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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
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第55話 証言

ミコトがバルコニーで朝霧に包まれた王都を眺める。


ホミニスと話し合い、当面の間は、慣れ親しんだ王子の間での生活を許された。

街の様子が見られない王の間に移る気にはなれない。


地上の庭園から、なにかが打ち上がる。

それはミコトの目の前を下から上に通り過ぎ、すぐ隣に舞い降りた。


「ムサシおはよう。階段で来てよ。」

「飛んだほうが楽だし早い。」

全くそのとおりである。


「調子はどうだキング。」

ニヤリと微笑むムサシに釣られミコトが笑う。


「いいカンジだ。みんなもう集まってるか?」

「ギデオン待ちってとこだ。」

「よし。行こう。」


ふたりは雑談まじりにゆっくりと階段を下りる。

ミコトが王になってから初の軍議に向かう。



_______



薄暗い軍事室内、魔術盤の光が戦士たちの顔を浮かび上がらせる。


ミコト、ムサシ、ビノダロスそしてホミニス。

遅れてギデオンが入ってくる。


「待たせた。...シュッ。最近野暮用が多くてな。」

「ご苦労さま。」

ミコトの呟きにギデオンが一瞬動きを止め、会釈する。


「シュッ。」

「...ん?参加者はこれだけか?」

五戦士3人とホミニス、ギデオンのみの軍事室にムサシが違和感を抱く。


事情を知っているようにビノダロスが頷く。


「そうだ。今回は最重要機密を扱う。入れ!シュッ」

ギデオンの屈強な側近二名が、捕虜を引っ張り連れてくる。


頭に麻袋をかぶせられた捕虜は大人しく自分の足で歩き軍議室に入る。

「こいつだ。」


ギデオンが麻袋を取ると、不敵な笑みを浮かべたセアカの顔が露わになる。

「お前は...!」


「本当じゃ...。」

事前にセアカの捕獲を聞いていたビノダロスも、過日戦った謎の敵を前に身構える。


「いい気分だ。未開の人類に注目されるのは。」

平然と(のたま)うセアカを戦士たちが睨みつける。


「将軍、説明を。」

事情を知っている様子のホミニスがギデオンに説明を促す。


「この女は、セアカ。我々が度々交戦している敵組織、“ジュラヴ”の暗殺者だ。先の戦いで組織の方針に背き処分対象になっていたらしい。」


「処分?」

「殺されるってことな。」

ミコトが聞き返し、ムサシが翻訳する。


「そうだ、シュッ。半べそかいてウチの拠点に逃げ込んできたところを確保した。コイツぁー情報源として、極めて利用価値がある。シュウ...」

セアカがギデオンを横目で睨む。


「聞き出した情報は?」

ミコトがギデオンとホミニスに問う。


「あらゆる拷問で洗いざらい吐かせてやろうと思ったんだが...ホミニス宰相からストップがかかってな。手荒なやり方はミコトマス王が許さんだろうと。」

ホミニスが真剣な顔でミコトに目配せをする。


ミコトも王として覚悟の表情で頷いた。

「では、尋問を開始しよう。名前は、セアカだね。」


「そうよ。」

首を傾けながらセアカが答える。


「重要なことから潰していこう。ジュラヴの目的を聞かせてくれ。」

ミコトのためらいのない問いかけにセアカが少し口元を緩めるが、戦士たちの視線が鋭さを増す。


「ジュラヴ...ジュラヴねえ。そんなチーム名だったっけ。目的なんて、わからないよ。アタシはただ、仕事を受けただけ。このお嬢...お将軍を始末する仕事。」

ギデオンにつけられた首輪がわずかに熱を持ち、セアカが冷や汗をかいて首を押さえる。


「お前もギラファも、僕を殺すことはなかった。ギデオンと、ビノダロスを狙ってたね。なぜふたりを狙う?なぜ僕に手を出さない?」

「そういう決まりなんだよ。」


セアカは隠すつもりがない様子だが、有力な回答が出ず歯がゆい。

聞きたいことが溢れ、ミコトはかえって言葉が出ない。


「雇い主は?...誰だ。」

ホミニスが濁った太い声で尋ねる。


王国の重鎮が醸す威圧感にセアカの身体が強張る。

「...ボット...といったな。黒づくめの謎の魔術師...としかわからない。悪魔の復活を...目指してるとか。」

「悪魔...?」

ホミニスが言葉を重ねる。


「細かいことは、知らないわ。それも、一味のひとりから聞いただけ。ディディエールっていう幹部気取りの。ヤツらの素性もほとんど知らない。」


「シュッ...どこが喉から手が出る情報だ。」

ギデオンの言葉の違和感に皆が顔をしかめる。


「あんたたちが見落としてる情報があんのよ。アタシも、ギラファも、ディディエールも。ウリル王国から来てる。」

「ウリル王国じゃと...?」

ビノダロスが声を上げる。


「名前くらいは、知ってんの?」

ムサシだけが見当がつかないといった顔をしている。


「ラーフィール王国の遥か北方、 呪 い の 森 (スパイダーフォレスト)を越えた先にあるというウリル王国じゃろ。果てしない密林が呪いの森となる以前から、ほとんど交流の歴史はないが...」


「そうそう。でも現にアタシはやってきた。稼げる仕事があるって聞いてね。」

険しい顔で自身の顎を撫でるビノダロスに、セアカが得意げに話す。


「どうやって、森を越えたと言うんじゃ?」

ビノダロスが身を乗り出す。


「道は陸だけじゃない。」

「まさか空を...!?」


セアカが顔を上げ高笑いする。

「アッハッハ。考えすぎ。いくら風使いでもあの距離をひと息で飛ぶのは無理よ。」


「...では。」

「坊やはもう気づいてる。」

セアカがミコトに視線を送る。

「海...だね。」


「船に乗ってやってきたと...?自殺行為だ。」

ホミニスが眉をひそめる。


海の危険性は大陸の住人にとって常識であった。


沿岸は水害が絶えない。

ひとたび沖に出れば嵐が巻き起こり、大波が押し寄せ、船を奈落に引きずり込む。


呪 い の 森 (スパイダーフォレスト)ができる前は世界で最も危険な場所として恐れられていた。

まともな者は近づかない。


「その自殺行為を日課にしながら生きてる連中がいるって言うんでさ。賭けに乗ってみたのよ。」

「...海賊か。」

命知らずの海賊のみが、荒れ狂う海を行き来する唯一の存在である。


「ほとんど目隠しされてたから、海賊がどんな姿かは見てないけど。おかげでゲロと格闘の旅。オエェ゙」

ムサシが眉間にシワを寄せる。


「やはり。」

ホミニスが呟き、皆の視線が集まる。


「最近東の海の海賊の動きが活発化している。僅かな沿岸の漁村が海賊被害を受け国に助けを求めてきているのだ。そして東の海が、その女の故郷・ウリルに接している。」

ホミニスが魔術盤に東海岸の地図を映し出す。


「海賊とウリルに関係した勢力か...。」

ビノダロスが地図をじっくりと眺める。


「すでにトラプス軍の新設部隊とヘラクレスを派遣している。」

「ヘラクレスを?」

ミコトがなにか訴えるようにホミニスを見る。


「もちろん、まだ防衛のための配備段階だ。このまま被害が拡大すれば、沿岸集落は壊滅し海賊の温床になってしまう。」

「そうか。迅速な対応を、ありがとう。」

ミコトが魔術盤に目を戻し呟く。


「なるほどな。シュッ。海賊対策を進めればジュラヴの情報が海の底から浮き上がってくるかも知れねぇってことだ。」

「うむ。」

ギデオンの言葉にビノダロスも頷く。


「海賊の被害状況をもっと知りたい。海賊も、元は困窮した人々が海に追いやられたところから始まってるだろ。詳しく経緯を把握しないと。」

「それなら、いい情報源がある。」

ホミニスが魔術盤を操作する。


床に寝そべった屈強な男が魔粒子で描かれる。

「先日ミコトが捕らえた、怪人ネプチューンだ。ヤツは東海岸の漁村出身らしい。海賊の脅威にも詳しいだろう。ミコトも一度、会ってみるといい。意識が混濁し、流暢な会話はできないが...。ミコトならなにか聞き出せるかも。」


ミコトの脳裏に、自身が斬りつけ血みどろになったネプチューンの姿が蘇る。

気持ちのいい記憶ではない。

あのとき湧き上がった自分の怒りのおぞましさに、ミコトは顔を歪める。


「...わかった。すぐに会いたい。」

ミコトの言葉にホミニスが小さく頷く。


「大変ね。政治家ってのは。」

セアカが他人事として口を出す。


「ところであの温泉地。あんたの故郷なんでしょ。風使いがやけに多かった。」

セアカがムサシに問いかける。


「あ?そうだが。そうだお前言ってたな、こっちの世界の風使いがどうとか。」

「記憶力いいのね。」

これまで無口だったムサシの声が聞け、セアカが満足げな顔をしている。


「そうか。ムサシの故郷は、ウリルの風使いが住み着いた場所。」

ビノダロスが納得し目を見開く。


「なんだ?そっちの世界の風使いは皆、お前のようにおしゃべりか?」

ムサシがセアカを真顔で挑発する。


「ふっ。そうかもね。ひとつだけ言っておく。“ウリルの風使いみんな”じゃない。」

「...?」

ミコトが首をかしげる。


「ウリルは“みんなが、風使い”なんだ。行ってみな。海賊船に乗って...。」


魔術盤に浮かぶ船が、舳先(へさき)をウリルに向け漂っている。

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