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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
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第36話 原点

「こりゃヒデぇ...。」

霧が立ち込める岩山の斜面でギデオンがゴロファの死体を眺める。


「ゴロファ以外の痕跡、剣を打ち合わせた跡もない。一方的な斬殺だ。」

ケブセスが淡々と状況を伝える。


ビノダロスが手で口を覆い、険しい表情をする。

「これは...あの“漆黒”の仕業じゃ...」

ビノダロスがあの悪夢のような一日を思い出す。

五戦士3人が、いとも簡単に斬り殺された。

傷跡が疼き、ビノダロスが肩に手を当てる。


「痛むのかい?ビノじい。」

ミコトが歩み寄り尋ねる。

「...いや、なんともない。ただヤツの狙いが、見えんのじゃ。五戦士を崩壊させ、ゴロファ族を襲う。一見真逆の行動に見える。一貫した目的があるとしたら、それは果たして...」

「“漆黒”の力...ビノじいの報告聞いたよ。」


考え込むビノダロスを見て、ミコトが言及を忍んでいた“漆黒”について触れる。

「ああ、ヤツの力は、一切の魔力を伴わぬものだった。もっとも魔術師であれば、ワシら五戦士が対応できないはずがない。そしてワシだけが、ヤツの攻撃をすんでのところで躱すことができた。ヤツは...」

「アネモイだね...。」


岩山の風は冷たく吹きつける。

「さあ、王都に戻るぞ。シュッシュッ」

「そのことなんだけど...」

やってきたギデオンにミコトが切り出す。



_______



「シュッシュッ」

ギデオンが呼吸を弾ませ山を登る。

「ずっと重い兜かぶって、苦しくないの?」

斜面を進みながらミコトがギデオンに問いかけるが、答えがない。


「ギデオン将軍は、花粉症なんです。兜がないと、鼻水が止まらないそうで...」

ケブセスが説明する。

「余計なことを言うな!シュッシュッ」

ギデオンは疲れる様子もなく、足を動かし続ける。


「将軍が護衛とは、贅沢なもんだ。」

ムサシが不満げに呟く。

「ホミニスじじいの命令だ。風の戦士をしっかり守れとよ。過保護なジイさんは困るよなぁ!シュッ!」


ホミニスが兵を入れ替えたという故郷の状況が、ムサシは気がかりだった。

南方地帯からであれば、ムサシの故郷は王都よりずっと近い。


アネモイと思われる“漆黒”についてなにか手がかりが掴める可能性を訴え、ギデオンとケブセスの同行を伴って帰郷が実現した。

ムサシは突如生まれた剣の迷いを、故郷に戻ることで振り払いたかった。


剣を振るい、風とひとつになること。

ムサシが母を思い出す唯一の行動となっていたはずだった。

斜面を進むムサシの左手で、竹とんぼが回る。


「こんな険しい道の先に、故郷があるって!?」

ギデオンは気が立っている。

「そうだ。」

今にも崩れ落ちそうな崖や、細い獣道、鋭く尖った岩場と厳しい環境が延々と続く。


「肉食獣に気をつけろよ。」

ムサシが脅かすが、ギデオンの鎧が獣の牙でどうにかなるとは思えない。

「ナメんなよ俺様の魔術装甲。シュッ!」

ギデオンが胸を叩きゴンゴンと鳴らす。


「魔術装甲は、着用者が持つ魔力によって強度が変化する。ギデオン将軍の鎧は、ビノダロスの次に硬いと言われてますからね。」

ケブセスが丁寧に説明するのを聞き、ムサシが感心したような顔をする。


「俺とミコトは、丸裸だな。」

「まあそういうことだね...。」

ミコトが猛獣を警戒し目を見張る。


「「――!!」」


ミコトとムサシが風の乱れを感じ、目を合わせる。

「来る。」

ムサシが呟き、ギデオンが注意を向ける。

「あ!?なんも来ね―」


ギデオンの装甲に、亀裂が走る。

暴風を伴う斬撃だった。

ケブセスが吹き飛ばされる。


倒れたギデオンの鎧の裂け目から血がしたたる。

「ミコトぉ!」

ムサシが剣を抜くと同時にミコトも担いでいたアリコンを構える。


剣士がふたり、ミコトとムサシの前に立ちはだかる。

黄色と黒の派手な装甲を纏う男は、猛獣のような黄色の瞳を冷たく光らせている。

隣はところどころに赤い花びら模様を施した黒装束を纏う、屈強な女であった。


「ギデオンになにをする!武器を捨てろ!」

ミコトがアリコンを突き出し、叫ぶ。

剣士たちが怪しく微笑み、剣を構えた。


「話は通じないか。いくぞミコト。」

「ああ。シュウ!」

「ソク!」


ミコトとムサシが互いの風をぶつけ合い、ひとつの流れとなり剣士たちにまとわりつく。

剣士たちがシュウソクの連撃をひとつずつ剣で受ける。


「ペース上げるか!?」

「まだまだ余裕だ!」


シュウソクの風が勢いを増す。

剣士たちは繰り出される斬撃に巧みについていく。

「ラコダール。そろそろ飽きたでしょ。」

「気が短いぞ。セアカ。」

剣士たちが呟いた次の瞬間、シュウソクが斬り払われミコトとムサシが後ろに飛ばされる。


「うわ!」

背中を強く打った衝撃でミコトが呼吸を奪われそうになるが、アリコンを握ると呼吸が楽になる。

ムサシはうまく受け身を取り、敵を睨みつける。


「なーんだ、こっちの世界にも風使いがいるんじゃない。ボットが言うには原始的な魔術文明って話だったけど。」

「セアカ、ちょっと黙れ。俺たちの仕事はもう終わった。退散するぞ。」


会話の不可解さに気づき、ミコトとムサシは耳をそばだてる。

「ラコダールぅ、初任務がこれだけ?あくびが出るわ。ターゲットが死んだかだけ、確認しましょう。」

「そうだな。首を持ち帰ろう。」

ラコダール、セアカがもう一度ギデオンに迫るのを、ミコトとムサシが迎え撃つ。


「もう少し頑張りなさい。」

セアカが呟くと、ラコダールがそれに応えるように踏み込む。

セアカとラコダールの連撃が、ミコトたちを襲う。

ほとんどを後退してかわすしかない凄まじい斬撃。

シュウソクも意味をなさない。それを遥かに上回る連携は、迫りくる竜巻の如くふたりを圧倒した。


再び弾き飛ばされ、ミコトが身を震わせる。

「原始的な文明には変わりないわ。」

セアカが落胆の表情をする。

「殺してやってもいいが。」

ラコダールはそう言うと、斜面上部に目をやった。


「セアカ!」

局所的な土砂崩れがラコダールたちを襲う。

ふたりは押し流され、その場から消え去った。


「なんなんだ...?」

ミコトは目を見開き、すぐにギデオンのほうに駆け寄る。

ケブセスが鎧の裂け目にエンケルを差し込み、治癒魔術をかけている。

エンケルの脈動から、息があることがわかる。


「大丈夫なのか...!?早く兜をとってやって...」

「グォォ、グォォ」

変わった獣の鳴き声が聞こえ、山道の向こうにリオの姿が見える。

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