第27話 極彩
「ヘラクレスーこれ、どうやるんだっけ。」
グラントが竹とんぼを手に乗せている。
「オレ、苦手ダ。」
ヘラクレスが申し訳なさそうに呟く。
「こうだっけなあ、いや、ちがうか。こうかな。」
グラントが様々な体勢で念を送るが、竹とんぼは倒れたまま動かない。
「メシ食オウ。」
「今日は何が採れたっけ?」
ヘラクレスが腰にくくりつけた木の実を見せる。
「木の実...。おいしいよ、おいしいけども...毎食やん。」
グラントが目を細める。
少し遠くで鹿がこちらを見ている。
「どうスれば焼けル?」
「んー...よし!火を起こそう!」
グラントとヘラクレスは木の実をかじりながら、日が暮れるまで火起こしを試みた。
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「ひさしぶりであるな、ミコトマス。魔術の才能がなくて逃げ出したのかと思ったゾ。」
鮮やかな光がニジーロの顔半分を照らす。
「...博士...?」
高齢なはずのニジーロの顔は若く生気に満ちあふれていた。
「驚くのも無理はないか。魔粒子はどんな願いも叶えるゾ。オマエの...王位を拒む未来もナ。」
ニジーロが見透かしたようにニヤリと笑う。
「ビノダロスを、離せ!」
苦しむビノダロスに目もくれずニジーロが続ける。
「落第生のオマエでも、王家の魔粒子は美しかろお。」
ニジーロが先端に鉤爪のついたエンケルをチラつかせる。
「魔粒子は、持つべき者のために、あるのである。」
鉤爪がミコトに襲い来る。
――駆け抜ける閃光。
シナトを放つより先に、激しい魔術が鉤爪を払い除けた。
「ミコト、大丈夫か。」
暗闇の中からホミニスが現れる。
「ホミニス、ニジーロ博士だ。」
横に並び出て剣を構えるミコトを見て、ホミニスは少し驚いた顔を見せる。
「来たナ、宰相。」
ニジーロが笑う。
「ミコト、ヤツの狙いはお前とフェイフェリス王だ。王の魔粒子を取り込み国を乗っ取る気だ。」
「名推理。」
エンケルの先端がホミニスを指す。
「今すぐ王の間に行き防護魔術を張れ。」
「でも...!ホミニス!」
ミコトが声を上げる。
「私を誰だと?こいつはここで、仕留める。」
ホミニスが構えると全身を濃い魔粒子が包む。
「行け!」
ミコトは剣を持ったまま上階に走りだした。
王の間へと続く階段の前をミコトは通り過ぎた。
王族が集まる広間に一直線に向かう。
「バタン!」
「わぁぁ」
ミコトが勢いよく扉を開けると、王族たちが悲鳴を上げた。
「なんだミコトマス王子でしたか、驚かすのは勘弁ですわよ。」
ひとりがノー天気に口を出す。
ミコトが顔を歪めて叫ぶ。
「魔術合成陣が誤作動を起こしてる!危険だ!皆庭園に避難しろ!ホミニスとビノダロスが対処してる!」
「・・・」
「わあああ!」
一瞬沈黙を挟み、王族たちがパニックに陥る。
「シューっ」
ミコトは大きな風の流れを作り、取り乱す彼らを庭園に誘導する。
「なんだ、風が...」
「とにかく、逃げましょう」
王族たちは戸惑いながらも風に沿って進んだ。
庭園に出ると、城の明かりがないせいか星空が普段より鮮明に輝く。
「たまには天体観測も悪くないな。」
誰かが重い空気を変えようと冗談を言う。
しかし猛烈な光源が突如現れ、星空を一瞬でかき消した。
「王族諸君ー!」
ニジーロの体表で、色とりどりの魔粒子の波が複雑にぶつかり合う。
「なんだあの姿は!」
虹色に輝く魔術鎧は、王族たちでも目にしたことがないほど美しかった。
鎧に繋がれたなめらかなエンケルが触手のように動き、ニジーロの身体を高く持ち上げる。
そして捕らえたビノダロスとホミニスをニジーロの両隣に吊るしてみせた。
「ホミニス!!」
ふたりとも脈打つエンケルに魔粒子を吸われ、意識を失っている。
「ホミニスの魔粒子は、格別に濃ゆい。この鎧のパワーが段違いに跳ね上がったである!」
王族が悲鳴を上げる前で、ニジーロがこれ見よがしにポーズをとる。
ニジーロが身体を動かすたび、鎧の魔粒子が揺れ動くのが見える。
ミコトは構わず動いた。
「――シナト。」
ホミニスとビノダロスを縛っているエンケルを一刀両断する。
ミコトは必死に上昇気流を起こし、ふたりの落下をやわらげる。
ふたりから魔粒子の供給が立たれ、ニジーロが振り返る。
「ん!?ミコトマス!」
ミコトがニジーロを睨み、剣を構える。
「シューっ...」
ミコトの鬼の形相を目にし、ニジーロは一瞬目を疑った。
「ほっほ。立派ダ。立派ダ。それでこそ、王の粒子を持つ者!吸収しがいが、あーる。」
「やぁぁあ!」
十人程の衛兵が死角から一斉に突撃する。
瞬時にニジーロのエンケルが猛り、衛兵たちに絡みつく。
彼らはなけなしの魔力を吸い尽くされ、皆その場に倒れた。
「まだ雑魚が残っていたか。兵舎に閉じ込めたと思ったが、軽いおやつにはなった。だが...足りぬ足りぬ!」
ミコトに向けて、エンケルが放たれる。
先端の鉤爪を、シナトで叩き割る。
しかしエンケルは摩擦音を立てて剣に巻き付く。
「いただいたァ!」
「...」
ニジーロが声を張るが、魔粒子の手応えがない。
もう一度エンケルを握るが、ミコトの魔粒子が吸い出されない。
「ヤッ!」
ミコトがエンケルを巻き取るように、切り刻む。
「なぬ!?」
ニジーロが動揺している間にミコトは間合いに立ち、派手な装甲を斬りつける。
「硬化!」
ビノダロス由来の魔粒子が集まりミコトの剣を弾く。
ニジーロが距離を取り、力を込め即死魔術を繰り出す。
呼吸で攻撃の流れを捉え、シナトで捌く。
ミコトは肩に風が乗る感覚を抱いた。
ニジーロが攻撃の手を止める。
「オマエ...本当にミコトマスか...?」
ミコトは一度まばたきし、ニジーロをまっすぐ見つめた。
「そうです。ニジーロ。無駄な争いは、やめよう。」
ミコトが剣を下ろす。
「さあ、エンケルを離して。」
ミコトが手を差し伸べたとき、城全体がまぶしく輝いた。
「なーにをイイ気になりおって!この日を何十年、待ちわびたであろうかァ!」
ニジーロの身体がさらに光を増す。
城から伸びる太いエンケルが、ニジーロの背中に莫大な魔力を供給していることが伺える。
「五戦士もいない。王は隠れ、王族は無力。こんな良き夜、ラーフィール史上初である!ワタシはこの日のため、魔力合成陣の途方もない術式を組んできたのダ!」
ミコトはニジーロの背後に回り、城に繋がるエンケルを断ち切る。
直後襲い来る魔術を剣で受け、突き飛ばされる。
「遅いである。もう魔力は満タン。そもそも合成陣は鎧強化のためじゃなイ。」
王族たちが慌てふためき、逃げ出そうと城門を解放した。
街の景色に、言葉を失う。
道に埋め込まれているはずのエンケルが浮き上がり、光りながら振動している。
その影響か、住居がひび割れ、崩れかけていた。
「すばらしイ。計画どーぉり。さあ、どうする?ミコトマス。どうする?フェイフェリス。姿を現せェ!」
絡み合う色彩を放射しながら、ニジーロがミコトに迫る。
放たれる魔術の威力が、格段に上がっている。
シナトで無効化するのがやっとだった。
「最初から、一目瞭然である!剣では、魔術には勝てないことなど!!」
後退を続けるミコトに、ニジーロ渾身の即死魔術
が炸裂する。
一瞬、風も音も消え去る。
一筋の刃が、光を映す。
風が動き出し、ムサシナタスの結わえた髪をなびかせた。




