表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
40/72

第39話 総力

ムサシが畳の間で師範タカサゴと向かい合い座る。

「ムサシ。」

タカサゴが弟子の名前を呟き、それを見つめる。


「師範。“念”がなにかわかりますか。俺の剣に、ないものらしい。」

「念か...。簡単に、答えることはできないな。」

沈黙がふたりを包む。


「このままでは俺はなにも、斬れなくなる。」

「それも、お前の選択だ。恥じることではない。」

ムサシが大きく息を吸い目を閉じる。


「お前が五戦士となったことで、街は活気を取り戻した。新しくやってきた王国の兵士たちは、誠実だ。彼らのほどこしで皆、暮らしに余裕が生まれた。」

そんなことはムサシが求めていない話題だった。


「王国に一矢報いるため、俺は剣を授かった。だが今は王国の犬となり、剣を振るっている。“念”のない剣が、意志ある者を、簡単に斬り捨てている...」

ムサシはこの道場で、復讐のためだけに剣を磨いた。


かつてのムサシからは考えられない言葉に、タカサゴはハッとする。

「あの王子。ミコトだったか。お前が風を渡したんだな。彼の存在が、お前を変えた。」

「...斬れなければ、俺は不要だ。」

ムサシがおもむろに立ち上がり、背を向ける。


「ワシは、心を繋げることを恐れた。それが、悲劇を生んだ。ムサシ、今更お前にかけてやれる言葉など、ワシにはない...。」

ムサシの呼吸の震えがタカサゴにも伝わる。


「共感は、風使いの根源...だがそれは時に、苦痛をもたらす。剣がなくとも、お前はお前だ。いつでも、帰ってくる場所はある。ムサシナタス。」

ムサシはうつむき、畳の間から出ていく。



_______



身体を火照らせたふたりの少女が温泉街を歩く。

「あー気持ちよかった!本物の温泉なんてなかなか体験できないものね。」

「おう、これであと5年は風呂抜きで大丈夫だ。」

あどけない顔でヒメが言った台詞にリオが蒼白する。


「汚くねぇからな!?常に魔術で衛生を保ってる。」

「そ、そういう問題...?」

リオが目を細める。

しかしこの少女が確かにギデオン将軍であるという事実は未だ信じがたい。


「チクショウ!落ち着かん。なんで鎧を持ってこなかった!」

「ごめん、でもさすがにあの重い鎧をアラシに運ばせるのは動物虐待だわ...」

ヒメが腕を組みしかめっ面をする。


「...だが、ありがとな。お前のおかげで、命が助かった。俺様、ギデオンの名に、傷がつくところだった。リオ、礼を言う。」

リオは微笑み、小さなヒメの頭に手を置いた。


「私が来る前のケブセスの処置がなければ、危なかった。ミコトとムサシも、必死に戦ってくれたそうよ。彼らにも、伝えてあげて。」

「...」


ヒメが一瞬下を向き、すぐにリオの手を払いのける。

「触んじゃねぇ!この借りは必ず返す!俺様は常に助ける側だ!」

手足を大きく振り、わざと足音を立てて進むヒメの小さな背中を見て、リオが微笑む。



_______



「師範!剣を持った怪しい三人が、師範に会わせろと門の前に来てます!」

タカサゴの稽古に参加していたミコトが、不穏な報告に身構える。

「師範。応じてはいけません。」

アマミが口を出す。


「僕らを追ってきたんだ...僕も行きます。」

「ミコト、大丈夫だ。上手くやり過ごす。仲間たちと奥に隠れていなさい。」

タカサゴの指示を受け、ミコトがリオたちがいる部屋へと向かう。

「俺らが同行します。」

ハチとアマミが名乗り出る。


門の前に、ラコダール、セアカ、ポルテリがたたずむ。

「なんの用かな?剣士なら手が足りておる。」

タカサゴが毅然とした態度で話す。


「師範殿、我ら怪しい者ではない。仕事をしにきただけだ。背中を切り裂かれ、この街に逃げ込んだ細身の男はいなかったか?用があるのはそいつだけだ。」

ラコダールがタカサゴの後方、道場内を見渡しながら問う。


「手負いの男...さて。聞いとらんな。温泉街の住人はやっかい者に敏感でな。

情報はすぐに回る。もしそのような男が来たら、おヌシらに一報入れよう。」


セアカが衝動的に一歩踏み込む。

「わずらわしい!そこをどきな!」

「ムサシナタスも、来てるだろ。」

ポルテリが追い打ちをかけ、剣に手をかける。


突然バチンと、なにかが弾けた音がする。

アマミが一瞬で、ポルテリの剣の柄を断ち斬った。


「どいつもこいつも、ムサシムサシってよ!」

次の瞬間そこにいる全員が同時に剣を抜いた。


六本の剣を打ち合わせる音が響く。

それまでの穏やかさが嘘のように、タカサゴが激しく剣を走らせる。

「ギャァ」

セアカのうねった剣がハチの胸をえぐる。

「ハチ!!」


アマミが顔を歪める。

三人から猛攻を受け、タカサゴとともに道場側に押される。

修行者たちが道場から飛び出し、加勢する。

しかしひとり、またひとりと簡単に斬り捨てられていく。


戦場の真ん中に突き刺さるように、ムサシが突風とともに現れる。

「ムサシ!決着をつけるぞ!」

ポルテリが(たけ)る。


「アマミ、任せる!」

ムサシはそう叫ぶとポルテリを無視し、修行者を蹴散らすセアカに接近する。

「シナト!」


ムサシの渾身の居合をセアカが軽く受ける。

「技を叫ぶなんて、シャレてるね。」

ムサシが呼吸を解放し、神速の連撃を繰り出す。

セアカは涼しい顔でそれを打ち消す。


「白い棒の彼が足を引っ張ってたのね、ひとりならなかなかやるじゃない。」

ミコトを揶揄され、ムサシの斬撃に力が入る。 


己の全力を軽く流す強敵セアカに、ムサシはむしろ安心を覚えた。

「俺は、剣士だ。」

ムサシが小さく呟く。


--


「ガキッッ」

ラコダールの強烈な一撃に、タカサゴの剣が弾かれる。

ラコダールは反転し、タカサゴにトドメを繰り出す。


タカサゴの剣を空中で掴む大きな手。

「――ギャン」


ヘラクレスがラコダールの斬撃を受け止める。

不意を突いたヘラクレスの拳が命中し、ラコダールは人形のように軽く吹き飛んでいく。


「ラコダール!?」

セアカが動揺する。

「よそ見するな。」

ムサシが追い込みをかける。


対処するセアカに、ヘラクレスが突っ込んでくる。

すれすれでかわし、汗を散らす。

勢いのまま、ヘラクレスは壁に激突し道場の一角が崩壊する。

瓦礫をかきわけ、ヘラクレスがもう一度姿を現した。


「なんだ、こいつは。」

セアカが眉をひそめ呟く。

「ムサシ、休んデろ。」

「ヤツを仕留めたらな。」

ムサシがヘラクレスと視線を交わす。



_______



切り裂かれた鎧を手に、ビノダロスが立ち尽くす。

「この娘が、ギデオンじゃと!?」

「うるせぇ。早く鎧を寄こせ。」


ビノダロスが床に置いた鎧のなかに、ヒメが素早く潜り込む。

魔術を使い、内側から亀裂を修復していく。


「よーぉっし!ギデオン様の復活だ。シューーウッ!」

ギデオンが大きく息を吐く。

ケブセスが少しだけ微笑む。


「ヤツら何故か、ギデオンだけを狙ってる。前はふたりで来た敵が、今は三人でやってきたらしい。」

ミコトの報告を聞きリオの表情が曇る。

「刺客はまだ増える可能性があるということじゃな。」

ビノダロスの険しい顔を見て、ギデオンが口を開く。


「俺に逃げろって言うつもりか?逃げる場所など、ないぞ。こうしてる間に、道場のヤツらがやられていく。ここは総力で、迎え撃つべきだ。」

ミコトとリオの不安な表情を、鎧の奥のヒメが感じる。

「そんな顔、してる場合か!第一俺様は、国軍の最高司令官だぞ!?これは、命令だ!ギデオン将軍に従えぇい!」


ビノダロスが背負っていた二本の武骨な斧を持ち出し、刃を露わにする。

「私とミコトは、街の人が巻き込まれないように、なるべく離れた場所に避難させるわ。」

リオがミコトに目配せする。

ミコトは手に持ったアリコンを一度見て、リオにうなずいた。


「私は現地部隊を指揮し増援と住民保護に運用を。」

ケブセスの肩にギデオンが手を置き信頼を表す。

すぐにケブセスは任務を開始すべくその場を去る。


「ビノダロス!ヤツらの剣は魔術装甲を容易く斬り裂く。反応が遅れたらあの世行きだぜ!シュッシュッ」

「お互い辛いのう。背中を任せるぞ将軍。」

「おうよ。」

ギデオンとビノダロスが腕の装甲を打ち合わせ、戦場へと歩き出す。


「合図をくれたら僕も飛んでいく。くれぐれも、無理はしないで!」

ミコトが声を張る。


「絶対来るなってとき合図するから馬で必死に逃げろ!!シュッ」

ギデオンが剣を振りながら叫び返した。


ミコトとリオが湯けむりが舞う街に向かっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ