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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
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第31話 作戦

王の間はメルヘト城最上部、ミコトの部屋とは逆側にある。

街の様子が伺えない位置である。

ミコトはグラントを連れ、王の間に続く階段を登る。


「王の間なんて、ボクが行っていいもんなのか...」

「いいんだよ。それにグラントは、五戦士だろ。」

からかうミコトをグラントが睨む。

「そもそもフェイフェリス王って、ぜんぜん出てこないじゃん。よっぽど偉大で、強く厳しい王様なんだろ...ヤバいやっぱ帰ろうかな...」

「もう、せっかくこんな長い階段登ったんだから、会っておこう。大人しく立ってればいいだけだからさ。」


慌ただしい地上階から遠ざかるにつれて、ふたりの足音の響きが鮮明になる。

やがて王の間の入口が見えると、扉が不用意に開いている。

「誰か来てたのかな。」

ミコトがそっと扉に手をかけ、中に入る。


グラントがミコトの後ろに身構え、目を見張る。

最高級の織物がふんだんに配置され、重厚な空間を演出している。

色合いはブラウンを基調に落ち着いており、美の戦士の間のように華美ではない。

隅に美術品や骨董品が数点並び、その輝きから手入れが行き届いていることが伺える。


「父さん。いますか。」

ミコトが声をかけながら進む。

玉座の後壁に意味ありげに飾られている、白い骨のような長物が目を引く。

左奥に寝室への入口があり、ミコトはためらいなくそこを通り抜けた。


「だいじょうぶなのー...?」

グラントがささやきながらついてくる。

広い寝室にはさらに多くの物品が乱雑に置かれている。

こちらは長らく放置されてるであろう物が多い。


先程と打って変わって薄暗く湿っぽい空気にグラントの身体がこわばる。

「庭にいるのかな。」

ミコトがどんどん奥に進んでいく。


「ちょっと待って!」

室内を観察していて少し出遅れたグラントが慌てて動き出す。


「!」


頭蓋骨がグラントの前に現れる。

目の奥の闇がグラントの魂を吸うような、恐ろしい顔。


「え!?」

ミコトが振り返ると、フェイフェリスがお面をつけてかがんでいる後ろ姿が見えた。

「父さん...」

グラントが涙目で腰を抜かしている。


--


「いやあ悪かった。」

王の間に併設された空中庭園に、三人が腰を下ろす。

フェイフェリスがガイコツの面を片手に笑っている。


「そんなに驚かせるとは。初対面で失礼な真似をすまない。」

無精髭を生やしたこの国の王は、よく街にいるような中年男性といった印象だった。

グラントは納得いかない様子で口を結んでいる。


「ついつい、ミコトの小さい頃を思い出してしまってな。君はもうすぐ10歳くらいか?」

幼い頃お面遊びした記憶は、ミコトには一切なかった。


「もう13歳です!」

「!」

グラントの年齢を聞き、ミコトが固まる。

と同時に誰が見ても10歳くらいに見えているはずだと、ミコトは心のなかで言い聞かせた。


「だがその年で五戦士とは、ホミニスも思い切ったな...。」

「相談はなかったの?」

ミコトがフェイフェリスに尋ねる。


「もちろんあったよ。でもホミニスが考えることだから。きっと勝算があるんだろう。“あの事件”の直後で再編を急ぐ気持ちもわかる...。」

“漆黒”襲撃時フェイフェリスは舞台裏にいて、異変に気づき参戦したときには既に戦士三人が殺されていた。

ミコトもギデオンからその状況について聞いている。

フェイフェリスの遠くを見る目は、ミコトにこれ以上の追及を躊躇(ためら)わせた。


「父さんだから話すけど、実は、僕らは五戦士任命についてなにも聞かされてなかったんだ。民の目があったから拒むことはできなかったけど、さすがに今回のホミニスやりかたは強引すぎる。ニジーロのことといい、最近のラーフィールはおかしい。」

「アネモイも飛んで出るしな。」

フェイフェリスが呟いた言葉にミコトはハっとする。


「...父さんからホミニスに、なんとか腰を据えて話し合える場を...」

「すまん...。俺が不甲斐ないばかりに、お前をそんな追い詰めてしまい...。」

フェイフェリスが頭を抱える。


「ホミニスには、しっかりと説明の場を設けるよう言っておく。お前らが余計な心配をせず、戦いに集中できる体制を整えるよ。」

グラントがぽかんとした顔をしている。

「ち、違くて、そもそも僕ら、戦士と呼べるような者じゃないんだ。」

ミコトが慌てて訂正する。

「なんだって。」


フェイフェリスが眉をひそめグラントを見ると、激しくうなずいている。

「旅のなりゆきで出会って、ともにニジーロをやっつけたけど、誰も戦いは望んでない。元々ホミニスは治癒魔術師のリオを美の戦士にしようとしてたし。」


「ああ、治癒士の存在は聞いた気がする。...滅茶苦茶な話ってことはわかった。それ含めて、ちゃんと話し合おう。ただ、自分の身くらいは守れるんだろうな?冷静に考えて今はかなり、危険な状態だと思う。」

フェイフェリスの顔が真剣になり、グラントが蒼白する。


「そのとおりだね...グラントは、特に危険だ。」

ふたりの視線がグラントに集まる。

「戦士じゃないって言ったな。」

「これっぽっちも、アリんこ一匹分も、問答無用で戦士じゃないです...!」

グラントが怯えて呟く。


「わかった彼は俺が預かる。今回の詫びと言ってはなんだが。グラントくんに剣の稽古をつけよう。自力で逃げられるくらいにはしてやれる。」

フェイフェリスの急な提案に、ミコトとグラントが視線を交わす。

「グラント、僕の父だ。信用していい。得た力はきっと、役に立つはすだ。」

「...う、うん。」

グラントがうなずくが、自信なさげに話しはじめる。


「ボク、この前リオに魔術を習おうとしたんだけど、控えめに言ってセンス皆無って言われました...大丈夫でしょうか...。」

魂の抜けたグラントの顔を見てふたりは返答に困る。

「だ、大丈夫だ。実は俺も、最初魔術がからっきしダメでな。消去法で剣を選んだんだ。」


「そうなのか。」

フェイフェリスの魔剣はラーフィール史上最強と言われることもある。

剣で凄まじい魔力を引き出せる父でさえも、魔術が苦手だったと知り、ミコトはフェイフェリスに親近感を覚えた。


「よろしくお願いします...!」

グラントが立ち上がり丁寧に頭を下げる。

「お、じゃあ明日から特訓だ!おー!」

「おー!」

「僕も顔出すよ。」

フェイフェリスの真似をし子どものように拳を突き上げるグラント。

ミコトも腕を上げかけたが、骨折がわずかに痛み引っ込めた。



_______



南方への移動は速やかだった。

国道の整備は遠方まで行き届いており、道中の拠点に乗り替えの馬が潤沢に用意されている。

三人で旅をしていたときと段違いの進みの早さにムサシは感心した。

ギデオンは相変わらず常に顔を覆っているが、自軍の機動力に鼻高々なのが耳障りな呼吸音から伺える。


あっという間に、作戦拠点にたどり着く。

小さいが堅牢な要塞で監視の兵が異様に多い。

治安が悪化する南方から中央に人が流れるのを阻む効果があるらしい。

時を待たずして、作戦会議が始まる。


「南方部隊のタンキンです。今回は五戦士の協力を、感謝します。」

部隊長タンキンが見た目に似合わず丁寧な挨拶をする。

浅黒い強面(こわもて)に刻まれているのが深いシワかなのか傷跡なのか判別がつかない。


「ゴロファ武術会の幹部がここ一帯のスラム内に潜伏している。肝心の居場所は、何棟かに絞れてはいるんだが、なんせヤツら個の戦闘力が高くうかつに接近できない。これまで潜入した優秀な兵士が何人も犠牲となっている。」

皆表情を変えずタンキンの話を聞いている。

「本作戦では、武術会のアジトとして最有力な三棟に同時に潜入する。一班、ビノダロスとヘラクレス。二班、ギデオン将軍とケブセス。三班、ムサシナタスと私だ。」


集まる視線に応え、ケブセスが口を開く。

「一定強度以上の魔術装甲があれば、ゴロファ武術は無効化できます。ここにいる皆様であれば、少数潜入でも問題ないはずです。」

「そうだァ!ケブセスは俺の右腕。身体は小さいが近接戦闘はトラプス軍でも一二を争う。」


「身体は小さいは余計です。」

「おぉ、すまんすまん!」

ケブセスは涼しい顔で淡々と話す。

トラプス兵に珍しく鼠色(ねずみいろ)の鎧が磨き抜かれている。


「ドレを、殴る?」

眉間にシワを寄せたヘラクレスが声を出す。

「隠れながらの、任務だ。戦うときはワシが合図する。」

ビノダロスがヘラクレスに語りかける。

ヘラクレスは相変わらず難しそうな顔をしている。


「随分コソコソした任務だな。これが五戦士か。」

黙っていたムサシがビノダロスに問いかける。

「そうじゃ。見た目より地味。」

協力任務に煩わしさを覚えつつ、ムサシがうなずく。


「幹部を発見したら、ひとりが監視、ひとりが他班に召集をかける。他班到着後、突入する!」

「は!」

タンキンの号令にギデオンとケブセスが声を上げる。

「では、参るぞ!」


ギデオンたちが勢いよく飛び出し、ビノダロス、ヘラクレスと続く。

「行きましょう。風の戦士ムサシナタス。」

タンキンの声掛けで、ムサシが歩き出す。


--


草木が生い茂るスラム街の、ありふれた住居。 

細い木材を束ねた壁の隙間からムサシが覗くと、ゴロファらしき男たちが見える。

天井が無駄に高く、二階をぶち抜いた痕跡がある。


どうやらムサシ・タンキン班の潜入先が武術会のアジトらしい。

全部で九人。なにか話し合っているが、内容は聞き取れない。

ひとりは離れて座り、ひとりは剣の型らしき動きを繰り返している。


皆鮮やかなオレンジの鎧を纏い、軍から追われているにしては派手すぎるとムサシは思った。

肩の防具には天に向けられた剣“天衝刃”の紋様が刻まれている。


「他の班に知らせる。監視を頼みますぞ。」

タンキンが言い残しその場を去る。

ムサシは剣の柄に手をかけた。

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