第23話 照射
「グラントだ!」
ミコトが森の縁から目を凝らすと、グラントが正門を抜け、こちらに向かって走っている。
「よく抜け出せたな。」
「え?どこ?ぜんぜん見えない」
ムサシが感心しているが、リオはまだ見つけられていないようだ。
正門前に続々と兵が並び始める。
「ふたりが遠くに逃げるまで、時間を稼ごう。」
「正気じゃないわ...」
「すまナイ...」
ヘラクレスが震えている。
「お前を仕留め損ねた分を取り返したい。」
ヘラクレスに挑発的な態度のムサシをミコトが制す。
「兵士を殺すのはナシ。ムサシならできるだろ。」
「無茶言うようになったな。」
ムサシとリオがアラシに飛び乗る。
「アラシ、出番だぞ。」
「グルオォォオオ」
今までにない雄叫びを放つ。
敵兵の動揺がミコトにも見えた。
「やっ!」
ムサシが手綱を引くとアラシが駆け出す。
木やヤブを伝い、直前まで接近を悟られない。
後ろに乗るリオが振り落とされまいと、必死にムサシにしがみつく。
泣きながら走るグラントのもとへ、あっというまにたどり着いた。
「わぁ!」
グラントの驚く声が、喜びに満ちていた。
ムサシが飛び降り、代わりにグラントを乗せる。
「無茶はしないで。」
「ミコトに言え。」
踵を返すリオをムサシは見送った。
木陰から正門をのぞくと、百近い兵が迫り来る。
ムサシがふっと息を吐き、駆け出す。
追い風を背負いほぼ一瞬で敵兵の前に躍り出た。
「敵襲ー!」
敵の合図が完全に出遅れる。
まず五人、ムサシに襲いかかるが、彼らの剣すべてが根本から断ち切られる。
「シナト。」
ムサシが小さく呟く。
見えない斬撃に兵士の身がすくむ。
「カマイタチだあ!」
部隊全体にどよめきが広がる。
ムサシの怒涛の進撃に隊列を乱されていく。
「そいつはいい!大きく迂回!」
後方部隊がムサシを避け、森に向かおうとする。
その先にはマンダリンワンピースを着たミコトが、立ちはだかる。
「私が、相手です。」
ミコトはマンダリンの口調で意気込み、身構える。
兵たちがミコトを斬りつけるが、魔術鎧が衝撃を吸収する。
「ははっ。」
ミコトは得意げに声を漏らす。
「なんだこいつ、切れねえ!」
「でもなにもしてこないぞ!スルーしろ!」
ミコトは仮面を揺らし密閉を確かめる。
「逃がしませんよ。ふんっ」
鎧から煙が噴き出す。
「へっ、壊れたか。」
鼻で笑った兵士が、その場でばったりと倒れる。
「毒ガスだ!」
「うわぁ...」
眠らせているだけだが、ミコトはそれを口に出さなかった。
「にゃむにゃむにゃむ...」
兵士たちが原っぱで気持ちよさそうに眠る。
ミコトが前進し、次々に敵を眠らせていく。
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リオがグラントを連れヘラクレスのところに戻る。
「ヘラクレス!よかった!」
ヘラクレスが駆け寄り、グラントを抱き上げアラシから降ろす。
「ありがトウ...ミコト」
「私はミコトじゃないわ。本人に伝えてほしいけど...早く逃げるのよ。」
グラントがヘラクレスの手を引っぱる。
「早く、急がないとまた捕まるよ!」
「アァ...」
ヘラクレスがうつむいている。
「できることなら、私たちが逃げるのも手伝ってほしいけど、あなたが操られてしまったら、私たちも安全とは言えない。ミコトが持ちこたえてる間に、行きなさい、早く。」
リオの言葉にグラントが大きくうなずく。
「すまナイ...」
ヘラクレスが言い残し、グラントを肩に担ぎ走り去った。
「はや。」
リオがヘラクレスの逃げ足の速さに唖然とする。
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「ここまで来れば、安心だ。」
たどり着いた河原でヘラクレスはグラントを降ろし、水分補給をする。
「ごめんヘラクレス。せっかく逃げ出せたのに、今度はボクが捕まってしまって。」
ヘラクレスは川に入ると、胸のあたりまで水につかった。
グラントに傷だらけの背中を向ける。
「ほんとに、よかったよ。またふたりで生きられる。今度はうんと遠くに行こう。誰も追いかけてこない場所に。」
ヘラクレスが一呼吸置いて応える。
「ミコト...ナゼ助けた?」
「あいつのことは、いいじゃないか。変わった旅人なんだよ...。」
ヘラクレスが水面に映った自分を見つめる。
「ヘラクレス...?」
「キケン。ミコト。」
ヘラクレスが川の水をかき乱し、自分の姿をかき消す。
「...はは、戻ったって、なにもできないって、さっきの女も言ってただろ。」
グラントが顔を引きつらせ、ヘラクレスから目を逸らす。
ヘラクレスは岸に上がり、拳を握りしめた。
「お願いだ、戻るなんて、言わないでくれ...」
グラントの声が震え出す。
「もう、失うのはイヤなんだ...やっと、ふたりで逃げ出せたのに...」
「グラント...」
泣いているグラントをヘラクレスが見つめる。
「女王の城に、行ったんだ。女王は...優しかった。それが、本当に怖くてたまらなかった。もしもう一度あいつに捕まったら、ボクらもう二度と、あの城から出られないんだって、気づいたんだよ。」
グラントのそばに寄り、ヘラクレスが肩をさする。
「逃げよう。どこまでも。あいつが届かないところに。ヘラクレス。ボクが、君を守るから。ボクの言うとおりにすれば、君が傷つくことはない。」
ヘラクレスがふと川の上流に目をやると、狩人がじっとこちらを見ている。
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夜の帳が下り、二日目の満月が空を支配する。
アルテミスがひとり、鐘塔から草原を見下ろす。
森に入ったギデオンの部隊が、ヘラクレスを見つけられず草原に引き返してくる。
「ヘラクレスは逃しましたか。しかしあの魔粒子は特別。またゆっくり、探すといたしますわ。わたくしから逃げることは、不可能。」
アルテミスが不敵な笑みを浮かべる。
ギデオン部隊は草原にいるムサシに狙いを定めるが、例に漏れずあっさりと武装を破壊されていく。
「しびれる...。あの剣技。今夜の獲物はあれだけで十分ですわ。では、鐘塔を起動しなさい。」
後ろに控える従者が、鐘の代わりに吊るされたエンケルを下に引く。
「さあ、狩りの時間です。」
アルテミスの城全体に一瞬、光が走る。
光は鐘塔の先端に集まり天に打ち上げられた。
しばらくすると、草原にいる全員の動きがぴたりと止まる。
「美しい。」
一瞬の景色が切り取られ、その場に留まっている。
「今回も、見事でございますね。」
従者が月光に照らされる草原を眺めて感嘆する。
アルテミスが優雅に弓を取り出す。
「月光拘束。究極の光魔術。今宵の月の光のもとでは、なんぴともその身を動かすことは許されませんわ。まさに美しく、恐ろしい。」
従者がアルテミスの横顔に見惚れる。
「ビッ」
一本の矢が、ギデオンの部下ひとりを貫く。
「おい!」
身動きの取れないギデオンの怒号が、アルテミスのところまで聞こえる。
「元気なケモノですこと。騒がずとも、順番通り、矢を送りますのに。」
凍りついた兵士を、端から順番に、射抜いていく。
「周りの仲間が全員矢に倒れたとき、たったひとり残された剣士は、自分の主人が誰か理解するでしょう。」
慈愛に満ちた表情で兵士をひとりひとり射殺すアルテミスを見て、従者が身震いする。
動けないムサシの周囲で、兵士たちが叫び死んでいく。




