第28話 収束
「何かと思えば...また剣士ダ。棒遊びはそのへんにしておケ。」
ニジーロが両手と背中から伸びるエンケルの先から、一斉に攻撃を繰り出す。
ムサシが姿勢を低くし、踏み込む。
七発ほど放たれた魔術を次々弾き、かわし、斬り払い、勢いのままニジーロに肉薄する。
ニジーロを守るエンケル触手を八つ裂きにし、毒々しい色の鎧を斬りつける。
断面から魔粒子が、漏れ出す。
「なニ!!?」
ニジーロは鎧を修復しながら、距離を稼ぐため後ろに逃げるが、ムサシが離れない。
やがて城門を抜け、混乱を極めた街に出る。
エンケルがうごめくなか、駆けつけたギデオンが民の避難を急ぐ。
「おらぁ!寝てる場合じゃねえ!森側に逃げろ!シュッシュッ!」
ミコトが風に乗って走り、ニジーロの退路に回り込む。
「ミコトマァス!」
ニジーロが叫び、背中から更に多くのエンケルを生やした。
無数の手を持つ、人ならざる者の姿。
ミコトとムサシが並び、触手を次々に斬り落としていく。
「ムサシ!どうして!」
「風がここに流れた。」
ムサシが淡々と呟き、ミコトが微笑む。
エンケルの爪と魔術が絶え間なく降り注ぐ。
「うわっっ」
「おいっ!」
ムサシの肘がミコトに当たり、ミコトの刃がムサシの顔をかすめる。
ニジーロがほくそ笑む。
「お前邪魔だ!どいてろ!」
「ムサシさっきやられかけた!」
反応が遅れ、押され始める。
「呼吸を、合わせろ!」
ミコトがうなずく。
「シューッ!」
「ソッ!」
「シュウ!」
「ソク!」
ふたりが交互に声を出すと、ふたつの風がまとまりはじめる。
「シュウ!」
「ソク!」
ミコトがムサシの動きに応え、ムサシがミコトの隙を埋める。
次第に大きな流れが生まれ、ひとつの竜巻のような剣技が、ニジーロの攻撃をかき消す。
「シュウソク!」
切り刻まれたニジーロの鎧から魔粒子が流れ出る。
「魔粒子を、寄こせェ!」
ニジーロの触手が街のエンケルと融合し、魔粒子を集めんとする。
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アラシに乗り、リオが街を駆け回る。
エンケルが暴れだし、人々を巻き込んでいる。
ミコトの王都帰還を人一倍心配していたリオにとって、この光景は案の定だった。
倒れていた子供の傷を瞬時に治療し、兵士に引き渡す。
人々の悲鳴がするほうに向かう。
「なんてこと...!」
地下から浮き出たエンケルが細い枝を生やし、人々を縛りあげていく。
彼らはわずかな魔粒子を吸われ、悶え苦しむ。
ひとりに駆け寄り引き剥がそうとするも、リオの腕にもエンケルが巻き付く。
「あぁ!」
待ってましたと言わんばかりに、リオの魔力が吸われていく。
ギデオンが力いっぱい根元を斬りつけるが、硬化されており刃が立たない。
「チキショウ!」
ギデオンの目の前に大きな手が現れ、地面に半分埋まったエンケルを根こそぎ引きちぎった。
魔力吸収が収まり、リオが声を上げる。
「ヘラクレス!!」
ニジーロがいるほうをヘラクレスが睨む。
「ゴウゥ」
アラシの背に、グラントがしがみついている。
「終わったら、鹿肉パーティーだからぁ!」
グラントが震える声で叫ぶのを見て、リオが一瞬微笑む。
「アラシ、グラントを安全なところに。」
「ゴ、ゴ、」
アラシが民の避難場所に向かう。
リオがヘラクレスのもとへ駆け寄る。
「ヘラクレス、敵は魔粒子を吸って強くなる。あなたが近づくと危険だわ。」
「ワかった。」
「こりゃあ驚いたぜ。俺様のクビが繋がった。」
ヘラクレスが眉をひそめギデオンを見下ろす。
「ヘラクレス、ギデオンたちを手伝って、街のみんなを避難させるのよ。」
「ギデオン、行くゾ。」
ヘラクレスがギデオンの首根っこを掴み、ひとっ跳びで中心地に向かう。
「おぉぉわー!」
ギデオンの叫び声が遠ざかる。
リオは走り出し、ニジーロとの戦場にたどり着いた。
凄まじい数のエンケルが、ミコトとムサシに襲いかかる。
全てを払い除けられず、ふたりの身体が絡め取られる。
「おぉ!さっきは剣が邪魔をしていたのであるナ。肉体からは、魔粒子が吸い出セル。」
「うっっ!」
ミコトとムサシが苦しむ。
リオは自分のエンケルを取り出し、ニジーロに投げつけた。
「はん?小娘からのプレゼントか。」
鎧の至る所で、粒子が金色にうずく。
これまでの輝きが暗く思えるほど、その金は細かくも激しく光を放つ。
「おおお!これが、王家の魔粒子というやつカ!」
ニジーロは上機嫌に天を仰いだ。
ミコトとムサシが触手から解放される。
突然、ニジーロの鎧がきしみ始める。
金色の粒子の光が鎧に穴を開け、魔粒子が漏れ出す。
「ナンだ...!?」
「マンダリン粒子の解析は終わってる。あんたの体内で暴れるように性質を組み換えたわ。」
ミコトとムサシの体内にあったマンダリン粒子がニジーロに渡り、その身体と鎧を蝕みはじめた。
「その鎧、脱いだほうがいいんじゃない!?」
リオが啖呵を切るのをムサシが微笑する。
ミコトが再度、剣を構える。
「身体が前より、軽くなってる。」
「...たかが治癒魔術師が小細工しおってェ!!」
ニジーロが逃げ出そうと振り返ると、ビノダロスが立ちはだかる。
「――しなと。」
ビノダロスが呟き、放った斬撃がニジーロの鎧を正面から捉える。
大風がビノダロスの背後から押し寄せた。
「ビノダロス!目覚めたのか!」
「元気そうだなジジイ。」
ミコトとムサシが剣を振り上げる。
「老体にぴったりの技じゃな。」
皆が再会を確かめ、一度 目を合わせる。
「キェェ、許さん。魔粒子がある限り、ワタシは倒れんぞォ...。」
ニジーロが裂けた鎧をエンケルで縛るが、鎧は輝きを失いかけている。
ニジーロの視界に、逆さにした屋根に人々を乗せ運んでいたヘラクレスが映る。
「アイツは...アイツだ...!ワタシの魔粒子ヨ!」
残りの魔力を振り絞り、ヘラクレスに接近する。
「まずい!」
ミコトたちが駆け出す。
人を運び終え、戻ったヘラクレスの目の前にニジーロが出現する。
魔力を振り絞り、ヘラクレスに無数のエンケルを巻き付ける。
激しい光と衝撃波が、辺り一帯に拡散する。
「ついニ!ついニ見つけた!これゾ究極の魔粒子。」
ヘラクレスががんじがらめに縛られ、痛々しいうめき声を上げる。
「ヘラクレス!」
魔力吸収の余波に阻まれ、ニジーロにたどり着けない。




