時間稼ぎ
燃え続ける焼死体から目を逸らし、ローザは念話でクラウスに呼びかけた。
『クラウス、聞こえる?』
『ああ、聞こえてる』
『あとどれくらいで着きそう?』
『ああ……クドゥリサル、どうだ?』
『五分もあれば着くぜ』
『そう、わかったわ。街の北西に貴族の屋敷があるから、着いたらそこに来てもらってもいいかしら? 場所が分からなかったら、念話で呼んで貰える?』
『ああ、了解した』
あと五分。
モーリッツと彼の人形は倒したが、おそらくまだ終わりでは無いだろう。
日は既に沈み切っており、月の光が辺りを照らしている。
ローザは警戒を緩めることなく、周囲に何者かの気配が無いか探る。
あの強力な人形を、モーリッツが自分で用意したとは思えない。
彼を唆し、援助した何者かがいるはずだ。
ここにはいない可能性もあるが、クラウスが来るまで警戒を緩めるつもりは無かった。
そうして周囲の警戒を始めてすぐ、前方のそれほど離れていない場所に、何者かの気配が現れた。
ローザは素早く後方へと跳び、その場所から距離をとる。
そこには一人の男が立っていた。
男は夜の闇に溶け込むような、漆黒のマントでその身を覆っている。
男の肌はおよそ血の気というものを感じられない程に蒼白く、その瞳は濁った血のような赤い色をしている。
口の両端からは、鋭く尖った牙が覗いていた。
その全身からは強い魔力が感じられた。
明らかに人ではない。
これまでの出来事と、この見た目。
この男も亡者……おそらくは吸血鬼なのだろう。
以前に同種の怪物と戦ったことはあったが、その過去に戦った個体よりも数段強力な存在であるように感じられた。
「まさか、倒されてしまうとはな」
男が口を開いた。
ローザに語りかけているのか、ただの独り言なのか……どちらとも取れない言葉を口にする。
倒されたというのは、おそらく人形の事を言っているのだろう。
並の人間では、あれを打ち倒すのは難しいだろうから。
ローザは男に向かって声をかけてみる。
「こんばんは。あなたもこの素晴らしい月を眺めに出てきたのかしら?」
その言葉を聞いた男の表情は厳しいものへと変わる。
投げ掛けた問いに対する答えは無い。
それにかまわず、ローザはさらに問いを重ねる。
「もしかして、この家の住人に用があったの? 残念だけど、ここにはもう誰もいないみたいよ?」
男はその問いにも答えず、地面に倒れた人形と、ついさっきまでモーリッツであった燃えカスに目を向ける。
「大したものだ、娘よ。あの人形を倒すとは」
「あら、お褒め頂き光栄だわ。あの人形はあなたの物だったの?」
「いかにも。あれは私の物だ」
「そう。何度か殴ったら倒れて動かなくなったのよ。あまり出来の良く無い人形だったみたいね。不良品を掴まされたのではなくて?」
その言葉を聞いた男は、怪訝な表情を浮かべてローザを見た。
ローザはその視線を気にすることもなく、じっと男の顔を見つめた後に、わざとらしく驚いたような表情を浮かべて見せる。
「あなた、顔色が悪い様に見えるけど大丈夫? 体調が悪いなら、無理して出歩かないほうがいいわ。帰って休んだほうが良いのではなくて?」
小馬鹿にしたようなその言葉を聞いた男は、不快げに表情を歪める。
「なんとも、ふざけた娘だ。あるいは、それも戦いの駆け引きの一つなのか?」
その言葉に対して、ローザはわずかに首を傾げ、おどけたように肩をすくめて見せた。
男の言葉の通り、相手を挑発するために軽口をたたいている。
男はしばらくローザを見たのちに再び口を開いた。
「娘よ。我らと共に偉大なる主に仕えるつもりは無いか? 永遠の命と今以上の力を得ることが出来るだろう」
「永遠の命? 良くわからないけど、それは私にも吸血鬼になれって事?」
「そうとも。人以上の存在になり、さらに偉大なる存在の僕となり仕えることが出来るのだ。光栄に思うがいい」
男は吸血鬼という言葉を否定しなかった。
ローザの見立て通り、相手は吸血鬼で間違いないようだ。
であるならば、この街に現れた亡者も、この男が作り出したものなのだろう。
視線の先に立つ吸血鬼を見て、ローザは思考を巡らせる。
墓地では無く、こちらに来て良かったと思っていた。
先程の人形もそうだが、ローザ以外の衛兵や冒険者たちでは、これらに太刀打ちできなかっただろう。
一人で戦ったとしても勝てない相手では無いが、無理をして戦う必要も無い。
五分後にはクラウスがここにやってくる。
それまで時間稼ぎをしていればいいのだ。
五分以内に倒せるようなら倒してしまっても良いだろうが、流石にそこまで容易い相手では無いだろう。
ローザは小さく息を吐き出し、意識を整える。
「せっかくのお誘いだけど、お断りさせていただくわ。私からすると、あまり魅力的な提案では無いのよね。その提案を受け入れた場合に得られる物より、失う物の方がずっと多いと思うから」
「愚かな。ならば好きにするがいい。力の限り抗い、絶望の中で死ぬがいい」
吸血鬼が牙を剥く。
その直後、その姿が薄れ、ぼやけた。
ある程度以上の力を持つ吸血鬼は、霧や無数のコウモリに姿を変えることが出来る。
すぐさま、その吸血鬼が霧に変化しようとしているのだという事に気づいた。
その体が完全に霧に変わる前に、ローザは動いていた。
その姿がある場所を、魔術で起こした突風が吹き抜け、霧を吹き流す。
「ぬうっ!」
吸血鬼がうめき声を上げ、地に膝をつく。
霧と化していたその体は、元に戻っていた。
その顔は苦しげに歪んでいる。
「悪いけど、そんな小細工が通用すると思わないでね」
吸血鬼は苦々しげな表情を浮かべ、怒りに満ちた声を上げる。
「小細工だと? 人間風情が……偉大なる神の僕である我を相手に、なんと傲慢な物言いか」
その言葉を聞いたローザは眉を寄せる。
神の僕……つい先日、似たような存在を相手にした、その記憶が蘇る。
「この間、あなたと似たような存在を見かけたのだけど、あなたも冥府の女王と関係があったりするのかしら?」
「なに?」
「黒い衣を纏った女に会ったわ。死の女神の眷属だったらしくてね。その場で倒してしまったけれど、あなたの仲間だったのかしら?」
「倒しただと? お前がか?」
「倒したのは私の従者だけどね。でも、あなた程度なら私でも倒せそうだわ」
ローザの挑発は止まらない。
それを受けた吸血鬼は、歯をむき出して獰猛な笑みを浮かべる。
「お前如きが、この私を倒す? 面白い。やれるものならやってみるがいい」
吸血鬼はそう言うと、剣を抜いた。
マントに隠れて見えなかったが、どうやら腰に吊るしていたようだ。
「あら、武器を使うのね?」
そのローザの言葉には応えず、吸血鬼は手にした剣で切りかかって来る。
その斬撃を籠手で受け止めながら繰り出した廻し蹴りが、吸血鬼の脇腹を捕らえ、吹き飛ばした。
それを追い、追撃を加えようとしたところで頭の中に声が響いてくる。
『ローザ、街に着いたんだが……』
『少し待って』
戦闘の最中だ。
集中を途切らせないために、ただ一言短い返事を返す。
『ああ、わかった』
クラウスからも、短い返事が帰って来る。
こちらがどういう状況か、即座に理解してくれたのだろう。
吸血鬼が再度繰り出してきた斬撃を籠手で防ぎ、反撃する。
剣と拳……相手は間合いで勝っているが、その程度の有利では覆せない程に、技量に差があった。
ローザの繰り出した拳の一撃が、吸血鬼の顎を撃ち抜く。
顔の下半分が砕け、消し飛んだが、それは見る間に再生する。
さらに間髪入れず、その腹に足刀を叩き込んだが、そちらは両腕で防がれた。
蹴りの勢いで吹き飛んだ吸血鬼は、後方に転がりながら身を起こす。
さらに吸血鬼はその場で、何らかの魔術を行使するような素振りを見せた。
ローザは即座に雷撃の魔術を繰り出す。
放たれた雷が吸血鬼の体にまとわりつき、その身を焼き焦がした。
「グゥッ!」
吸血鬼が苦悶の呻きを漏らす。
魔術師としての練度の差なのだろう。
吸血鬼が魔術を行使する速さは、ローザの足元にも及ばない。
相手は吸血鬼で、死の女神の眷属である。
強大な膂力と魔力を持ち、並の人間では立ち向かうのは難しい相手なのだろうが、その力に胡坐をかいて、鍛錬を積んだりすることも無かったのだろう。
魔術だけではない。
手にした剣を振り回しているその技も、大したものでは無い。
先程の人形と同じ。
力は強く動きも速いが、その技は拙く読みやすい。
吸血鬼もまた、幾度かの技のやり取りでローザが手強い相手であると気付いたのだろう。
間合いを取ったまま、警戒するようにこちらを窺っている。
ローザは大きく息を吐いた。
もう良いだろう。
これ以上戦う意味は無い。
こちらの切り札は既に準備できているのだ。
あとはその切り札に任せよう。
ローザは時間稼ぎのための魔術を行使する。
失敗。
相手に抵抗され、魔術は無効化される。
ローザの行使した魔術に気付いたのだろう。
吸血鬼が嘲るように声を上げた。
「なんとも、この程度の魔術で私を縛ろうというのか?」
それを意に介さず、ローザは再度同じ魔術を行使する。
「無駄だと言って……なに!?」
吸血鬼が驚きの声を上げる。
魔力によって生み出された鎖が彼を拘束し、地面に繋ぎとめていた。
吸血鬼はその場に縛り付けられ、身動きが取れなくなる。
だが相手が相手だ。
その効果も長くは持たないだろう。
三十秒程度は持つだろうか?
その程度でも、ローザの目的は十分に達成できる。
ローザは身動きの取れなくなった吸血鬼に対して、高位の魔術を行使する。
魔術が発現するまでに十秒ほどの時間が必要だった。
空を見上げる。
雲が巨大な渦を巻いて割れ、その中心から赤く輝く巨大な岩塊が姿を現わした。
赤熱しながら大気を裂き、それは落ちてくる。
尾を引く紅蓮の光が夜の空を赤く染め上げていた。
「流星召喚だと?」
吸血鬼の声にわずかな焦りの色が見えた。
束縛の魔術も流星の着弾までは持ちそうだ。
ローザは自身の行使した魔術に巻き込まれないようにその場から離れながら、クラウスに念話で呼びかける。
『クラウス、場所はわかる?』
『ああ、今わかった』
『随分派手にやってんなあ、おい』
クラウスの答えと、楽し気なクドゥリサルの声が頭に響いてくる。
『どれくらいで来れそう?』
『一分もかからない』
『そう、待ってるわ』
ローザは屋敷の外まで退避し、自身の呼び出した流星が落ちてくるのを見ていた。
あれで殺しきれれば良いが、あの吸血鬼はあれにも耐えそうな気がしている。
ローザは魔術による障壁を作り出し、その後ろに隠れて衝撃に備える。
その数秒後に赤熱した巨大な岩塊が屋敷の庭に着弾する。
轟音が響き渡り、凄まじい爆風と衝撃が周囲に広がった。
爆風が通り過ぎたのちに屋敷へと戻り、着弾地点を確認する。
屋敷は跡形も無く吹き飛び、ほぼ更地となっていた。
「やっぱり、生きてるか……」
何もかもが消し飛んだその場所に、吸血鬼はなおも存在していた。
あれの直撃を喰らって消滅しないとは、さすがは神の僕を名乗るだけのことはある。
その吸血鬼の顔には憤怒の表情が浮かんでいた。
「大したものだ。これほどの魔術を操るとは」
「どうも。お褒め頂き光栄だわ」
ローザは余裕の笑顔を浮かべて、軽口を叩く。
その表情は相手を挑発するための演技では無い。
この吸血鬼は確実に勝てると言える程に弱い相手では無かった。
運が悪ければローザが敗れることもあったかもしれない。
そのような相手であっても危険を冒して戦わねばならないこともある。
だが今はそのような状況では無い。
ローザの切り札……彼女が知る限り最強の戦士が、じきにこの場にやってくる。
怒りを押し殺したような声音で、吸血鬼が語りかけてくる。
「どれほど優れていようとも所詮は人間。あの程度では私は倒せん」
「そうみたいね。思ったよりもしぶとくて、ちょっと驚いてるわ」
「まだ私に勝てるつもりでいるのか?」
「ええ、もちろん。あなたこそ大丈夫? 夜明けまでという時間制限があるでしょう? それまでに私を倒せる自信はあるの?」
「貴様如きを相手にするには十分すぎる時間だ」
「そう。ならやってみるといいわ。なんであれ、挑戦してみるのは素晴らしい事よ。たとえそれが無謀な挑戦であったとしてもね」
「どこまでも口の減らぬ娘だ」
押し殺すような声で言葉を吐く吸血鬼の表情が、さらに険しいものとなる。
その表情を見る限り、ローザの言葉にまんまと乗せられているようだ。
実際には彼に残された時間は、あと数十秒しかない。
じきにクラウスがここにやってくる。
彼と戦って生き延びることのできる者が、この世界にどれ程いるだろうか?
この吸血鬼もまた、彼を相手に生き延びることなど出来はすまい。
その直後、ローザの背後に跳躍してきたであろう何者かが着地する。
それが何者であるのか、確認するまでも無かった。
ローザは肩越しに振り返りながら、その人物に向かって語りかける。
「あとはお願いしてもいいかしら?」
「ああ、引き受けた」
ローザは振り返って自身の従者に笑みを向け、その横を通り過ぎてその場を離れる。
あとは彼に任せれば良い。
ローザの出番はもう終わったのだ。
クラウスは眼前に広がる光景を見て苦笑する。
ローザは貴族の屋敷にいると言っていたはずだが、屋敷などどこにも見当たらない。
先程空から落ちてきた岩の塊が、全てを吹き飛ばしてしまったのだろう。
地面は焼け焦げ、その更地の中心部はすり鉢状にえぐれている。
「おいおい……さすがに派手にやり過ぎだろうがよ」
クドゥリサルの呆れたような呟きが聞こえてくる。
その屋敷の跡地に、漆黒のマントに身を包んだ男が立っていた。
どうやらローザはこの男と戦っていたようだ。
あの派手な魔術も、この男に対して使用したのだろう。
「なんだ? またかよ?」
クドゥリサルが驚きと呆れが混じったような声を上げた。
「どうした?」
「こいつは死の女神の眷属だ」
「ああ、なんだ? 前の奴と同じ感じなのか?」
「前の奴とはまた別物だ。こいつは吸血鬼みたいだな」
「吸血鬼? へえ、初めて見たよ。どうすればいい?」
「前の奴とは違ってこいつには肉体があるが、傷を負ってもすぐに再生するからな。倒し方は前と同じだ。再生しなくなるまで斬り続けろ」
「わかった」
クラウスは剣を手にして、吸血鬼に近付いていった。
ある程度の距離まで近づいたところで、吸血鬼が口を開く。
「お前は、あの娘の仲間か?」
「ああ。それで合ってる」
「そうか。これ以上戦うつもりなど最初から無かったという事か。どこまでもふざけた娘だ。だが誰が相手になろうとも関係ない。身の程知らずにも、偉大なる神の僕に挑んだ事を後悔するがいい」
そう言って、吸血鬼が飛び掛かってきた。
クラウスを引き裂こうとするように伸ばしてきたその腕は、肘の辺りで切断される。
「何っ!!」
腕を斬られて驚きの声を上げる、その最中に今度はその首が胴から切り離されていた。
いずれの傷もすぐに修復され元通りになる。
だが、それ以上に新しい傷が増えていく方が速かった。
絶え間なく迫りくる斬撃を受けた吸血鬼は、驚愕の表情で叫び声をあげる。
「何だ、これは!? 何なんだお前は!!」
その問いには答えず、クラウスはなおも斬撃を浴びせる。
吸血鬼は何も出来ず、ただその身を切り裂かれ続けていた。
反撃に転じる余裕すら無い。
クラウスの振るう剣が、吸血鬼の首のある場所を横切った。
後退し間合いを外そうとしていた吸血鬼の首が、胴から離れ、傾く。
それが体から落ちるより速く、切断面から噴き出した血が、離れて行くそれを繋ぎとめた。
傷はすぐに消えて首は元通りになったが、その次の瞬間には頭から股下までを縦に両断されていた。
真っ二つにされた体は先程の首と同じように、切断面から噴き出した血が意思を持っているかのように動いて、傷口を塞ぎ繋ぎとめる。
だが、そのようにして傷口が塞がるよりも早く、顔を、胴を、手足を切断されていく。
絶え間なく体を切り刻まれながら、それを必死で再生させていた。
その斬撃は絶え間なく、吸血鬼は反撃をするどころかまともに体を動かすことすらできない。
「ウォアアアアアアアアアア!!」
発せられた叫びは怒りから出たものか、あるいは焦りによるものか。
その直後、吸血鬼の体がいくつにも分裂し、その一つ一つがコウモリの姿に変わる。
だが変化した次の瞬間には、幾羽ものコウモリが切り裂かれ、消滅していた。
なおも逃げようとする残りのコウモリたちも、閃く剣光によって両断され、消滅する。
「……おのれっ!!」
能力を維持できなくなったのか、吸血鬼は元の人型の姿に戻っていた。
そのまま後退して必死に距離を取ろうとするが、クラウスはそれに離れず付いて行く。
「諦めろ。逃げられやしねえよ」
「逃げるだと!? この私が、貴様らのような人間如きを相手に逃げ出したりなどするものか!」
クドゥリサルの発した言葉が、随分と気に触ったようだ。
憤怒の形相を浮かべ、目を血走らせながら、鋭い爪でクラウスの身を引き裂こうと腕を振り回す。
だが何も変わりはしない。
怒りに任せて暴れたところで、何かが変わるはずもない。
吸血鬼はそれまでと同じように、クラウスの振るう剣で、その身を切り裂かれ続ける。
必死でクラウスから離れようとするが、それも叶わない。
その足はガクガクと振るえており、後退する足も鈍っていた。
それは傷ついた肉体の再生に力を使い過ぎた故か、それとも恐怖によるものなのか。
「馬鹿な! こんな馬鹿な事がっ!!」
天を仰ぎ、震える声で叫び声を上げる
クラウスはそれを気にも留めず、ただ斬撃を繰り出し続ける。
一体何度目になるだろうか? クラウスの剣が吸血鬼の首を斬った。
胴から離れようとするその首を、切断面から溢れ出た血が繋ぎとめようとするが、それを為せず、首はそのまま地面に落ちる。
首を失った体は、そのまま地に倒れた。
やがてその体は塵となり、風に飛ばされ消えていく。
「神よ……」
地面に転がる首が発した声は、かすれるように消えていく。
そうして残った首もまた、塵となって消えていった。
ローザが近づいてきて、クラウスの横に並ぶ。
「終わった?」
「ああ、終わったよ」
「ありがとう。助かったわ」
そう言って笑みを浮かべるローザに対して、クドゥリサルが声をかけた。
「なあ、さすがにやり過ぎじゃねえのか? こんな派手に吹き飛ばして大丈夫なのかよ?」
「ええ、大丈夫よ。多分ね」
呆れたような声で問いかけるクドゥリサルに、ローザは笑顔を浮かべ、首を小さく傾げて見せた。
「お前も大概イカレてんな?」
「そう?」
楽し気なクドゥリサルの声に、ローザも笑顔で応える。
それから、今度はクラウスの顔を見て笑みを浮かべた。
「なんだか、凄く久しぶりに会ったような気がするわね」
「そうか?」
「ええ。まだ十日くらいしか経ってないけど、何故かそう感じるのよね」
「ああ、言われてみれば確かにそんな気がするな」
そう言って二人は顔を見合わせ笑い合う。
「おかえりなさい、クラウス」
「ああ、ただいま」




