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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
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第30話 任務

「何を偉そうに語っている。マンダリン。」

マンダリンが振り返る闇の奥で、影がうごめく。

蝋燭が順番に火を灯すと、引き締まった顔に鋭い眼光を持つ青年の姿を照らした。


「ディディエール卿...いらしたのですね...」

マンダリンが顔を引きつらせる。

「森の中を裸で逃げ惑っているのを拾ってやったら、もうジュラヴの幹部気取りか。組長は立派だな。」

着いたばかりの明かりが敗者たちの顔をありありと照らす。


「そちらはニジーロか。思ったより早く目覚めたな。さっそく働いてもらおう。知識人は重宝する。」

まだ状況を飲み込めないニジーロが、疑いの目を向ける。


「さて私は人員確保に向かう。掃除でもしておけマンダリン。」

ディディエールの言葉にマンダリンが下を向く。

「ワタシも...?」

急な動きを見せるディディエールに、ニジーロが尋ねる。


「ああ、悪いな。人員確保はお前の仕事じゃない。行くのは私と、ギラファだ。」

ディディエールが指差す方向。

ギラファ――“漆黒”を照らす蝋燭の明かりが揺らめく。



_______



「ミコトどう?腕の調子は。」

ミコトの部屋に、グラントが訪ねてくる。

「ああぜんぜん、大丈夫。じっとしてればすぐ治るから。」

街の人々の声が、ミコトの部屋まで届く。


ニジーロの暴走によって破壊された街の復興活動が続いている。

「まったく、戦いでもないのに骨折するなんて、いくらなんでも張り切りすぎだよミコト。」

ミコトは作業中に大岩の下敷きになり左腕を折っていた。

「情けない...こんな大変なときに...」

ふたりはバルコニーに出て街を見下ろす。


「大丈夫だよ、ヘラクレスのおかげで、予想の14倍のペースで復興が進んでるってビノじいが言ってた。」

グラントはビノダロスとすぐ打ち解けたようだ。

ヘラクレスのひときわ大きな身体は、遥か高いこの場所から見ても存在感がある。


「ミコト!安静にしてって言ってるでしょ!」

リオが階段を登り現れる。

「大丈夫だよ、腕はしっかり固定してる。」

ミコトが振り返り苦笑いする。

「リオ〜...」

グラントが目を細める。


「グラントごめんって。困り事はないようにしてるから許して。」

新五戦士任命の瞬間、リオはグラントを自分の居た場所に立たせ、あの場から逃げ出していた。

なし崩しに五戦士に選ばれたことを、グラントは根に持っている。


「私に五戦士なんてムリよ。ホミニス宰相はどうかしてる。五戦士は厳しい訓練に耐え抜き、実績を積んだ王族出身者だけが就任する。神聖な、王国の象徴よ。第一私は戦士でもないし。」

「ボクだって戦士じゃないやい!」

グラントがじだんだを踏む。


「そういえばグラント、街の父母団体からお菓子の差し入れが届いてたよ。」

グラントが動きを止め、不満げに顔をしかめる。

「天才子ども戦士って言われてたっけ...」

ミコトの口添えにグラントの顔が険しくなる。


「なんにせよ、ホミニス宰相のやり方は極端すぎる。ミコトの大声と風でなんとか収まったけど、まだ王政に不信感を持っている民は多いわ。」

リオの正論にミコトがうなずく。

「ホミニスとは早めに今後のことを話し合うよ。このままみんなに頼るわけにはいかない。」


「ヘラクレスは大人気だけどね。」

グラントがぶっきらぼうに言う。

「どっかの風使いさんも、今にも逃げ出しそう。」

ミコトは骨折してから、ムサシに会っていない。

「もっともだ。ムサシに城暮らしは似合わない。」


外で凱旋の太鼓が響く。

ギデオンの笑い声がとどろく。

「ホミニスと話す。」

三人はそれぞれ視線を交わす。



_______



「ムサシナタス殿。」

裏庭で剣を振るムサシを太い声が呼ぶ。

「お偉いさんか。」

ホミニスに目を向けず、ムサシが剣を振りかぶる。


「今日も精が出るな。けっこうけっこう。だが、たまには街に出て、民に顔を見せてはどうだ?風の戦士は若い娘に人気だと聞いたぞ。」

「骨が折れたら困るからな。」

ムサシが素振りは続ける。


「その通りだ。ミコトはすぐ無茶をする。一緒に旅をしていたなら、よくわかるだろう。」

「...」

裏庭は風が穏やかに過ぎる。

「実は、五戦士としての初任務がある。そなたの専門分野だ。」

「命令を聞く義理はない。」

剣の風切り音が等間隔に響く。


「そうだろう。...ただ名前だけでも、五戦士を引き受けてもらい、感謝している。そなたの故郷、コマレアのクリナット道場だったかな?」

ムサシの剣がぴたりと止まる。


「あそこの兵は、極めて質が悪かった。さぞ理不尽な思いをしたことだろう。やつらは全て、追い払った。信頼できる忠実な精鋭部隊を、物資を持たせて向かわせた。これで必ず、故郷の暮らしは良くなるはずだ。里帰りであれば、使える兵をお供させるぞ。」

ムサシは振り返り、ホミニスのほがらかな笑顔を睨む。


「任務内容を聞かせろ。」

「そなたがいてくれると助かる。」

ムサシは剣を鞘に収めた。



_______



地上階に位置する軍議室に、戦士たちが集まる。

屈強な男たちが円卓を囲う。


ムサシが到着し、軍議がはじまる。

「まず...」

「ミコトは?」

ギデオンの第一声をさえぎり、ムサシが聞く。


「ミコトマスは負傷中だ。今回の任務は、ギデオン将軍を責任者として、ギデオン部隊とビノダロス、ヘラクレス、そしてムサシナタスでの遂行となる。」

ホミニスが淡々と唱える。

「ふん。」

ムサシが腕を組みギデオンを見る。


「今回の任務は、南方の過激派武力集団”ゴロファ武術会“の殲滅だ。」

円卓に魔粒子が流れ、大陸の地図を南に滑らせる。

「先のアルテミス領の崩壊によって、かねてから統制困難だった南方勢力の動きが活発化している。そのなかでもやっかいなのが、今回のゴロファ族。」

ヘラクレスが円卓上の魔粒子盤に見入る。


「ゴロファ族自体は特別危険な存在ではないが、独自の武術をしぶとく継承する武術会が、明確に王国に反発している。トラプス軍の南方拠点襲撃を繰り返してやがる。シュッシュッ」

ギデオンの語気が強まる。


魔粒子が円卓上に、立てられた剣の紋章を示す。

「これがヤツらゴロファ武術会の紋章、”天衝刃(テンショウジン)“と呼んでるらしい。天に向けられた剣が、ラーフィールの神に歯向かう意志を示してるとよ。」

皆の表情が険しくなる。


「ヤツらの武術はやっかいだ。民族舞踊のような派手な動きで撹乱し、巧みに攻撃を繰り出す。大柄な民族じゃねえから大したダメージはないはずだが...これまでに百近い兵が死傷している。...シュッ」

「ゴロファ武術...昔戦った覚えがある。相手の体内の魔粒子を刺激することで、軽い接触すら致命傷にしうる危険な武術じゃ。」


ビノダロスが発言し、皆の視線が集まる。

「...見ての通り生きておる。この装甲には効かんようじゃ。」

「なるほどな。」

ムサシが口を開く。


「指一本触れられずに、奴らを皆殺しにする。それが任務だな。」

「そうだ。」

ホミニスに見つめられ、ムサシが話す。

「さっさと片付けて復旧を続ける。」

ビノダロスが驚きムサシを見た。


「だろ?ヘラクレス」

ヘラクレスは理解が追いつかないのか、表情を変えない。



_______



ミコトがホミニスとの面会を求めるが、多忙らしくなかなか捕まらない。

「宰相は、軍議に出ておりまして...戻られたらお知らせしますか?」

「いや、いいよ、戻り遅いだろう。また来る。」

従者に言い残し、ミコトはようやく次の手を考えはじめる。


「グラント。」

五戦士にはそれぞれ豪勢な部屋が与えられている。

かつてディコトムスの部屋だった美の戦士の間は、子どもが遊ぶには十分だった。


「ちょっとノックしてって言ってるでしょが!」

繊細な装飾が施されている華やかな冠を被り、グラントが魔法の杖を振り回していた。

「ごめんごめん。」

「なんですかいったい。」

グラントの眉間にシワが寄る。


「父さんに会いに行くけど、グラントも来ないかい?他のみんな部屋にいなくて。」

「え...?父さんって...」

グラントが真顔でミコトを見上げる。


「フェイフェリスさ。ラーフィール王の人。」

ミコトが口にした名前に、グラントの表情が凍りつく。

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