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だから剣聖は救われない  作者: ココア
第2章
36/37

強さの秘密

本日更新でございます

よろしくお願いします。


「……」


 村は静寂に包まれていた。数秒前までマソンという男に皆殺しにされる未来を映していたエルフ達。しかし、そんなマソンをヨグは瞬きよりも短い時間で葬って見せた。


 それでも村は静寂に包まれていた。歓声も、ヨグに対しての労いの言葉もない。ただエルフ達は、そのヨグの圧倒的な力を目の前にして呆気に取られていた。


「ふう……」


 一方ヨグは、周りがそんな微妙な空気になっていることにも気づかず息を整えるようにして呼吸する。そして両の手に握られている短剣を見つめ、返り血を落とすようにして空を切る。それは、ヨグが以前からずっとやっていることだった。


 剣についた血を掃う。“拭う”ではなく“掃う”という行動。ヨグにとってはいつものことで、自然な動作の一つでしかなかった。

 しかし、その動作は周りのエルフ達の恐怖心をさらに煽ることになっていた。


「ヨグ、お前はいったい……何者なんだ?」


 ヨグ以外感じていない重い空気の中、一人のエルフ――ロビンが問いかけた。


「何者?」


「今更聞くのは変かもしれないが、答えてくれ。お前は何者なんだ?そしてさっき殺した人間はお前の知り合いだったのか?」


 ヨグの隣で倒れているマソンを指差しながら訪ねる。妙に震えた声と、身構えるようにして訪ねる姿勢。

 ヨグはそれだけで今までと自分の見られ方が違うと瞬時に感じ取る。そして、再び血みどろな過去を思い出してしまう。


「……」


 前を向いて、息を吸って、口を開く。しかし、言葉は出なかった。またあの時と同じように喉のところで言葉が止まってしまったのだ。話さないといけないというのは自分自身がよく分かっていた。しかし、話した時に拒絶されるかもという思考がヨグの言葉を抑制していた。


「何で黙ってるんだ?」


 しかし、黙秘をすればエルフ達の不安や疑問は大きくなる。ヨグが口を閉ざせば閉ざすだけ、それは比例して大きくなっていく。


「……」


「おい、答えろよ!」


 いい加減しびれを切らしたロビンが乱暴が口調になって訪ねる。他のエルフ達もヨグのことを見る目が段々と変わってきていた。見知らぬ人、不気味な存在……まるで初めてヨグを見た時のような目で見つめ、無くなっていたはずの壁が再び建設されたようだった。


「あれれ~。なんか面白そうなことになってるじゃないか?」


――静寂な空気が包み込む中、まだ幼さを感じさせるような無邪気な声が響く。しかし、その声が聞こえた瞬間ヨグの表情がどんどん険しくなっていった。


「どうしてこういうところで僕のことを呼んでくれないのかな~」


 無邪気な声は、炎が燃え上がる村の入口の方から聞こえていた。そして、その声の主が段々と姿を現した。


「やあヨグじゃないか。久しぶりだね」


 炎の中を通ってきたのにやけど一つ負っていないその少年のように小柄な男は、ヨグの存在に気付いた瞬間に無邪気な笑顔を向けながら手を振る。


「シェルム!!」


「そんなに怒ってどうしたのさ。別に僕はまだ何も悪いことはしてないよ。それより、話の途中だったんでしょ?僕が君の代わりに説明してあげようか?」


「ふざけるな!!」


 必死に止めようと、ヨグは再び短剣を抜いてシェルムに斬りかかる。立っていた位置からシェルムまでの距離はおよそ12メートル。それだけの距離があれば最高速度に加速するのは、ヨグにとっては容易なことだった。


 一瞬で最高速度まで加速して距離を詰め、まだ油断をしているシェルムの喉元を掻き切ろうとする。


「酷いなあ。いきなり本気で斬りかかってくるんなんて」


「――!!?」


 しかしシェルムは、虫を捕まえるかのようにあっさりと短剣を指で止めていた。ヨグが引き抜こうとしても、ピクリとも動かすことが出来ない。

 ただ二本の指に挟まれているだけというのに。


「僕を本気で殺そうとしたの?ざーんねんでした。僕はあそこに転がっているマソンと違うからね」


「化物……!」


「君にだけは言われたくないけどね。それより……()()()()()()()()()()()()()


 不気味な笑みを浮かべながらパチンっと指を鳴らす。すると、ヨグとシェルムはエルフ達が集まっている前まで一瞬で移動をしていた。


「ヨグのことを知りたいなら僕が教えてあげるよ」


 ケラケラと人を嘲るような口調で話すシェルム。エルフ達は、急に目の前に二人が現れたことへの動揺はあったが、それよりもシェルムが語ろうとするヨグの素性の方が気になっている様子だった。

 それと感じとったシェルムが今まで以上に不気味に口角を上げ、まだ崩れていない家の屋根に飛び乗った。


「それじゃあ教えてあげるよ。僕とヨグ、そしてヨグが殺したマソンは生まれた国が同じなんだ」


「生まれた国?」


「そう。僕たちが生まれたのはここから遥か西にある国――レボルシオン」


 そう言いながらシェルムは腰に下げていた剣を取り出す。よく見ると、その剣の鞘には蜘蛛を模様した刻印のようなものが刻まれている。


「この刻印がレボルシオンのマークなんだ。そしてこのレボルシオンで僕たちは生まれ、そして育った」


 生まれが同じ。それが分かればマソンやシェルムと顔なじみのような雰囲気を感じさせるのも頷ける。しかし、それだけの情報ではエルフ達の不安は晴れなかった。最も疑問を抱いているのは、ヨグの圧倒的なまでの力。

 マソンを一瞬のうちに葬るだけの力はいったい何なのかということだった。


――そして、その疑問は次のシェルムの言葉によって晴れることになる。


「生まれた国はレボルシオン……。けど、決して普通に育ってきたわけじゃない。僕等は一人の暗殺者になるようにして育てられた。それも国王直属の特殊暗殺部隊。国王の命令にだけ従い、敵でも味方でも殺し続けてきた。

 つまり、僕等は暗殺者になるために訓練され続けてきた国王の戌ってことだよ」


 天真爛漫な笑顔で語ったシェルムだが、話の内容なそんな楽しいものではなかった。エルフ達も、ここに来て聞くんじゃなかったと後悔していた。


 村を襲ってきた奴等を知っている理由も、あの圧倒的な強さの理由も理解した。しかし、まだヨグを味方と見れる者は一人を除いて存在しなかった。

 

読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします!

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