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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
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第29話 風の都

避難民の雑踏のなか、少女が泣いている。

そばにいる母親も不安な顔で荒れ果てた街を眺める。


グラントがしゃがみ、少女に竹とんぼを回して見せた。

(よし、できた。)

グラントが心のなかで安心する。

少女は目を丸くし、グラントの手の上で回る竹とんぼに夢中で見つめた。


中心部から、衝撃音が聞こえる。

嫌な予感が、グラントの頭をよぎる。

「アラシ乗せて!」

グラントがアラシによじ登ろうとするが、なかなか乗り込めない。


少女の母親が見かねてグラントを押し上げる。

「あ、どうも...。」

グラントがきまり悪く頭を下げる。

グラントがしがみつくのを合図に、アラシが音の鳴るほうへ走り出す。



_______



「はっはっはっ。感じるゾ。桁外れの魔粒子量だ!この魔力で、本物のワタシが、完成するのである!」

ニジーロの鎧は凄まじい光を蓄え、波のように衝撃波を放出している。

ミコトたちが必死に進もうとするが、衝撃波が届くたびにさらに遠くに押し戻される。


アラシに乗ったグラントが駆けつける。

「ヘラクレス!!」

ヘラクレスが苦しむ姿がグラントにも見える。


「すべテ、渡してもらおウ...」

魔粒子を搾り取られる苦痛に耐えかね、ヘラクレスが抵抗を止める。

「そうダ、そうダ。」

ニジーロが不敵な笑みを浮かべる。


ふとヘラクレスがなにかに気づき、目を見開く。

腕を回し、エンケル触手を大きく巻き取る。

「素直なやつダ。」

ニジーロの濁った瞳をヘラクレスが直視する。


「ン...?」

魔粒子の吸収が加速する。

「なんダ...?」

鎧を満たす粒子が激しく渦を巻く。

ヘラクレスはニジーロを睨みつけたままじっと動かない。


「もう、もうよいィ。」

鎧の輪郭が膨張する。

極限まで輝いた色彩は判別を失い、鎧が真っ白な光に埋め尽くされる。


「もっテけ。魔法使い。」

ヘラクレスが呟くと、莫大な魔粒子を一気に流し込んだ。

限界を迎えた鎧が、爆音とともに弾け飛ぶ。

衝撃で民家が崩れ、城壁が傾く。


「ヘラクレス!!」

残滓(ざんし)が晴れると、ヘラクレスがニジーロらしき物を抱えて立っている。

ミコトたちが駆け寄り、衛生兵が続く。

ヘラクレスは衛生兵に黒焦げのニジーロを渡した。


グラントがヘラクレスにすがりつく。

「なにしてんだよ!危険な目には遭わないって言ったじゃないかあ!焼肉を教えてもらうだけだって!」


ミコトとリオが顔を見合わせる。

「また、ひとりぼっちになるかと...」

グラントの声が震える。


「ひとりじゃナイ。」

ヘラクレスがグラントの頭に手を添え、ミコトを見つめる。

ムサシ、ビノダロスも口元を緩める。


ふと気づくと、避難していた人々が中心部に集まってきている。

なにかあったかと、ミコトが不可解な面持ちで人々を見回す。

奥から拍手が鳴り、気づけば大きな喝采となる。


人だかりをかきわけて、ホミニスが姿を現した。

大きく手を叩いている。

「見事だ。見事だった。」

「ホミニス、無事か。」

ホミニスは捕まっていたのが嘘のように晴れやかな顔をしている。


「ミコトマス。あいつはたかが博士だ。魔粒子の戦闘がわかっとらん。すぐに回復できたよ。先程は失態を晒し悪かった。民を救う判断、立派だな。」

「ああ、ありがとう...。」

ミコトは釈然としない反応をする。


『皆の者!私が今から重大な発表をする!』

ホミニスの拡声魔術に人々がざわつく。

「ここしばらくの間、この上ない不安に(さいな)まれただろう。今までにない、断絶を味わっただろう。しかしここにいる皆は、この暗黒時代を乗り越え、ラーフィールの、新たな時代の証人となるのだ!」

仰々しい演説に人々が困惑する。


「ここに、新五戦士を、任命する!」

驚嘆、拍手、混乱、雑言が同時に沸き起こる。


「紹介しよう。力の戦士、ヘラクレス!」

皆の視線がホミニスの指差す方向に集まる。

「知の戦士、ビノダロス!」

ビノダロスが顔をしかめる。

「風の戦士、ムサシナタス!」

「誰だ名前バラしたヤツ。」

ムサシが呟く。

「美の戦士、リオ...ん...?」

「グラント。」

ホミニスがグラントを指しているのを見て、ヘラクレスが呟く。

「美の戦士グラントぉ...!そして...」


「ちょっと...」

ホミニスと民衆を映すミコトの視界がボヤける。


「癒しの戦士、王子ミコトマス!」

大歓声が起こり、人々がミコトに期待の目を向ける。


「待ちくたびれたぞ!」

「どこいってたんだよ!」

「おかえりミコトマス!」

「おい待てよ!」

ひとりの男が声を上げる。


「みんなおかしいと思わないのか?五戦士が殺され、王族は暴れだし、街は壊された。それで新五戦士!?しかもどいつも怪しいヤツらばかりだ。」

一気に人々の表情が強張(こわば)る。


「ミコトマスが、俺らを救ってくれるのか!?俺らの希望だって!?五戦士がいたときから、俺らは守られてなんかいない。どうする!あの“漆黒”が!また襲ってきたら。ラーフィール王国は、完全に無力だ。」

民衆の目が不安の色を映し、口々に疑念を語りはじめる。


「おい、静まれ、静まれ」

衛兵が行き過ぎた発言を耳にし、釘を刺すが人々の声は次第に大きくなる。

視界の端で、ホミニスが掌に魔術を溜めているのが見えた。


「皆の者!」

声を張り上げるミコトに注目が集まる。

「しばらく、留守にしてすまなかった...!

私は、国を守る大いなる力を求め、遠く旅に出ていたのだ。

そして、ここに並ぶ、誇り高き戦士たちに出会った。

王子でありながら、皆を、五戦士を守れずすまない。

...だが私は王族の誰よりも、この街を知っている。

みんなの不安も、痛いほどよくわかる。

だから守りたい。どんな手を使ってでも...。」


王都一帯を、力強い風が包む。

「この思い、伝わるはずだ。

私たち一族は(いにしえ)から、この風の都で千年を共に生きてきた。

ラーフィールの力は、苦難のとき、手を取り合うこと。

我ら五戦士は強い。だが、それだけでは、国は成り立たない。

君の力が、必要なんだよ。」


ミコトが、発言した男の目を見つめる。

「私は...君の力を信じる。

だから私に、君の願いを、預けてくれ!」

ミコトの声が響きわたる。


やがて残った風の音を、皆が聞く。

「...ミコトマス」

「ミコトマス!」

「ミコトマス!」

民の声が、寄せては引く大風となって、新たな五戦士に打ち寄せる。

ミコトマスが掲げる剣が、煌々と光る朝日を反射している。



_______



「なんでわたくしがこんな焦げ治療をしないといけませんの!?」

耳障りな甲高い声が、ニジーロの目を覚まさせる。

身体中がこわばり、動くだけで皮膚に激痛が走る。


「やっと気が付きましたのね!あとはご自分で治療なさって。」

薄暗い部屋から女がそそくさと出ていく。

ニジーロは天井に魔粒子を投げ、鏡面を作る。

若く美しかった顔が、火傷でただれている。


「ぬぅおおおお!」

耐え難い屈辱に飛び起きるが、次は痛みが全身を襲う。

憎しみに突き動かされ、部屋を出る。

外には深い闇が広がっていた。


「ニジーロ博士。お目覚めですね。実に美しい、ショーを見せていただきました。」

「オマエは...誰だ。」

干からびた声をニジーロが振り絞る。


「申し遅れました。私、ヴェスパ組、組長マンダリンと申します。」

わずかな光に照らされ、マンダリンがニヤリと微笑む。

「こちらは猛獣使いのアルテミス女王。」

「女王はよしなさい!」

アルテミスが顔を背ける。


「これは失礼。そしてあちらは...ひとまずいいでしょう。」

暗闇の端をマンダリンが指差しかける。


「我々は選ばれたようです。とある大いなる目的を持つ組織に。」

「大いなル目的...」

興味深い言葉をニジーロが復唱する。


「古の悪魔の復活です。」

「...」

黙りこくるアルテミスの目が鋭くなる。

「悪魔組織“ジュラヴ”が、すでに動き出している...。」


マンダリンが指し示しかけた闇の先、どう見ても誰かがいるようには見えない。

ニジーロが魔力を使い、よく目を凝らす。

“漆黒”のなかにふたつの赤い瞳が浮かぶ。

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