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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
26/72

第25話 風の如く

「ディコ、ポリトゥス...ダビ兄...。」

死んだ五戦士の名を聞き、ミコトの顔に絶望が滲む。

ムサシたちから少し離れた木陰で、ミコトはギデオンに事件の話を聞く。

「本当に、信じられん。俺がいれば、こんなことには...。」

ギデオンはこんなときでも完全装備で顔を覆っている。


「ギデオンが生きていてよかった。」

「......ああ。」

ミコトが無表情で呟くのを見て、ギデオンは返す言葉に詰まる。

「...王都は混乱を極めてる。ジイさんたちも連日動いてるらしい。ホミニスが全軍に召集をかけた。そして...お前さんの帰りを求めてる。」

ミコトの頭に生気を失ったホミニスの顔が浮かぶ。


「俺はアルテミス領の片付けが終わったら、明朝ここを発つ。俺と一緒に行けば、安全だ。」

「助かるよ。」

判断ができる心境ではなかった。

ミコトが育った王都の平和と、そこに住む王族、五戦士、街の人々の笑顔。

すべてをいっぺんに失った感覚に陥る。


ミコトが現場にいたところで、なんの力にもなれなかったかもしれない。

しかし愛する都が自分の知らぬ間に破壊されたことは、ミコトに自身の無力を突きつける。


「...ヘラクレスを連れてきてくれよ。」

ミコトが思い詰めているのを察してしばらく黙っていたギデオンが口を開く。

「それは...どうだろう」

ミコトは力なく吐き捨てる。


「ヘラクレスを連れてくるように念を押された。ホミニスの命令だ。なあ。できれば手荒な真似は―」

「ヤマガメを持ち上げてるのを見たろ...ヘラクレスは連れ帰れないよ。」


「...」


ギデオンがヘラクレスの所業を思い出し敵わないことを悟る。

「じゃあ...明日の朝な。ここに迎えに来る。」

ギデオンが馬に乗り走り去る。



_______



「王都に戻るのね。」

ひとり作業をしているリオがミコトより先に切り出す。

「...ムサシたちは?」

「向こうのほうで遊んでるわ。」

「仲良いな...」

ミコトが苦笑いしリオを手伝う。


「全然的外れな助言かもだけど...」

ミコトは淡々とイモの皮をむく。

「逃げちゃえば...?」


一瞬手を止め、すぐに再開する。

「最初から逃げ出して来たのなら、同じじゃない。ミコトは、王様ってキャラじゃないし...。山でイモ食べてるのが、お似合いよ...。」

リオが引きつった顔で力なく笑う。


「ありがとう、リオ。そうだね。山のイモが一番おいしい。」

皮をむき終え、ミコトが立ち去ろうとする。

「ミコト...。生きるのよ。どこでだって。」

「うん...。」

リオの手が、かすかに震えていた。



_______



森のなかの少し開けた場所で、ヘラクレスとグラントが竹とんぼを飛ばす。

ヘラクレスは何度も竹とんぼを落としては、その大きな手で壊さぬようそっと拾い、また飛ばすのを繰り返した。


「へっへーん!」

グラントが両手で一本ずつ飛ばしている。

「...やるなチビ。」

ムサシが感心する。

「これ、めちゃくちゃ楽しいよ!魔術師になるの、夢だったんだ!やっぱり才能あるんだよ。」

グラントが両手を交互に上げ下げしながら、目を輝かせて語る。


「これはな、魔術じゃないんだ。」

「え、じゃあなんなの?せっかく魔術師になれたと思ったのに。」

「風使いだよ。グラントは。」

現れたミコトが告げる。」


「風使い...?なんかパッとしないなあ。竜巻とか起こせる?」

「起こせん。」

「じゃあ嵐は?」

「ゴゥン」

そばで見ていたアラシが首を横に振る。


「じゃあなんもできないじゃんー!これ飛ばすだけかよぉ...。」

グラントのボヤきにミコトとムサシが苦笑いする。

ヘラクレスが竹とんぼを拾い上げる。


「オレは、サッパリだ。カゼツカイ、なりタイ。」

「ヘラクレスもなれるよ。」

ミコトのぼんやりとした顔をヘラクレスが見つめる。


「オレは、行くゾ。ミコトと。」

ヘラクレスが胸を張る。

竹とんぼを両手に持ったグラントが不安そうな顔を見せる。


「ヘラクレス、いいんだ。王都は、君にとって安全じゃない。自由になれたばっかりだろ。君はグラントと一緒にいるべきだ。」

ヘラクレスが真剣な顔をしているのをグラントが目線だけ見上げた。

「ミコト、剣の時間だ。」

突然ムサシが言い出し、ふたりは場所を移動した。



ミコトがまっすぐに、剣を構える。

振り抜くと、わずかに風が舞う。

「いいな。でもお前に、なにも教えてなかった。」

「?」

ミコトはムサシに視線を移す。


「まず、構えだ。」

ムサシが剣を両手で持ち、まっすぐ立てる。

ゆっくりと手を腰の位置まで降ろすと、空気が変わる。

「ここで、シューッと早く、大きく息を吸う。」


ミコトがうつろな眼でムサシの手元を見ている。

「王都のことを考えてるだろ。」

ムサシの眼には、力があった。

「集中しろ。ミコトマス。」

「う、うん。」

剣を握り直す。


「シューッと吸い、風を取り込む。周囲の状況を探るんだ。風は、すべてを伝える。葉のそよぎ、木の幹に伝う水、大地の温度。そしてお前の呼吸。筋肉の緊張。」

ミコトはじっとムサシを見るが、言われたことへの実感がない。


「ほら、吸え!シューっ」

「シューッ」

ミコトが目を閉じ息を吸うと、世界が揺れ出す。

森が風をまとい、身体がそれと一体化する感覚。


「そして...」

ムサシが続ける。

「そっと息を吐く...」

「ソっ...」


ミコトが息を吐いた口から広がる空気の波が、森に生き渡る。

「わかるか...?」

「....少しずつ。」

ミコトが目を閉じたまま答える。


「考えたり、さらに奥を見ようとしてはダメだ。風になる、だけだ。」

(『風だ――』)

城から飛び立った瞬間の感覚を今、思い出す。

ミコトが口元を緩めたのに、ムサシが気づく。


「目を開けろ。」

ミコトが目を開けると、ムサシの剣が振り下ろされる。

咄嗟に受ける。


「そうだ、そうだ。」

ムサシからの剣撃を、振り払っていく。

「風の流れに乗る。相手の呼吸を混ぜる。」

ミコトが必死に食らいつく。


「まだ、目で見てる。俺がヘラクレスにやられないのは、この呼吸だ。」

ミコトの息が早くなる。

「違う、大きく吸え。シューっ。」

息を吸うと、ムサシの剣がわずかに、遅く感じられる。


「吐け、風に触れろ。」

「ソッ。」

ミコトが優しく息を吐く。

ミコトから離れた空気が、ムサシの剣、腕、背中に行き渡り、次の動きをミコトに伝える。


「シューっ」

「ソッ」

「シューっ」

「ソッ」


ムサシの声でミコトは息を吸い、自分のタイミングで吐く。

繰り返しながら、二振りの剣が大きな流れを生み出す。

時にバランスを崩しながらも、また呼吸を整える。


「シューっ」

「ソッ」

「シューっ」

「ソック」


「...」

「ソッ...?」

「...」

「ソ、わぁ!」


ミコトの剣が手から離れる。

尻もちをついたミコトが取り乱す。


「ちょっと、シューって言ってくれよ!」

「剣を振るのを教えてくれる敵がいるか!?それに俺が息を吸えん!」

呆れた顔でムサシが言う。


「それはそうか...」

ミコトが情けなく頭をかく。

ムサシの手を借り立ち上がる。

「つかんだな。呼吸を。」

「ああ。ありがとう。これに助けられる。」

「まだまだ完成には遠い。」

ムサシの言葉にミコトが微笑む。


「ヤツらはおとなしくさせとく。」

ヘラクレスたちのほうに目をやる。

「頼んだ。」


ミコトがムサシに剣を差し出す。

王都を出てから、持ち続けた剣。


「男たちー、芋煮できたよー!」

森にリオの声が響く。

ムサシが声のほうに歩き出す。


「まだ持っとけ。売るなよ。」

ミコトが剣を握り締める。

「ああ。」

香ばしい匂いにつられ、若者たちは集まる。

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