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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第10話 神代工業と正式契約しちゃった!

契約!

 テストから数日間。

 那由多は1人で分身同士を戦わせる訓練を続けていた。

 魔導強化外骨格はすでに返却済み。

 今は守護者の魔剣一本を手にひたすら鍛錬をしていた。


 分身との実戦形式の鍛錬を繰り返したことで、以前より明らかに腕力が増していた。

 それだけではない、剣を振るう際の体の使い方にも少しずつ無駄がなくなっている。


「……よし、今日もやるか」


 そう思った矢先、スマホが鳴った。

 画面を見ると、律からだった。


「はい、もしもし〜?」


「あ! ナユタン、今から神代の本社来れない? 前回と同じ場所」


 それの言葉を聞いた瞬間、那由多の顔に笑みが浮かぶ。

 次は俺に何を使わせてくれるのだ?

 期待に胸を膨らませながら尋ねる。


「お! 2回目は何使わせてくれるの? そろそろ銃とか撃ってみたいなぁ……」

 

「違う違う。正式契約だよ」


「……え?」


「上層部はえらく君を気に入っている」


「マジすか……?」


 実感が湧かなかった。

 こんな自分に、こんなビッグなチャンスと幸せが来てもいいのか?

 否定され続けてきた俺が、こんな幸せを受け取ってもいいのだろうか?


「マジマジ!」


 電話越しでも分かるほど、律は大きな声で答える。

 だが、すぐに声を落とした。

 

「でも、気に入り方がおかしいんだよね。契約書は私も目を通したよ。君に不利な条件がないことも確認してある。大丈夫そうだけど……また人を信じ切るのはやめなよ」


「……うす」


「ってことでらレイと美琴も連れてきてね。あの子たちも神代とスポンサー契約やってるから」


「え?」


 初耳だった。

 確かに2人ともスポンサーはついているとは言っていた。だが、まさか神代工業だったとは。


「あの2人も!?」


「あの子たちは複数社とスポンサー契約してるよ。探索者としては一流だからね。ナユタンもそうなれるといいね」


「……」


「じゃあ待ってるから服装は自由で!」


「わかった!」


「……あ! 本当にマジで私服でいいからね!」


「わかっているって!」


 そこで電話が切れた。


「……」

 

 Fランク探索者が、世界的な大企業のスポンサーになる。

 そんな事が本当に起きるのか。

 那由多には、まだ現実味がなかった。あるわけもない。

 とりあえず、ジャージからいつもよりカッコつけた私服に着替える。

 

 しばらくすると、美琴とレイはまた瞬間間移動して来た。


「やったわね! でも契約書は私たちも見るからね」


「いいね! ナユタン!」


 レイたちが手を上げる。


 パァン!


 いつものようにハイタッチ。


「信じられないよ少し前まで荷物持ちだったのに……」


「感動的だね! ちゃんと意味があったんだね!」


「ほら、早く行きましょう」


「おう!」


 そして3人は光に包まれ、一瞬で神代工業本社へ到着した。

 中へ入ると、受付の女性に案内される。

 通された部屋は、誰がどう見ても幹部や重役とわかる中年男性たちが並ぶ、広い会議室だった。


 そして、その中に1人だけ場違いな雰囲気で律が座っている。


「っ!?」


 那由多は一瞬、身体を硬直させた。


「ど、どうも初めまして! 神楽那由多と申します。今回は契約のお話との事でよろしくお願いしますっ」


 深く頭を下げる。

 一瞬の沈黙。

 やがて、幹部の一人が豪快に笑った。

 

「Fランクの若者だからどんな奴が来るかと思ったが……杞憂だったな!」


「ええ、彼なら任せれそうですな」


 那由多は筋骨隆々好青年だ。

 それに加えて、初対面の目上の相手にはきちんと拙いが敬語を使う。

 身長のせいで威圧感こそあるものの、傲慢さはない。

 少なくとも第一印象は悪くないらしい。


 律が紹介を始める。


「こちらが……神代の幹部で、法務担当、総合兵器開発部の主任研究員の私」


「あーしが契約した時の同じ方かぁ〜固定っすか?」


「たまたまだよ。武者小路さんは耐久試験をする時に重宝しているから、これからも頼むよ!」


「うぃっす!」


「まあナユタン座って!」


「失礼します……」


 那由多は椅子に座る

 なんか勝手に和やかな雰囲気になっているけど——

 俺は手汗ビシャビシャなんですけどー!!!

 金玉も縮み上がって、少し気持ち悪くなってきたよ……


 那由多以外は全員笑顔。

 正確には那由多も笑っている。

 ただし、かなり引きつっている。


「そんなに緊張しなくていいよ」


 律が笑う。


「モルモットとしてじゃ無くて正式なパートナーとして呼んだのだから」


「そう言われてもさぁ……」


 そう言われても広いガラス張りの会議室をキョロキョロと見る。


「そんなに珍しい? ナユタン。ほら、これ契約書だよ、読んでみて!」


「わかったよ」


 那由多は契約書を受け取り、内容をサラッと読んでみた。

 

 神代工業の那由多のスポンサー契約。

・月額スポンサー料:100万(昇給あり)

・案件報酬一件につき別途報酬

・試作機以外の製品のテスト後に、その製品を無料譲渡。

・装備開発につき別途協力報酬。

・配信による神代工業の商品の宣伝。

・場所問わず実戦データの提供。

・神代工業の広告塔としての活動。

・CMへの出演。

・別の企業とのスポンサー契約を許可する。


 ……他社とのスポンサー契約の許可!??

 俺は目を疑った、こう言うのって一社だけじゃないのか……

 と思ったがスポーツ関連やF1ではロゴが沢山の物をあるのを思い出す。

 それよりもスポンサー料だ。


「……月額スポンサー料、100万円?」

 

「うん」

 

「月?」

 

「月」

「……毎月?」

 

「毎月」

 

「私、Fランクなんですけど!?」


 思わず声が大きくなる。


「あのー……私、正真正銘のFランクですが本当に大丈夫なんですか?」


「ええ」


 法務担当の男性が頷く。


「上っ面だけで私たちは判断しません。実力を見て判断しました」


 そして苦笑する。


「……まあ最初は私は反対でしたがね」


「え?」


「ですが、君に関する情報を精査し、実際に会って考えが変わりました」


「そ、それでこんな大金を……?」


「君の固有スキル【分身】は異質だ」


 男性は淡々と続ける。


「一般的な分身系スキルでは外付けの武器や防具を同等の性能で複製することはできない」


 すると、隣の幹部が口を開いた。


「同時に5人のデータが取得できる。それも、今後はさらに分身を増やせる可能性がある」


 笑みを浮かべる。


 「我々からすれば、願ったり叶ったりなのです。ご契約は如何でしょう?」


 那由多は契約書へ視線を落とす。


「で、でも私は魔力操作が幼稚園児レベルなんですよね?」


 律が即答する。


「うん、そこは鍛錬で何とでもなる」


「つまり頑張れってこと?」


「そうだね」


「ですよね〜……」


「だからこそ、伸び代がある。それも君を支援する価値の1つだよ」


 律が契約書を指差す。


「よく読んで、問題なければサインして」


「うん」


 那由多はペンを持つ。

 そして、レイと美琴と共に契約書を確認する。


「問題ないわ」


「あーし的にも大丈夫かな」


「……じゃあ」


 那由多はペンを走らせた。

 ——サイン。


 これで正式に神代工業とのスポンサー契約が成立した。

 幹部たちが退席し、残った律と4人で話を続ける。


「これで今日からナユタンは神代工業公認探索者!」


  律が笑顔で言う。


「他社との契約もじゃんじゃん取って、名を馳せて!」


「公認……か……!」


 感動し、胸の奥から熱いモノが込み上げてくる。

 追放された。

 探索者としての記録まで消された。

 それでも諦めずに進んできた。

 その結果がこれなのだ。


「これ名刺とかも貰えるの?」


「作るよ〜」


「マジ!? なんか大人って感じ!」


「そこ?」


 美琴が笑う。

 そう少し駄弁っていると律は言う。


「それと、君にはEランク以上のダンジョンで実戦データを取ってもらいたい」


「う、うん

 」


 さっさと上がれってことかな?

 でも上がるには、何だったかなクエスト成功回数と昇格試験が必要だったはず。

 しかも昇格試験には対人戦もあった。


 そんなことを考えていると。


「もちろん、君1人では危険」


 律が続ける。


「そこで君ら3人と私1人で4人のパーティを組みたい、どうかな?」


「え?」


 那由多が顔を上げる。


「どうかな? 孤高と言われる2人は?」


「え? あーしら?」


 美琴は目を丸くする。


「……」


 レイは一瞬、黙った。


「……私は構わないわ」


 それに那由多は目を見開いた。

 レイが他人からのパーティ勧誘を断り続けていることは、ネットで調べて知っていたからだ。


「あーしも!」


 美琴も即決。


「ナユタンなら別だわ!」


「2人とも即答!??」


 それにさらに目を見開く那由多。


「いいの? 俺みたいなのと?」

 

「前も言ったでしょ」


 レイが優しく微笑んだ。


「アンタは別よ、ムカつく連中とは違う」


「そうだね〜」


 美琴も頷く。


「私は常時ではなく、必要があればくらいだからよろしくね〜」


 Fランク――神楽那由多。

 固有スキルD【分身】

 

 Dランク――柊律。

 固有スキルS【解析】

 

 Bランク――武者小路美琴。

 固有スキルSS【重力】

 

 Aランク――閃光のレイ。

 固有スキルSS【光】

 

 とんでもないパーティが結成された。

 

 そして翌日。

 那由多は家族とテレビを見ていた。


『神代工業は昨日、探索者の神楽那由多氏とのスポンサー契約を発表しました』


「……」


 画面の中では、那由多が神代工業の幹部と握手をしている。


『神楽氏は神代工業所属ではなく、独立探索者として活動を継続するとのことです』


「おお……」


 自分がテレビに映っている。

 未だに信じられない。

 しかも——


『さらに、神楽氏はAランク探索者の煌輝レイ氏、Bランク探索者の武者小路美琴氏、そして神代工業の柊律氏とのパーティを結成……』


「すげぇ……うれぴーね……」


 那由多はテレビを眺めて呟く。


 そしてテーブルには、那由多のスポンサー料で買った高級すき焼き。


「……」


 母は涙ぐみながら笑う。


「あんた、やったわね! 本当に良かったよ」

 

「お前はよくやったぞ!」


 那由多の背中をバンバン叩く。


「ありがとう!」


 那由多も満面の笑みだ。


「本当に良かったよ!! これからは親孝行するからね!」


「馬鹿ねぇ」

 

 母は涙を拭いながら笑った。

 

「あんたが元気に好きなことしてくれるだけで、十分親孝行よ」


「……母さん」


 那由多は照れくさそうに笑う。


「そっか」


 輝かしい未来。

 これからも頑張ろう。

 那由多は、そう思った。


————————————————————


 一方で。


 暗い部屋で、1人の男がテレビを睨みつけていた。

 倉田だ。


『神代工業所属ではなく、スポンサーという形をとった独立探索者として活動を継続する神楽氏ですが、現在もFランクと……』


「…………」


 さらにニュースは続く。


『パーティメンバーはさらにドリームチームです。あの閃光のレイ氏に重圧の美琴氏が……』


「……」


 倉田は拳を握りしめた。

 そして。


 バァン!

 

 自分が見下していた那由多。

 人生を終わらせたはずの男。

 その男が今では神代工業のスポンサーを取った。

 しかも、自分が求めていた2人とパーティまで組んだ。


「……なんでだよ」


 怒りに支配されそうになる。

 倉田は深呼吸を繰り返す。


「俺の方が……ほぼ全て上だったはずだろ」


 だがその時だった。

 机の上に置いていたスマホが震えた。


「……?」


 画面を見る。

 

 差出人――日本探索者協会。


 メッセージを開く。

 

『代理登録抹消に関する事情確認のお願い』

 

「…………」

 

 倉田の顔から、血の気が引いていく。

 

「……遂に来たか」

 

 これまで見ないふりをしていた現実が。

 ついに、自分のところまで追いついてきた。

那由多は上がり、倉田は下がる。

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