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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第0章 風の発見
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第16話 科戸

「やれやれ。死んでしまいそうですね。」

マンダリンがムサシの剣を受けながら話す。

「あなたももう限界でしょう。」

毒針を避け、ムサシが距離をとる。

「人間は(もろ)いものです。いつかは、壊れる。五戦士はさすが、楽しめましたけどね。そんなダビディスも、あなたたちに壊されてしまった。」


魔術鎧がカラカラと音を立てて、新しい配列に組み換わる。

「崩れる前に、次を探すのがポリシーです。」

マンダリンが手を広げる。

「ミコトマスは最適だ。」


リオストスが必死に蘇生を試みる。

「どうです?もう諦めては。この鎧の力がわかったでしょう。今なら、ミコトマスを生かし、あなたをうちで雇いますよ。」

「ミコトをどうする気だ。」

ムサシが毒に耐え苦悶の表情で問う。


「わかるでしょう。五戦士の次のお客は、この国の王。ミコトマスとの取引で、この国は薬を得るんです。なんと鮮やかな救済だ。」

「さっぱりわからん。」

「まだ威勢を張れますか。では、終わりにしましょう。名残惜しいですが。」

マンダリンが手首に巻いた数珠を取る。

「アナ...」


「アラシ来い」

アラシが後方からマンダリンを張り倒す。

その隙にムサシがミコトのもとに戻る。

「ぐ。この害獣め。」

マンダリンはアラシに毒針を飛ばそうとする。

しかし後続する野牛の巨体が、マンダリンの身体を踏み越えていく。


「リオストス。ミコトの毒粒子を傷口に集めろ。」

「どういうこと。」

「急げ!考えがある!」

「わかった。」

リオストスが集中し、ミコトの体内の魔粒子を操作する。

刺された胸、一点に集める。

ムサシが剣を構える。


ムサシは、風だけを守りたかった。

唯一の母の感触。

あの風のぬくもり。

風だけが、ムサシを守った。


そしてその風を、ミコトは身に宿した。

「ミコト!」

ムサシが斬れなかった男。

ミコトを、救いたいと願った。


「シナト」


剣がミコトの胸を裂く。

「傷を塞げ!」

ムサシは叫び、迫り来るマンダリンに立ち向かう。


マンダリンが毒針を連射する。

「ハッハ。血迷いましたか。まあ先に殺してやるのもひとつの手でしょう。毒は相当苦しいですからね。」

マンダリンの笑い声と鎧の組み換わる音がムサシを追い詰める。


「さっきの動物攻撃は驚きました。この鎧を着ていて命拾いです。もう、策は出尽くしたでしょう。降伏する気がないなら、トドメと行きますよ。」

マンダリンが毒煙を吐きながらムサシを突き飛ばす。

「風使いよ、お別れです。」


「――まだ、会ったばかりじゃないか。」

ミコトが煙をかき分け、マンダリンの前に現れた。


「ミコトマス、お目覚めですか。あの風使いに聞いてください。私の鎧に、風は効きません。」

ムサシが後ろで膝をついている。


「魔術なら?ペンダントもエンケルも、まともに直せない魔術さ。」


ミコトがマンダリンの鎧にエンケルを当て、力を込めた。

エンケルの繊維がほつれ、伸び、縮れ、組み換わる鎧の隙間に絡みつく。


「なんで...す?」

がんじがらめになった鎧がきしみ、嫌な音を立てる。

結び目が食い込んだ隙間から、煙が漏れ出す。

「なぜだ、配列が変わらない!」


ムサシが即座に反応し、背中の呼吸管を断ち切った。

リオストスが、ミコトに煙玉を投げ渡す。

呼吸管に煙玉を詰め、マンダリンはその場で倒れた。

ムサシとミコトも、気を失う。



_______



「ドッ、ドッ、ドッ、」

目覚めると、ミコトは巨大な野牛の背にいた。

隣でムサシが目を開けたまま固まっている。


「おい、大丈夫か、ムサシ...」

「あ、ミコト、お前、生きてたか。」

ムサシが虚ろな眼で空をあおぐ。

ミコトは胸を押さえる。


「グォ、グォ、」

「ヴゥゥゥン」


リオストスを乗せたアラシが上機嫌に鳴いている。

並走する野牛がそれに応えるように(うな)る。

どうやら()()()()らしい。


「ミコト!気がついたの!」

リオストスの表情が明るくなる。

アラシを止めると、野牛も足を止めた。

リオストスがロープを伝い、野牛の背に登る。


「よかった、皆無事だ...」

リオストスがしとしとと泣く。

「ありがとう。リオ。ひとりにさせてごめんね。」

「このまま皆死んだら、私のせいだと...」

「死んで、たまるか...」

ムサシが放心状態で呟いた。


「は、あいつは?」

リオストスが野牛の尻を指差す。

黄金鎧が、エンケルで縛り上げられていた。


「死んでるのか?」

「煙玉で眠っているのよ。」

「殺すなら任せろ...」

ミコトとリオストスがムサシを見る。


「こいつは、このへんで降ろそう。」

「でも...」

「ヴェスパ組のリーダーだったよね。トラキたちの村は、ザルカ薬がまだ必要だ。こいつがいないと、部下がまた、そういう村を苦しめる。」

「...」

リオストスが思い詰めた顔をする。

「この鎧は、没収だ。」


−−


下着姿で眠るマンダリンを木に縛り付け、一同はまた進みはじめた。

「腹減ったな。野牛って美味いらしいぞ。」

「ヴゥゥゥン」


地響きのような雄叫び。

「食べない食べない!」

「ヴォ!ヴォ!」

「アラシ...笑ってるの?」

リオストスが聞いたことがないアラシの声に困惑する。


「もう少し南に、果実が豊富な地域があるはずだ。」

ミコトが王国の地理を思い浮かべる。

「ミコト、ムサシ。あなたたちが診療所に運ばれてきたとき、こんなことになるなんて、私想像もつかなかった。」

リオストスが不意に口を開く。

ムサシが山の景色を見ている。


「五戦士を捕まえたり、戦ったり、滅茶苦茶なことばかりだけど、あなたたちといると、私がなぜ魔術師になったのか、わかる気がする。」

ミコトがリオストスの目をまっすぐ見つめる。

「だから、ミコトマス、ムサシナタス、共に行かせてほしい。あなたたちが見ている世界を、いつか私も見たい。」

ミコトがうなずき、ムサシがチラとリオストスを見る。


「風を、探しましょう。」


リオストスが言い終えると、輝く風が山々を駆け巡りこの場所に訪れた。

三人はミコトの胸の痛みを、リオストスの覚悟を、ムサシの孤独を感じ合う。

風は温かく、リオストスの涙を乾かし去っていった。


ミコトが竹とんぼを、リオストスに差し出す。

「風を集めるだけだ。」

ムサシの声に、ミコトが微笑む。

リオストスが指先で竹とんぼを回すと、静かに浮遊をつづけた。


「みんな僕より上手い...」

「お前は力みすぎなんだ。」

リオストスが笑う。

風が運んだ果実の香りが、アラシと野牛の足取りを軽くさせた。



_______



目を覚ますと、裸で縛られている。

マンダリンは、煌々と光る星々が己を嘲笑っているように見えた。

「さ、寒い。不愉快極まりない。」

マンダリンはぶつくさ呟きながら、魔術で木の葉を集め身体に巻いた。


「惨めだ。実に惨め...」

背中を丸めて歩き出すと、足もとに何者かの影が映る。

「は...」

「マンダリン。期待通りだな。」

錆びた剣を引き抜くような声。


影より黒い羽織を頭から被った男が現れる。

「風使いは、強かったか。」

「...い、いえ、最初から殺す気なら、勝てておりました。あなたが、殺さないようにと言ったんでしょう。」

闇のなか、男の眼光だけがマンダリンを狙うように浮かびあがる。


「――正解だ。」

男の言葉にマンダリンは忘れていた息を戻す。

「アネモイ...神話の断片が蘇るか。」

男がゆっくりと星空をあおぐ。

「なにをはじめるんです...?ボットよ。」

「私に質問を――」

辺りの木々がざわめく。


「――するな」

男が手を伸ばした先、マンダリンが身につけていた木の葉だけが残されている。

男は息を吸い、跡形もなく消え去った。

虫の羽音だけが、森の闇に音を添える。

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