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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
35/73

第34話 天衝靭

何度か墜落しかけた。

しかしこのアリコンという剣は、ミコトの意志に即座に反応し風を引きつける。


アリコンの先端が指す方向に絶え間なく風が流れる。

ミコトは身体をまっすぐ伸ばし、その風に身を委ねた。


「シューー。」

呼吸にも意識を分け、口の周りの気流を緩やかに保つ。

呼吸の安定に連動して、飛行速度が保たれる。


だんだんと余裕が生まれ、ミコトは眼下の大地を見渡す。

地図で見たとおりの地形、街を目にする。

アリコンをわずかに傾け、進行方向を微修整する。


遠くに連なる羊雲が、切れ間から洩れる黄金色の太陽光の筋を細めたり、広げたり、複雑に操っている。

その美しさからか、こぼれた涙が数滴地上に落ちていく。


アリコンに感謝の念を覚え、ミコトはもう一度しっかりと、柄を握る。

骨折していたことが嘘のように、腕が軽い。

時折右手、左手と持ち替えながら、確実にムサシたちがいる南方に近づいていく。


途中でコンドルと並走した。

コンドルは当然無表情で、やがて森に降下していく。


川で水を飲む鹿の群れ、農作業をする人々。

果てしない草原の真ん中ぽつんと、牛を引く商人。

ミコトの愛する世界は確かに息をしている。


空を飛び、城にやってきたムサシは、この景色を見続けて来たのかと考えを巡らせる。

あのときのムサシの目には、美しく映らなかったかもしれない。

任務が落ち着いたら、またムサシとふたりで空に出ようとミコトは思った。


「コゥゥン!」

目的地が迫る頃、独特な響きが竹林から聞こえる。

ミコトは竹林の縁をなぞるように大きく旋回し、様子を伺う。

数名のゴロファ族が竹に登り、なにやら細かい動きを繰り返している。



_______



「タンキンがやられた!」

「なんだと!?」

「コゥゥン!」

犠牲者の容態確認もままならず、次々に仲間が倒れていく。


散り散りに逃げるしかないという判断を皆ができずにいた。

ここで戦士たちが逃げれば、まだ生存している兵たちを見捨てることになる。


「将軍...!我々は、覚悟できてます!逃げてください!」

兵のひとりが震えながら叫ぶ。

ギデオンが兜にがっちりと守られた頭を抱える。


「おわっ!」

つい先ほど声を上げた兵士が死ぬ。

ギデオンが兜を傾けたとき、竹林を突風が駆け抜けた。


「ヘラクレス!!地面に手を突っ込んで、竹の根を引っ張り出せ!!」

上空を通り過ぎるミコトの叫び声。


「ミコト!ワカった。」

ヘラクレスが両手で地面を突き、手首を少し回すと竹の根に触れる。

それを掴み、空に向かって豪快に引きずり上げた。


「バギバギバギバキバギ!」


けたたましい破壊音とともに竹林一帯が掘り起こされる。

戦士たちが飛び交う竹の破片を払いながら、兵を保護する。


ミコトが戻り、数を減らした部隊の前に風と共に降り立つ。

しっかりと着地し、アリコンを下ろすと上昇気流が止む。


「兵たちが...」

ミコトが倒れた多くの兵たちに目を向ける。

「まだ息がある者もおるぞ!武術攻撃の痛みで気絶しているだけじゃ!」

ビノダロスが叫ぶ。


「なんだったんだありゃ!シュッシュッ」

ギデオンがミコトに詰め寄る。


「竹の根を伝い武術攻撃を当てていたんだ。空から見て、攻撃の主を発見した。」

「そうか。竹の根が全て地中で繋がっているのを利用した魔粒子攻撃じゃったか...!」

「ヤツらこの竹林に潜んでやがったかァ!追撃だ!」

ミコトがゴロファを見た方角に戦士たちを導く。


「相当練習したろ。腕は平気なのか。」

走りながらムサシが話しかける。

「...え?センスさ。腕も頑丈。」

ミコトの軽口にムサシが頬を緩め、一瞬視線を交わす。


林の奥に、オレンジの装甲が見える。

「待てゴロファァ!シュー!」

竹を大きく曲げた先端にロープで身体をくくりつけている。


剣で足元の留め具を切ると、竹がまっすぐ戻る反動で、ゴロファたちの身体が勢いよく空に投げ出された。

「無茶なヤツらじゃ!」

ミコトが走る勢いのまま前方にアリコンを突き出し、風に乗り飛び立つ。


「ヘラクレス、ここにいろ!」

そう言ったムサシもミコトの後を追い飛び立つ。

風の残滓と共にヘラクレスたちがその場に残される。


「行っちまいやがった。シュ...」

「無茶なヤツらじゃ...。」

「...」

ヘラクレスはミコトとムサシが飛んで行ったほうを見つめていた。



_______



落下傘(パラシュート)を開き、地面に向かう。

竹林の罠が破られたのはまさに想定外だったが、入念な脱出準備が功を奏した。


「ペラゴン!アネモイが来てる!」

スパサの声で振り返ると、ふたりの追っ手が一直線に飛んでくる。

「信じられん...。スパサ!お前は先へ行け!ポルテリ!」

ペラゴンの呼びかけにポルテリが奮い立ち視線を返す。


「剣士は任せたぞ!」

ポルテリが剣を抜く。

スパサが少数の部下を連れ、森に逃げ込んだ。


「さあ来い、風の戦士!」

ポルテリが叫ぶと、低空飛行のままムサシが突っ込んでくる。

「ヨシ望むところだァ!!」

ムサシとポルテリの剣が打ち合わされ、再戦がはじまる。


その後方、丸腰のペラゴンが落ち着いた様子でミコトの到着を待つ。

ミコトは一度高く飛び上がり、アリコンを掲げたままゆっくりと地表に降り立った。


「天を...衝く刃。タテヅノを突き上げるその姿。まさに我らの意志を体現しておる。」

ペラゴンが自身の兜を両手でさすり、頭頂の突起を確かめる。

ミコトがまっすぐその様子を見つめる。


「お前は、一角の...アネモイといったところか。」

陶酔した様子でペラゴンが告げる。

「私は、ゴロファ族の声を聞きに来ただけだ。」


「ゴロファの声。」

ペラゴンが目を見張る。

「ああ。聞かせてくれ。互いに犠牲を出さず、生きる道を探したい。」

ミコトが芯のある声で問いかける。


「犠牲を出さず...だと。では聞かせてやろう。我らゴロファの声...悲嘆に暮れる叫びをな!」

ペラゴンが突きを繰り出す。


ミコトは咄嗟にアリコンを振り、それを払う。

「お前は所詮、我々を虐げてきた、王国に過ぎない!同胞が受けた500年の痛みが、この拳を伝いお前に返される!」

ペラゴンの強く靭やかな連撃が、ミコトに絶え間なく襲いかかる。


すれすれでかわし、アリコンで受ける。

刃のないアリコンを振るっても、ペラゴンの体術にいなされ、間合いを詰められる。


ミコトは少しずつ後退するほかなかった。

「全く、対応できんだろう。これがゴロファ武術!」

ミコトが形勢を逆転させようと、大きく息を吸う。


「深呼吸してる場合か!?あいにくだが、終わりだ。我が痛みを食らえ。」

ペラゴンの拳が一瞬地面を擦る。


「――奥義・天衝靭(テンショウジン)


ペラゴンの固い拳が、ミコトのみぞおちを突き上げた。

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