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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
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第64話 祈り

海軍視察に行っていたムサシとグラントが帰還する。

ミコトも出発の準備をしながら、戻った仲間を出迎える。


グラントの顔が日に焼けて別人のようだ。

「グラント、焼けたね...。」

「えっ?そうかな...?」

グラントが鏡を持ち出して驚愕する。


「ほんとだ...!ボクの自慢の美白が...。なんで誰も言ってくれないんだ...!」

「あんなに泳いでたらそりゃそうなる。」

ムサシが呆れて呟く。


「泳いでたの!?」

「いや、ちゃんと、任務は、果たして、ますよ?」

グラントが目を泳がせる。


「危ないじゃないか。海は危険だよ。」

「そっちか。」

ミコトの言葉にムサシが顔を歪める。


思い出したようにムサシが口を開く。

「あの隊長...頭にくる野郎だったな。よく一緒に戦えたなミコト。」

「フローレンシス提督のことね...。」

ミコトが苦笑いする。


たしかにムサシとは相性が悪そうだ。

「グラントが、死ぬほど怒られてた。」

「うん...もう行きたくない...。」

グラントの口が震え、小麦色の頬を揺らす。


準備を終えたビノダロスが近づいてくる。

「では行こうかミコト。」


「入れ違いか。」

ムサシが尋ねる。

「そうなんだ。そんなに遠くじゃないからすぐ戻る。」


「命拾いしたな。」

ムサシの言葉に一同はぽかんとする。

なにも付け加えず、ムサシはそそくさと城に入った。


「気をつけてねミコト、ビノじい。」

「うん。グラントもよく休んで。」

「心配ありがとう。行って参る。」

ビノダロスが足取り軽く馬車に乗り込んだ。


--


グラントが階段を登るムサシに追いつく。

「...命拾いってどういうこと?」


「気にすんなよ。ただ...」

「ただ...?」

グラントがムサシの顔を覗き込む。


「長距離移動でビノじいさんのダジャレ発表に付き合うのは命に関わる。」

「...そゆことね...。」


グラントは馬車内でのミコトの状況を想像し、目を細めた。



_______



「これはどうかの。ムサシの冗談、寒し...。」

「...」


「ミコト。」

黙り込むミコトにビノダロスが反応を促す。


「あ!いやちょっと難しくて!」

「なんと...?」

「こんなに暑いのに、ムサシが、寒いって逆のことを言ったっていうことかな...!?」


ビノダロスの顔が歪む。

「いやそうじゃのうて...」

「あ、わかった!ムサシのムと、サ、を入れ替えて寒しってことか!すごいなビノじい。さすが知恵の戦士...。」


「いや...もうええわい...。」

ビノダロスが蒼白し、馬車の窓から外を眺める。


「...ビノじい、任務について確認しよう。」

「...そうじゃな。」

ミコトがなにごともなかったかのように真剣に話し出す。


ビノダロスが魔術盤を起動し、地図が浮かび上がる。

限られた平野地帯のなかで農耕部族が二勢力に分かれて争っている。


「セミ族と、カメ族じゃ。カメ族が農地を求めて、度々セミ居住区に侵入し抗争が起きている。セミ族側に犠牲者が増えている。セミ族は平均寿命が30歳という短命部族だ。」


「急がないとね。」

「うむ。まずはセミ族のアブラ族長と面会じゃ。」



_______



セミ族居住区に入るなり、呪文のような叫び声が街の至るところから響いてきた。


「ジャンジャン、シャーミン、ボーッシ!」

「すごいな...。」


道端で10歳にも満たない子どもが作物を運んでいる。

ミコトが姿を見たセミ族の者はほとんど子どもだった。

困惑しつつ族長の館に入っていく。


族長は細身の中年の男だった。

色とりどりの木彫りの装飾品をぶら下げ、遠征隊を出迎える。


「国王陛下、知恵の戦士。お力添え、恩に着る...。」

「アブラ族長。久方ぶりじゃな。こちら、新王のミコトマスじゃ。」

ビノダロスが慣れた様子で握手を交わし、族長にミコトを紹介する。


「お、お若いな...。道中危険はなかったです?」

アブラがふたりを席に案内しながら尋ねる。


「うん、問題ない。」

ミコトが軽く応える。


「居住区周辺はカメ族の過激派が通行人を襲う。お気をつけて。」

「大丈夫じゃ。アブラ。ワシら伊達に五戦士しとらん。」


「そうか...。ではカメ野郎どもに、正義の鉄槌を食らわせてくれるんでしょうな...?」

アブラとビノダロスが一瞬、睨み合う。


「話をそう急ぐでない。」

「こちらは刻一刻を争ってる...!」

不意にアブラが声を荒げ、ミコトは身構える。


「カメ族との争いで、戦える大人の半数を失った...。もう我々にできることは、神に祈ることだけだ...。」

街中で鳴り響いていた叫び声は大人たちの祈りだった。

その大人たちの代わりに、年端もいかない子どもたちが働かされている。


「わかっておる。おヌシらに土産があっての。」

ビノダロスが合図すると、兵士がひとりでやっと持てるほどの大きさの魔術盤を差し出す。

魔術盤の上に円盤のように丸められたエンケルが乗せられている。


「いいんだ、物資は。我々が求めているのは武力...」

『ジャンジャン、シャーミン、ボーッシ!』

魔術盤から大きな音が流れる。

街で聞いた祈りの声だった。


「こ、これは?」

アブラが問うのと同時に、ミコトもビノダロスに目を向ける。


「魔粒子レコーダーだ。試作品だが。開発を急がせた。」

「だが...我々セミ族は魔術など使えないぞ...。」

アブラがため息を吐きながら訴える。


「大丈夫じゃ。術式は刻まれておる。スイッチを押すだけで録音と再生ができる。これで祈りを流せば、大人たちが仕事に戻れるじゃろ。」

「しかし...魔術の声など...神には届かぬ。」

しばし沈黙が漂う。


「いや魔粒子は神の...」

ビノダロスがミコトの前に手を置き、言いかけた言葉を制す。


「なあ、アブラ。祈りは、声を神に届けるためか?神は、その声を聞いておるか。」

「聞いてる...はずだ。だが...届けるためじゃない。我らが祈るのは...神をそばに感じるため。心に神がいることを...確かめるためだ。」

アブラが言葉を少しずつしぼり出す。


「そうじゃろう。祈ることは、目的じゃない。我々の神は、常に我々を見てる。」

「そ...その通りだ。」

アブラが苦悶の表情でうつむく。


「子どもたちも、働いてばかりでは、祈りの言葉を学べないじゃろ。これを流して、次の世代に、しっかりと祈りを受け継ぐのじゃ。」

「そうですね...。ビノダロス。ありがたく、使わせてもらう。」

祈りを流し続けるレコーダーにすがりつき、アブラが静かに涙を流している。


「伝令です!東区にカメ族が侵入!」

アブラが目を剥いて伝令兵を見る。


「先に行く。」

ミコトが素早く立ち上がり、アリコンを鞘から抜く。

海戦で刃が出たきり、アリコンは角の形に戻らなくなっていた。


「用心しろ。」

ビノダロスに頷き、館を出たミコトが空に飛び立つ。



_______



緑色の煙がセミ族の農地に漂う。

セミ族の農夫たちが煙を吸い、次々に倒れる。


ガスマスクを着けたカメ族の指導者たちが農地を踏み荒らす。


「こんなに広大な土地をほとんど活かしてない。」

「セミ族のような弱小・短命部族に土地を独占させてはならん。」

「ヤツら子どもを働かせて、大人たちは朝から晩まで歌って騒いで使い物にならないって話だ。」

「セミ族の子どもたちを救わねばならん!」


カメ族が毒ガスを振りまき、進み続ける。


ミコトが少し離れた場所に降り立ち、農道を踏みしめ進んでいく。

しばらく歩くと、カメ族の集団に出くわす。


「...なんだ?王国のヤツか...?」

迫ってくるミコトに気づきひとりが声を上げる。


「ひとりだぜ?殺っちまおう。」

「ああ、構わん。」

ミコトに向けて毒ガスを勢いよく放出する。


「ん...?」

毒ガスが霧散し、ミコトにたどり着かない。


「おいどうなってる?風向きは追い風のはずだ。」

カメ族が顔を見合わせる。


「カメ族!毒ガスを止めろ。」

ミコトが高らかに叫ぶ。


「王国のもんか?介入は無用だぜ。ここはカメ族の土地だ。」

カメ族はさらに毒ガスを振りまく。


突風が吹き抜け、一瞬で煙が晴れる。

ガスマスクがズレそうになり、カメ族が慌てて顔を押さえる


「王国は関係ない。君たちと話しに来た。一角の風使い(ひとかどのアネモイ)だ。」

白刃のアリコンを持つミコトの背中に風が吹きつける。

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