綾利副会長から見た天都先輩
球技大会まで残り一週間となった。
先日、球技大会の種目が決まり、男子はサッカー、女子はバレーボールをやることとなった。
特に活躍してやろうという気もなく、当日は平穏に過ごせるようにそこそこのプレーをしておこうと思っている。目立つのも嫌だし、足を引っ張るのも嫌だし、それでいいだろう。
そのために、現在体育の時間ではサッカーを専らやっている。
周りの人たちはそれなりに気合いが入っており、真剣にやっている人たちがちらほらいる。
ただ僕はというと、この時間もそんなにやる気はないので、ほどほどに走りながら、ほどほどに来たボールをパスするだけのマシーンとなっている。
だが、それでも周りからは経験者というのは分かるらしく、今度の球技大会頑張ろう、なんて声をかけられた。
はぁ……、望んでいないのに。まあ、足を引っ張らない程度にやりますかね。
そして、体育の時間も終わり昼休みと相成った。
一応、親からは弁当を持たされているのだが、一緒に食べる人はいない。まあ、これは僕の問題だし、折角作ってくれたのに残すのもちょっと罪悪感もあるので、いつも自分の席で一人黙々食べている。食べないと普通にお腹空いて、力が出なくなってしまうし。それでは、ばいきんまんと渡り合えない。
そして、いつも爆速でご飯を食べ終わると、いつも図書室へと逃げ込む。
ここが一番落ち着くことが出来る場所となっている。周りの目もほとんどないし。心地よい。
図書室に入り、いつも座っている席へと向かう。
入口からは一番遠くの窓側の席だ。背後に誰か通るという事象も集中力を欠くので、ここが一番心の安寧を保てる場所である。
と、歩んでいたのだが、窓のところには見慣れないけれど、見知った人が外を見ながら佇んでいた。
「あ、副会長さん……。あ。」
声を出すつもりはなかったのに、ついつい声に出してしまっていた。
聞こえてないでくれと思ったが、案の定聞こえており、こちらに振り向いてしまった。
「えっと、名前は……」
こうなったら腹をくくってコミュニケーションをするしかない。
「川湊明斗っていいます。」
「ああ、川湊君、天都がそう呼んでたね。」
副会長様は悩んでいる顔からニコッとした笑顔に変わる。もともと整った顔立ちの人なので、さらに可愛さに磨きがかかる。
不覚にもドキッとしてしまった。
「はい。一年生になります。」
「フッ。そんな固くならなくていいよ。」
僕が背筋を伸ばして挨拶すると、副会長は破顔する。
副会長という肩書を持っているにも関わらず、良い人である。
「副会長さんなので、どうしても緊張してしまいます……。」
「ははは。もうちょっとリラックスしてもらって大丈夫よ。別に同じ生徒なんだし。」
副会長さんはさらに愉快に笑う。
それはそうだが、どうしても恐れ多く感じてしまう。
人としての格が違う感じがする。
「……そういえば、聞きたいことがあったんですよ。」
僕は一通り挨拶が終わった副会長にそう切り込んだ。
ここで会ったのはたまたまだが、だからこそ良いチャンスである。
普段だったら、自分から話を振ったりはしないが、そんなことがどうでもよくなるくらいには気になっている。
「……天都のこと?」
「はい。」
副会長様も分かっていたようである。
まあ、部活の手伝いで会ってからそう日にちは経っていない。
分かって当然だろう。
「……仲が良いんですよね?」
「まあ、仲が良いというか、中学が同じだったんだよね。それで、そこそこ話す仲ではあった。」
窓の遠くを見ながら副会長はそう言った。
それは仲が良いとは言わないのだろうか?僕だったら仲が良いと……言いづらい関係もあるか。
「彼女、急に全てのやる気がなくなったみたいなんだよね。昔はもっと表情豊かだったし、友達も多かった。成績も優秀で、皆からも慕われてた。」
その姿は今の天都先輩からは想像がつかない。
何か全てを悟っている風で、感情もあまり表に出さないというのが今の彼女だ。
……ただ、人が変わる瞬間というのは往々としてあるのだろう。
この前、その一端を聞いたわけだし。
「……。」
「一応、私は何でそうなったかは簡単には知ってるんだ。深いところまでは知らないけどね。川湊くんは?」
「この前、聞きました。少しだけ。」
「……そう。信頼されてるんだね。」
あれは信頼というのだろうか。
たまたま居合わせたからという理由しかないはずだ。
恐らく、先日の土曜にあそこに行かなければ聞けなかっただろうし。
「皆それぞれ、心配して無理矢理遊びに誘ったりしてたんだけどね。それでも、戻らなくて。次第に皆避けるようになっちゃった。」
そのときの天都先輩はどういう気持ちだったのだろう。
仕方ないなと思うのか、それともどうしてという気持ちになったのか、はたまた拒否はしたけど誘ってくれたことにありがとうと思っていたのか、……まあ、もしかしたらそれの全部かもしれない。
「私はまあ、仲良い人の一人だったんだけど。一番の親友は他にいた。その人は見るからに避けて行ってね。それもああなった原因かも。」
ああ、それはキツイものがあるだろう。
仲が良ければ良いほど、その人がより明確に避け始めたことが分かってしまう。
……そのときの喪失感と失望感は計り知れない。
「……どうしたら良かったんだろうね。」
副会長は沈んだ表情で下にある校庭を見つめる。
そこでは、写真部の二人が笑い合いながら青々しく咲いている木々たちを写真に収めていた。
あそこまで熱中できる趣味は自分にはない。
全てを中途半端に終わらせてきた僕だ。余暇時間をそれですべて埋めたいと思ったこともないし、何かをやり切ったという経験もない。
僕には何もないのだ。誰かと話す資格もないと思ってしまうこともある。
しかし、そんな僕ではあるが、今、明確に何かをやってあげたいと思ってしまっている。
「分かりません。……ただ、これから僕にできることをしようと思います。良い結果になるか分からないですけど。」
これまで、自分の意志で頑張ったことで良い結果になったことがほぼない。
だからこそ、自信はない。今回のこの気持ちと意志が良い方向に転ぶ保証は全くといってない。
でも、行動することに意味はあるのかもしれない。いや、そんなことはあまり考えていない。ただ、僕が行動したいだけだ。
副会長の方を見ると、目が大きく見開かれていた。
「……私からもどうかお願いします。私の好きな天都を取り戻してほしい。」
「……はい。」
そこまでできる確率はもちろん低い。
だけど、副会長のその言葉を否定しようとは到底思わなかった。




