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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
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第63話 暴風

無数の首が触手のように防波堤に吸い付く。

港内の波がうねり、沖を求めて躍り狂う。


絶えず伸びてくる首をミコトが斬り、ヘラクレスが叩き潰す。

ホミニスたちの氷魔術が吹き荒ぶ。


飛び散る海水と雨水が凍り、弾丸のように振り注ぐ。

港内の海水は渦を巻き、凍った首をすぐに溶かしていく。


「くっ!キリがない!」


ミコトの頬が氷の破片で切れ、一瞬血を流す。

血を拭き取れば傷は癒えているが、痛みは残る。


「カカカカ!」

氷が鎧にぶつかる音を響かせながら、ギデオンが駆け寄る。


「本気で頼むと、言ったな...シュッ。」

「...ギデオン。ここで死ねない。みんな、本気だ。」

ミコトが剣を振るいながら呟く。


「お前らに、託すぜ。」

ギデオンが装甲を外していく。


現れた小さな少女の身体が雨に濡れる。

防波堤からヒメが飛び立つ。


「あとのことは知らんが――俺様の本気だ。」


ヒメは魔力を全解放し、荒れ狂う海面に放射する。


ホミニスが驚愕しながらも、重ねて氷魔術を放つ。

「ほぁあああ!!」


「なんだあの娘は...」

フローレンシスも一瞬目を奪われた後、氷結に加勢する。


港内の海水が、みるみる凍りつき、流れを失っていく。

無数の首が、氷像のように立ち上がったまま凍りつく。


「ヒメ...海獣をやっつけた...!」

「いや、いつか溶けル...」

ヘラクレスが警戒を続ける。


依然暴風雨は止まない。

氷の表面は濡れ、溶けかける。

ヒメは氷魔術を送り続けている。


「このまま凍らせていても、港内の水量が増えるだけだ...!」

フローレンシスが叫ぶ。


「...わかった!完全に海から引き離す!」

ミコトがアリコンを構える。


「ヘラクレス!氷を火山に投げ捨てて!持ちやすいように、斬るから!」

ミコトはそう言うと荒天に飛び立った。

ヘラクレスが軌道を目で追う。


乱気流がミコトの身体を揺さぶる。

ミコトは感覚を研ぎ澄まし、その流れに乗る。


「―――暴風(アカラシマ)


ミコトが氷の上を乱れ舞い、斬りつける。

氷が鮮やかに切り出されていく。


ヘラクレスが氷を持ち上げ、山頂に投げ飛ばす。


「もっと大きめでもイイ!」

ヘラクレスの言葉が届き、ミコトが斬撃範囲を広げる。


「――ヤメロ...ヤメロ――ラファエ...」

剣からの振動が骨を伝い、くぐもった声のように脳内で響く。


(―なんだ...?)

声の続きを求めるように更にミコトが斬り進める。


巨大な氷が山の向こうに飛んでいく。


「フローレンシス!ホミニス!氷結は任せたァ!」

ヒメが魔術で複数の氷をまとめて持ち上げ、山に振り落とす。


斬撃音と氷が割れる音が連続する。


「ギャギャッッ!」

アリコンが海底を(えぐ)る。


「この層で最後だ!」

「ぉシャー!!」

氷をすべて切り出し、投げ終える。


海底の地質がむき出しとなり、港内がだだっ広い大地となる。

先程までの海面の躍動が嘘のような、がらんどうな空間。


ぬかるんだ地面にミコトが降り立つと、ヘラクレスが駆け寄る。

「やった...。」

「スゴい。ミコト。」


ヒメもゆっくりと空から降りてくる。

「やっちまったぜ。」


ホミニスとフローレンシスがヒメを凝視する。

「だ、誰だ、お前は...。」


「チッ...」

ヒメがフローレンシスに目を合わせず、不機嫌を露わにする。


ようやく雨脚が弱まりはじめた。

山のほうに隠れていた海賊たちが両手を上げて出てくる。

一部始終を見て恐れをなし、降伏を決めたのだろうか。


表情は絶望一色に染まっている。

「あ、くそ。これフローレンシスの手柄か。」

ヒメが足先をタンタンと鳴らして落ち着かない。


「みんなの手柄だろ?」

「ああ。そうだ。」

ミコトの言葉にホミニスが頷く。


雲の切れ間から光が差し込み、アリコンの刃が眩しく輝く。



_______



長旅の末、ミコト、ヘラクレス、ギデオンが王都に帰還した。


盛大な凱旋行進と海賊から押収した戦利品の山を見て民衆がおおいに沸く。

喝采を抜けると、城内で仲間たちが出迎える。


「ヘラクレスー!ミコトー!」

グラントが両手を振って飛び跳ねる。


「グラントぉ、元気だナ。」

「王都を任せっきりですまない。なんともなかったかい。」


「なに王様みたいなこと言ってんだ。」

ミコトの第一声にムサシが口を出す。


「そうかな、はは。」

「大丈夫よミコトマス王。あなたがいないと平和かも。」

リオが笑みをこぼす。


「ウマいもの、たくさん持ってきた。」

ヘラクレスが次々に運び込まれていく戦利品を指差す。


「うぉおおー!お腹すかしといてよかったぁ!」

「私も今日はチートデイにしよ。」

グラントとリオが興奮している。


「仲良いなおめーら。シュッシュッ」

ギデオンがぶっきらぼうに呟く。


「お前も食いに来ればいいだろ。」

ムサシもぶっきらぼうに言い放つ。


「シュ...他誰か来る?」

ギデオンの問いかけに皆きょとんとする。


「今日は秘密の...海鮮闇鍋パーティーだ!」

グラントが意気込む。


「じゃあ俺様も、食うの手伝ってやる。シュッ...。」


5人はギデオンを連れ宴会場に向かって行った。


「若いもんは、ええのう。」

ビノダロスが遠くからその様子を眺める。



_______



嵐が過ぎ去っても海上の風は勢いを緩めない。

風を抱え込んだ幽霊船の帆の柄を、タランドゥスが眺める。


「レヴィアタンの魔力がない...最後になにか、聞こえたきり...」

タランドゥスがひとり呟く。


「なにか言ったかタランドゥス。」

気配もなく隣に現れた男が尋ねる。


「あん?なんでもないですよ。ディディエール卿。」

ディディエールは見晴らしのいい海の景色が気に入らない様子で目を細めている。


「まだ着かんのか。」

「もう着くから。せっかちなんだから。ほら、見えてきた。」


水平線の向こうにぼんやりと陸地が見える。

「あんたの故郷。ウリル王国。だろ?母ちゃんとこ帰んのか?」


「黙れタランドゥス。次の駒を揃えるだけだ。あのようなくだらん国に用はない。」

「また傭兵さんね。了解了解。」


ディディエールがウリルの沿岸を睨みつける。

タランドゥスはわれ関せずと船長室に戻った。

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