6話 わたしは酔いました! 付き合いなさい!
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「それで、あなたは宮殿についてどう思った?」
アルゲはワインの入ったグラスをテーブルに置く。夜、アルゲは晩餐をしている。それももう終わりだ。大体の食事は召使が持って行ってしまって、小さな小皿が二つと、ワイングラス、ワイン瓶が目の前にあるだけだった。
アルゲの傍で立っていたティコが言う。
「わたしはあんな場所に行ったのは初めてだったので、もう……目を奪われてしまいました。アルゲ様を王様の大広間の前で待っていた時、ウーレイといろいろ話していたんです。ここはすごく豪華なところだって」
ええ、とアルゲは頷いた。「ウーレイ」と、ティコと反対側、アルゲの傍に立っていた彼女にアルゲは問いかける。
「あそこが気に入った?」
ウーレイは少し考えてから首を振った。
「いいえ。確かにあそこは豪華で、たくさんの彫像がありました。壁にかかる絵も、石でできた人も、どれも素晴らしいものでした。でも、わたしにとっては、あの我らが城の方が居心地がよかったと思います。……わたしが獣人だというのも、大きな理由ですが……」
「そうねえ」
言って、アルゲは自分でワイン瓶を傾けてグラスにつぐ。アルゲはワインが別段好きではない。ただ酒は日々の苦労を忘れさせてくれる。呑めておくに越したことはないから、日常的にこうして練習しているのだ。
得意不得意を別として、体は酔うのだろう。アルゲはくだらないことを二人のしもべに聞いてみた。
「お前たち、あそこで住んでみたい?」
アルゲを挟んで、二人のしもべは目を合わせた。はじめに答えたのはウーレイだった。
「いいえ。わたしはあそこに住みたくありません。わたしは獣人なので、あそこで暮らせば、きっとみんなにいじめられてしまいます」
ウーレイが首を振ると、小さな可愛らしい猫の耳が揺れる。その様がかわいらしくて、アルゲは好きだった。
「お前ほどの身体があっても、虐められるのが怖いの?」
ウーレイはティコに視線をやってから、アルゲを見た。ウーレイの身体は筋肉で固く引き締まっている。今は召使の簡素なドレスを着ているが、その中身は鋼のようだ。アルゲはそれを、直に知っていた。
「……訂正します。わたしはずっと獣人として生きてきました。虐められることには慣れっこです。でも、それはすごく居心地の悪いことです。だからわたしはあそこに住みたくありません」
アルゲは自分がそれなりに酔っているような気がした。グラスを手でいじりながら、ウーレイに謝った。
「ごめんなさいね。変なことを聞いたかも」
「お気になさらず」
ティコが言った。
「アルゲ様、少し飲みすぎではありませんか? アルゲ様はまだお若いのですから、飲みすぎは身体に毒ですよ」
「わからない。……飲みすぎたのかな。今日は疲れたのかな」
「もうお部屋へお戻りになった方がいいですよ」
「――そうかな?」
ティコとウーレイが付き添って、アルゲは食堂から出て私室に戻る。アルゲはここで、二人に中へ入るように言った。主人の私室に入ることは普通ではない。
アルゲはベッドで横になる。ティコとウーレイがベッド脇に立つ。アルゲは二人を見上げる。
「そんなところへ立たれては緊張するわ。それに幕があって、ウーレイ、あなたはぼやけて見えるわ。垂れ幕を横へやって、二人ともそこへ座って」
言われて、ウーレイは天蓋の垂れ幕を言うとおりにし、二人ともベッドわきの地面に座り込んだ。
「そこでしばらくわたしの話し相手になりなさい」言って、アルゲは天井、実際には天蓋の天板を見る。
「わたしはね、最近変なの、気づいてた?」
「変だとは――」
言いさしたウーレイを、アルゲが言葉で押しとどめる。
「まって、まって、本当に変なの。わたしの中にはもう一人のわたしが突然出てきて、わたしに色々なことを教えてくれたのよ」
「……それはどういう?」
「ティコ!」
アルゲが叫べば、ティコは膝を立て、ベッドのすぐそばまで来た。布団に手を置いてアルゲのことを心配げな顔で見つめる。
「はい! ここに、アルゲ様」
「……あしたはどうしようか?」
アルゲは少し酔っている。下らないことを、なぜか二人に言ってやりたくて仕方がない。
「あしたはお好きなようになさればいいと思います。ギーゼラ様は、明日は来られませんし、別段アルゲ様が執務室に顔を出す必要もないと言ってらっしゃいましたから」
「……」
アルゲは黙った。ウーレイがティコの隣まで近づいてきて、同じように布団い手を置いて、アルゲに言った。
「わたしの愛するご主人様、明日は街へ出てみてはいかがでしょうか」
「……ああ、それはいいわ。何があるかしらね」
「なんでもございましょう。ここは王都です」
その声を聞きながら、アルゲは目を閉じた。瞼の裏の薄暗闇には明暗があって、ぼんやりと絵の具のように揺れていた。
「わたしたちがお供しますから」
その声はティコか、ウーレイか。アルゲは知るまもなく眠りに落ちた。




