1試合目の結末
ボールを持っているのは確か才川君、だったはずだ。
クールなやつで女子人気も高い。部活のサッカーでもフォワードだったような気がする。クラスメイト達の話を盗み聞きしているときにそんなことを言っていたと思う。
才川君がピタッと動きを止める。
それにつられ、相手ディフェンダーの二人も動きが止まった。
だが、これを好奇と見たのか2人で一斉にボールを奪いに来る。
これは取られたかと思ったが、アウトサイドとインサイドを使った華麗な足さばきでひょひょいと抜いていった。
危なげもなく一瞬で抜いたので、歓声が一拍遅れで上がる。
そしてキーパーと1対1。
冷静に左のサイドネットに決め、僕らのクラスが先制した。
6人くらい才川君のもとへと向かい、背中や頭を叩かれるなどして手荒い祝福を受けていた。
クラスメイトの女子たちや先生も喜んでおり、僕も勝手に嬉しい気持ちになっていた。
そして一通り、セレブレーションが終わったあと、すぐさま試合が再開した。
残り時間はあと5分、ここを守り切れば僕たちの勝ちだ。
ただ、負けたら終わりのトーナメント制、相手も死に物狂いでゴールを取りに来る。
僕のサイドにも何度かボールが供給され、それを必死にクリアをする。
そして、残り時間はあと1分となった。
現在、相手がボールを持っているが、この攻撃を凌ぐことが出来れば、恐らくほぼ勝利となるだろう。
ボールは僕がいるサイドとは逆サイドの右サイドにある。
そこに敵味方、大勢の人数が密集していた。
僕ももう少し近づこうかと思ったが、こちらのサイドには一人敵の選手が残っている。
この人は試合中、ほぼずっとここにいた。
フリーの状態でボールをもらい、ゴールへと向かう算段なのだろう。
その選手を横目で見つつ、ボールがある方向を見ていると、その視線の先、木陰のベンチで座っている一人の女子生徒が見えた。
……これは絶対に守り切らなければいけない。
そう思っていた矢先、残り時間があと少しというところで、相手からの山なりのパスがこちらに来た。
落下地点に僕は急いで向かう。
相手選手は僕よりサイドライン側にいたので、僕のほうが先に触れる構図だ。
クリアするためにボールを蹴ろう……としたが、その方向に相手選手が向かって来ていた。
……やばい。これは迂闊に蹴ってしまうと、相手に取られてしまうかもしれない。
しかも、現状は1対2の構図。味方選手も懸命にこちらに走ってきているが、間に合わないかもしれない。
……どうする。
僕はチラッと後ろにいる相手選手を確認する。
すぐ後ろまで来ており、トラップしようとすると僕のコントロール次第で、取られる可能性もある。
……あ、すぐ後ろまで来てるのか。ということは逆に……。
僕はもうちょっとでボールが地面に着こうかという瞬間、全身の力を振り絞って……足を止めた。
するとボールは大きく跳ねた。
後ろにいた相手は懸命にジャンプするも届かず、そのままサイドラインを割る形となった。
その瞬間、ピッ、ピッ、ピーと試合終了の笛が鳴り響いた。
それを聞くと同時、僕の身体から力が抜けた。
ふぅ……。終わった。怖かった……。
結果的には良かったが、上手い人だったら対処されていたかもしれない。
とりあえず、勝てて良かった……。
センターサークル付近に選手全員が集まって最後の礼をする。
2年生たちは明らかに表情と雰囲気が沈んでいた。負けた方は悔しいだろう。その味は僕は嫌というほど知っている。
「お前、やるな。よく冷静に判断したな。」
コートから去っている途中、才川くんがそんな声をかけてきた。
「あ、ああ。ありがと……。」
お褒めの言葉を貰えると思っていなかった僕は挙動不審になってしまった。
ただ、彼はそれに意を介すことなく、それだけ言って颯爽と去っていった。
その先にいた女子たちが才川君のところへと群がってきている。
ちょっと鼻につく存在だなと思っていたが、認識を改めよう。
……あの爽やかな笑顔にやられる女子の気持ちも少しだけ分かった気がする。




