最初は俺も下から2番目のEランク固有スキルの割に、期待できそうなルーキーだと思ったんだよ。お前剣道全国ベスト16だしさ。そんでもって規則でパーティは5人が上限。それを覆せる能力だけに最初の1ヶ月くらいだけは期待していた」
そんな理由? 勝手に期待して、勝手に失望しただけじゃないかっ。
第一荷物を持つだけで良いと言ったのはアンタの方だろ。
だが、こんな時の為の契約書を那由多は抜け目なく用意していた。
「じゃあ、一方的な理由でクビにした時に発生する違約金、直近のクエスト10回分の報酬を請求する。まさか忘れてなんていないよね?」
そう相手の虚をついて勝ち誇るように言い放つ。
若造だ。だが、ただでは負けないぞ。
そう思っていると倉田と残りメンバーは大爆笑。
何が面白い? 1人の人生が狂うタイミングだぞ。
「な、何がおかしい!」
「いやー、最近討伐じゃなくてやっすい採取クエスト、それもお前の分身をこき使ってやったんだからさ。これしか払えないわけ」
そう言うと10万円をポンッと投げ渡す倉田。
……やられた、いつもの討伐ならこんな端金じゃなかった。
なぜダンジョン採取ばかりするのか違和感を覚えて問いただしたが、腰痛治しの薬草が欲しいって! だってそう言うからアンタのことを思って! 必死に探したんだぞ! なのになんで……おかしいだろ……
「あのな、もう探索者もやめた方がいいぞ。腰の剣いつ使ったよ。殆ど俺達が護衛していたから楽できていただけで、テメェの実力じゃねぇからな」
「うるさい、俺だって戦えるんだ! なのに荷物しか持たせず戦わせなかったのはアンタだろ!」
那由多は指を差して怒鳴ると、倉田は剣を抜き立ち上がると、那由多の屈む分身を見下ろした。
「これが、お前のダメなところだ」
「エンチャント:ヴェノム」
倉田が言った刹那、腹部に激痛が走る。肉が腐り落ちるかのような熱を帯びた痛みが那由多を襲う。
フラフラの視界でよく見ると、倉田は分身の腹部を突き刺していた。
「うぎぃっ……や、やめ……ろ……」
「弱点、分身との痛覚共有」
そうだ、忘れかけていた。
仲間を信頼しきっていたせいで、その致命的な弱点を。
クソ、倉田の言う通りに守られていた赤子に過ぎないのか……
「他の分身持ちなんざ、実体もねぇ、時間も短ぇ、裸で出る奴までいるからお前は珍しかった。期待はしてたさ、デメリット知るまでお前は優秀だと本当に思っていたよ」
そう言いながら剣を抜くと、更に激痛が走り吐瀉物が込み上げてきて飲み込む。
汗はダラダラと流れ、痛みの反射で涙がこぼれ落ちる。
泣くならサプライズで祝われた時が良かった。
「じゃあ、少しばかし三途の川先行体験と行くか? エンチャント:フレイム」
剣は熱を帯びて燃え盛り至近距離での熱波に慌てふためくと、次の瞬間に首に激痛が走った。
人生で最大の痛みと言っても過言ではない激痛に悲鳴を上げて身体を捩らせる。
「う゛ぅ゛ぐっぎゃああああ!!!!」
首と胴体が切り離された分身によって、リビングは血で染まった。
呼吸が反射で止まる。視界が歪み何が起きたか咄嗟には理解できなかった。
目をしっかり開けると、そこには痙攣する分身のボディと口から血を垂らす頭が転がっていた。
血塗れの倉田はただ笑っていた。その表情には、少なくとも罪悪感など感じられなかった。
しかし、他の3人は誰も笑わなかった。
1人は目を逸らし、1人は顔をしかめ、もう1人は何か言いたげに口をもごもごさせている。
彼らは何も言わなかった。いや言えなかったのかもしれない。
ただ、誰1人として倉田のように笑ってはいなかった。
そうだ、お前達もこんな奴に従うべきじゃない。
苦しむ最中で分身が絶命すると血も含めて全てが消えた。
「なっ? だからダメなんだ。その10万持ってとっとと帰んな。もうギルドでは手続き済みだ、まあお前の了承は得られないから不正はしたがなっ! ハッハッハーッ!」
クソっクソっクソがッ。自分に利益がないなら外道だなんて早く気づくべきだった。
もう良い、こんな場所には居たくない。
「クソッタレ! 追い出したこと後悔するなよっ! 俺は自分の力を確かめて示してやるからな」
那由多は立ち上がり私物を集めてリビングから出る。倉田だけの笑い声が聞こえて胸がキュッと締め付けられた。
「ハッハ〜!! 朝刊には載るなよ〜! それに渡した10万が遺体回収費用になったら爆笑モンだぜぇ〜!」
とことん馬鹿にされ那由多はパーティから追放された。
だけどやられてばかりじゃない。
自分だってやれるんだッ!
Eランクダンジョンに行ってわからせてやる。
俺が役立たずじゃないことを!
那由多はドアを勢いよく閉めた。
もう振り返らない。振り返りたくもない。
痛みも悔しさも抱えたまま、近くのダンジョンへ走り出す。
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