第14話 一閃
ダビディスの魔術は肉体の限界をとっくに超えている。
ザルカ強化によって本人は気づいていないが、戦いが長引くと命に関わる。
ビノダロスは立て続けに攻撃を繰り出すが、神出鬼没に動くダビディスには分が悪い。
丸腰で寺院を出たのをビノダロスは悔やんだ。
「ダビディスそろそろ諦めい!ワシには勝てんぞ!」
「どうかな。知恵の戦士。ホミニスは次の候補を探してたぞ?」
「お前の後継のことじゃろう!」
ダビディスの剣撃ではビノダロスの装甲を破れない。
極めて硬い魔術鎧がビノダロスの武器であった。
駆け巡るカマイタチの斬撃もものともしない。
ビノダロスは右の拳に魔粒子を集めた。
反転し、背後を狙うダビディスに会心の一撃を食らわす。
「おのれ!」
ダビディスは叫びながら、竜巻の外に飛ばされる。
ビノダロスが地表に降り立つとミコトが剣でカマイタチを次々に無効化している。
「芸達者だな、ミコト。」
「たった今おぼえたんだ。」
リオストスがすかさずそばに来てビノダロスに回復魔術を施した。
「気が利くのう。」
「気休め程度よ。」
「ダビ兄は?」
ミコトが上を見ながら尋ねる。
「本気で殴ったからかなり飛んだと思うが、すぐ戻るじゃろう。」
「ダビディスが離れても竜巻が消えない。発生源がどこかにあるはず。」
リオストスが塔内を見渡す。
ミコトが壁面を広く斬りつけた。
竜巻が避け、一瞬外部が見える。
ムサシが息を切らしカマイタチと格闘している。
「向こうのほうが楽しそうじゃ。」
風の壁はすぐに塞がり巨塔が維持される。
「ん...?」
ミコトが塔内の遥か最頂部を指差す。
「竹とんぼ...?」
「ホントだ!」
定速回転し魔術を発生させ続ける竹とんぼがリオストスにも見えた。
「ビノダロス、僕をあそこまで投げ飛ばせる?」
「本気か。だがワシが行くぞ。」
「強力な妨害魔術で守られてる。その剣なら切れるかも...。」
リオストスがミコトが持つ剣を見る。
「しかし本当に竹とんぼがあるか?ワシは見えんぞ。年のせいか...」
リオストスが手を伸ばすと、竹とんぼが眩しく光った。
「ほう、あの光る竹とんぼじゃな。」
ビノダロスがミコトの足を持ち上げる。
「行けミコト!」
投げる瞬間、竜巻の内壁に無数の顔が浮き出る。
ダビディスの声が何重にとどろく。
『やめろ』
『やめろ』
『ミコト』
全ての顔がミコトを睨むなか、頂点の竹とんぼ目がけて上昇する。
目標が近づき剣を構える。
しかしあとひと息の地点で、上昇が止まる。
「ミコトお!」
ダビディスがミコトの足首をつかんでいる。
引きずり落ろされる。
「ダビ兄。」
ミコトはダビディスの目をまっすぐ見つめる。
上昇気流を、架けた。
ミコトの身体は風に乗り、頂点に向かう。
ダビディスの叫びが遠ざかる。
ミコトは剣を構え、技を唱えた。
「シナト」
竹とんぼが軸から真っ二つに裂かれる。
剣を振り抜きミコトは空中に投げ出された。
眼下の竜巻が見る見る小さくなる。
安全に地上に降りる方法を、ミコトはまだ知らなかった。
無抵抗に落下するミコトに、もうひとつの風が訪れる。
ムサシがミコトの肩をつかむ。
「やったな。」
二人とも至る所に切り傷をつけている。
「降り方を教えてくれ。」
「飛ぶときと同じだ。風を上に。」
ムサシにつかまれながら、ミコトは風を巻き上げ地上になだれこんだ。
ダビディスが竹とんぼの残骸を握りしめ倒れている。
「僕の、風が...」
手足が異常に震え、呼吸が激しい。
駆けつけたリオストスが魔術で落ち着かせる。
ムサシが剣を抜き、ダビディスに突きつけた。
「殺す。」
「待っ」
「殺してくれ...!」
ダビディスが取り乱す。
「もう嫌というほど、痛みは味わった。それでも一向に風は来ない。もうこれ以上、届かないものを追い続けられない。この苦痛から解放してくれ。」
ムサシが黙って剣を振りかぶる。
「ガキッ...」
ビノダロスが装甲で受け止めた。
「悪いな。こやつはこれでも風の戦士。勝手に死ぬのは許されんのじゃ。」
ミコトがほっと胸をなでおろす。
「ダビディスはワシが責任を持って城に連れ帰り、処遇を決める。おヌシらは、旅を続けい。」
「旅...」
リオストスが浮かない顔をしている。
「アネモイについてワシも、ちと興味が湧いての。引き続き調査を頼みたい。」
どこから持ち出したか、ビノダロスが片手で竹とんぼを回している。
「ジジィ...」
ムサシが不満そうに呟く。
「ダビ兄を頼むよ、ビノダロス。僕らの大切な家族だ。」
「任せろ。」
ビノダロスがダビディスを縛り上げながら応える。
「エンケルはあるかの?」
「あ、はい。」
ミコトが結び目だらけのエンケルを取り出す。
ビノダロスがエンケルに触れ、魔粒子になにかを刻んだ。
「道中困りごとがあれば、マクレー寺院に寄るといい。このエンケルを見せれば、ワシの仲間だとわかるじゃろう。」
ミコトは視界の端でリオストスが目を輝かせていることに気づいた。
「なにからなにまで、ありがとう。ビノダロス。」
「任務、承知しました。」
リオストスが膝をついて頭を下げる。
ムサシがそれを見て怪訝な顔をする。
「気をつけるんじゃぞ。」
「はい!」
「良い報告お待ちください!」
リオストスが生き生きとしている。
三人はアラシが待つ寺院に向かって歩き始めた。
「ジジイまで竹とんぼ隠していやがった。全部俺が作ったんだぞ。」
「ひとつくらいいいだろ。」
「俺は一個も持ってない。お前がさっき切り刻んでた。」
「あ...。それより、技名決めたんだよ、シナトだよ!シナト。いい響きじゃない?ムサシの名前から取ったんだ。次使ってくれ。」
ミコトが枯れた声で力説する。
「使うか。出す技をバラして戦うヤツはいない。」
「えー...かなりセンスいいと思ったのにな...」
「それよりあいつ、なんで張り切ってんだ。」
リオストスが背筋を伸ばし先頭を歩いている。
「リオ、なんか機嫌いいね。」
「え?そんなことないわ。至って冷静。普段のいつもどおり平常運転の治癒魔術師リオストスですが。」
ミコトとムサシが目を細める。
「そんなことより、あんたたちもっとシャキッと歩きなさい!知の戦士ビノダロスから極秘任務を受けた者として、この混沌の世界に挑む覚悟と共に力強く前に進もう!風に置いていかれる前に!」
ミコトが目を見開きムサシを見る。
「飛んで逃げるか?」
ムサシがささやく。
「グォォン」
アラシの声が林の向こうから聞こえてくる。
それに驚いたか、鳥の大群が一斉に山の影に飛び去った。
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寺院の前に二人の男が立っていた。
特徴的な身なりではないが、高価な織物で仕立てられた衣装だった。
「あなたたち、何用ですか?」
リオストスが口を開く。
男がぴくりと肩を動かす。
次の瞬間、ナイフが閃いた。
リオストスをかばったミコトの胸に、ナイフが突き刺さる。




