各々の過ごし方
「じゃあ、川湊君。自由にしてていいよ。席もどこ座ってくれてもいいし。」
一通り自己紹介も終わり、天都先輩は僕を席へと促す。
「……分かりました。」
帰りたいなあ……と心の中心で思いながらも、渋々席に着く。
とりあえず、隣も前も後ろも斜めも誰もいない一番廊下側の席に座った。
……まあ一旦、休み時間の暇つぶしに借りておいた小説でも読むか……。仕方なくだが。
ちなみに、うちの高校の図書室はライトノベルも置いてあるから、存外悪くない。
それから、僕は読書に興じていたのだが、ページを捲るスピードはいつもより倍かかっていた。
……読書するにとって静かなのは良いことだが、全く知らない人がいる空間ではなかなか集中できない。
端的に言うと、居心地が悪い。
その気持ちを出来るだけ和らげるために僕は周りを見回した。斜め後ろのそのまた後ろの席には高巻先輩がおり、ものすごい集中力で問題を解いていた。
……普段こんなことは思わないのに、なぜか話しかけてみようという気になってしまった。
「何でここで勉強してるんですか?」
「家での勉強は非効率だからな。ここで勉強するのが一番効率が良い。」
特に驚いた様子も見せず、下に目線を向けたまま高巻先輩は端的に答える。
「そうっすか……」
気分を害してしまったのだろうか。それきり会話は終わり、僕は再び身体を前へと向ける。
はぁ……。恐怖からか緊張感からか心臓がどくどくしている。
帰りたいなあ……と前を見ると、天都先輩がこちらを振り返りニヤニヤしていた。
「高巻くん怖いでしょ?」
「おい、本人がいる前でそんなことを言うな。俺の耳が届かない範囲にしろ。」
「ただ、悪い人ではないんだよ。照れてるだけだから。」
「おい、もっと本人の目の前で言うべきことではないことを言うなよ。……そろそろ、良い時間だから俺は帰る。」
言いながら、高巻先輩は荷物をまとめ、そそくさと教室から出ていく。
ちょっと少しかなり高巻先輩は怖かったので、僕はそっと胸を撫でおろした。
良かった、帰ってくれて。
「ね、可愛いでしょ?」
「……全く、分からないんですが。」
どのへんに可愛い要素があったのだろうか。
気分を害して、怒りの余り出ていっただけなのでは?怖い要素しかなかったですよ?
「でも、高巻くんと2年間同じクラスだけど、分からないことが多いんだよね。」
「……想像はできます。」
恐らく、あまり人と話したがらない人だろうし。
まあ、その気持ちは分かるので、少しだけ親近感はほんの少しだけだが湧く。
そして、高巻先輩が出ていったあと、僕たち3人は各々時間を潰した。
及林さんは相変わらずスマホをいじっており、天都先輩は勉強したりスマホをいじったりしていた。
僕はというと、読書しながら時折スマホをいじって適当にすごし、たまに話しかけてくる天都先輩に適当に相槌を打っておいた。
そして、そんな時間は波音を立てることなく自然と過ぎていき、時刻は午後6時。お開きの時間に相成った。どうやら、この部活は6時までの活動らしい。
「今日はどうだった?」
先に帰った及林さんを除き、自然と僕と天都先輩が2人きりで廊下を歩いていた。
「まあ、悪くはないかもしれないですね。」
可もなく不可もなくといったところだ。
何せ何も疲れることをやっていないし、それにまだ初日だ。この部活に対する自分の感情が分かるほうがおかしいだろう。
「そう。まあ、毎日あの教室は開けてるから、良かったら。」
言って、天都先輩はニコッと笑う。
半開きの眼がさらに細くなり、長いまつげとともに黒い弧を描く。
西日に照らされたその表情に僕はちょっとだけドキリとしてしまった。
―――――
僕はいつものようにうざったい向かい風を浴びながら自転車を走らせる。
ただ、不思議といつもよりペダルが軽く感じられた。




