第44話 主導
喝采のなか、遠征部隊が城門をくぐっていく。
ギデオンが先頭で拳を突き上げ、民を鼓舞する。
ヘラクレスとビノダロスもギデオンの後ろを歩き、その堂々たる風貌を人々の目に触れさせた。
鎧に傷をつけた戦士たちの迫力に皆が目を丸くする。
ムサシもミコトに促され、馬車の上から民に姿を見せる。
多くの黄色い声援がムサシに届いた。
城のほうから、真っ白な人影が走ってくる。
「グラント!」
グラントはヘラクレスに抱きつこうと手を広げかけたが、人々の視線を感じぎこちなく直立した。
見かねたヘラクレスがグラントに近づき、軽々と持ち上げる。
「お!っと!え?」
動揺するグラントを肩に乗せ、ヘラクレスは行進を続けた。
「かわいー!グラント様!」
「ヘラクレス!こっち向いて!」
民の呼びかけに包まれながら、グラントは嬉しいような情けないような顔をする。
「大層な人気だな!子ども戦士!シュッ!」
ギデオンが上機嫌に揺れながら城門をくぐり抜ける。
人々の活気を目にし、ミコトの顔に笑顔が戻っていた。
ムサシも少し口元を緩め、自身を歓迎する街を眺める。
青空の下、色とりどりの織物が風にたなびく。
くぐりぬけた城門が閉じられるまで、ムサシはただその街の色彩に見とれていた。
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庭園でギデオン部隊と別れ、ミコトたちは五戦士の間へ向かう。
「グラント、すごい人気じゃないか。」
ミコトの声掛けにグラントが得意げな顔をする。
「剣術の実演が好評でな。」
ホミニスが笑顔で出迎えに現れる。
「剣ジュツ...」
ヘラクレスが口をすぼめて感心している。
「やるなチビ。」
ムサシが呟く横で、リオは不満げな顔をしている。
「よかった。みんな、無事で。」
一同が目を合わせ微笑む。
「実演以外には何もなかったかのう?」
ビノダロスが尋ねる。
「あ...ホ」
「ああ!至って平和。この私がしっかりと見守っていたぞ。」
グラントの声をホミニスが遮る。
「ん?グラント、おぬし」
「グラント、父さんとは毎日稽古かい?」
今度はビノダロスの言葉をミコトが遮る。
「...そ、そうだね。今朝も見てもらったよ。」
「そうか。ホミニス。王の間で少しお茶をしないかい?お土産に温泉まんじゅう持ってきた。父さんにも食べさせたい。」
ミコトがホミニスを真っ直ぐ見つめる。
「お、気が利くな!甘いものは好物だ。お父上も喜ぶだろう。」
満面の笑みのホミニスにミコトがうなずく。
「ムサシも来てくれ。」
「わかってる。」
ふたりは小さく声を交わし、ホミニスと共に王の間へと向かう。
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王の間にミコトの声が響く。
「ホモデラ族が襲われている!?」
「落ち着けミコト...!」
フェイフェリスがうろたえる。
グラントが何か言いかけたのを怪しんだミコトが問い詰めると、フェイフェリスがグランディアトールとの面会について明かした。
「たったひとりの、愉快犯の仕業だ。もう確保されているはず。」
ホミニスが淡々と言い放つ。
「ホミニスも、見たでしょ、ヘラクレスの力を。アルテミスも、ニジーロも。部隊を投入しても敵わない敵がこんなにも存在してる。なぜギデオン部隊まで伝令を寄越さない。」
ホミニスは平然と茶をすする。
「ゴロファ殲滅もそうだ。なぜ僕に共有がない?彼らは正当な経緯がある勢力だ。それを国家の一存で抹殺する?それがラーフィール王国のやり方ですか。僕はこんなことをするために、五戦士を引き受けたんじゃない。」
取り乱すミコトをムサシがじっと見る。
「僕らの、ラーフィールの敵は、もっといる。今ラーフィールは危機的状況です。王都で一呼吸置いてる場合じゃない...。」
「ミコトマス、」
ホミニスが口を開く。
「ついこの間までただの“いい人”だったお前が、急に王様気分か?」
ミコトの目が見開かれる。
「たしかに私はお前たちを五戦士に任命した。しかしお前たちが先代のように動けるとは到底思っておらん。
お前たちの動きに関しては私に責任がある。そして、私はその責任のもと、今の五戦士でも国を守れるよう采配をしているんだよ。」
ホミニスがミコトから視線を逸らさず続ける。
「ミコトマスお前は、独断で戦地に赴き、結果ゴロファ族を取り逃がしたな?ムサシナタスお前もだ。
作戦を無視した。結果、正体不明の敵が、なんらかの動機でゴロファを仕留めるのを許している。」
ムサシもホミニスを鋭く睨む。
「お前たちの動きが制御できないことで、次に起きるすべてのことが想定外の事件になってる。
お前たちが温泉旅行してる間に、王都の民が襲われ、殺されたら、どうする?
お前は、癒しの戦士は。どう責任を取れるというんだ?」
ミコトの拳の震えをムサシは感じていた。
フェイフェリスはうつむき黙っている。
「ホモデラ族は...大丈夫だよね?彼らは、この国に必要な部族だ。父さんもかつて必死で守ったはず...」
ミコトは知る限りのホモデラ族の文化に思いを馳せる。
「大丈夫だ。もうじき新たな伝令が入るだろう。」
ホミニスが冷ややかに告げる。
フェイフェリスの声を聞かぬまま、ミコトはムサシを連れ王の間を後にした。
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長く鋭い刃を持つ槍に切り裂かれたホモデラ戦士の死体が、森に点々と転がる。
視界の先に次の獲物を見つけた怪人ネプチューンは一歩でその身を貫く。
移動の衝撃で土が飛び散り、枝が吹き飛んだ。
「その調子ですよ。ネプチューン。」
マンダリンが木の上から声をかける。
「な、なぜだ...シャーマン様が精神の樹海に閉じ込めたはず...!」
戦士が血を吐きながら叫んだが、すぐに毒針が彼にトドメを刺す。
「精神の樹海...?ただの幻覚魔術に大層な意味を持たせるんですねえ。何事も再現性が大切です。」
マンダリンは器用に樹上を移動しながらネプチューンの殺戮を見守る。
見守ると言っても、逃げ遅れたホモデラ族をネプチューンは一方的に始末していくだけだった。
ネプチューンが進む先に、ホモデラの本拠地らしき明かりが見えてくる。
「さあ、片付けて早めに上がりましょう。」
マンダリンがほくそ笑む下で、ネプチューンは表情を変えずに明かりに向かって突き進んでいく。
槍が地面を引きずる音が森に響く。
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「ターーン、ターーン、」
淡い月明かりが差し込むミコトの部屋でムサシが剣を研ぐ。
階段の方から軽快な響きが迫る。
「ターーン、ターーン、ターーン」
「なんだ?この音。」
ムサシが呟く。
ミコトは真紅に輝く鎧を身に纏い、寝台に腰掛けている。
「ターン」
歓迎するように、部屋の入り口を見た。
「ミコト、だいじょぶか。」
巨体が狭そうに部屋の入り口をくぐる。
ムサシが音の正体に気づき表情を変えた。
「ヘラクレス。心配してくれたのか。」
「ミコトが、やろうって時は、わかる。」
ヘラクレスがうなずきながら話す。
「...殺ろうって?」
ムサシが口元を歪める。
「ホモデラ族が気になる。グランディアトールに失望されたままではいられない。」
ミコトが机から大陸の地図を取り出し、ふたりに見せる。
「ここだ。ホモデラ居住区。北北西の果て。スパイダーフォレストと王国の境界を守る。
スパイダーフォレストには入っちゃダメだ。生きて出られない。」
「ワカった。オレ記憶はいい。」
ヘラクレスが頼もしく微笑む。
「ムサシ、一緒に飛んでくれるか?」
ムサシがミコトに視線を返す。
「飛ぶのハマっただろ。」
「ああ。」
ミコトがアリコンを颯爽と手に取る。
三人の戦士はバルコニーに出ると、青く静かな夜空に飛び立った。




