表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
63/63

第61話 時化

タランドゥスが鼻をすする。

眉をひそめ、甲板を一周練り歩く。


「クセぇな...来たか。」


船内の階段を音を立てず下っていく。


「ヘラクレス...!」

身を屈めながらヘラクレスがいる牢に駆け寄る。


「なんダ?なぜ頭を下げてる?」

「こら!静かに。」

ヘラクレスがタランドゥスの目線に合わせて身を屈める。


「なんでしゃがんでんだ。」

タランドゥスが真っ直ぐと背すじを伸ばし、怪訝な顔をする。


「...?」

ヘラクレスが首をかしげる。

「なんなんダ。」


「お前ホントに、自分の力について、知らないんだな?間違いないな?第三世界の存在について、何も知らない。」

タランドゥスが真剣な顔で詰め寄る。


「ああ。ソウだ。なんのコトか。」

タランドゥスは小さく頷く。


「よし取引だ。俺は今から、お前を逃がす。こっそりと。それでお前は俺に借りができる。

 その借りを返しに、次は第三世界の情報を持ってくる。いいな?」


「...イイのか?」

ヘラクレスは状況が飲み込めない。


「そうだ。取引だ。お前と、お前の船長の。」


「オレは戻らない。」

「戻るさ。お前自身が求める。」


タランドゥスは牢の隅を操作し、拘束魔術を解除する。

「時間がない。さっさといけ!」


行こうとするヘラクレスが一瞬立ち止まる。

「ありがとう...?タランドゥス。」


「船長だ。」


ヘラクレスが壁を突き破り、海に飛び込む。

「いいんだ。これでいいんだ...。」


タランドゥスが階段を足早に上っていく。

壁の大穴から風が吹き込み音を立てる。


甲板に戻り、船上を見渡す。

変わらず幽霊たちがせっせと仕事をしている。


「ふぅ...間に合った。」

「―何か急いでたか?」


まるで鼓膜が深海に浸かるような圧力を感じる。

タランドゥスの耳元でボットが囁く。


一瞬の硬直の後、タランドゥスが振り返る。

ボットが立っている。


目深に被った黒頭巾が光を吸い込む。

船の揺れに干渉されず真っ直ぐに姿勢を保っている。


「ヘラクレスはどこだ?」

必然の問いだったが、いざ耳にするとタランドゥスは顔を引きつらせた。


「ヘラクレス。なんだっけ。」

「...」

ボットが反応を見せない。


「ああ!前言ってたやつだな。俺に捕まえろって。こっちだボット。おめかしして待たせてる。」

タランドゥスがボットを船内に引き入れる。


「...」

空っぽの牢をボットが見つめる。

壁には大穴。


「おかしいぞ!この船の魔術を破れるはずない!」

タランドゥスがわざとらしく叫ぶ。


「そういえば最近船が調子悪い。ちょっと点検してってもらえるか...?」

タランドゥスが引きつった笑顔でボットに手を合わせる。


「タランドゥス...面白い男だ。今回は...お前の判断に乗っておこう。」

「判断...?そりゃどうも。...シャワーの水圧だけ点検頼むよ。」


ボットが手をかざすと、黒光りする虫が這うように壁がうごめき、大穴を塞いでいく。


ボットが声を上げず口だけ開けて笑っているのが、タランドゥスの目に入る。

タランドゥスは身震いし、その場を後にする。



_______



海賊連合の艦隊が次々に沈む。

海戦用に強化された魔術砲に海賊たちはなすすべもない。


砲撃音が一定の間隔で響き渡る。

戦艦は華麗に隊列を変え絶え間なく攻撃を浴びせる。


「勝負はついてる、なぜ降伏しない。」

ミコトが司令室に入る。


「意地になってんのか。そういう掟があんのか。バカなヤツらだ。シュッ。」

「迎撃が甘い。砲弾を出し惜しんでいるな。ヤツら何かを...待っている。」

フローレンシスの言葉に雷鳴が重なる。


「...嵐が来る。」

ミコトが呟く。


「火力を上げて上陸を急ごう。嫌な予感がするぜ。」

「...私もその判断に同意する。」

フローレンシスが窓から空を睨みつける。


ギデオンが甲板に出て命令を叫ぶ。

「よしケリをつけるぞ!偃月陣に移行し一斉砲火用意!」

「ヤッッ!」


海兵が声を上げ、それぞれの持ち場で動きだす。

伝令兵が旗を掲げ、艦隊に指示が行き渡る。


演習通りに陣形が組み変わりはじめる。

雨粒がギデオンの右肩に落ちた。


「ん...?」

視線の先、船上の兵の動きが不自然に映る。

船べりから身を乗り出し海面をしきりに確認している。


「なんだ?シュー...ッ。」

伝令兵が異常事態の旗を振りなにか叫んでいる。

船から船の口頭伝令が伝わるまで少し時間がかかる。


旗艦(きかん)の隣の船が伝令を受け取った。

伝令兵がこちらに向かって叫びはじめる。


「右翼端の船が――」

立ちのぼった水柱が、甲板を攫い、兵をなぎ倒す。

大蛇のような水柱に巻き付かれ、船が沈んでいく。


「なに...!?」

ひとつ手前の船にも、水柱が襲い来る。

水柱の本数が増し、船の構造に絡みついていく。


気づけば大粒の雨が降っている。

ギデオンが我に返り、雨が鎧に当たる感覚に気づく。


フローレンシスも甲板に出てくる。

ミコトが指示を待たず飛び立った。


波が高まり、皆が船にしがみつく。

フローレンシスが水柱に襲われている船を見つめ、歯を食いしばっている。


「提督!シューッ!たぶんこのまま上陸するしかねェ!」

「...わかってる。」

フローレンシスが司令台に躍り出る。


数隻の海賊船が碇を降ろし、港の入口を塞いでいる。

望遠鏡を覗くと、乗組員が見当たらない。


「ドゴォン」

島から砲撃音が鳴り響く。

港の固定砲が、こちらを向いている。


「チクショウ!前の拠点に引き返すか?」

「...それでは拠点に着く前に海に飲み込まれる。」


フローレンシスが右翼に目をやると、ミコトが水柱を斬りつけているのが見える。


「ミコト一旦戻れ!!」

天まで届くほどの大声でギデオンがミコトを呼ぶ。


すぐにミコトが飛んできた。

「船からの撤退命令は出した。だがボートも大波ですぐひっくり返る。」


水浸しとなったミコトが告げる。

「なんなんだあの波は!」


「波じゃない。水の龍のようだ...。斬れても、さらに増える。」

「海の魔獣...海獣、か...?」


海獣は沈みゆく船の上をヘビのように這っている。

「ドゴォン」


「シュッ。海と陸に挟まれた。」

「被弾覚悟で陸に向かい、ひとりでも生き残ることに賭けるしかない...。」

フローレンシスが鬼気迫る表情をする。


「うん。まずは僕が...陸の固定砲を壊す。」

「正気か...!?お前は逃げたっていいんだぞ...。」


飛び立とうとするミコトをギデオンが制す。

「僕は本気だ。頼むよ、ギデオンも本気で。」


ミコトが暴風雨の空に飛び立つ。

アリコンが白い刃を光らせている。


風の制御が難しい。

固定砲の砲撃間隔が狭まり、砲弾がミコトの横を掠めていく。


ミコトに吸い寄せられるように、砲弾が迫る。

「――! シナト...っ!」


切り裂かれた砲弾が海に落ちていく。

ミコトは砲弾の軌道に沿って高度を調整した。


飛んでくる砲弾が艦隊にたどり着く前に斬り落とす。


「シナト!」

「シナト!」


砲弾から砲弾へ、斬撃を繰り出しながら島に近づく。


「シナトぁあっ!」

斬った砲弾の破片が足を斬り裂く。


血が雨とともに海に落ちるが、すぐに傷は塞がる。


ミコトはアリコンをもう一度しっかりと握り直し、絶対に手放さぬよう祈る。


一瞬後方に目を向けると艦隊が前進している。

前方を進む船が固定砲にやられ、後方が海獣に襲われている。

戦意喪失か、船の制御不能か、何隻か艦隊を離れてしまっている。


ミコトは更に加速し、再び砲弾を斬る。

眼下の港を過ぎ、固定砲目掛け急降下する。

「シナト」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ