彼と彼女の物語
球技大会の全日程が終わった。
陽が落ちている最中、僕はとぼとぼと廊下を歩いていた。
最後のHRも終わり、もうあとは帰るだけである。
ただ、久しぶりにこれだけ走ったので、足が重すぎてなにやぶに入る前の帰宅の速さは出せなかった。
日中ずっと天都先輩に会いたいなと思い、こっそり探していたのだが、どこにも見当たらなかった。
……やっぱり天都先輩の試合終わりに無理やり話しかけておけば良かったかな。
でも、周りに人もいたし、僕の人格ではそれはなかなかに難しかった。
僕はなんとなく、なにやぶの部室へと向かった。
今日は部活は休みと聞いているし、いることは恐らくないだろうけど。
僕はそう思いながら、部室の扉に手をかけた。しかし、腕を右に動かすと、予想外にもそれは開いた。
「……お疲れ様。」
天都先輩が微笑みながらこちらに振り向く。
……夕日に照らされた彼女は、儚くもいつもより輝いて見えた。
「……こちらこそ、お疲れ様です。」
「……フッ。お疲れ様にこちらこそは使わないよ。」
天都先輩の笑顔に僕は苦笑いをもって返答する。
「一試合目、すごい活躍してたね。」
「そんなことないですよ。点も決めてないですし、目立った活躍もしていなかった。」
実際、才川くんから話しかけられたあとは誰からも話しかけられなかった。
まあ、目に見えて何か結果を残したわけでも、活躍したわけではなかったから当たり前だろう。
それに、普段話したことのないよく分からないやつと話したくないというのも心理として働いていると思う。
「……私の目にはずっと活躍してたように見えたよ。」
「……ありがとうございます。」
ストレートな褒め言葉に僕は首を細かく縦に振る。
恐縮です。
「……でも、その次であっさり負けちゃいました。」
結果としては僕らのクラスは2回戦負けだった。
スコアは1-3。
向こうにサッカー部の人たちがたくさんいたのもあり、内容としても終始圧倒された。
僕のサイドから崩されて失点した場面もあったので、より悔しい結果になってしまった。
「仕方ないよ。優勝したクラスと当たっちゃったんだから。」
「……生徒会長ってあんな上手かったんですね。」
2回戦で対戦した3年生のクラスには佐雲生徒会長がいた。あのときしていた眼鏡はしておらず、恐らくコンタクトで試合をしていた。
2点と1アシスト。もう、エースもエースだった。ボール、全く取れなかったし。
「うん。サッカー部のエースだからね。知らなかったの?」
「はい。ちょっとこの高校の生徒事情に疎いもので。」
僕の返答に天都先輩はまたクスッと笑う。
自分の返しが少し変わっているのは分かっているので、それを面白がってくれるのはありがたいな。
「……でも、川湊君もカッコよかったよ。」
自分の体温が上がるのが分かった。
今の自分にとって、それが一番嬉しい言葉かもしれない。
「……すみません。本当は頑張ってもっと良い結果を残せればよかったんですけど……。」
この球技大会前に天都先輩には頑張る姿を見せることを約束していた。先輩からは似合わない言葉だね、と笑われたが。
結果としては自分の満足いくものではなかった。優勝は無理だっただろうけど、準決勝くらいまでいきたいなと思っていた。
本当、自分が掲げた目標を叶えるってどうしてこうも難しいのだろうか。自分の人生ずっと負け続きだ。
僕が顔を上げると、天都先輩は窓から夕陽の方向を向いていた。
「結果がついてくるかは運もあるからね。頑張ったところで、ついていないこともある。むしろ、ついてこないことの方が多いかもしれない。」
それはそうだと思う。
努力したところで結果が出るかどうかは運の良し悪しがつきまとう。
水の泡になることもしばしばだし、努力したのに結果が出なかったという絶望感が身体を侵食するかもしれない。
「……でも、頑張る姿は誰かの心を動かせるんだよね。」
天都先輩は頬を赤らめながら笑う。
ただ、それは夕日に照らされた故なのかそうじゃないのかが、僕には判別できなかった。
「……もうすぐ夏休みだね。」
「……はい、」
急に話が飛んだ。
僕の頭の上には?マークが浮かぶ。突然、何の話だろう。
「部員同士なのに、まだ連絡先の交換してなかったなと思って。」
言いながら、天都先輩はスマートフォンを差し出してくる。
画面を見ると、LINEのQRコードが表示されていた。
「これからも私の話相手になってよ。」
「……お安い御用です。」
オレンジ色の部室には二つの笑顔が重なり合った。




