第11話 面倒なランク上げは無双でちょちょいのちょい
流石にスカッといかないとね
スポンサー契約から数日。
那由多は朝起きると、スマホを手に取った。
画面には、神代工業からのメッセージが届いている。
『ランクアップのため、規定回数のクエスト達成をしてください』
「まあ、だよなぁ…」
FランクからEランクへ上がるには、規定のクエストポイントを25ポイント貯める必要がある。
さらには対人戦を含む昇格試験もある。
前は物量で無理矢理押し切ったが今は違う。
「でもまあ、探索者に筆記テストが無いだけ良かったかなぁ〜」
那由多はそう呟きながら、通知でパンク寸前のZとDiveONを確認する。
そこで目を疑った。
「……え?」
フォロワー数。それがどちらも、ついに10万人の大台に突入していた。
「やっぱり満たされたって感じるよな、これ!」
思わず拳を握る。
だが、数秒後には。
「でもFランやん……」
冷静になった。
「……ちゃんと上げてこ」
そんなことを考えていると、レイ、美琴、律と那由多のグループチャットにて通知。
『今日は休み! 美琴ちゃん、ナユタンのクエスト手伝っちゃおうかな〜!!!』
『まあそういうことで』
「いや待て」
那由多はスマホを見つめる。
ダンジョンのクエストを、誰の助けも借りずに一人で達成したことは、まだ一度もない。
前回は神代の外骨格に頼っていた。
今回は違う。
『いいや、俺本当に1人でも戦えることを配信で示す。ちょっといきなり知名度上がってアンチ増えちゃったから黙らせないと』
『おっ!やる気だねぇ〜!』
『なら任せるわ』
『じゃあ午後は遊ぼうね〜!』
『ああ!』
律は激務なのか寝ているのか既読すらつかない。
現在時刻は午前6時57分。
これなら十分、時間はある。
那由多はギルドのサイトを開き、近場のダンジョンから受注できるクエストをまとめて確認した。
討伐は3ポイント。
採取は1ポイント。
「討伐8個と採取1個……これで昇格試験までぶっちぎりだぜ!」
クエストをまとめて受注する。
そして、荷物運び時代に着ていた軽装鎧を身につけた。
武器は一本。
自分の実力で戦うため、守護者の魔剣だけを持っていくことにした。
そもそもドローンは神代工業に預けていて使えないが。
「ふんふふん〜♪」
呑気に鼻歌を歌いながら、那由多は街へ繰り出した。
すると——
「……あれ?」
遠くから自分のことを呼ぶ声が聞こえた。
「えっ!?」
「もしかして……ナユタン!?」
「……俺?」
那由多はキョトンとした顔で振り返る。
「俺のこと知っているんですか?」
すると、女性2人は興奮気味に駆け寄ってくる。
「配信見ました!」
もう片方の女性も興奮気味だ。
「外骨格姿かっこよかったです!」
「グッズとか作らないんですか?」
「えっ、グッズ? 一般人の俺が?」
「全然有名人ですよ!」
これには内なるナユタンも、外面のナユタンも、顔がゆるゆるになった。
「そ、そうですかぁ! あ、ありがとうございます!」
嬉しい。
めちゃくちゃ嬉しい、死にそう。
グッズかぁ……
そういえば数日前に調べたら、レイとか美琴もアクリルスタンドなんかを販売していた。
「もう少し有名になったら、やってみても良いかもなぁ」
そして女性たちと握手をする。
「しかし……俺が本当に有名人だなんて……」
那由多は感慨深そうに呟いた。
「生きてて良かったー!!」
「アハハハハ!!」
2人の女性が爆笑する。
「え、そこ笑うところ!?」
その間も写真を撮られたり、話しかけられたりした。
ダンジョン入り口にて配信タイトルを決めてカメラドローンを飛ばす。
「はいどうも! ナユタンです!」
配信開始。
「今回はパパッと昇格試験まで達成しないといけないクエストを処理していきます!」
そうカメラに話しただけだ。
それだけでもう1600人は同接を超えている。
ゲリラ配信というのに一部視聴者は常に全力全裸待機かと慄く那由多。
〈え!?今日完全に1人じゃん!〉
〈今日ソロなの?……っていつもフルパみたいなもんかw〉
〈レイちゃそと美琴ちゃそは?〉
「今日はタイトルにある通りFランクのクエストなんでね!」
那由多は胸を張る。
「流石に1人で大丈夫!」
少し歩いたところでキノコをむしり取る。
「これあと17個取って、近くのギルドポストに納品すればオッケー!」
那由多はカッコつけて指を鳴らす。
すると——
シュッ。
分身が1人また1人と現れた。
それぞれが別方向へ散っていく。
「分担作業開始!」
数分後。
「終了!」
必要数の採取は終えていた。
〈はやwww〉
〈採取とか鉱脈作業でも生きていけそう〉
〈これが本来の使い道、なお本人は〉
「やっぱり採取だけでも食ってけそうだなぁ〜」
那由多は笑う。
だが、すぐ近くから魔物の気配を感じ取った。
「あ!」
振り返る。
「討伐対象のただのスライム!」
那由多の表情が変わる。
「10匹なんて秒殺だね」
分身たちが一斉に駆け出す。
1人につき2匹。
5人の那由多が、それぞれのスライムを切り伏せる。
——完了。
〈おお〜中学生でも余裕とはいえクエスト達成おめ〉
〈実力がC以上ってはっきりわかっている時点でねw〉
そのコメントに答える那由多。
「でもさ、やっぱ何があるかわからないじゃん!」
脳裏に浮かぶのは、あの追放された日のこと。
あの時とは違う。同じ轍は踏まない。
ヤケクソで戦っているわけじゃない。
今回は、自分の力を確かめるために戦っている。
「……まあ今回のはランク1つ下ですけどね!」
自分で言って笑う。
そのまま進む。
ゴブリンを一刀で真っ二つにし、スケルトンをバラバラに粉砕。
続けてネズミ型魔獣を輪切りにしていく。
分身たちが互いの動きを邪魔することなく、次々と魔物を処理していく。
これにはコメントは盛り上がる。
〈ナユタンやっぱFに収まらないヒトだよ!!〉
〈もう赤子の手をひねるより楽勝じゃん!〉
〈少し面倒な魔物も一太刀だなんていいね、好き〉
那由多は魔剣を肩に担ぐ。
「まあ、ここFランクだからね!」
ドヤッ!
「……俺が言うとダメだなぁ……」
その時だった。
ズズズズズズズ……
「……ん?」
地面が揺れた次の瞬間。
壁から巨大な土塊が次々と這い出してくる
2.5メートルほどのクレイゴーレム。
カメラドローンは警告音を鳴らす。
『モンスターハウス検知』
『モンスターハウス検知』
「へぇ……」
那由多の口角は上がった。
「願ったり叶ったりだ!」
魔剣を構える。
「俺の力をしかと見るがいい!!」
そう言うと魔剣を振り回して無駄にカッコつけて構え直す。
「よいしょ!」
分身を踏み台にして跳躍。
空中からゴーレムの頭部を一刀両断。
そしてその踏み台の分身も剣を回して足を切り取る。
その勇姿にコメントも沸き立つ。
〈すげー!自分と連携している!〉
〈無駄のない無駄な動きをした後に本当に無駄のない動きとかw〉
〈筋力やばいなww〉
〈クレイゴーレムってFランクのボス部屋にもいることあるのに余裕か〉
それに応戦しながら答える。
「ああ!」
さらに分身が駆ける。
「この程度では止まらんよ!」
クロスするように魔剣を振り抜き、クレイゴーレムの身体を切り裂く。
別の分身はわざと魔剣で攻撃を受け止める。
「せい!」
魔剣から放たれた力が、ゴーレムを吹き飛ばした。
数秒後。
そこには、何体も崩れ落ちたクレイゴーレムだけが残っていた。
「あれ?」
那由多は自分の手を見る。
「やっぱり俺前より動けるや!」
五人の那由多は、まるで別人のように無駄なく動いていた。
分身との実戦形式の鍛錬。
それによって、身体の使い方が少しずつ洗練されていく。
神代工業の装備に頼らなくても、自分自身が確実に強くなっている。
その後もクエスト対象を次々と討伐し終わる。
「よし!」
ボス部屋に歩いていき扉を開けて入った。
カメラドローンが説明を始める。
『対象:空回オオクラゲ』
『推奨ランク:Fランク以上』
『推奨人数:4人以上』
「まあ、剣士の時間は終わりかな」
那由多は魔物を見上げた。
巨大なクラゲ。伸びる触手には毒があるはずだ。
「近づかないで魔弾で消し飛ばすか」
那由多は両手を構えた。
「魔弾! それも5人分だ!」
5人の那由多が、それぞれ両手から巨大な魔弾を放つ。
しかし——
〈だめ!そいつに魔力攻撃をすると進化するぞ!〉
「……え?」
そのコメントを見た時には、もう遅かった。
魔物は触手を伸ばして嬉々として魔弾を吸うと形状変化した。
「……あーあ」
ボコボコボコッ!!
身体が膨張する。
触手が太くなり姿が変貌していく。
カメラドローンが警告を発した。
『対象変化』
『対象:大魔導クラゲルー』
『推奨ランク:Eランク以上』
『推奨人数:フルパーティ』
「あちゃー……」
那由多は頭を掻く。
「マジかよ」
だが、すぐに笑ってみせる。
「でも、Eでも通用するのを見せるにはちょうどいいか!」
〈ポジティブ過ぎて草〉
〈まあ多分こいつでもナユタンなら余裕よ〉
〈やっぱ私達が行くべきだった……〉
〈えっ!?↑美琴やんけ!!〉
〈まじ!?配信見ているとか少し過保護やなw〉
それに恥ずかしそうに答える那由多。
「ははっ……まあ、こういうことも……」
その瞬間。
ブンッ!!
「ってあぶな!」
分身全員がバク転で触手のパンチから回避する。
「危ねぇ……!」
先ほどまでクラゲだった魔物は、今や筋骨隆々のタコのような姿になっていた。
ムキムキVSムキムキである。
「たこ焼きの具にはどうかなっ!」
那由多は剣を鞘に戻して構えた。
腰を落とす。
構えは——抜刀術だ。
「この一太刀の5連撃で終幕としよう」
独学だけど……上手くいくかな?
〈必殺技名みたいで草〉
〈それ言ったら美琴の方が技名多いほうだぜ?〉
那由多の殺気に押されたのか、魔物が後退する。
だが、その背後には壁。
逃げ場などは互いに無い。
諦めて戦闘態勢に入った時には手遅れだった。
「……!」
目がカッと鋭くなる。
次の瞬間——
シュバッ! ザシュッ!!
5本の魔剣が一斉に閃いた。
魔物の身体は崩れ落ちる。
その中心には、大きめの魔石が残されていた。
〈おお!〉
〈こいつを進化させると良い魔石が取れるんだよな!〉
〈ナユタンやべー……〉
〈カミシロが契約するのもわかるわ〉
〈Fとはいえ手際が良いな〉
〈とはいえ戦う魔物の知識は取り入れろよ!〉
「あはー……」
そのコメントには苦笑い。
「……っすね」
そして、魔石を拾い上げる。
「まあ、これで必要なクエストは全部終わった!」
これで残るは昇格試験と対人戦だけだ。
「待ってろよEランク」
那由多は魔石を掲げる。
「すぐに戻るからな!」
評価お願いします!




