依頼
「……ほんとに一週間くらいなにもしてませんね。」
この教室に来るようになってはや一週間、ただだらだらとこの部室で過ごしていただけだ。
SNSの海を泳いだり、課題や自主勉をしたり、本を読んだりして、ほんとに家と過ごしていると変わらない。
他の3人も何も変わらず、各々の時間を過ごしている。特にこれといった会話をすることもなかった。
ちょっと異なっていたことと言えば、及林さんが一昨日と昨日来ていなかったことだけだ。ただ、だからといって何か変わることもなく、ただ淡々と時間が過ぎていっただけっだ。
何かほんとにこれでいいのだろうかと思ってしまう。別にそう思う必要性は僕にはないのに。
「……これで、本当に部活動を名乗っていていいんですか?」
「もちろん。誰にも何も言われないし、誰にも邪魔をされない。それに、向山田先生がいいって言ってるんだから、それでいいんだよ。」
天都先輩はいつも通り半分の眼でニヤッと笑う。
まあ、先輩がきっぱりと自信を持って言うのなら良いのだろう。仮にも部長なわけだし。ただ、自分の頭の中で想像していた部活動とはかけ離れた状況なので、疑念の心はあってしまう。
「どうしたの?何かやりたくなってきた?じゃあ、トランプゲームでもする?」
「それは学校に持ってきてはいけないやつでは……。」
当然とばかりに天都先輩はスクールバックからトランプを取り出す。
我が校の校則はそれなりに厳しいので、基本的に遊ぶ道具は何も持ってきてはいけない。スマホも触っていいのも始業前と放課後だけだし。
「固いこと言わないの。そんなこと言ったら、及林さんなんて停学ものだよ?」
「確かに……。結構やばいですもんね、あの人。」
「おお、結構言うんだね、君。」
天都先輩は目を見開き、驚いた表情を見せる。と言っても、皆と似たようなサイズになっただけだが。
件の及林さんは素知らぬ顔で、スマホいじりに勤しんでいた。
ただ、気のせいかもしれないがちょっとだけ眉間に皺が寄った感じがする。不穏な空気が漂っている気がするし。
「はい。皆さーん、注目。」
と、そんな会話をしていると、教室の扉のほうから柔らかい声が聞こえてきた。
振り返ると、向山田先生がおり手を叩いた余韻でそのまま手を合わせていた。
「あ、先生のテンションが高い。……ということは。」
天都先輩が何やら眉間に皺をよせ、平時でもあまり開いていない目をさらに細める。
……何か嫌なことが始まるのだろうか。
「はい。天都さんのお察しの通り、手助けを依頼を持ってきました。」
向山田先生はこれまでに見たことのない満面の笑みを浮かべている。
だが、対照的に天都先輩、高巻先輩、及林さんは心底嫌そうな顔をしている。
「……手助け依頼?」
状況がよく分からず、僕は無意識にそう漏らしていた。
……一体どういうことだろうか。
「入って、急にごめんね。」
頭に?を浮かべていた僕に天都先輩がそう声をかける。
両手を合わせてごめんなさいというポーズをしているし。……何か恐ろしいことが始まるのだろうか。
「いくら何をしてもいい部活と言っても、活動を何もしてないんじゃ部活として成り立たせられないからね。たまに他の部活の雑用を受け入れてたりするんだ。……そうしないと他の先生や校長から疎まれるからね。……まあ、今でも疎まれてるんだけど。」
天都先輩が丁寧に説明してくれた。
なるほど、他の部活の手伝いをして、部を存続させているということか。
ちょっとだけ、この部活の存在意義というか存続出来ている理由が分かった。なにやぶに対する不安要素がほんの少しだけ減った気がする。
僕はうんうん頷きながら自分の中で今の状況を落とし込む。
何でも自分勝手に自由にできる部活なんてそりゃ存在しないよな。逆に安心できた。
と、思いながら向山田先生の顔を見ると、菩薩のように微笑み、優しい表情をしていた。
そういえば、疎まれてるんですもんね……。心中お察しします。
「それで、今回の依頼は何ですか?」
「依頼数が一番多い写真部からだよ。」
「またですか……。」
天都先輩は口を曲げ、嫌そうな顔をする。
お得意様ということだろうか。まあ、こっちはそういうサービスをしてるつもりはないんだろうが。
と、先生と天都先輩がそんなやり取りをしていると、後ろのほうで人影が動く気配がした。
後ろを見ると、高巻先輩と及林さんがスクッと立ち上がっており、荷物をまとめていた。
……まさか、とんずらして帰るのだろうか。
「さっさと終わらせるぞ。」
「めんどくさいけど、仕方ないことよね。」
予想に反して率先して二人は教室を出ていった。
「……意外。」
今まで自分勝手な人たちだと思っていたが、その姿に少しだけカッコよさを覚えてしまった。
「意外と義理堅いのよね、あの二人。」
人は第一印象では全て決まらないというわけか。




