53.5話 馬車の乗り分け
密林の拠点を整え、王都へ戻る準備が済んだ。
現地部隊が整列し、遠征隊の出発を見送る。
最上級の馬車が2台並んでいる。
ミコトが何も言わず一方に乗った。
ムサシもそれに続こうとする。
「ちょっと待って。」
リオが引き止める。
「どういう乗り分けになる?」
「乗り分け...?」
ムサシが怪訝な顔をする。
「私、マンダリンのことをミコトに聞かなきゃならない。ネプチューンの力に関わっていそうだし。アリコンのことも気になるわ。」
「昨日も散々聞いてただろ。」
真剣なリオをムサシが軽くあしらおうとする。
「いやミコトまだ本調子じゃないみたいだから、肝心なことが聞けてないのよ...」
「はあ...別に、乗ればいいだろこっちに。」
ミコトが乗った馬車を指差す。
「いやそうなんだけど...」
「なにが言いたい...?」
核心を明かさないリオをムサシが睨む。
「私が、こっちに乗ったら、あっちはグラントとビノじいになるでしょ、なんかそれはそれで...」
「くだらん。なんでもいいだろう。」
「それにグラントにも話したいことがあるのよね...。あの子、薬品や魔術器具を扱うのに向いてると思うのよ。」
無関心な顔のムサシに構わずリオがしゃべり続ける。
ムサシの顔が次第にげんなりしていく。
「ムサシ、あっち乗ってくんない...?」
「なら最初からそう言え。言う通り今のミコトは不安定だ。俺が見ていないと。」
「じゃあグラントに、ビノじいと乗ってもらうしかないわね...。」
後ろから軽快な足音がする。
「リオムサシおつかれ〜。」
グラントが二人の横を通り過ぎ、真っ先にミコトがいる馬車に乗った。
「「———!」」
リオとムサシの構想が崩れ、ふたりは顔を見合わせる。
「む。ミコトとグラント、もう乗ったのか。じゃあワシはこちらに乗るとするか。」
やってきたビノダロスがまだ誰も乗っていないほうの馬車に乗り込む。
リオとムサシが、音を立てずミコトの馬車に入っていく。
「馬車が水たまりに...バシャ...。」
上質な皮が張られた馬車のなかでビノダロスがくつろいでいる。
「ムサシたち、まだ乗ってこんのか。」
ビノダロスがひとりごとを呟いていると、馬車がゆっくりと前に進みはじめた。
「ん...?」
ビノダロスはなにかを察する。
「ひとりで移動...」
背もたれに深く寄りかかり、足を伸ばす。
「広いどぅ...」
森から響く虫の声が、僅かに哀愁を帯びている。




