表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
41/72

第40話 漆黒

道場の師範を斬りつけたはずが、突然現れた金髪の大男に殴り飛ばされた。

道場の塀を飛び越え、地面に叩きつけられたラコダールが首を回し意識を正す。


「怪物同士の戦いか。」

そばに落ちていた自身の剣を取り、再び道場の門をくぐる。


戦いの場は道場内に移っていた。

駆け出すラコダールの前に、圧倒的体躯を誇る重戦士ふたりが立ちはだかる。


「昨日はよくも不意打ちしやがったな。シュウ...」

「こやつか、お前を斬りつけたのは。」

ギデオンとビノダロスが構える。


「デカブツが揃っておでましか。探す手間がはぶけたぞ。」

ラコダールが腰に下げたもう一本の剣を抜く。

両手の剣を勢いよく突き出し、平行に構えた。


「二本なら勝てるってか!?シュッ」

ギデオンが踏み込み剣を振る。

ラコダールは容易くかわし、初撃を叩き込む。

ビノダロスが片手の斧で受け、片手で反撃を繰り出す。


ラコダールはふたりのほとんどの斬撃をかわし、時折打ち合い、隙あらば斬り込む。

三人の攻防が拮抗し、太刀筋が複雑に絡まる。



_______



道場の中庭にまでもつれ込んだセアカの戦いが長引いていた。

ムサシが華麗な身のこなしでセアカの嵐のような剣技に食らいつく。

僅かな隙を狙い、ヘラクレスが渾身の一撃を繰り出す。


力も技も、セアカがムサシより一枚うわてだ。

しかし、ヘラクレスの当たれば即死の攻撃に対応するため、あと一歩ムサシを仕留めきれない。


ヘラクレスが体当たりをかわされ、また道場の壁を破壊する。

壁を突き破った先、アマミがポルテリのしなる剣を折り曲げている。


「ク、クソ...!剣が!」

ポルテリが慌てて逃げ出す。


「おい!デカいの!壊しすぎだ!直すの俺らなんだぞ!」

アマミの怒鳴り声にヘラクレスは一瞬顔を向け、すぐにムサシのところに戻る。


ビノダロスとギデオンから逃れたラコダールが道場側に侵入する。

「セアカなにしてる!そいつらはいいから目標に集中しろ。」


セアカがハッとし、ムサシを振り払おうとするが、執拗な追撃を受ける。

師範タカサゴも飛び出し、退路を断つ。


「俺たち相手に、たったふたりは、調子に乗りすぎじゃねえか?シュッシュッ」

ラコダールを追うギデオンがまくしたてる。

「おとなしく降伏するんじゃ...!」


ビノダロスが振るった斧が、ラコダールの左腕を刈り取った。

「ぐわぁっ...。」

ラコダールの手首が地面に落ちる。

悶え下を向くラコダールにギデオンが拘束エンケルを巻き付ける。


「腰抜けめ...!」

囲まれたセアカがムサシたちを睨みつける。


「女を痛めつける趣味はねぇ。武器を捨てろ...シュッ」

「道場の修復に丁度人手が...」

タカサゴが突然前に倒れる。


後頭部から激しく血が湧き出る。

”漆黒“が煙のように出現した。


「ギラファ、目標(ギデオン)を殺るんだ。」

セアカが声をかける。

「敗者は黙レ。」

ギラファは呟くと、音も立てずギデオンに詰め寄る。


ムサシが振るった剣を風と共にすり抜け、何事もなかったようにギラファは進む。

夕刻の影のように長く歪んだ剣がギデオンの胸の装甲を斬り裂く。


「危ねェ!!」

ヒメが装甲内で身体を寄せ、間一髪負傷を免れる。

転がるようにギデオンが後方に滑り込むのをヘラクレスが支える。


「させんぞぉ!」

あの日の惨劇を振り払うように、ビノダロスがギラファに突進する。

今度はセアカが躍り出てそれを阻む。


「ジイさん呼吸だ!風を読め!」

ムサシの声を聞き、ビノダロスは大きく息を吸う。


ムサシとアマミは目を合わせ、ギラファに挑む。

ふたりの完璧に噛み合った連撃が、ギラファと斬り結ぶことを可能にする。


亡霊のようにぼやけていたギラファの輪郭が、ふたりにはハッキリ見えていた。

”漆黒“―ギラファは長大な剣を振る剣士だった。


しかしその間合いには入れず攻めあぐねる。

ギラファの横薙ぎを避けきれず、アマミが脇腹を裂かれる。

うずくまるアマミを横目に、ムサシが完全に劣勢となる。


ギラファは赤い目をゆらゆらと光らせながら、ムサシを着実に追い詰める。

イチかバチか踏み込んだムサシの首に、長剣が迫る。


その一瞬の間、ヘラクレスがギラファをかっ攫っていく。

衝撃波がムサシをも突き飛ばす。



_______



道場のほうから聞こえていた修行者たちの雄叫びが消え、ミコトは不穏な静けさを感じていた。

リオもミコトの不安を察する。


「大丈夫だよね、ムサシ、ヘラクレス、ビノじい、ギデオン...彼らなら...」

「うん...世界最強戦力、のはず。」

ミコトの問いかけに、リオはどう答えるのが正解かわからない。


――遠くで風が、一瞬爆ぜる。


ミコトもリオもそれに気づき、目を見合わせる。

ミコトは小さくうなずくと背中のアリコンを手にし、駆け出した。


風が湯けむりを散らすなか、ミコトが飛び立つ。


ヘラクレスとギラファの戦う姿がすぐにミコトの視界に現れる。

ヘラクレスは腕や胸を何度も斬られながらも、異常な耐久で堪え、ギラファに肉薄する。


しかし有効打を与える隙をギラファは一切見せない。

その上ふたりの戦闘の苛烈さは、他の者が加勢することさえ許さない。


大地がえぐれ、大気が衝撃波を伝える。

「ヘラクレス。止まりなさい。」

七色の光を振りまいて、魔女アルテミスが突如現れる。


ヘラクレスが倒れ、身体を震わせる。

「ヘラクレスがわたくしの手に戻った!ニジーロの魔力強化は見事だな。」

アルテミスがヘラクレスの頭を先が尖った靴で踏みつける。


ミコトがアルテミスに突撃するのを、ギラファが阻む。

ギラファの剣に弾かれるアリコンをミコトは必死に握りしめ離さない。


「なにをしているんですの?ギラファ、アイツを始末しなさい!」

「...」

ギラファがアルテミスに応えない。


ミコトは構わずヘラクレス救出を試みるが、ギラファの剣がそれを許さない。

「お前は...”漆黒“だな!目的を教えろ!」

ミコトが必死にアリコンを振るうが敵うはずはなく、ギラファが颯爽と受け流す。


「コイツの殺害は、許可されていない。」

ギラファがアルテミスの隣で呟くのがミコトにも聞こえた。

ミコトは眉をひそめ、赤く浮かび上がるギラファの瞳を直視する。


ポルテリが現れ、魔術拘束に苦しむヘラクレスを縛りあげた。

ミコトはヘラクレスを救いたい一心でギラファに立ち向かう。


ギラファが長剣を前に構え揺らす。

ミコトは手を伸ばし、刃を素手で掴むことで接近を試みた。


「――っ!」

ギラファが咄嗟に剣を振り払い後退する。

刃が滑り、ミコトの掌から血がしたたる。


「ぐっっ」

ミコトが顔を歪めるが、アリコンを構え直すと出血が収まる。


「...ギラファ!かかってこい!!」

ミコトが叫び、突き進む。


(アリコン...力を貸してくれ...!)


念じた直後、ギラファの斬撃がミコトを襲う。


血を噴き出し、ギラファの足元に倒れかける。


身体が地面につく寸前、一歩踏み出しアリコンを突き上げる。


「――天衝靭」


ギラファの顔にかかった長い髪がバッサリ切れる。

後ろでポルテリが目を丸くする。


ミコトとギラファが、間近で視線を交わす。



_______



鬱蒼とした森で、ミコトがアリコンを構える。

空に赤い月が浮かんでいる。


突然の見慣れぬ景色に、ミコトが周囲を見回す。

「ヘラクレス!ムサシ!」


ムサシが木の陰から現れ、ミコトの足元に倒れた。

背中から胸にかけて、折れた刃が突き刺さっている。

「ムサシ...!なんだ!」


アリコンを差し出すが、ムサシの手に力がない。

「残るのは屍」

ムサシが呟き、瞳孔が開いたまま動かない。


「おい...おい!」

「ミコト...逃げろ...」

ヘラクレスが足を引きずりやってくる。


「何があった。」

膝をついたヘラクレスが頭を垂れる。


ヘラクレスが口を開けると、小さな蜘蛛が湧き出てくる。

やがて口から数本の木の枝が伸び、地面に突き刺さる。

ヘラクレスの身体が、次第に土に埋もれていく。


「ヘラクレス!しっかりしろ!」

ミコトが枝を引っ張るがびくともせず、ヘラクレスを更に地中に引き込む。


不意に大きな手がミコトの肩に置かれる。

「ミコト...!生きていたか、よかった...」

ビノダロスが微笑む。


「さあ、頼むこの斧で、ワシの喉を裂いてくれ。自分ではどうも難しい。」

ビノダロスが血だらけの自身の喉元を指差す。


「グラントの力では、できなかったんじゃ...。ミコトお前なら、できるじゃろ。」

ミコトは戦慄し、駆け出す。


「どこにも、逃げ場所など、ないぞー。」

ビノダロスの声が遠ざかる。


ミコトが走る先、絡まる枝の隙間から、わずかな光が洩れている。

近づいていくと、竹とんぼの光りだとわかる。


リオが竹とんぼを手に持ち光らせていた。

青白く浮かび上がる顔に焦点の合わない目が張り付いている。


「ミコト...もう...手遅れ」

「リオ!」

ミコトが叫ぶと木々がうねりはじめる。


嵐が訪れ、大木が根こそぎ宙に飛ばされていく。

枝葉と石がミコトを傷つけながら視界の外に流れ去る。


気づけば森が消え、ミコトは荒れた大地に取り残された。


大きな影が音もなく迫ってくる。

ミコトが顔を上げると、影のなかに開いた穴が揺れ動く。


「見つけたぞ、アネモイ。」


声色からどこか懐かしい響きを感じる。


「さあ、帰り――」


言葉の途中、ミコトの右胸に鋭い痛みが走る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ