それぞれの理由
そんな先輩を見ながら、ふと隣にいる及林さんの方を見る。
どんな表情をしているのだろうと気になってみたが、いつもどおりの仏頂面だった。
彼女はいつも同じ表情をしており、あまり周りに流されない人に見える。
少し近寄りがたい空気おり、身長が高い(168センチの僕より少し高い)ことも相まって怖い印象を受ける。
髪色も金色で色んなアクセサリーをつけており、制服も着崩しているので、僕にとっては金輪際縁のない人種だと思っていた。
まあ、今も特に仲が良いとかそういうのではないが。
「及林さんってなんでこの部活にいるんですか?」
僕は恐る恐る質問してみた。
この部活に入った時からずっと気になっていたことで、どうしてスクールカースト底辺っぽいこの部活にいるのだろう。
もっと色んな人と遊んでそうな感じなのに。
「別に敬語じゃなくていいぞ。うちらためだし。……まあ、ただの時間つぶし。バイトまでのな。」
及林さんは端的に答える。
何となくこれ以上、深堀するなというオーラを感じた。
言いたくないこともたくさんあるかもしれない。
しばしの沈黙が流れた。
これ以上聞かないほうが良いのだろう。
そう思い、僕は熱心に写真を撮っている先輩と練習しているサッカー部たちを見る。
ただ、見ているだけでは心の隙間は埋まらない。僕が話題を振った手前、会話の締めを請け負うのは道理的に僕だろう。
しかし、僕の脳からは都合の良い返答は思い浮かんでくれず、もう少し詮索したいという思いで頭の中がいっぱいだった。
……このまま沈黙は続くのもなんだし聞いてみるか。
「……ちなみに何のバイトを?」
「カラオケ屋。モルバーガーの横のふくねこ。」
再び、及林さんはすぐに答えてくれた。
とりあえず、会話が成立したことにホッと胸を撫でおろす。
ただ、それによって油断が生まれた僕の口から精査していない言葉が外に出てしまっていた。
「ああ、あそこ。……たしかにピッタリ。」
「……それは良い意味?悪い意味?」
及林さんはにらみつけてくる。
やば、無意識に言葉が出てしまっていた。
基本、怖いんだよなこの人……。
「もう、めっちゃ良い意味。天を突き抜けるくらいの。」
「……意味は分からんけど、まあ、ありがとう。」
ただ、多分悪い人ではないんだろうな。恐らく、多分、知らんけど。
「川湊は、うちらの部活に来たってことはぼっちってこと?」
「まあ……、そうだね。」
及林さんに質問されたことに驚き、僕の返答はしどろもどろになってしまった。
この人威圧的だし、それに敬語じゃないときの語尾って難しいんだよな。
「そっか。まあ、見るからにそうだと思ってた。」
……この人やっぱり怖いだけじゃなく、失礼だよな。
「安心して。あたしも似たようなもんだから。というか、3人ともね。」
及林さんはいつもより目尻が下がり、口角は逆に上がって、柔和な表情を浮かべていた。
僕の中に浮かんでいた緊張感が消えていき、逆に安心感が芽生えていた。
……というか、及林さんもそうなのか。意外。
「ただ、恐らく3人とも自分の意志でそうしてる。あんまり他の人と関わり合いたいと思ってない。それに境遇もあんまり良くないからな。同級生と話が合わないことがよくある。」
「そう、なんだ……。」
その感覚は僕にもある。
皆と仲良くするのが普通で、ある程度話が合うのが当前というのが一般高校生にとっての当たり前の感性だろう。
ただ、辿ってきた過去とか自分の感性とか家庭の環境とか色々な要因で、その普通が出来ない人も多分にいる。
一緒に楽しく学校生活や学生人生を送ることが出来ない溢れ者が存在するのだ。
そういう人たちは日々の生活を送る中で苦痛を感じる瞬間が多くある。ただ、そういう人たちは少数派だし、周りの同級生から共感もされないので、それを表に出さず、基本的に一人で生きている人が多いと思う、恐らく。
そっちのほうが心穏やかに過ごせるから。
「あたしはここで部活をしている連中ほど、学校生活というものに熱中できない。……色々あったからね。」
及林さんの過去を知りたいと思う気持ちもあるが、それはあまりしたくない。
僕も詮索はされたくないからだ。
「……川湊は?」
しかし、僕の気持ちとは裏腹に及林さんは普通に聞いてくる。
まあ、僕が勝手に詮索しないほうが良いと思ってるだけだ。当然だが、及林さんは何も悪くない。
「……僕も似たようなところかな。ここにいる人みたいにサッカーをやっていたときもあったんだけど、あんまり良い結果が出せなくて。それで、良くない状況に陥ったことがあったから……。あんまり青春というものに良いイメージを持てなくなった。」
ただ、あまり深いことは言いたくないので、当たり障りない返答をする。
その答えを聞いた及林さんはいつもの冷たい表情で頷きながら前を向いた。
「そうか。じゃあ、この部活は向いているかもしれないな。部活といえるか怪しいけど。」
再び、及林さんは笑う。
それにつられ僕も自然と口角が上がった。
「フッ……。やっぱり及林さんもそう思う?」
「そりゃね。基本何にもしなくていいし。出席しなくてもいいからな。」
「……自由ですもんね。」
及林さん、来ない日も多いしなあと思いながらそう答えると、段々と彼女の眉間に皺が寄っていた。
「……それはあたしに言ってる?」
この人はたびたび怖い雰囲気をだすな……。
「いや、滅相もございません!僕はあくまで幽霊っぽい部活自体に言っただけで……。」
「よし!これで終わり!移動しよう!諸々持ってきて!」
さきほどまで、パシャパシャと写真を撮っていた影陽先輩がそう声を張り上げる。
緊張感に包まれていた僕はいつもより驚いてしまい、身体をかなり震わせてしまった。
びっくりした……。心臓もばくばくしてる。
「ははは!」
その姿が面白かったのか及林さんはお腹を抱えて激しく笑う。
……そんなに面白かったでしょうか。
「あれ?及林さんが笑ってる珍しい。いつも鉄仮面なのに。」
「……ちょっと失礼じゃありませんか?」
「おお、いつもの及林さんに……。」
ほんと、誰に対しても自分がぶれないな、この人。




