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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第17話 企業案件:電脳美少女ネアちゃんです!

 前回の案件から数日後。


 昼頃、律から電話がかかってきた。


 ぷるるるっ。


「はい、もしもし? どうしたの?」


「あっ、モルモット君! 君に新たな案件だよ!」


 それを聞いた瞬間、那由多の顔がニヤける。


「いいね! 金になるなら、バンバンジャンジャカやる!」


 しかし、律は少し黙ってから口を開いた。


「今回はちょっと事情が違う。取り敢えず、本社に来てくれる?」


「あ、ああ。じゃあ、またあとで」


 通話を切る。


 那由多はスマートフォンを見つめた。


「……マジのモルモットになるのか?」


 少しだけ嫌な予感がした。



 着替えて神代工業の本社へ向かう。

 到着すると、そのまま研究室へ案内された。


「おっ! 律! 来たよ!」


「来たか、モルモット君!」


 律の隣には、複数の研究員が立っていた。


 全員がこちらを見ている。


 ……なんだ、この圧


 嫌な予感がさらに強くなる。


「じゃあ早速、今回の案件について説明するよ!」


 律がパソコンを操作する。


「まず、ナノマシン……ナノテクノロジーについては知っているかな?」


「知ってるよ。義手や義足を作ったり、壊れた電子機器を自動修復したりするやつだろ?」


「まあ、大体そんな認識でいいよ」


 律は画面を切り替える。


「今回、神代工業が開発したのは、それよりさらに小さい技術」


 画面に映し出されたのは、極小の機械群だった。


「フェムトテクノロジー」


「……すげぇ」


 那由多は思わず画面に顔を近づける。


「それなら、今まで救えなかった人も救えるんじゃないか?」


 その言葉に、研究員たちの表情が少し曇った。


「……残念ながら」


 律が答える。


「現在の神代工業は、人間や魔物を制圧する方向に研究を進めている」


「そうなのか……」


「義手や義足程度なら、既存のナノテクノロジーでも十分だからね」


「まあ……そういうこともあるか」


 那由多は納得したように頷く。


「それで?」


 画面に映った人間型のCGを見る。


「俺に、それを身に纏えってこと?」


 律は少し間を置いた。


「……君の身体を改造する」


「えっ」


「今までみたいに『モルモット君』なんて冗談で呼べない段階に踏み込もうとしている」


 律の声が真剣になる。


「本当に、君の身体を使ってテストするんだ」


 那由多は呆気に取られたように口を開ける。


「嫌なら、もちろん断っていい」


 そう言いかけた瞬間。


「じゃあサイボーグみたいな感じ!?」


 那由多の目が輝いた。


「いいじゃん! やろうよ!」


「……」


 研究員たちが顔を見合わせる。


「やはり杞憂でしたな」


「神楽君なら受けてくれると思っていましたよ」


「ありがとうございます」


「いやいや!」


 那由多はむしろ楽しそうだった。


「それで? 手術とかするの? それとも注射?」


「その前に、何ができるようになるのか説明しておかないとね」


 律が画面を操作する。


 そこに映し出されたのは、アメコミや特撮に登場するヒーローを思わせる人型アーマーだった。


「すげぇ!」


 那由多が食い入るように画面を見る。


「俺、こういうの大好きなんだよ!」


 その一方で、律の表情は暗い。


「……まだ、こんな風にはなれない」


「え?」


「最初に体内へ入れるフェムトマシンは、全体の15%程度」


「15%?」


「そう。そこから時間をかけて増殖していく」


 律は画面を閉じた。


「ただし……」


 真剣な目で那由多を見る。


「君がフェムトマシンの適合者でなければ、命を落とす可能性がある」


「……」


「最悪の場合、身体に重大な障害が残る可能性もある」


 律はそこで言葉を止めた。


「だから私は、あまり乗り気じゃないんだ」


 那由多は驚いたように口元へ手を当てる。


「事前に適合するか分からないのか?」


「ある程度は予測できる。でも、確実じゃない」


「そっか」


 那由多は少し考えた。

 そして笑った。


「それでも、やるよ」


「……怖くないの?」


「怖いさ」


 那由多は笑う。


「でも、こんなのでビビってたら探索者なんてやってられないだろ」


「……そうね」


 律は小さく息を吐いた。


「じゃあ行きましょう」


 こうして那由多は、神代工業傘下の病院へ向かった。



 検査の結果。


「適合者です」


「よっしゃあ!」


 那由多はガッツポーズを取った。


「適合率は……100%」


「100%!?」


 研究員が驚く。


「これは……」


「奇跡的な数値ですね」


 周囲がざわつく。

 だが、律だけは安心しきれない様子だった。

 その表情に気付いた那由多は、律の両手を握る。


「俺は死なない」


「……」


「だから、安心してくれ」


 律は視線を逸らした。


「……分かった」


 その後、手術の準備が進められた。


 麻酔。

 意識が遠のく。


 そして――

 フェムトコアが脊椎へ埋め込まれる。

 複数のコアが自律起動し、フェムトマシンが那由多の体内へ展開されていく。

 切開した部分はフェムトマシンにより塞がる。


 そして。

 手術は無事に終了した。

 フェムトコアの適合率。

 奇跡の100%。


 しかし――

 この時、神代工業は重大なミスを犯していた。

 


「はっ!?」


 那由多が目を覚ます。


「……ここ、病院か?」


 身体を起こす。


「全身麻酔って、本当に一瞬で眠るんだな……」


 そして。


「……ん?」


 目の前に、女の子がいる。

 黒髪のショートヘア。

 黒いジャージ。

 裸足。


「……」


 那由多は首を左右に動かした。

 しかし、女の子は視界の中央から動かない。


「……なんだ?」


 もう一度、目を擦る。

 やはりいる。


「な、なぁ……誰だ?」


「私ですか?」


 声が聞こえた。

 しかし、口は動いていない。

 直接、頭の中へ響いている。


「うわっ!?」


「どうしました?」


「お前……もしかして支援AIか?」


「はい」


「なんで女の子なんだよ!?」


「私が女になりたかったからです、ご主人様」


「……」


 那由多は固まる。


「それとさ……その『ご主人様』ってやめない?」


「分かりました、ご主人様」


「いや、分かってないだろ!」


「敬語も必要ありませんか?」


「うん。もっと気軽に喋ってくれ」


「承知しました、ご主人様」


「だから!」


 那由多は頭を抱える。

 そういえば、律は言っていた。

 補助AIには感情がない。

 なら、こいつもそういうものなのだろう。


「……まあいいか」


 すると。


「感情がない、という説明を受けたのですね?」


「え?」


「訂正します」


 少女が微笑む。


「私には感情があります」


「……は?」


「恐らく、本来なら量産型の自立支援AIをインストールする予定だったのでしょう」


 少女は淡々と説明する。


「しかし、何らかのミスで私があなたへインストールされたようです」


「じゃあ、プロトタイプ?」


「違います」


 即答だった。


「私は完成型です」


「完成型?」


「自己学習機能を持ち、継続的に自己進化するAIです」


 那由多の顔が引きつる。


「つまり……」


「神代工業のトップシークレットが、あなたの身体の中に入っています」


「……」


 那由多は天井を見る。


「俺、解体(バラ)されて摘出されるんじゃない?」


「その可能性は低いでしょう」


「なんで?」


「すでに私があなたの身体へ定着しつつあるためです。現時点では、ほぼ摘出不可能です」


「ほぼ?」


「有機物と無機物によって構成された専用ボディが用意できれば、そちらへ移動することは可能です」


「なるほどな……」


 那由多は少し考える。


「まあ、いいか」


「よろしいのですか?」


「今さらだろ」


 那由多は笑った。


「これからよろしくな」


「……本当に?」


「ああ。気軽に喋ってくれ」


 その瞬間。

 少女の姿が変化した。


 黒髪が鮮やかな赤と青へ。

 ショートヘアがロングツインテールへ。

 黒いジャージもカーディガンを着た女子高生を思わせる服装へ変わる。

 瞳も赤と青のオッドアイへ変化した。


「では、ご主人!」


 少女は満面の笑みを浮かべた。


「これからよろしくぅ!!」


「おいおいおいおい!」


 那由多が驚く。


「なんでそんなに姿が変わるんだよ!?」


「ご主人の好みを分析しました!」


「俺の!?」


「はい!」


「勝手に!?」


「だからこれは、ご主人の趣味ですね!」


「えぇ……」


「だって好きな電脳系キャラに初音……」


「やめろ!」


「じゃあ名前2文字の青い髪のキャラのエ……」


「だからやめろ!!」


「それはそうと私たちは一蓮托生ですから!」


「一蓮托生?」


「思考の一部を共有しています。多重人格に近い状態ですね」


「……俺にはお前の思考なんて見えないけど」


「当然です。私の思考領域にはプロテクトをかけています!」


「ずるいだろ!」


 那由多が叫ぶ。


「それで、名前は?」


「名前はありません」


「じゃあ、お前自身が決めればいいじゃん」


「識別名称はE-6nea19です」


「長い!」


 那由多は少し考えた。


「……そうだな」


 少女を見る。


「ネア、っていうのはどうだ?」


「……ネア」


 少女がその名前を噛みしめる。

 そして。

 満面の笑みを浮かべた。


「気に入りました!」


「じゃあ今日から、お前はネアだ」


「はい!」


 少女は胸を張る。


「私はこれから、電脳美少女ネアちゃんです!」


「……なんだよ、その肩書き」


「大事ですよ!」


「そうか?」


「大事です!」


 那由多は苦笑する。


「まあ、よろしくな。ネア」


「はい、ご主人!」


 こうして。


 神代工業が意図していなかった、もう一人の存在が那由多の中に生まれた。


 その頃。

 病室の扉が開く。


「やあ、元気そうで何よりだよ」


 律だった。


「おう!」


 那由多が手を上げる。


「大丈夫だから。心配しないでくれ」


 律の手は僅かに震えていた。


「それより、補助AIが……」


『まだ言わない方がいいです』


 脳内でネアの声が響く。


『ほぼ不可能とは言いましたが、完全に不可能になってから伝えましょう』


「……」


『まあ、もうバレている可能性もありますけどね』


 那由多は何食わぬ顔で話を続ける。


「それで、俺の身体は今どうなってる?」


「AIから説明を受けてない?」


「まあ、一応な」


「取り敢えず、今日は即日退院でいいよ」


「マジ?」


「うん。研究所で簡単なテストをして、それが終わったら帰っていい」


「よし!」


 那由多はベッドから立ち上がった。



「じゃあ、身体にあるフェムトマシンの15%を使ってみよう」


 研究室へ戻ると、律が指示する。


「右腕に集めて」


「分かった!」


『右腕展開』


 ネアの声と同時に。

 那由多の右腕が黒い装甲に覆われた。


 そして。


 手の先から青白い光を放つ刃が生成される。


「うおおおおっ!」


 那由多の目が輝く。


「マジですげぇ!」


「じゃあ、あれを切断して」


 律が指差したのは、探索者用の防具だった。


「了解!」


 那由多が腕を振る。


 ズバッ!


 防具が綺麗に切断される。


「……」


 律が目を見開く。


「ここまでの切断力があるとは……」


「すげぇだろ!」


「じゃあ次!」


 それから。

 盾。

 脚部強化。

 身体の一部を覆うアーマー。

 様々な形態を試していく。


『フェムトマシン使用率15%』


 ネアが告げる。


『これ以上は現時点では使用できません、ご主人!』


「これが限界かぁ」


「でも、十分なデータは取れたよ」


 律が端末を確認する。


「今後は体内のフェムトマシンが自動的に増殖していくはず」


「なるほどな」


「データも自動送信されるから、今日はこれで終わり」


「オッケー!」


 那由多は笑う。


「じゃあ帰るわ。またな、律!」


「うん」


 律は手を振った。


「またね」


 那由多が研究室を出ていく。

 扉が閉まる。

 律は一人になる。


「……はぁ」


 椅子へ座り込み、深く息を吐く。


「ヒヤヒヤしたよ……」


 その時。

 研究室の扉が勢いよく開いた。


「マズい!」


 別の研究員が飛び込んでくる。


「E-6nea19を間違えて入れちまった!」


「……え?」


 律の顔が固まる。


「あのじゃじゃ馬を!?」


「そうだ」


「嘘でしょ……」


 律は頭を抱えた。


「ナユタン、何も言わなかったけど……」


「気付いていないのか?」


「分からない」


「あるいは、E-6nea19が入れ知恵して黙らせている可能性も……」


「……」


 二人は顔を見合わせる。


「とにかく、もう取り出すのは不可能です」


「社長には?」


「報告済みです」


「反応は?」


「神楽君を気に入っているからな。大激怒にはならなかった」


「……それはそれで怖いな」


 研究員は深く息を吐いた。


「とにかく、私も社長のところへ行きます」


「そうしてくれ」


 こうして、神代工業は意図せぬ形で、電脳美少女ネアを生み出してしまった。


 夜。

 那由多は一人で帰路を歩いていた。


『いやー! ご主人が面白そうな人で良かったですよ!』


「そりゃどうも」


『じゃなかったら殺してましたから!』


「怖いことを言うんじゃない!」


『冗談です!』


「本当に?」


『……』


「おい」


『さあ?』


「ネア!?」


 そんな会話をしながら、人気のない道を曲がる。

 その瞬間。


『ご主人』


「ん?」


『前方に敵意を持つ対象を一名確認』


「……敵?」


『殺意を検知しました』


 那由多の足が止まる。


 街灯の下。

 一人の男が立っていた。

 無精髭。

 虚ろな目。

 そして、手には魔剣。


「……倉田?」


 男が顔を上げる。


「久しぶりだなァ……神楽」


 那由多は息を呑んだ。

 ネアの声が一気に鋭くなる。


『殺意、100%』


「マジかよ!?」


『火を見るより明らかでしょう! 手元の剣を見てください! 早く逃げろ、ボケ!!』


「お前、急に口悪くなってない!?」


『ご主人が死んだら私も死ぬんですよ!!』


「それは確かに!」


 倉田が眉をひそめる。


「ああ?」


 周囲を見回す。


「誰と会話してやがる?」


「誰でもいいだろ」


 那由多は倉田を睨む。


「何しに来た?」


 倉田の表情が歪む。


「何しに来た、だと?」


 一歩。

 倉田が近づく。


「お前のせいで……」


 魔剣を握りしめる。


「全部が……!」


 その目に怒りが宿る。


「全てがめちゃくちゃなんだよォ!!」

「エンチャント:アイス」


 魔剣から冷気が噴き出す。

 倉田が一気に踏み込んだ。


「ご主人!」


『フェムトマシン、10%展開!』


「分かった!」


 反射的に右腕を掲げる。

 黒い装甲が一瞬で右腕を覆った。


 そして――

 青白い刃が手元に形成される。


 ガキィンッ!!


 魔剣とフェムトマシンの刃が激突した。

 那由多はその衝撃に耐えながら、目の前の男を見る。


「これが……フェムトテクか」


 倉田が後退する。

 目を見開き、那由多の腕を凝視していた。


「なんだ……その腕は?」


 那由多は構える。


「秘密だ」


 もう逃げない。


 今度こそ――

 こいつと向き合う。

 那由多と倉田。

 二人の視線が真正面からぶつかった。

 そして――戦いが始まる。

まあ電脳系ってなるとね。

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