第62話 両断
アリコンの刃が男の肉を切り裂く。
海賊たちが身を挺して固定砲を守ろうと殺到する。
「あああ...!」
噴き出す鮮血を目にしミコトがうろたえる。
「ドゴォン」
「ドゴォン」
その間も固定砲は艦隊を退けようと砲撃を続ける。
「くそっ...どけ!」
刃を失ったアリコンで叩いても、海賊たちはすぐに起き上がる。
「どうした剣士!剣をどこに忘れてきた!」
「仲間が死ぬのをここからゆっくり眺めようぜ。」
「ギャハハハ!見ろよ!あの兵隊ろくに泳げねえのか。」
「プカプカ浮かんで、気持ちよさそうだなァ〜」
群がる海賊たちの汚言の波がミコトを襲う。
刃のないアリコンが虚しく空を切る。
「お前じゃ国は、守れない。」
ミコトが一瞬動きを止め、顔を上げる。
目に怒りが宿る。
「...おっ?」
アリコンに白刃が戻る。
ミコトのもとに、風が集まっていく。
流れる身のこなしで海賊たちをかわし、固定砲に接近していく。
「固定砲を守れ!」
海賊のリーダーが叫ぶと、男たちは固定砲に群がり肉の壁を作る。
「シナト」
男たちの身体ごと、固定砲を斬り倒す。
「ギャァアア!!」
断末魔をかき消すように、ミコトが風を伴い次の固定砲に向かう。
「ガッッ」
固定砲が次々に破壊されていく。
「オラァ!野郎ども!固定砲を守らんか!」
司令台の上でリーダーが必死に叫ぶ。
剣を振り抜いたミコトと目が合う。
「お前ら俺を守」
――ザッ
「天衝靭」
ミコトが瞬く間に司令台に駆け上りリーダーの胸を裂く。
指揮官を失った海賊たちが、固定砲を放り出し山の方に逃げ出していく。
ミコトはすぐにすべての固定砲を破壊し終えた。
休む間もなく、沖に向かい飛んでいく。
半分以上の船を失っていた。
ギデオンとフローレンシスが乗る堅牢な旗艦にも、複数の海獣の首が迫ってきている。
「ごらぁああ!」
ギデオンが魔剣で海獣の首を斬るが、断面から2本以上の首が生え巨大化していく。
艦隊はやがて無数の首に絡め取られ動けなくなっていた。
海獣を次々に切り裂きながら、ミコトが疾風の如く駆けつける。
「ミコトぉ!固定砲は壊せたか!こっちはキリがねえ!シュシュッ!」
「こちらは有効な魔術が見つからない。...蒸発させるには火力不足だ。」
掌に魔力を溜めてフローレンシスが呟く。
「どこかに弱点が...!」
ミコトがヘラクレスの大蛇を倒した話を思い出す。
「首の断面...断面から新たな首が増えるなら、断面を焼...凍らせるのはどうだ?フローレンシス。氷魔術が得意だろ。」
「...よし。それだ。」
フローレンシスが頷く。
「僕とギデオンが海獣の首を断つ。フローレンシスが凍らせる。連携しよう。呼吸を合わせて。」
「......俺様は自分で斬って自分で凍らせる。」
「できるのか。」
ギデオンの言葉にフローレンシスが目を見開く。
「最高司令官を舐めんなよ。シャッッ!」
ギデオンが勢いよく隣の船に飛び乗る。
「フローレンシス行くぞ!」
「私は飛べん。低い位置で頼む。」
ミコトが頷く。
「シューッ...!」
ミコトが暴風に乗り、複雑な軌道で海獣の首を断ち斬っていく。
「忌まわしきケダモノめ!氷結せよ!」
フローレンシスが両手を振り乱しミコトが斬った首を凍らせていく。
「やはり!」
「首が増えない!」
ミコトがフローレンシスと手を取り合い、海獣に巻き付かれている次の船に飛び乗る。
「ウリャ!ウリャ!シュッシュッ!大人しく固まっとけ!」
ギデオンは左手首の装甲を外し、袖口から強力な氷魔術を繰り出す。
右腕の魔剣は加熱され、首を斬るたび激しい音と蒸気が上がる。
絡みつく首が少なくなり、艦隊が再び動きはじめる。
「フローレンシス海軍!港に突き進めェい!シュウ!」
「ウォォオオオ!」
折れた帆を補うため、オールを出し漕ぎはじめる。
海がうねり、波が複雑にぶつかる音が響く。
「ズォォオオ」
船首に立ち剣を振るうギデオンの前に、蛇とも魚とも竜とも取れる巨大な顔が現れる。
鋭く睨みつける恐ろしい目玉は人間のようでもある。
「お前が本体か...!?」
ギデオンの剣と魔術にひるむことなく、海獣は噛み付こうと口を大きく広げた。
「ヤベェ...!」
ギデオンが装甲を外そうとしたとき――
海獣が口のなかを見せたまま固まった。
「凍った...?」
「氷魔術というのはな――こうやるんだ。」
ホミニスが宙に浮かび、拡声魔術で艦隊に声を響かせる。
大きくしぶきを上げ、海獣の顔が沈んでいく。
ミコトとフローレンシスもホミニスのもとに集まる。
「ホミニス!!」
ミコトが目を輝かせて駆け寄る。
「すまん遅くなった。部下にくせ者が混じっててな。」
「宰相が出陣とは...。戦況芳しくなく、申し訳ありません。」
フローレンシスが頭を下げる。
「報告は後だ。海獣の本体を凍らせたが、あっという間に海水で溶ける。恐らく天候が良くなれば自然に去るが...期待できんな。」
一帯は未だ暴風雨に見舞われている。
フローレンシスが辺りを見回す。
「私に策が。本体を挑発し、港に誘導しましょう。本体が港に入ったところで、港の入口を埋め立てて海と断絶するのです。」
港を指差してフローレンシスが提案する。
「やるっきゃねえな...シュ。」
「入口を埋め立てるなんて、できるの?」
ミコトが不安な顔で問う。
「私頼りの作戦だが...。わかった任せろ。船は何隻か沈めさせてもらう。」
ホミニスの顔つきが頼もしい。
「はい。この作戦終了までは、私が指揮責任を取ります。」
フローレンシスの声が少し震える。
「もちろんだ。頼んだぞ、提督閣下。」
ホミニスの声で、フローレンシスの目が鋭く光る。
「フローレンシス海軍!全速前進!すべての人員を船の動力に充てよ!港を目指し進め!」
「ォォオオ!!」
兵たちの声が沸く。
進みはじめるとすぐに船のへりから海獣の細い首が這い上がってくる。
「シナト!」
ミコトが海上を低空飛行し、首が甲板に出る前に斬る。
ホミニスがすかさず氷結させ、首が動きを止める。
艦隊が着実に港に近づいていく。
「ザコが!こっちだ!ついてこい!シュヤッ!」
ギデオンが海に向かって大声で叫び、海獣を挑発する。
波が大きくうねり、ギデオンの乗る旗艦を荒々しく押し上げる。
「これはノッて来てるんじゃねえかァ!」
ギデオンの声色が緊張を含む。
「よし、旗艦のみで港内に突入する!加速を緩めるな!船員は衝撃に備えよ!」
港内の奥側が砂浜になっている。
そのまま乗り上げるつもりだ。
港を間近にして、本体が再び海上に顔を出す。
凶悪な大牙は先程はなかったはずだ。
「牙作るので遅れたか!?シュッシュッ!」
ギデオンが大きく剣を振り挑発を続ける。
「ギョァァォオオオウ!」
海獣が天に向かって咆哮する。
皆耳を塞ぎ、兵たちは震え出す。
海獣が大口を開け突っ込んでくる。
「来たぞぉぉおお!」
「艦隊散開!!旗艦の進路を開けろ!」
旗艦が船体をこすりながら港に入る。
海獣の牙がギデオンとフローレンシスに迫る。
高速で飛んできたミコトがうなじを深く斬りつける。
「クソ勢いが死なない!」
海獣の頭が甲板をすり潰しにかかる。
ギデオンとフローレンシスが海に飛び込んだ。
山の向こうから、大きな砲弾が飛んでくる。
「ガシャァァア」
海獣の額にめり込む。
首の後方、尾と呼べる部分が勢いを余し上に飛び上がる。
砲弾は人型を成した。
飛び上がった尾を海面に叩きつける。
「ヘラクレス...!」
「戻ったか...。」
ミコトが防波堤に立ち、遅れて来たホミニスと目を合わす。
「私の、出番だな!」
ホミニスが、乗り捨てられた海賊船、無人の船を魔術で操作し、港の入口に集めていく。
固定砲の残骸やミコトが斬り捨てた海賊の死体すら拾い上げ、海底に圧縮し積み重ねていく。
「ホミニス...」
「ミコト!ドウなってる。」
ヘラクレスがミコトの横に来る。
港内から海獣の首が相変わらず伸び、襲ってくる。
それをひとつひとつ、殴り返す。
「壊した首をフローレンシスとギデオンが凍らせる!ヘラクレスが昔戦った蛇と同じだ!」
「ワカった...!」
ヘラクレスが港内に自ら飛び込む。
「ぬぉぉおおお」
ホミニスが白目を剥きながら、港封鎖を試みる。
ミコトも港内で暴れる海獣に対処する。
あらゆる資源が押し固められていき、轟音が港に響く。
ホミニスの限界を察知し、ギデオンが防波堤に乗り込む。
右手の装甲も外し、魔術でホミニスに加勢する。
ギデオンの手首から出る魔力を感じ、ホミニスが目を剥いてギデオンを見る。
積み重なった資材が海面から顔を出す。
ついに港を分断することに成功した。
「...ここから、どうする?...シュッ...」
海獣は港内で依然暴れている。
高波を起こし防波堤を越えようとするのを、ヘラクレスとミコトが必死に食い止める。




