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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第12話 昇格試験の対人戦トーナメント

数話にかけてトーナメント編です

 ソロ配信から数日。

 今日は2度目のランク昇格試験の対人戦だ。

 ちなみに討伐による昇格試験の方は既に終えた。

 大して特筆することもなく、指定された魔物を切り伏せて終えた、それだけだ。


 那由多にとっては、それだけの試験だった。


「あー、味方に期待のルーキーとか来ないかなぁ」


 お前だよ。

 お前が期待のルーキーだよ。


 そんなことを呟きながら、那由多はギルドの試験会場に向かった。

 会場へ入ると受付へ向かう。


「なんか、思ったより人が多いっすね? 前回もこんなでした?」


 那由多が尋ねると、受付嬢は笑顔で答えた。


「毎週開催していますが、今日は特に多いです。神楽さんの影響があるかもしれません」


「俺の?」


 確かにZで少し呟いた。

 だが、まさかここまで影響があるとは。

 ここ数日で自分の知名度が想像以上に上がっているらしい。


「なんか変な感じ……」


 那由多は頭を掻いた。


 待機席へ向かい、空いている席に座る。

 すると、隣に座っていた男が話しかけてきた。


「ナユタン!? いやー、やっぱり本物は迫力がある!!」


「え、あー、アザス!」


「いやー、ナユタンみたいに強い人と組めたらなぁ〜」


 そう言う男は魔弾ライフルとダガーを装備していた。

 スコープもついているし斥候か、遠距離に命をかけているタイプなのだろうか。


「良い装備ですね、名前は?」


「これはマギアアームズ社の……」


「あ! 違う違う! あなたの名前です!」


「おっと、恥ずかしいな。俺は中島克(なかじまかつ)だ。互いに頑張ろう!」


「えぇ!」


「敵になったら手を抜いてね……」


「そこは自分で頑張ってくださいよ!」


 自分より少し年上に見える男が、情けないことを言う。

 まあ、確かにライフルとダガーだけなら、近づけば俺の方が有利だろうし、逆の立場なら同じ事を言っていたと思う


 そんなことを考えていると、近くの職員が説明を始めた。


「ちなみに、ベスト16まで勝ち上がればEランクへの昇格資格を得られます」


「そうですよね」


 那由多はホッとする。


「じゃあ、やっぱり優勝しなくてもいいんだ」


「ええ。ただし――」


 職員は意味ありげに笑った。


「今回は優勝チームに特別報酬があります」


「お!」


 那由多が食いつく。


「なんですか?」


「秘密です」


「えぇ!?」


「ごめんなさいね〜」


 職員は楽しそうに笑う。


「でも、かなり良いものですよ」


「何だろう……」


 たかがFランクの昇格試験。

 それなのに、わざわざ優勝報酬まで用意されている。

 妙に気になる。

 そんなことを考えていると――。


『さあ始まりました! 毎週恒例、Fランク昇格試験!』


 会場内のディスプレイが一斉に切り替わった。

 ギルド公式配信が始まったのだ。

 実況者がテンション高く大会を盛り上げていく。


『今週、特に注目されているのは――!』


 画面に那由多の顔が映し出された。


『神楽那由多選手!!』


「うわっ!?」


『先日、神代工業とのスポンサー契約を果たした、異端のルーキーです!』


 会場が少しざわめく。

 コメント欄も一気に流れていく。


〈ナユタンきたあああ!〉

〈優勝に決まっていて草〉

〈低く見積もってもCランク相当だろ〉

〈今回は対人戦だから楽しみ!〉


「いや……」


 那由多は顔を引きつらせる。


「俺、こういう場で期待されたり紹介されたりするの初めてだから恥ずいんだけど……」


 すると隣の中島が笑った。


「何言ってんの! 誇れお前は強い!」


「なんか死亡フラグみたいで嫌だなぁ……」


「縁起でもないこと言うな! まあ敵になったら負けて欲しいがね」


 そんな会話をしていると、試験開始のアナウンスが響いた。


『それでは受験者の皆さん! VRルームへ移動してください!』


 受験者たちが一斉に移動する。

 那由多もVRルームへ入り、指定された装置の前に座った。

 頭部に機器を装着。

 手足を固定され、顔全体を覆うようにVR装置が展開される。

 那由多は少し緊張した。


「……これ、何回やっても慣れないな」


 機械が起動する。

 次の瞬間――


 視界が一変した。


「……おお」


 そこは、自然豊かな森だった。

 木々が生い茂り、風が吹き抜ける。

 あまりにもリアルだ。

 だが――


『皆さん、バーチャル空間に入れましたでしょうかー!?』


 空から響き渡る実況者の大声が、雰囲気をぶち壊した。


「うるさっ!」


『聞こえてますかー! 手を上げてください!』


 全員が手を上げて返答。


『では、ルール説明です!』


 実況者が明るい声で説明を始めた。

 今回のルールは以下の通り。


・5人1組でランダムにチームを編成

・VR空間内でチーム戦を行う

・相手チーム全員を戦闘不能にすれば勝利

・制限時間あり

・時間切れの場合は、戦闘可能な人数が多いチームの勝利

・致命傷を受けた選手は強制ログアウト

・VR内での痛みは再現されるが、現実の肉体には影響しない

・勝ち上がり式トーナメント


『そしてベスト16以上に入った選手は、Eランクへの昇格資格を獲得できます!』


「よし」


 那由多は小さく拳を握った。

 これなら最低限の目標は達成できる。


『さらに! 今回の優勝チームには特別報酬が贈られます!』


「やっぱりそれ気になるなぁ……」


 那由多が呟く。

 しかし、その内容は最後まで秘密だった。

 すると、別の受験者が手を上げた。


「強制ログアウトってことは、要するに死んだってことだよなー?」


『そういう認識で構いません!』


 実況者はあっけらかんと答える。


『もちろん、ショック死などが起きないよう安全対策は万全です! ですので、思う存分殺し合ってください!!』


「物騒だな……」


 那由多は苦笑する。

 まあ、現実で死ぬわけじゃない。

 そう思って拳を握る。

 だが――。


「……それにしてもリアルすぎるんだよなぁ」


 このVR空間での感覚だけは、どうしても慣れない。

 リアルだが僅かに何が違うこの感覚。


『それではチーム編成開始!』


 実況者の声が響く。


『ランダムで5人ずつに分かれていただきます!』


 瞬間。

 視界が一瞬だけ白く染まった。


 そして――。


『この5人が、今日のチームだァ!!』


「おっ!」


 隣を見る。そこには――。


「ナユタンじゃん!」


 中島がいた。


「おお! 中島さん、一緒で良かったです!」


「俺もだよ!」


 どうやら同じチームになったらしい。


 それに対して別チームはギスギスし始めた。


「おいなんで那由多じゃなくて弱そうなお前なんだよ!」


「は? お前みたいなヒョロガリに言われたくないのだが?」


 様々な声が聞こえるが顔を背けて無視。

 

 そして残りの3人。

 全員、女性だった。


「やったー! ナユタンと一緒だ!」


 少女が嬉しそうに手を上げる。


「私は田中!」


「私は鮫島です!」


 もう1人の女性も続く。


「那由多さん、握手してもらえませんか?」


「えぇ!?」


 那由多は驚きながらも、差し出された手を握る。


「ありがとうございます!」


「い、いえいえ……」


 そして最後の1人が淡々と自己紹介した。


「私は三ヶ島。固有スキルは【ロープ】」


 彼女は身体全身から触手のようにロープを出す。


「拘束したり、足を引っ掛けたりできます。あと人間相手なら絞殺も」


「なるほど」


 その説明を聞いて、那由多以外の3人が「あっ」と声を漏らした。


「そういえば私たち、固有スキル言ってない!」


 中島が慌てて口を開く。


「俺は【毒針】。大して飛ばないし、痺れさせる程度だけどね……」


 田中も続く。


「私は【ガラス】! ガラスを生成できます!」


 鮫島は元気よく手を上げた。


「私は【潜水】です! 地面や物の中を、水みたいに潜って移動できます!」


「それじゃあ、俺は――」


「「「「分身でしょ!」」」」


「そりゃあ知ってるよなぁ……」


 全員が笑った。

 即席チーム。

 当然、連携なんて取ったこともない。

 それでも妙に空気は悪くなかった。

 そんな中――。


『なんと数十秒で決着!!』


 実況者の声が響いた。


『これは期待のダークホースか!?』


 どうやら別の試合が終わったらしい。

 田中が不安そうにディスプレイを見る。


「怖いですね……」


 だが、すぐに那由多を見る。


「でも、こっちにはナユタンがいます!」


 三ヶ島も頷いた。


「そうですね。私たちは実質九人ですから」


「九人?」


 那由多が首を傾げる。


「私たち五人に、那由多さんの分身四人で九人」


「……ああ、そういうことね」


 那由多は苦笑した。


「でも、俺の分身だけで勝てるとは限らないよ」


 その瞬間。

 目の前に巨大なカウントダウンが表示された。


『次の試合、開始まで――』


 5分。

 4分。

 3分。


 そして――。


 0。


 視界が切り替わった。

 森の中央。


 正面には、5人の敵チーム。


「おお……」


 那由多は敵を観察する。

 剣士が2人。

 弓使いが1人。

 魔法使いが2人。


 対してこちらは――


 中島は魔弾ライフル。


 田中はモーニングスター。


 三ヶ島はコンバットナイフと2丁拳銃。


 鮫島はメリケンサックに爪のような刃が付いた特殊武器。


 そして那由多は、守護者の魔剣。


 装備だけ見れば、相手の方がバランスの良いパーティに見える。

 だが、相手の1人が、こちらを見て呟いた。


「……マジかよ」


「どうした?」


「ナユタンがいる」


 別の男が顔をしかめる。


「……ついてねぇ」


 相手チームの空気が明らかに沈んでいく。


 那由多はそれを見逃さなかった。


「……なるほど」


 相手は勝てないと思い込んでいる。

 明らかに萎えて戦意喪失気味。

 ならば、ここで一気に畳み掛ける。


「みんな!」


 那由多が声を上げる。


「俺を司令塔にして連携してくれませんか?」


 多分俺が司令官として向いている。

 何故なら分身で慣れているからだ。


「え?」


 4人が那由多を見る。


「俺の分身だけじゃなくて、みんなの能力も使って戦いたい」


 中島が笑った。


「任せた!」


「私も!」


「お願いします!」


「分かった」


 4人が頷く。

 カウントダウンが始まった。


『5……!』


 那由多は魔剣を構える。


『4……!』


 分身が1人。


 シュッ。


『3……!』


 2人。


 シュッ。


『2……!』


 3人。


 シュッ。


『1……!』


 4人。


 5人の那由多が並ぶ。


 そして――。


『0!!』


「行くぞ!!」


 那由多が叫んだ。


「鮫島、潜って敵の足元へ!」


「はい!」


「田中、ガラスを生成して敵を箱に入れろ!」


「了解!」


「三ヶ島、そのガラスにロープを絡めて動きを封じて!」


「分かった!」


「中島は木に登り上から毒針で援護!」


「任せろ!」


 全員が一斉に動き出す。

 敵チームは完全に出遅れた。


「な、なんだこいつら!?」


「ガラス!?」


 鮫島が地面へ潜る。

 直後、敵の足元から飛び出し切り裂く、


「足が痛いっ!」

 

「うわっ!?」


 体勢を崩したところへ、田中のガラスが展開する。

 敵を囲うように壁が形成される。

 さらに三ヶ島がロープを投げた。


「今だ!」


 中島が魔弾ライフルを構える。


「毒針、連射!」


 シュシュシュッ!


 毒針が敵へ降り注ぐ。


 敵は慌ててガラスを破壊する。


 だが、その上から巻かれていたロープが締まり3人拘束されてしまう。


「遅い!」


 那由多が駆ける。

 魔剣を構えた五人の那由多が、一斉に敵へ迫る。


「悪いけど……」


 那由多の目が鋭くなる。


「ここで脱落してもらうよ!」


 五人の魔剣が閃いた。

 敵の身体に斬撃が走る。

 次の瞬間、3人の姿が光の粒となって消えた。


『3名、強制ログアウト!』


〈なんだよ……怖すぎるだろ!〉

〈ナユタン、司令塔としても強くなってる!〉

〈即席チームでこの連携!?〉

〈分身だけじゃなく味方の能力まで使ってるのヤバい〉


 残る敵は2人。

 弓使いと魔法使い。


「弓を持った奴と魔法使いが生き残りだ!」


 那由多が叫ぶ。


「遠距離攻撃に気をつけろ!」


「いや、勝ったようなもんで……」


 その瞬間。


 シュッ!


 魔力が込められた爆発矢が飛んできた。


「え?」


 田中の姿が光になって消える。


『田中選手、強制ログアウト!』


「田中!」


 那由多は即座に矢の飛んできた方向を見る。


「弓使いはあっち!」


 そして指示を飛ばす。


「俺が弓使いを追う! 残りのみんなは魔法使いを探して!」


「了解!」


 那由多は分身を四人展開。


「行くぞ!」


 巨漢で五人の那由多が一斉に走り出す。

 弓使いが逃げる。


「な、なんで五人いるんだよ!?」


「分身だからな!」


「知ってるわぁぁぁ!!」


 弓使いが必死に距離を取る。


「埒が明かねえ!」


 那由多は魔剣をしまい手を突き出した。


「喰らえ、魔弾!!」


 五人の那由多が一斉に両手を掲げる。


 巨大な魔弾が放たれた。


「うわあああああ!!」


 弓使いが光となって消える。


 直後――。


『魔法使い、強制ログアウト!』


 視界に大きく表示された。


《VICTORY》


「……勝った?」


 那由多が呟く。

 数秒後。


 世界が白く染まった。



 目を開ける。

 そこはVR空間の控え室だった。

 隣では、田中がしょんぼりしている。


「ごめんなさい……」


「え?」


「私、最初にやられちゃって……」


 那由多は首を横に振る。


「仕方ないですよ。あれは運が悪かっただけです」


 そして笑う。


「それより、勝ったんだから喜びましょう!」


「……はい!」


 田中もようやく笑顔になった。

 こうして、那由多たちの初戦は、圧勝で幕を閉じた。

 そして那由多は確信する。

 分身は、ただ数を増やすだけの能力じゃない。

 仲間の能力と組み合わせれば、もっと強くなる。

 その可能性を知ったことが、今回の戦いで得た最大の収穫だった。


 そして、優勝チームに与えられるという、謎の特別報酬。


「……何が貰えるんだろうな?」


 那由多はそう呟きながら、次の試合へと向かった。

 

 ――まだ、トーナメントは始まったばかりだった。

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