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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第1章 五戦士
22/71

第21話 潔白

「いったぁ...」

後頭部に激痛が走り、ミコトが身をかがめる。

「え?...なんで。くそぉ」

突然現れた少年が、両手でやっと持てる大きな石をミコトにぶつける。


「ちょっと痛い!イタイイタイ!やめろって!」

ミコトが少年から石を取り上げる。

光を向けると、まだ10歳ほどの少年が目に涙を浮かべ立ち尽くしている。


曇りのない美しい白髪が光を跳ね返す。

オオカミのような白い瞳は黒ではっきり縁取られている。

あどけない顔つきが少女のような純真さを感じさせる。

その反面、着ているものはくたびれ、泥で汚れていた。


「ジャラジャラ」

鎖の音がヘラクレスの動きを伝える。

「グラント、ウシロ...」

ヘラクレスの言葉でグラントが振り返ると、ムサシが仁王立ちしている。


背後からグラントの両脇を羽交い締めにし、持ち上げる。

グラントは小さくわめきながら、足をバタつかせていた。

「ヤメロぉ...」

ヘラクレスが声を振り絞る。

「ムサシ!離してやれ!」

ムサシはグラントの足を地面につけてやるが、両脇ロックは解除しない。


「ヘラクレス。僕らは君の...味方...かもしれない。」

「ナンダト...?」

初めて聞くミコトの言い回しに場の全員が首をかしげる。

「君はグラント、だね。ヘラクレスのこと、教えてくれ。君たちの力になれるかもしれない。」


「嘘はよせ!」

「グロロル」

グラントが声を上げると、近くの檻で眠るケモノが一瞬イビキをかいた。

「ここは危険だ。ミコト、部屋に戻るぞ。」

ムサシがグラントを押さえたまま話す。

「ヘラクレス。君の痛みを、感じる。グラントは、僕らが守る。もう少し、待っていてくれ。」


「オマエ...誰ダ?」

「ミコトマスだ。」

「ミコトマス...」

ミコトとムサシはグラントを連れ、ヘラクレスの前を去った。



_______



「どこで拾ってきたのこの子!」

リオが叫ぶなか、グラントがテーブルに並んだ料理をむさぼっている。

「まあまあ、かわいいじゃないか。」

「ミコトを殺そうとしてたんだ。」

リオをなだめるミコトを顧みず、ムサシが事実を言い放つ。


「は!?どんな治安よ!もう、早く逃げましょお!」

リオが軽いパニック状態だ。

「ヘラクレスがいる檻に行ったら、この子、グラントが現れたんだ。どうやら、事情を知ってそうだ。」

「放っておきなさいよ...!事情もなにも、来てからずっと、食べてるじゃない!」

「お腹が空いてたんだよ。」

ミコトがグラントをかばう。

「でしょうね!」


リオの叫びにグラントが手を止め、声を上げる。

「ちょっと、うるさいです!子供がまだ食ってる途」

「一回、一回黙ろう。一回。」

ミコトがグラントに覆いかぶさり、口を塞ぐ。

ムサシがわれ関せずと竹とんぼを回しているのをリオが睨む。


--


グラントが口を拭き、話し出す。

「ヘラクレスは、英雄です。魔獣なんかじゃない。」

三人はグラントを囲って続きを待つ。

「ボクは3年前、家族を失った。それからなんとか、生きていくために牛小屋に住み込みで働いてたんだ。ひどい仕事だったよ。今思い出しても吐きそうだオェ」

「吐かないで。吐かないで。」

リオが淡々と忠告する。


「そこに現れたのが、英雄ヘラクレス。女王の命令で来た彼は、ボクが一生かかっても掃除しきれない牛小屋を、一瞬で綺麗にしたんだ。」

「掃除得意なんだな。」

話をさえぎるムサシの発言にグラントが失望の顔をする。

「ヘラクレスは、近くの川の流れを無理矢理ねじまげて、牛小屋に大量の水を流れ込ませた。それを間近で見たボクは、ヘラクレスが神のように見えた。

牛小屋は使い物にならなくなったけどね。ボクはヘラクレスに言ったんだ、そんなに強いのに、なぜ女王なんかに仕えてるの?って」

ミコトが静かにうなずく。


「ヘラクレスは、ジャングルで育ち、女王に拾われた。それからずっと、女王の命令に従って生きてたから、自分の意志で生きることなんて、考えたこともなかったらしい。

それからボクが、ヘラクレスに人間の生き方を教えたんだよ。自由に、生きていいんだって。」

「そうだったんだね...。」

「...」


「ムサシ、寝てんじゃん。」

リオがムサシを小突く。

「おう。それで?」

グラントが目を細めムサシを睨む。


「ヘラクレスは、自由を知って、なんて言ってた?」

ミコトが優しく尋ねる。

「ヘラクレス、本当は戦うのが怖いんだ。でも生まれてからずっと、ジャングルで戦って生きてきた。戦わなくても生きられることを、知らなかったんだよ。」

ミコトが眠たげなムサシに目を向ける。


「だからって、どうするのよ。アルテミスは、手ごわいよ。」

「グラント、みんな、今日は休もう。長い一日だった。ヘラクレスを助け出す方法は、僕が一晩考えてみるよ。」

「ミコトも、寝なさい。」

「昼まで寝てたし、大丈夫。」

それから部屋に三台、用意された温かなベッドで眠りについた。

ミコトはヘラクレスの孤独な人生を思い、椅子に腰掛け一晩を過ごす。



_______



「ちょっと、ちょっとちょっと起きて!」

グラントが騒ぎ、皆を起こそうとする。

「ん...グラントどうした?」

「うるせえ...」

皆が目を覚まし、伸びをしている。


「さっき散歩に行ったんだけど、ラーフィールの遣いがまた来たって、兵たちが騒いでたよ!?」

「また勝手な行動を...って...ラーフィールの...遣い...?」

リオが青ざめる。

「あいつらは誰なんだ?って、近くの兵士みんな言ってた!」

三人がギクリとした様子で顔を見合わせる。


「逃げろ!!」

ミコトが戦々恐々と叫び出す。

一同は急いで荷物をまとめ、部屋を出る。

「わあああー!せっかく集めた薬草がああ」

旅の物資が別室に保管されているそうだが、場所が分からず諦めるしかない。


「俺もさすがに逃げたほうがいいと...」

「ごめんごめんごめん!」

ムサシのボヤきを聞きミコトが謝罪する。


「あいつらだ!ニセモノめ!」

向こうの角から衛兵が迫る。

「こっちよ!」

リオの合図で階段を駆け降りる。


屋外に出ると、すぐにアラシが迎えに来る。

「野牛は?」

アラシが残念そうに首を振る。

「焼肉になってないといいが。走るぞ!」


ミコトだけが別方向に踏み出す。

「先に行け!ヘラクレスを助ける!」

追手の罵声がすぐそこに聞こえる。

「ミコトマス!」

グラントがミコトに視線で訴える。

「森で落ち合うぞ!」

「ああ!」


ミコトは大通路に侵入し、ヘラクレスのもとへ急ぐ。

駆け足で昨晩の道のりを通り過ぎる。

檻内の魔獣たちが昨晩と打って変わって叫び、暴れている。

ミコトの脳裏にグラントが訴えかけている。


すぐにヘラクレスの檻にたどりつき、扉を確認する。

魔術でしっかりと鍵がかかっている。

「ミコト...マス...?」

ヘラクレスが気がつく。


ミコトは剣を抜き、魔術錠を斬りつける。

「シナト!!」

扉が開く。

ヘラクレスの力でも壊せない鍵を断ち切ったミコトを、ヘラクレスがいぶかしむ。


「行くぞ!早く!」

ヘラクレスがミコトの足をひょいと持ち上げ、肩に担ぐ――

信じられない速さで、城門を突破した。


と思えば街の正門をくぐらずに、上空を飛び越える。

「おーいおいおいおいちょっとまっ」

危なげなく森に着地し、肩から安全にミコトを降ろす。

ミコトが三半規管をやられ、立ち上がれない。 


「もう着いたのか!」

ムサシ、リオ、アラシが遅れてたどり着く。

「ヘラクレスが担いで跳んでくれたんだ...」

ミコトの言葉にふたりは首をかしげる。


ヘラクレスが辺りを見回している。

「おい...ムサシ、グラントは...」

ムサシとリオの表情が固まる。

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