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一角のアネモイ  作者: pandanikus
第0章 風の発見
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第15話 真空

「ザクッ」

ミコトを刺した男が真っ二つに割れる。

ムサシの居合は追い風を伴い、返り血をもうひとりの男に浴びせた。


男はひるまず、束ねたエンケルをミコトに投げつけた。

「ヨォォ!」

動けないミコトを一瞬で縛り上げ、男が声を上げる。

草木の影に潜んでいた巨大な野牛が走り出した。

野牛の身体にくくられたロープにミコトが繋がれ、引きずられる。


「ギャハハハ」

男は野牛に乗り込み、狂ったように笑いながら去っていく。

ムサシが地面と水平に飛び立ち、ロープを切る。

その勢いのまま男を斬り捨てた。

斬り殺された男を乗せたまま、野牛がどこかへ走り去る。


砂にまみれたミコトが胸を抑え苦しんでいる。

「グォォ」

アラシに乗ったリオストスが駆けつけ、傷の状態を確認する。

ムサシが鬼気迫る表情でミコトを見ている。

「ミコト、大丈夫?私のために、ミコト、」

声をかけながらエンケルを取り出し、体内を調べる。

「大丈夫、周囲気をつけろ...」

ミコトが息も絶え絶えに話す。


「ドドッ、ドドッ」

野牛の足音が戻ってくる。

まだ男の死体を乗せているようだった。

ムサシが剣を構えると、迎撃距離に入る前に野牛が止まった。

死体が転げ落ち、その後ろに隠れていた派手な男の姿が覗く。

男は静かに浮かび、野牛の顔の前に降り立った。


「見事です。風使い殿。」

男がゆっくりと拍手をする音が、森の夕闇にこだまする。

「この二人は私の席を狙っていました。これでやっかいな部下は全員あなたが始末したことになる。」

落ち着いた足取りでムサシに向かって歩いてくる。

いかにも重そうな黄金の鎧をまとい、凶悪な目つきの仮面をつけた男。

「ヴェスパ組は、ご存知ですよね?」

「知らんな。」


あと一歩進んだら切る。

ムサシが軸足を踏み直す。

しかし、男が微動だにしない。

後方に注意を向けると、リオストスが固まっている。


「マン...ダリン...」


「こいつが組長だな。リオストス、仕事をしろ。」

リオストスが震えながらうなずき、ミコトの治療を続ける。

(ミコト、こいつ、殺していいな。)

ムサシが心のなかで問いかける。

仮面の男、マンダリンがほくそ笑んでいるのを想像し、ムサシは感情的に突撃した。


一発で仕留める。いつも通り。

風を巻き込み、ムサシの剣が流れる。

神速で自らの間合いに立つ。


「?」


剣は振り抜かれ、鎧を捉えたはずだが、手応えがない。

なにより、斬撃音さえない。

ムサシは身をひるがえし、二本目を叩き込む。



あらゆる急所を続けざまに捉えるが、すべての攻撃が無に帰すようだった。

一度距離を取り直す。


「実に、いい動きです。使えない幹部とは大違い。ですが――この鎧は破れない。」

目を凝らすと、マンダリンの鎧は細かな六角形がひしめき合っている。

六角形は絶えず配列を変え、生き物のようにうごめいていた。

「その鎧がどうした。」


「衝撃を吸収し、常に強度を一定に保つ。だけではない。本来はダビディスが手に負えなくなったときのために用意させたんですがね。あなたこそ、この鎧を試すにふさわしい。さあ、もう一度。」

ムサシは苛立ち、再び剣を振るう。


剣先の違和感と続く沈黙が、ムサシの精神をかき乱す。

「ああ!」

ムサシの剣が止まる。


「わかりましたね。この鎧は、風を奪う。風というのは、空気の流れです。...スー」

マンダリンが息を吸う音がする。

ムサシの肺から空気が全て抜き取られた。


「空気がない空間を作る、魔術鎧です。よく考えたでしょう。ああ、今戻してあげましょう。...フウー」

ムサシが呼吸を戻す。

と同時に、激しく咳き込む。


「おっと、私が戻した空気は毒入りでした。あなた思い切り吸い込んでしまいました。」

ミコトとリオストスのところまで、ムサシが後退する。

呼吸に集中し、肺に残った毒を吐く。


「毒だ、気をつけろ。...ミコトは?」

朦朧とする意識を、気迫で正す。

「意識がない。ミコトも毒粒子を入れられてる。」

「くそ...」

「ごめんなさい...私のせいよ。」

リオストスが涙を溜める。


「二人を初めて治療したときに使ったザルカ薬、あれはマンダリンの魔粒子が調合されたもの...。マンダリンが支配を強めるために加工されてるの。」

「なに...」

「薬が体内にあると、毒魔術の効果が倍増される。私が使ったばっかりに...皆を危険に...」

ミコトにかけられたエンケルが赤く光り、生命の危険を示す。


「アラシ。あの金ピカの後ろにいる化け物牛。あいつを追い払えるか。」

「グォルル」

ムサシの言葉にアラシがうなる。

「まだ、戦うの...」

リオストスが震える声で呟く。


「お前はミコトを見捨てる気か?リオストス。戦え。お前の技で。ミコトを救え。」

アラシが大きく迂回し、野牛に突進する。

「俺はヤツをここで確実に仕留める。」


野牛がアラシに挑発され追いかけていくのが見える。

マンダリンがゆっくりとこちらに迫ってくる。

ミコトが腰に下げている剣を、ムサシが抜く。

両手に剣を持ち、ムサシはマンダリンに向かっていった。


「絶対に、逃さん。」

「逃げも隠れもしません。」


ムサシが風を呼び加速する。

本来の二刀流を取り戻し、疾風迅雷、マンダリンに連撃を浴びせる。

「面白くなってきました。」

マンダリンがすべての指先から毒針を放つ。

「くっ」

十発、全ては防ぎきれずに被弾する。

ムサシは毒針を抜き、攻撃を続ける。


意識が遠のいては引き戻される。

何千、何万と繰り返し鍛錬した剣の型。

たとえ意識を失おうと、身体は剣を振るい続ける。


−−


「だめじゃ。だめじゃ。」

「もっと早く。もっと強く。」

師範の声がする。

「死んでも剣を離すな!」

ムサシが限界を迎えようと、師範の声は緩まない。

「お前の母を殺した"国"に復讐するんだろ?」


「そうだ。」

ムサシは目をかっぴらき一層速く剣を振るう。

母は王国に殺された。

愛することを禁じられた一族で、たった一度、ムサシを抱きしめた。

母から受け継いだ風を剣にまとい、どんなものも斬り捨ててきた。

この剣で斬れぬものなど、あってはならない。


−−


「ムサシ!」

リオストスの叫びが聞こえる。

「ミコトが...!」

ミコトのエンケルが、光を失いかける。

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