第14話 普通に優勝だぜ!
普通に勝ちます
那由多たちは、再び新たなフィールドへと転移された。
「……?」
那由多は周囲を見渡す。
「真っ平で、遮蔽物の一つもない……虚無の空間?」
そこには建物も、木々も、岩もない。
ただただ広い、電子世界を思わせるシンプルな空間だった。
「問題ない」
那由多は魔剣を強く握る。
「俺らは強い」
準々決勝、準決勝。
それらの窮地を、この即席チームは何度も乗り越えてきた。
「絶対に勝利の女神を微笑ませてやる!」
『ついに始まりました! 最終決戦! 勝者の予想がつきません!!』
実況の声が響き渡る。
三ヶ島が敵チームを観察する。
「あちらは重装騎士、アサルトライフル使い、魔法使い2人……それからアサシンね」
「なら、なるべく最初はアサシンを殺そう」
那由多は即答した。
「重装騎士の役目はヘイト買いだ。だからアイツをなるべく無視したい。こちらの後衛がやられるのはまずい」
「なるほど」
三ヶ島は頷いた。
その瞬間、カウントダウンが始まる。
『5……4……3……2……1……』
『スタート!!』
「田中! 遮蔽物を大量に作れ!」
「うん!」
「そこに中島は隠れて魔弾を準備!」
「ああ!」
田中が次々とガラスの壁を生成する。
中島はその陰へ飛び込み、ライフルを構えた。
直後。
ダダダダダッ!!
アサルトライフルの弾丸が飛来する。
「させない!」
三ヶ島は負けじと2丁拳銃を相手に撃つ。
さらに飛んでくる弾はロープで弾く神技を見せる。
「すご……」
田中が思わず呟く。
「鮫島は?」
「任せて」
その声と同時に鮫島の姿が地面へ沈んでいく。
「1番厄介な銃使いを狙うわ」
「頼んだ!」
那由多は分身を4体生成。
「2人は重装騎士! 残りはアサシン!」
分身はバッと駆け出した。
「くそっ! こっちは硬いし、こっちは素早いっ!!」
「重装騎士が単なる剣士に負けてたまるか!」
「私の固有スキルで加速しているからね!」
那由多は翻弄されていた。
2人とも強い。
だが——
「退きな!」
その間に本体の那由多は、敵の弾丸を剣で弾きながら魔法使いに近づく。
「もらったっ!」
魔法使いの1人へ斬りかかる。
だが——
「甘いわ!」
地面から泥の壁がせり上がった。
魔剣が泥へ突き刺さる。
「しまったッ!」
「どうかしら? 私の固有スキルは?」
魔法使いは堂々とした態度で笑う。
「じゃあ、さようなら」
那由多の目の前に、巨大な魔法陣が展開される。
「ヤバ……」
レーザー状の魔法が放たれた。
その瞬間。
「那由多!」
田中が叫ぶ。
ガラスの壁が那由多の前に展開された。
レーザーは特殊なガラスによって反射された。
「なにっ!?」
光線は軌道を変えて、離れた場所にいた銃使いの胴体に風穴を開けた。
『おーっと! なんというテクニカルな不意打ち! 強制ログアウトです!』
〈すげー!!〉
〈ナイス田中!!〉
〈これ煌輝レイの天敵にもなりそうだな〉
〈ナユタンチームみんな仕上がっているな〉
「やったー!」
田中が喜ぶ。
「なにっ!? 泥に溺れろっ!!」
魔法使いは怒りに任せて泥の濁流を放つ。
「むきー!!! 次は……」
「させない!」
地面から鮫島が飛び出した。
2人を掴んで泥の波から引き離す。
「助かった!」
鮫島ナイスだ!!
ほぼ毎試合着実に活躍するし縁の下の力持ちだな!
「任せて!」
鮫島は再び地面へ潜る。
そして敵がまた動こうとするも。
「遅い」
三ヶ島はロープを編み終えていた。
サイズは小さいがまた蛇のような形を作っていく。
「またそれか!」
「ええ」
三ヶ島は一気に距離を詰めた。
「——ミニ手編み大蛇!!」
巨大なロープの塊が魔法使いに襲いかかった。
「なっ……!?」
魔法使いは回避をしようとする。
だが、虎視眈々と身構えていた那由多は、その隙を見逃さない。
「もらったぞッ!!」
魔法使いは袈裟斬りをされ敗北。
『那由多チーム着実に敵を始末していくー!!』
その間、残ったアサシンがもう片方の魔法使いを抱えて走り出す。
「っ! やはり那由多チームはレベルが違うッ! 逃げるぞ!!」
「させない」
地面から鮫島の手が伸びる。
「うわっ!?」
そして倒れた先にはクローが地中から突き出ていた。
「なっ——」
2人は喉元をそのまま刺され死亡、強制ログアウト。
『これはこれは! またも強制ログアウト! しかも2人連続だァア!!! 残るはただ1人です!』
重装騎士は周囲を見回す。
「馬鹿な……!」
たった1人残された重装騎士。
「まだ終わっていない!」
盾を構え、剣も構え直す。
一方で、那由多は分身を次々と生み出した。
「なら、こいつを全員で囲む」
分身を出しては消す。
右、左、正面、背面。
あらゆる方向から魔剣を振り下ろす。
だが——
「硬ぇ……!」
重装騎士は倒れることなく叫ぶ。
「この程度かァ!!!」
攻撃を受けても盾や鎧の厚いところで防いでくる。
那由多は叫ぶ。
「中島ァ! 魔弾をこっちに放ち続けてくれー!」
「任せろ!」
ずっとこの試合も魔弾を放ち続けているが回避されたり防御されたりと、良いところがない。
今度こそはと、中島は精神統一し魔弾をライフルから何発も連射した。
「当ててやるっ!」
魔弾は放たれた。
「お前って兜から顔は少し出ているよなぁ!!」
そう言うと分身含め5人で魔弾を当てるために敵にしがみつき拘束。
「クソ……!!」
視界を確保するための僅かな隙間に中島の魔弾が命中し撃破。
『ラスト1人が倒れたぁ!!』
『なんと言うことでしょう!! 那由多チーム1人も欠けずに決勝を制し優勝です!! これは何年振りの快挙です!』
実況は熱くなる。
『優勝チーム——神楽那由多チームです!!』
那由多は叫ぶ。
「よっしゃぁあああ!!!」
天に拳を突き出し歓喜する那由多。
「俺らの勝ちだ!! みんなありがとう!!」
「私たち勝てたのね!」
田中は少し涙を浮かべながら喜ぶ。
「やっと活躍出来て良かった……那由多ありがとうな」
中島は無能で終わらずに済んだことに、胸を撫で下ろす。
「まあ固有スキルのランクより、相性と使い方って事を示せたんじゃない?」
三ヶ島は胸を張る。
「いやー、私結構活躍しちゃったしナユタンみたいに案件来ないかなぁ」
ずっとほぼ毎試合活躍していた鮫島は夢をみる。
「みんな最高だ!」
即席で組まれたチーム。
それでも今は誰もが仲間だった。
やがて、勝利の余韻も束の間、現実に引き戻された。
優勝のトロフィーと賞状を渡される。
「おめでとうございます!」
司会者が笑顔で告げる。
「では、お待ちかねの優勝報酬です!」
那由多含め5人は胸の鼓動を速める。
「まずは1つ目!」
それに那由多は驚く。
何!? 1つじゃないのか!
太っ腹だなぁ!
「優勝チーム5名、それぞれに賞金150万円です!」
それに那由多は喜ぶ。
「おおおお!!!」
那由多は叫んだ。
「普通に嬉しいな!」
すると、会場の複数のスクリーンに企業ロゴが映し出された。
「……ん?」
「これマギアアームズじゃね?」
会場がざわつく。
「なんだ? 那由多の奴らは武器もらえるのか?」
やがてスクリーンに、1人の男が映し出された。
「どうもマギアアームズ社長です」
那由多たちは驚く。
「今回優勝チームには、我が社からの特別報酬を用意しております」
「おお!」
「それは——」
社長は笑った。
「マギアアームズ専属探索者の契約です!」
「えっ!?」
那由多以外の4人は歓喜する。
「マジかよ、俺の使っている銃もマギアアームズ社のやつだぜ!?」
「やった!」
だが。
「す、すみません」
那由多は手を挙げる。
「自分はフリーでいたいので、ありがたいですがお断りさせてください」
「え?」
会場は静まり返る。
「マジかよ……」
「神代に並ぶ大企業なのに蹴るのかよ……」
ざわめきが広がる。
社長は少し驚いたようだが、すぐに笑顔に戻る。
「なるほど。やはり神楽さんは誰かどこかに所属するおつもりはないのですね」
迷いなき眼差しで返事をする。
「はい」
「では、契約内容を変更しましょう」
「ん?」
「専属ではなく、スポンサー契約です」
那由多の目は一気に輝く。
「スポンサー!?」
「ええ。神楽さんには自由に活動していただき、その代わりに我が社からの企業案件や装備提供をさせていただきます」
「……なら最高です!」
那由多は即答した。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
社長は苦笑する。
「やはり、あなたを独占するのは無理でしたか」
そう言ってスクリーンから消えた。
「スポンサーかぁ……」
那由多は嬉しそうに呟く。
「これ、普通にデカい収穫だぞ!」
しかし。
「そして最後に、今回の大会最大の大目玉の太っ腹な景品です!!」
司会は声を張り上げた。
「まだあるの!?」
那由多は驚く。
次の瞬間。会場の空気が変わった。
係員に連れてこられた、1人の少女が現れる。
身長185センチほど
2本の角。
背中には黒い翼。
銀髪。
そして白目が黒く、赤色の瞳孔をした異様な瞳。
首輪と手錠がつけられていた。
その姿を見た那由多は、言葉を失い絶句する。
「……え?」
温度差を感じるほど司会者は笑顔のまま告げる。
「優勝チームには、Sランクダンジョンの最深部から発見された、人型魔物を1体譲渡いたします!」
会場は熱狂する。
だが、那由多だけは違った。
「……人間じゃないですか!!」
那由多は周りの視線を無視し叫ぶ。
「いいえ」
司会者は平然と答える。
「魔族です」
「魔族……?」
「高知能で人型の言葉を話す魔物。それが魔族です」
そして。
「当然、人権はありません。DNAからして人と違います」
「……は?」
先ほどまで歓喜していた那由多の表情から、笑顔が消えた。
「5人で誰の所有物にするかは、ご自由にお決めください! 解体して素材として売るのもありです! なんせここ数週間で発見されたので、とてもレアな存在です!」
「いやいやいや……」
那由多は少女を見る。
少女は何も言わない。
ただ、死んだ目でこちらを見ている。
その姿に、那由多は眉を顰めた。
「……ふざけるなよ」
誰も気にしていない。
会場はむしろ、この珍しい景品に熱狂している。
だが那由多にとっては違った。
これは景品なんかじゃない。
どう見ても、人間と同じように意思と感情を持つ存在だった。
昇格試験終了後。
那由多は仲間たちに頭を下げた。
「悪いけど、この人は俺が連れて帰っていいか?」
「もちろん」
三ヶ島が即答する。
「私たちが勝てたのも、あなたのおかげだし」
「俺の分の賞金は渡す」
「じゃあ、受け取るわ」
「いや、即答かい!」
「冗談よ。取り敢えず、連絡先交換し合いましょ」
三ヶ島が笑った。
結局、全員が了承してくれた。
那由多は少女と2人きりになる。
「なあ」
少女に声をかけた。
「聞いてもいいか? 奴隷になった経緯は何なんだ?」
「……私は別世界からダンジョンを通して転移されてきた」
「……別世界?」
「そう」
少女は淡々と答える。
「私はこの世界で言うなら悪魔よ」
那由多は言葉を失った。
ダンジョンは別世界との歪みから生まれる。
そんな話を聞いたことはある
それが本当だったというのか。
しばらく沈黙した後、少女は口を開く。
「それと、私サキュバスじゃないから」
「?」
「奴隷だからといって、そういうことをするつもりは無いわ」
那由多は眉を顰めた。
「そもそも奴隷にしない。このリミッターの枷も外す」
……辛い思いをしたのだろうか。
だったら、俺は彼女を救ってやりたい
「これも……」
そう言うとガシャっと両手と首に付いていた枷を外す。
少女は目を見開いた。
「……先のことを考えないのね」
「何が?」
「私が貴方を殺す可能性もあるのに」
「しないよ」
「?」
那由多の言っている意味がわからなかった。
「お前は自分の種族を悪魔って言った」
「ええ」
「でも、お前からそんな邪悪なものは感じられない」
「……」
「人間だって反吐の出る悪人もいれば、崇拝されるほど良い奴もいる」
那由多は少女の目を見る。
「だったら、種族だけで決めつける理由なんてない」
「……」
「人を構成するのは、生まれた種族じゃない。何をしてきたかだ」
少女は黙って那由多を見る。
「こっちに来て人を殺したことは?」
「無い。殺す理由も無い」
「人に悪意をぶつけたことは?」
「まあ、ほぼ無い。……少しはあるけどね」
「人間らしいじゃん!」
そう笑顔で言うと続ける。
「じゃあ、見た目が個性的なただの人間だ。ただの悪魔じゃない。それにお前は天使のように可愛いしな! 身長も高くてクール系美人って感じ!」
そんな呑気な那由多を見て、少し心を動かされたのか少女は自ら口を開いた。
「……貴方の名前は?」
「神楽那由多」
那由多は笑顔のまま手を差し出す。
「お前は?」
「……ヴェルナ。苗字はない」
「そうか、よろしくなヴェルナ! これからどうする?」
「……分からない、この世界の常識も知らないし」
「じゃあ、一旦俺の家に来るか?」
「……頼む」
こうして。
神楽那由多の家に、新しい住人が一人増えることになった。
――そして。
「ただいまー!」
「おかえり――」
家の扉を開けた那由多の後ろから、二本の角と翼を持つ少女が姿を現す。
「……」
「……」
那由多の両親は固まった。
「……誰?」
「今日から一緒に暮らすヴェルナ」
「どういうこと!?」
那由多の新たな日常が始まった。
魔族つまり悪魔のヒロイン登場!




