写真部のお化け
予定していた写真は全て撮り終わり(といっても影陽先輩がずっと撮っていただけだが)、最初にいた場所に戻ると、すでに別班の3人が雑談していた。全世界を巻き込んだ事件を影から解決しようとしているのかもしれない。
「今日はありがとうございました。」
影陽先輩が駆け足で向かい、3人に向かって頭を下げた。
「別にそんな大変なことはしてないよ。重いものも高巻くんに全部持ってもらったし。」
「……まあ、どうってことない。」
言いつつ、高巻先輩は天都先輩のことを睨んでいた。
……ツンデレだよな。この人。
――――――
頼まれていた仕事は全て終わったのだが、一旦手に持っている荷物を写真部に持って行く手筈になった。
影陽先輩と月川先輩は大丈夫と言ってくれたが、天都先輩が「遠慮しないで、自分たちの部室とそんなに距離変わらないし。」と言ったことで、持って行くことになった。
まあ、もちろん別に良いのだが、天都先輩は何も持って行く荷物がないことがほんの少しだけ気になってしまった。まあ、別にいいんだけど。
歩きながら影陽先輩と天都先輩が喋っているのを後ろからボーっと見ながら写真部の部室までいき、荷物を置いた。
ふぅ~、やっと解放された……。久しぶりに重いものを持ってので、肩が痛い痛い。中学のときに学期の最終日まで、学校の自分の物を持って帰らなかったとき以来だな。
写真部の二人からお礼を言われながら部室をあとにし、なにやぶへの部室へ帰ろうと廊下を歩いていると、気付いたことがあった。
「……あれスマホがない。」
……やばい。いつも感じている右ポケットの膨らみがまるでない。
僕にとっての精神安定剤がなくなってしまった。
やばいやばいやばい。どうしよう。どこで落としたのだろう。いつも肌身離さず、なくさないように持ってるのに。運動場だろうか。それともこの廊下だろうか。それとももっと前に……。最後に使ったのは……。やばい、思い出せない。
「やばい、川湊の口から魂が抜けてる。」
「川湊君、どこで落としたか覚えてないの?最後にどこで使ったとか?」
「……覚えてないです。」
僕の脳の記憶領域の力を総動員して検索をかけたが、全くもってヒットしなかった。
……死が待っている。
「写真部の部室で落としたんじゃないか?」
高巻先輩が呟くようにそう言った。
瞬間、僕の心が幾分か回復し、脳が活性化した。
「……あるかも。」
――――――――
一つ深呼吸をする。
あまり出入りしたことがない部屋に入るのはなかなか勇気がいるのだ。
ただ、ノックして入るだけでいいはずなのだが、ドアの前に結界が貼られているような気がしてしまう。禍々しいオーラを放っており、中には魔王でもいるのではというくらいの雰囲気がしている。
もう一つ深呼吸。
それでも、スマホがないというのは僕の人生にとって、崖から落とされそうになるときくらいの恐怖がまとわりつく事象なので、何とか打ち破った。
こんこん。僕はついにノックをした。
「……はい。どうしたんですか?」
しずしずといった感じで月川先輩が出てきた。
……良かった。影陽先輩だったら、種族が違うのでドギマギしてしまうこと必至だったので、一安心である。
……ところで、件のその人はいるのだろうか。
「……失礼します。」
見回してみたところ、とりあえず影陽先輩は見当たらない。
そのことにホッと胸を撫でおろしたが、月川先輩の方を見ると不審がっている感じで、ちょっと眉間に皺をよせていた。
「……すみません、ここにスマホ落ちてませんでしたか?」
慌てて僕はここに来た理由を伝える。
別に怪しい者じゃないですよ。挙動不審なだけで……。
「スマホ……。」
月川先輩は呟きながら頭を捻る。
心当たりは特にないらしい。終わったかもしれない……。
「探してみますね。」
「ありがとうございます……。」
優しい月川先輩も探してくれることになり、机の下や椅子の下、通路も探し、棚の上、火の中、森の中、水の中、あの子のスカート……は捕まってしまう。
と、二人で手分けして探していたところ、どこからかフフフっという不気味な笑い声が聞こえてきた。
え……、何?学校七不思議に数えられそうな写真部の幽霊?
「……ひまりちゃん。RAW現像するとき、とても怖くなるんですよね。」
月川先輩の視線の先を見ると、パソコンに向かっている影陽先輩がいた。
棚の陰に隠れて見えてなかっただけらしい。
不気味も不気味、不気味通り越してべくむ。
「……影陽先輩。誰のか分からないスマホ見てないですか?」
得体のしれないものに話しかけるときみたいに僕は恐る恐る尋ねる。
「フフフ。」
駄目だ、応答がない。ただの不審者のようだ。
「あ!ありましたよ!」
と、突然、月川先輩の大きな声が聞こえてきた。
振り返ると、月川先輩がスマホを片手に持ち、笑顔で腕を振っていた。
良かった……。命拾いした。スマホをなくしたなんてことになったら、やばかった。死ぬかと思った。
「うわ!びっくりした……。スミレちゃん。驚かさないでよ……。」
僕が胸を撫でおろしていると、月川先輩の声に反応した影陽先輩が身体を震わせていた。
「どう考えても、さっきの影陽先輩の言動の方が驚きますよ……。」
「あ、川湊くんいたの。……写真のこと教わりに来たのかな?」
影陽先輩は不正解すぎる質問をしてきた。
ほんとに集中しすぎて、周りの状況が分かってなかったんですね……。
「いや、全く全然です。」
「ちなみに、スマホで写真とか撮ったりする?」
僕の返答をよそに影陽先輩はマイペースに話を進める。
……もうちょっとこっちの話を聞いてくれませんかね。
「……そんなにはしませんけど。たまにくらい。」
「カメラでは?」
「全然しないですね。スマホで十分かなと思ってしまいますし。」
僕がそう答えると、月川先輩の「あ……」という息を飲む声が聞こえてきた。
……え、何かヤバいこと言った?
「そう……。じゃあ、スマホとカメラでどれだけ違うか懇切丁寧に教えたげるよ!」
影陽先輩の目が突然ギラギラし始める。
新たな獲物を見つけたかのような目で、僕はその目に気圧された。
……絶対逃がさないぞという強い意志を感じる。
「川湊君。こうなったら諦めてください。」
「えぇ……。」
命拾いしたと思ったのも束の間、僕の人生はここで終わりを迎えてしまうのだろうか。
――――――――
「随分、遅かったね。何してたの?他の二人は帰っちゃったよ。」
「……魂を吸い取られました。」
「お化けにでも会ったの?」




