↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/22

第18話 本当の殺し合い

決着の時

「かぁあぐらァァア!!!!」


 倉田が那由多の名を叫び、再び魔剣を振りかざす。


『動かないでください! わざと受け止めます!』


「分かった!」


 那由多はあえて動かなかった。

 振り下ろされた魔剣を、右腕に展開したフェムトマシンのアーマーで受け止める。

 その瞬間、黒い粒子が魔剣へと広がった。

 剣そのものを掴むようにフェムトマシンが絡みつき、倉田の魔剣を固定する。


「チッ! なんだよ、本当にテメェはよッ!」


 倉田が必死に剣を引く。

 だが、動かない。


「脇腹がガラ空きだぞッ!」


 那由多の拳が倉田の脇腹へ叩き込まれる。


「ぐふっ……!」


 倉田がよろめく。


 那由多は一度距離を取った。


「今が分身の時か……」


『ダメです! まだフェムトマシンを安定させてからじゃないと危険です!』


「何が?」


『フェムトマシンの制御が不安定な状態で分身すると、分身同士でフェムトマシンが干渉する可能性があります! 最悪の場合、身体そのものに重大な負荷がかかります!』


「チッ……分かった」


 那由多は倉田を見る。

 その目には、以前のような憧れも尊敬もない。

 ただ、怒りと悲しみだけがあった。


「もうやめてくださいよ」


 那由多は静かに言った。


「俺、アンタのこと兄貴みたいに慕ってたじゃないですか!」


「うるせぇんだよ、ガキがァ!!」


 倉田が魔剣を乱暴に振り回す。


 しかし、今度の那由多は違った。

 フェムトマシンによって強化された脚で攻撃をかわし、魔剣の軌道を見切っていく。


「なぁ!!」


 那由多は叫ぶ。


「アンタの罪は軽い! 執行猶予だってつく! そもそも俺は訴える気だってない!」


 倉田の動きが一瞬止まる。


「じゃあ、これは何のための争いなんだよ!」


 俺は何のために戦っているんだ。

 こんなにもなってもお前を思いやっているのだぞ、


「俺の人生を壊したことが許せねぇんだよォ!!」


 倉田の声が夜道に響く。


「彼女にも振られた! パーティは解散した! 全部お前のせいだ!」


「……」


 あまりにも理不尽な言葉に、那由多は絶句した。


「お前は間違ってる」


 それでも那由多は言う。


「今からでもやり直せる。人間、遅すぎるなんてことはないんだよ!」


『ご主人……』


 ネアが少しだけ声を落とす。


『何故ですか?』


「?」


『何故、あんな人間にまで寄り添うんですか!』


 那由多は一瞬だけ黙った。


「……アレでも、パーティに入った最初の一ヶ月分の恩はあるんだよ」


『ですが!』


「それに俺は性善説を信じてる」


『それでも度が過ぎています! 殺したって正当防衛になるでしょう!』


「それでもだ」


 那由多は倉田を見る。


「俺にアイツの更生するチャンスまで奪う資格はない」


 両手にフェムトマシンの短い刃を展開する。


「だから、ここで殺さずに制圧する!」


「誰と話してんのか知らねぇが……」


 倉田が笑った。


「相変わらず甘ちゃんだなァ!!」


 魔剣が風を纏う。


「エンチャント:ストーム!」


「……!」


 那由多は気付いた。

 この技には見覚えがある。

 パーティ時代、何度も見てきた技だ。


「マズっ……!」


 倉田がその場で魔剣を振り抜く。

 次の瞬間、目に見えない風の刃が那由多へと襲いかかった。


『ご主人!』


「くっ……!」


 那由多は咄嗟に腕を交差させる。

 フェムトマシンが全力で防御へ回る。

 それでも衝撃を完全には防ぎきれず、那由多は大きく吹き飛ばされた。

 服は切り裂かれ上裸で血塗れになる。

 

『大丈夫ですか!?』


「……大丈夫だ!」


『嘘です! 損傷を確認! 回復にフェムトマシンを回します!』


「頼む!」


『使用率上限、15%! これ以上は無理です!』


「じゃあ、この両手だけでやる!」


 那由多は立ち上がった。

 倉田が魔剣を構えて突っ込んでくる。


「だから誰と話してんだよォ!」


「そんなこと、お前に関係あるか!」


 魔剣とフェムトマシンの刃がぶつかる。

 金属音が夜道に響く。


「頼む、やめてくれ! 俺は殺したくない!」


「うるせぇッ! 本気になれば殺せるかのように物を言う!」


「エンチャント:ショック!」


 魔剣を通じて電撃が走る。


「ぐあああっ!」


 那由多の身体が硬直する。

 倉田はその隙を逃さず蹴り飛ばし、那由多を転ばせる。


「死ねェ!」


 魔剣が垂直に振り下ろされる。


 だが――


『ご主人!』


 フェムトマシンが反応し、那由多の身体を局所的に覆う。


 魔剣が装甲に弾かれた。


「危なっ……!」


 那由多はすぐさま起き上がる。


 そして右腕を硬化させた。


「そこだッ!」


 渾身の拳が倉田の鳩尾を捉える。


「ぐっ……ぶぅぇっ……おええっ……」


 倉田はゲロを吐き膝をつく。

 さらに那由多は脚部を強化し、一気に距離を詰める。


「これで終わりだ!」


 最後の顔面への一撃。

 倉田は地面へ倒れ込んだ。


「……俺は……Eランクに……負けたのか……」


 倉田が呟く。

 那由多は静かに答えた。


「そんな物差しで計るからダメなんだよ」


「……人としても……俺は負けたのか」


「……」


 那由多は少しだけ寂しそうに倉田を見る。


「今からでも遅くないって言っただろ」


 そして背を向ける。


「更生して、探索者生活を一から頑張ってください」


「……ああ」


『万事解決ですね!』


「……そうだな」


 その時。

 遠くからサイレンが聞こえてきた。


「警察か」


 那由多が振り返る。

 その瞬間、空から光の筋が降りてきた。


「那由多!」


「大丈夫!?」


 光から現れたのは、レイと美琴だった。


「……!」


 美琴が那由多を見る。


「アンタ、その怪我……」


「大丈夫だって」


 那由多は笑う。

 そして倉田の前へ歩み寄った。


「彼は反省した。もう乱暴に扱わず、逮捕を……」


 その瞬間。

 倉田の目が開いた。


「……」


 魔剣が、浮いた。


『ご主人! 危険……!』


「……っ!?」


 那由多が振り返る。

 しかし、遅かった。

 魔剣が一瞬で距離を詰める。


「がっ……グフッ……ゲハッ……」


 那由多の身体が大きく揺れる。

 下を向くと魔剣が体を貫いていた。

 そして、そのまま膝から崩れ落ちた。

 エンチャント:ヴェノムにより傷口は壊死を始める。

 黒い血溜まりに倒れて動かない那由多。


 

「那由多!?」


 美琴が叫ぶ。


『ご主人!?』


 ネアの声が震える。


『そんな……!』


 那由多は何かを言おうとする。

 だが、声にならない。

 意識が急速に遠ざかっていく。


『ご主人! 聞こえますか!?』


 ネアが必死に呼びかける。


『こんなところで死ぬなんて、許しませんよ!』


 那由多から返事はない。

 その瞬間。

 周囲が明るくなった。

 夜の街が、まるで昼間のように照らされる。


 パトカー。

 周囲の瓦礫。

 そして周辺にあった様々な物体が、次々と宙へ浮かび上がった。


「……よくも」


 美琴の声が低くなる。


「よくも、あーしの大切な人を。よくも、庇ってくれた優しい人を」


 レイも倉田を睨みつける。


「……死になさい」


 二人から放たれる殺気に、警察官たちが息を呑む。止めに入れない。

 

 倉田自身も、自分がやったことの重大さを理解したのか、座りながら後ずさる。


「ま、待て! 俺は……逮捕される! だから、やめてくれ!」


「何調子の良いことほざいてんだよ」


 美琴が手を上げる。

 宙に浮かんだ物体が、倉田へ向かって動き始める。


「楽には死なせてあげるわ」


 レイも光を集める。

 その時。


「……ダメだ」


 かすかな声が響いた。


「……!」


 二人が振り返る

 倒れていた那由多が、必死に腕を伸ばしていた。

 美琴の足を掴む。

 続いて、レイの足にも手を伸ばす。


「……人を……殺したら……ダメだ……」


「那由多……?」


 美琴の表情が変わる。


「俺は……アイツに……死んでほしくない……この期に及んでな……」


 呼吸を整えることすら苦しそうな状態で、それでも那由多は言葉を続ける。


「そして殺したら……」


 目を閉じかけながら、最後の力を振り絞る。


「……同類になるぞ。お前たちに人殺しの汚名を着せたくない」


 二人の怒りが止まった。

 美琴は唇を噛む。

 レイも拳を握りしめる。


「……分かったわよ」


 美琴がしゃがみ込み、那由多を抱き上げる。


「アンタは本当に……優しいやつだよ。馬鹿な程にね……」


 レイが倉田を睨みつける。


「……警察に任せる」


「は、はい!」


 警察官たちがすぐさま倉田を拘束する。

 倉田は抵抗しなかった。


「……」


 ただ、何も言わずに那由多を見つめていた。

 その表情に、もはや戦意はなかった。


『ご主人……』


 ネアは那由多の意識が遠ざかっていくのを感じていた。


『お願いです……』


『まだ死なないでください。人類の中で唯一気に入っているんですよ!』


 那由多を抱えたレイと美琴が走り出す。

 そして光に包まれ、その場から消えた。



 神代工業の傘下にある病院。

 那由多はすぐに集中治療室へ運び込まれた。


「状態を確認!」


「未知の毒物反応があります!」


「待て! 身体の中に何かあるぞ!」


 医師がモニターを確認する。


「これは……ナノマシン?」


「いや、違う!」


 別の医師が画面を覗き込む。


「フェムトマシンだ。こいつが損傷した組織を修復している!」


「なら、まだ助かる可能性がある!」


『当たり前です!』


 ネアが那由多の脳内で叫ぶ。


『私が必死に治してるんですから! だからご主人も頑張ってくださいよ!』


 治療が始まる。

 長い時間が過ぎていく。

 病院へ駆けつけたのは、那由多の両親。

 そしてヴェルナ。

 事情を聞いた母親は、その場で泣き崩れた。


「どうして……どうして那由多が……」


 父親は何も言わず、ただ手を握りしめていた。

 レイも俯いている。

 美琴は何度も涙を拭っていた。

 ヴェルナだけは、必死に涙を堪えている。


「……」


 そして、律も駆けつけた。


「那由多……」


 彼女もまた、不安そうに手を握りしめていた。

 数時間後。

 手術室の扉が開いた。


「先生!」


 父親が駆け寄る。


「那由多は!? 息子は無事なんですか!?」


 医師は父親の肩に手を置いた。


「大丈夫です」


「……!」


「手術は無事に終わりました。命に別状はありません」


「よかった……!」


 母親が涙を流す。

 レイも。

 美琴も。

 律も。

 皆が安堵の涙を流した。

 ヴェルナだけは俯き、静かに目元を拭った。


 病室。

 那由多はベッドの上で眠っていた。

 まだ目を覚ます気配はない。


『……ご主人』


 ネアが静かに呼びかける。


『治療は終わりました。裂傷した大腸から漏れた大腸菌の消毒だって終わったんです』


 返事はない。


『だから……起きてくださいよ』


 しばらく待っても、那由多は眠ったままだった。


『……約束したじゃないですか』


 ネアの声が震える。


『私たちは、一蓮托生でしょう?』


 それでも那由多は目を覚まさない。

 その頃。

 倉田は殺人未遂の容疑で逮捕された。

 長く続いた二人の因縁は、こうして決着を迎えた。


 ――ただし。

 那由多の体内に宿ったネアとフェムトマシンが、この先どんな未来を引き起こすのか。

 それを知る者は、まだ誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。