第16話 企業案件:魔道剣オービタル
案件に戻る。
「それで? これに何が入っているの?」
美琴は部屋に運び込まれた箱を見つめる。
「まあ、開けりゃ分かるよ……おっ! 短剣のセット? 投げナイフか?」
那由多が箱を開けると、中には2つのベルトに3本ずつ、合計6本の短剣が収められていた。
それにヴェルナが反応する。
「それ……魔力が強いな」
「分かるのか?」
「空気中に魔素が溢れている。魔力を完全には制御できていない証拠だ。つまり……欠陥品か?」
「おいおい!?」
いきなり商品を欠陥品扱いされた那由多は慌てる。
ヴェルナはそんな那由多の反応を気にすることなく、すぐ隣にピッタリくっついて腰を下ろした。
那由多は他の女子の殺気を感じた。だが理由を理解できなかった。
「まあ、実際に使ってみれば分かるだろう」
「そ、そういうの分かるんだな……」
なんでこいつ、いちいち距離が近いんだ……
俺が勘違いしたらどうする気だよ……
那由多がそんなことを考えていると、律が箱の中身を覗き込んだ。
「もう形にはしたのね……魔導剣オービタル」
「知っているの?」
「私は誰だと思っているの。ただの変な人じゃないよ」
「自覚あるんだ」
思わず那由多は笑った。
「それで、これは?」
「人造魔剣よ。マギアアームズの情報は企業スパイ経由である程度リークされているから、使い方も分かっている」
「企業スパイって……」
相変わらず物騒な会社だな。
律はそう言いながら、箱から専用ケースの付いたベルトを取り出した。
「これをモルモット君の両腕に装着して……よし」
那由多の両腕には、3本ずつオービタルを収納するケースが取り付けられた。
「じゃあ、ドローンを脳波で操った時と同じ感覚で、短剣を浮かせてみて」
「えっ!? いきなり!?」
那由多は戸惑いながら目を閉じる。
「んん……!」
次の瞬間。
6本のオービタルがケースから浮かび上がった。
「おおっ!?」
短剣は那由多の周囲をゆっくりと旋回する。
「すご……」
美琴も思わず声を漏らす。
那由多が意識を向けると、オービタルは前後左右へ自在に動いた。
頭上を旋回させる。
横一列に並べる。
そして――
シュンッ。
6本が同時にケースへ収納された。
「はぁ……はぁ……」
那由多は息を吐く。
「なんだよこれ……めちゃくちゃ脳みそ使うじゃん……」
「試作品だからかしら?」
レイが尋ねる。
「それもあるだろうね」
律は楽しそうに答えた。
「でも、分身との相性はかなり良いと思うよ」
「……それは確かに」
那由多が笑う。
6本のオービタルに、そして自分の分身。
単純計算で、数は一気に増える。
問題は――
「俺がちゃんと操作できるかだな。にしても、まるでロボットアニメの兵器だ」
「そこは練習あるのみだね。まあ今回のテスト品も返送しないとだけどね」
その時。
「あ、マギアアームズから連絡だ」
那由多がスマートフォンを確認する。
届いたメッセージには、こう書かれていた。
『早速ですが、Dランクダンジョンでの試験運用をお願いします。今回はチームでの行動を推奨します』
「Dランクに行ってほしいらしい」
那由多は3人を見る。
「みんな、着いてきてくれるか?」
「いいよ!」
「アタシもいいわよ」
「私は案件の都合上、行かないとね」
「ありがとう!」
那由多はヴェルナを見る。
「ヴェルナも頼む」
「ああ」
こうして、一行は近場のDランクダンジョンへ向かうことになった。
「じゃあ、配信始めるよー!」
数分後。
同時接続者数は、あっという間に2500人を超えた。
「やばっ!? みんな見に来てくれてありがと!」
〈おっ!早速イカれたメンバーだ〉
〈ん?なんか変なのいないか?〉
〈あれ魔族じゃね?あの奴隷の景品だよ!〉
コメント欄が一気に騒がしくなる。
差別的なコメントに、那由多の表情が変わった。
「……黙れ」
カメラを掴んで見る。
「いいか? よく聞け。彼女は奴隷じゃない」
隣に立つヴェルナは、少しだけ口元を緩めた。
「言わせておきな。私はもう気にしていない」
「……そうか」
〈ナユタン誰にでも優しいな〉
〈まあ見た目は普通に人間っぽいしな〉
「まあ、そういうわけで!」
那由多は話題を切り替える。
「今日は新装備の試験だ!」
腕に装着されたケースを見せる。
「こいつが今回の企業案件! 魔導剣オービタル!」
〈浮いてる短剣!?〉
〈なんだこれ!?〉
〈ドローンの剣版じゃん〉
「その通り!」
那由多は笑う。
「それじゃ、行ってみよう!」
ダンジョン内部。
今回の舞台は、巨大な洋館を思わせる長い廊下だった。
「うわ……広いな」
その時。
奥から、1人の男が歩いてくる。
ライフルを肩に担いでいる。
「魔物かっ!」
「ち、違うって!」
男が慌てて手を振った。
「って、ナユタンじゃん! 握手してください!」
「……ファンかよ!」
まさかの一般探索者だった。
そんな出来事もありつつ、一行はさらに奥へ進んでいく。
そして――
ドドドドドドッ!
奥から大量の兵士が独裁国家並みに、足並みを揃えて進んできた。
「お、おい……なんだあれ?」
那由多が呑気に尋ねる。
「馬鹿! 前向け! あいつら銃を撃ってくるんだよ!」
美琴が叫ぶ。
その瞬間、兵士たちが一斉に銃を構えた。
「来るぞ!」
銃声が響く。
「分身! オービタルッ!」
那由多の周囲に、次々と分身が現れる。
合計5人。そして6本ずつ。
合計30本のオービタルが宙へ浮かび上がった。
「うおおおおっ!」
30本の魔導剣が一斉に動く。
飛来する攻撃を弾きながら、那由多たちは前進していく。
〈やべー!30本の剣が浮いてる!〉
〈ドローンの時もそうだったけど、分身と物量武器の相性ヤバいな〉
〈伝統芸能、数の暴力きたw〉
一方で。
「はー……だる」
美琴は片手を上げただけだった。
重力によって飛来した弾丸が空中で止まり、そのまま落下する。
「……」
レイは光となって攻撃をすり抜ける。
「弾丸には弾丸を当てればいいのよッ!」
律は二丁の銃を構え、正確な射撃で敵の攻撃を次々と撃ち落としていく。
そしてヴェルナは。
「……弱い」
ほとんど動くことなく攻撃を素肌で受け切る。
その姿を見て、那由多は思う。
……俺以外、化け物しかいないんじゃないか?
〈みんな化け物で草〉
〈魔族の子、ほとんど動いてないぞ〉
〈ナユタンだけ必死でウケる〉
「苦労してんの俺だけかよっ!」
那由多は叫ぶ。
「オービタル! 切り裂け!」
30本のオービタルが一斉に飛翔する。
赤い光の軌跡を残しながら、魔素兵たちを次々と撃破していく。
「軍隊VS軍隊だぜぇー!」
那由多は魔剣を握りしめ、分身たちと共に駆け出す。
その間にも、浮遊するオービタルが遠くの敵を狙い撃つ。
「よしっ!」
戦闘が終わる。
那由多はその場に残された魔導ライフルを拾った。
「なんかレアドロップ手に入れたぜ!」
律が駆け寄る。
「あら、それ君には使えないよ」
「え?」
「魔力を装填するタイプじゃない。魔力で弾丸そのものを作る魔導ライフルだからね」
「……」
「今のモルモット君じゃカス過ぎて無理!」
「言い方!」
那由多は肩を落とす。
「ちなみに売ったらいくら?」
律が固有スキル【解析】を使う。
「……32万円」
「……なんとも言えねぇ」
端金じゃない。
でも、今後の収入を考えるとなぁ……
さらに進むと、今度は剣や槍を持った魔素兵が現れた。
ヴェルナが一歩前に出る。
「私のデータも取るのだろう?」
「ああ」
「なら見ていろ」
次の瞬間。
ヴェルナの姿が消えた。
「え?」
気付けば、彼女は敵陣の中心にいた。
その動きは速く、正確だった。
敵の攻撃をかわし、武器を叩き落とし、次々と骨を折り無力化していく。
そして、ほとんど時間をかけずに戻ってきた。
「強いなぁ」
那由多が呑気に言う。
レイが答える。
「あれが魔族よ。油断したら、アタシや美琴でも危ない」
「えっ、あーしも勝てないかもしれないと思われてる!?」
「Sランクダンジョンの最深部にいたんだから、それくらい警戒するべきでしょ」
レイとヴェルナの視線がぶつかる。
少しだけ空気が張り詰めた。
「……」
那由多はその空気に耐えられなくなった。
「ほら! もうボス部屋近いし、行こう!」
なんでギスギスするかなぁ……
みんな仲良くの方がハッピーだろ!
そう思いながら、一行はさらに奥へ進んだ。
「これは……」
再び魔物が現れる。
那由多はその場に座り込んだ。
「オービタルの操作、少しコツが分かってきたぞ」
指を動かす。
3本のオービタルが飛翔し、正確に急所へ突き刺さる。
「よし!」
さらに指を振るとオービタルが宙を舞い、次々と魔物を倒していく。
〈すげぇ、剣が舞ってる〉
〈この武装すげーな〉
〈発売されたら欲しい〉
〈これなら俺の固有スキルの欠点も補えそう〉
「いいぞ……!」
那由多は笑う。
企業案件としても、しっかり広告塔の役割を果たしていた。
「ふぅ……よし!」
律を見る。
「データは取れた?」
「バッチリ。マギアアームズに送る分もね」
律は少しだけ顔をしかめる。
……あまり仲の良い企業じゃないのにデータをあげないといけないとか……
まあ、後から案件に乗ったのは神代工業だから仕方ないか。
配信中なので、口には出さない。
顔には出る。
「おっ、ボス部屋だ!」
那由多が扉を開く。
「オープン!」
そこにいたのは、巨大な人形だった。
全身を魔鉄で覆われている。
カメラドローンが解析を開始する。
『対象:魔鉄道化人形』
『推奨ランク:Eランク以上』
『推奨人数:フルパーティ』
〈うわ、低ランクのくせに斬撃効かない奴じゃん〉
〈ナユタンの刃物ばかりの武装的に厳しくない?〉
〈ここでやってこその漢だろ〉
〈企業案件としてのオービタルの活躍は終わりかな〉
「ありゃ〜……」
那由多が頭を掻く。
するとヴェルナが前に出た。
「あんなもの、一撃で終わる」
「待って!」
那由多が慌てて止める。
「さっき説明しただろ? 基本的には俺が攻略するんだよ!」
「……そうか」
「まあ見てろって!」
那由多はオービタルを展開する。
30本の魔導剣が人形の頭上で旋回を始めた。
「行けーっ!」
一斉に突撃。
しかし――
ガキンッ!
コンッ!
カンッ!
オービタルは次々と弾き返された。
「マジかよ!」
そこへ人形が迫る。
那由多は飛び退く。
「ナユタンの守護者の魔剣でも厳しいよ!」
律が叫ぶ。
「そいつ、異常に硬いからね!」
「オーマイガー……!」
那由多は頭を抱える。
「どうすりゃいいんだよ……」
その時。
「あ!」
那由多の目が輝いた。
「……俺の応用力、舐めんなよ!」
オービタルの向きを変える。
そして――。
「俺に来いっ!」
「何やってんの!?」
レイが叫ぶ。
オービタルが那由多へ向かって飛ぶ。
「オービタル!」
ギィンッ!
守護者の魔剣で受け止める。
次の1本。
ギィンッ!
さらに1本。
ギィンッ!
那由多はすべての攻撃を守護者の魔剣で受け止めていく。
するとレイはその意図に気付いた。
「……なるほど」
守護者の魔剣。
それは、攻撃を受け止めれば受け止めるほど、内部に魔力を蓄積する性質を持っている。
「チャージ完了だよッ!」
那由多が叫ぶ。
守護者の魔剣から、膨大な魔力が溢れ出す。
「このクソ硬人形が!」
那由多は魔剣を大きく振り抜いた。
「吹き飛べッ!」
轟音。
強烈な一撃が魔鉄道化人形の頭部を捉える。
そして――
巨体が崩れ落ちた。
「……やった」
那由多は息を吐く。
〈やっば!そんなのありかよ!〉
〈オービタルをチャージに使うの天才だろ〉
〈マギアアームズも想定外の使い方だろこれ〉
〈守護者の魔剣との組み合わせヤバすぎる〉
レイが小さく笑う。
「アタシの出る幕もなかったわね。成長してるじゃない」
「ホントホント! かっこいいよ、ナユタン!」
美琴も笑う。
「ははっ! ありがとうな!」
那由多は照れながら笑った。
「では今回の配信はここまで!」
カメラに向かって手を振る。
「神代工業とマギアアームズ社をよろしくお願いします! ありがとうございました!」
配信終了。
今回のデータは、無事に両社へ送信された。
一方で、マギアアームズの研究室。
「なんだ、あの使い方は!」
「オービタル単体でも十分な性能だったはずだぞ!」
「それを守護者の魔剣のチャージに利用するとは……」
研究員たちが興奮した様子でデータを確認している。
「試作品とはいえ、あれほど分身との相性が良いとは思わなかった」
「広告効果も抜群です」
「しかも……」
1人の研究員が画面を見つめる。
「彼は神代工業との関係改善にも使えるかもしれません」
今回の案件は、単なる製品テストではなかった。
神楽那由多という探索者が、企業同士の技術を繋ぐ存在になりつつあった。
そして、同じ頃。
神代工業でも、那由多の戦闘データを確認していた。
「……面白いな」
研究員の1人が呟く。
「彼は分身した人数だけ、装備そのものを増やせる」
「ならば……」
別の研究員が画面を切り替える。
そこに表示されたのは、現在開発中の新技術。
ナノマシン。
そして、そのさらに先。
「フェムトテクノロジーと人工知能を組み合わせたら、どうなる?」
「未知数です」
「しかし、彼なら試す価値がある」
「Eランクの探索者に?」
研究員が不安そうに尋ねる。
「社長は、彼に無限の可能性を感じている」
短い沈黙。
「……許可は下りるだろう」
「なら……」
研究員は画面に表示された設計図を見る。
「フェムトマシンコアを組み込む」
「そして、人工知能をインストールする」
「身体そのものを、武器にも防具にもできるようにする」
研究室に静かな興奮が広がる。
「神楽那由多は……」
1人の研究員が呟いた。
「どこまで進化できるんだ?」
こうして。
神楽那由多は、次なる技術。
フェムトマシンへと足を踏み入れることになる。
彼の探索者生活は、また一段階上へ進もうとしていた。
武器人間の道を歩む。




