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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第2章 スパイダーフォレスト
53/73

第52話 息吹


--


ムサシがしっかりと、剣を握る。

目指す先に刃を向け、風を起こし進む。


横を見るとミコトが同じように飛んでいる。

つい最近まで竹とんぼも上手く飛ばせなかった男だ。


何度も危機を乗り越え、こうして共に空を泳いでいる。

「ホモデラ居住区、なかなか遠いな。」

「そうだね。飛べてよかった。」


「ヘラクレスのジャンプも異常だがな。」

三人で城から飛び立ったが、ヘラクレスは脚力だけでふたりの後を追う。


東には広大な森林が果てしなく続く。

西には乾燥地帯と、水平線。

その境界の高山地帯に沿って真っ直ぐに北上し、ホモデラ居住区を目指す。


「ムサシ...ありがとう。」

「あ...?」

ミコトの呟きがムサシに届く。


「この前初めて空を飛んだとき...。この世界の姿を見た。美しい光景を。」

「ああ...。」

いかにもミコトが言いそうなことだと思い、ムサシは少し口元を緩める。


「風に乗って、アネモイはどこにだって行ける。僕らは、自由だ。」

「たしかにな。」

ムサシは見慣れた自然の風景を眺める。


この世界はどこまで行っても、緑や砂が続くだけ。

どこかに行きたいと思い目指したことなど、これまであったろうか。


「こんなに広い世界のなかで、ムサシは僕のもとに風を届けに現れた。自由をくれたんだ。」

「自由...なら戦士である必要はない。どこでも行けばいい。」

ミコトは真っすぐ前を見続ける。


「そうだね。...でも僕の自由は、この世界のためにある。」

ムサシはミコトを見つめたまま飛ぶ。


「こうして飛んでいると、この世界の息吹を感じるんだ。世界が呼吸して、風が流れていく。」

ふたりが確かめるように息を吸う。


眼下、高原で騎馬民族がゆっくりと移動している。

色鮮やかな旗が風に靡く。

彼らひとりひとりの息づかい、馬体の躍動が風を介し伝わる。


「この息吹を...守るためなら、僕はどこまでも飛んでいく。」


騎馬民族の子どもが、母親に抱きかかえられる。

子どもが母親の頭にまとわりつくのを、仲間たちが笑顔で見守っていた。


「僕が飛ぶとき、ムサシがいてくれたら、心強い。」

ミコトが一度だけムサシに視線を返す。


「...ムサシはなぜ、助けてくれるんだい?」

「俺は、」


ムサシの風が弱まり、ミコトが先を行く。

ミコトの後ろで尾を引く風が、僅かに温かい。


「俺は―――」



『ムサシ!』

グラントの声がして天を仰ぐと、大きなしずくがムサシの身体を包んだ。


--


グラントの手が、握り返される。

「―――っ!」


ムサシが大きく息を吸い目を覚ました。

「ムサシ!」

リオもグラントも、涙を流す。


ムサシが、そばに寝かせられたアリコンに気づく。

しっかりと手に取ると、胸の奥から力が湧き出るようだった。


「あぁ...!」

胸の黒い粒子を拭うと、傷口が綺麗にふさがっている。


「チビ、お前が、助けてくれたのか。」

グラントの琥珀色の目を、ムサシが真っ直ぐ見つめる。


「...みんなで、ムサシの回復を願った。」

「...そうよ。」


リオが涙を拭くが、同時に敵襲を思い出す。

「...ムサシ、ギラファが...!」


「ヤツめ。」

ムサシは顔色こそ戻っていないものの、機敏に寝床から起き上がる。


素早く剣帯を腰に巻きつけ、外に出る。

「ムサシ...!大丈夫なの?」 

グラントが追いかける。


「叩き起こしといて今更なんだ?」

「気をつけて...。」

ムサシが飛び立ち、リオの髪が風で大きく揺れる。



_______



「こっちじゃ!ほれ!」

傷だらけのビノダロスがギラファを挑発する。


ギラファをジャングルのなかに誘い込み、その桁外れの機動力を削ぐ。

入り乱れる木々をものともせず切り倒していくギラファ。


しかしビノダロスはより深い密林に逃げ込んでいく。なんせ――


「こっちだ!」

ミコトの危険度外視の接近に手を焼く。


ギラファがミコトへの斬撃を意図的に避けていることにビノダロスは気づいていた。

その前提がなければミコトの戦い方は自殺行為に違いない。

ましてやミコトは今アリコンを持っていない。


「――チッ!」

長い髪の間から覗くギラファの目が苛立っている。

不意に上昇気流を起こし、ギラファが木々より高く飛び上がる。


急降下し一直線、ビノダロスを仕留める算段。

気づけばビノダロスも木々に囲まれ脱出口がない。

万事休す――。


「ジャッッ...」

ギラファの剣が、躍り出たミコトの半身を裂く。


「クッッ」

動揺するビノダロスをギラファはすかさず追撃する。

ミコトが血を流し倒れている。


ギラファがビノダロスに、斬り込む。


「カッッ!」


白き角が、凶悪な刃を止めた。

木の葉が一瞬渦を巻く。


「シナト――」


ムサシナタスがアリコンを振るい、ギラファを突き放す。


「ビノじいさん俺の剣を!」

ビノダロスがミコトが持っていた剣を拾い、ムサシに投げ渡す。


「こいつをミコトに!」

ムサシはアリコンを投げ渡した。


剣の交換を待たず、ギラファが迫りくる。

やはり視線はビノダロスに向いている。


ムサシの剣をすり抜けるつもりの凄まじい加速。

「――通さん。」

ムサシは二刀を構えた。


湧き上がる風が、ムサシの両腕に絡みつく。

荒ぶるギラファの長剣と打ち合う。


「じいさん風を預けろ!」

「む...っ!」

ビノダロスが全身を使い煽いだ風が、ムサシの背中を押す。


ムサシの剣さばきが冴え渡る。

アリコンで回復したミコトも、片手を突き出し風を放つ。


ミコトとビノダロスの風がムサシの体表を這い、ギラファの剣撃を受け流す。


「―――イブキ」


ギラファがあらゆる角度から攻撃をしかけ、ムサシを出し抜こうとする。

しかしすぐに不可解な風の流れに気づく。


ムサシの片足に、風が収束していく。

その足が、一歩もその場を離れない。

ギラファの太刀筋も、ムサシの剣の間合いに吸い込まれていく。


「退け...」

連撃をしかけるギラファが呟く。


「そこを退け!」

ギラファが更に加速し、風の衝撃波が後方のミコトにも伝わる。


「ムサシ!」

風を送りながら、ミコトが叫ぶ。


ムサシがギラファの追い込みに食らいつく。

「俺は退かん!こいつらがいる限り!」

ムサシの叫びを聞きミコトが目を見開く


「風の戦士...迷いを払ったか。」

ビノダロスが呟く。


「ギラファ!逃げるなら今のうちだ!」

ムサシの声が風に乗り響く。


「ギラファ!止まれ!」

ミコトも重ねて叫ぶ。


「ギラファ!」


複数の声色が、その名を呼ぶ――


--



「ギラファ!逃げろ!」


「助けてくれ!」


「ギャァアア!!」


密林のそこかしこから響く声が、耳をつんざく。


「こんなはずがない!」


「我らは騎士団最強の...」


「師匠様、私たちは地獄に足を踏み入れ」


血の雨が、土を潤す。


「ギラファお前は...生きろ。」


「裏切り者がいる。」


「ギラファお前が」


騎士の背中を貫通した太い枝が、ギラファに向かって伸びてくる。


「お前がいる限り。私は――」




森も、木も、魔物も、仲間も。


ギラファはその剣で、全てを斬り刻む。

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